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会社員とフリーランスの働き方は近づいている。ライフステージによって働き方を選ぶために必要なこととは

小酒部さやか株式会社 natural rights 代表取締役
筆者撮影/左:平田麻莉さん(フリーランス協会代表)右:小酒部さやか(筆者)

フリーランスで働く人は増えており、国内で推計1100万人余りとも言われている。政府もフリーランスの活用を掲げ、現在、厚労省労働政策審議会の労働政策基本部会において、雇用類似の働き方、つまりフリーランスの働き方について初の議論がなされるという、画期的な試みが行われている。

2017年1月に発足した一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア フリーランス協会は、このような流れを牽引しており、代表の平田麻莉さんは今年5月、労働政策審議会に有識者として登壇した。

現状の課題はなにか。これからの会社員やフリーランスに必要なものは。今後の動向やフリーランス協会がやりたいことは。平田さんに話を聞いた。

取材時に筆者撮影
取材時に筆者撮影

●キラキラ系でも社会不適合者でもない。フリーランスの実態がきちんと伝わっていないという課題

平田さんは、昔に比べフリーランスを格好いいと思う人は増えていると感じるという。ミレニアル世代は名刺を幾つも持っているのが格好いいとか、会社に縛られずマイペースに働くライフスタイルに憧れて、フリーランスにキラキラしたイメージを持つ傾向がある。しかし、未だに上の世代の方だと、フリーターとの違いが分からなかったり、会社で上手くやっていけないからフリーランスをやっているのだと、社会不適合者のように思っている人もいる。いずれにしても、正しく実態が伝わっていないのが課題で、フリーランスとは何なのか、という原点の情報発信をフリーランス協会で行っていこうとしている。

たとえば、フリーランスの女性には出産手当金も産前産後休業制度もない。認可保育園への申請もポイントが低かったりする。そこで、最低限のセーフティーネットを求める声を上げると、「自分勝手にフリーランスを選んだのに覚悟が足りない!」「会社員のような忍耐もせずセーフティーネットを求めるなんて甘えだ!」と激しく批判される。批判の要因には「フリーランスは自由気まま」「社会保障は忍耐と引き換え」という偏見と呪縛があるから。

実際は会社員と同様に責任を負って仕事をしていて、シビアな競争もあるし、病気やケガをして働けなくなった時の保障もなく、多くのリスクを背負っている。(以下参考図)フリーランスの実態をもっと知ってもらいたいと平田さんはいう。

平田さん提供図
平田さん提供図

参考記事:

「経営者やフリーランスで働く女性の44.8%が産後1ヶ月以内に仕事を開始。日本初の実態調査が発表された」

「会社員がもらえる数十万円の出産手当金なく産後3時間で仕事 フリーランス女性、出産への壁」

●今までは自己責任。これからはセーフティーネットが必要

現在35歳。5歳と2歳の母でもある平田さんはこれまでずっと、産休育休も出産手当金もないのは、自分がこの働き方を好きで選んでいるから自己責任で仕方ないと思って来た。しかし、シェアリングエコノミー※1やクラウドソーシング※2が誕生し、昨日まで主婦だった人や定年後のシニアが今日からフリーランスとして仕事ができる社会になった。これまで雇用の枠組みの中で働きづらさを感じていた人が自分のペースで働けるのは歓迎すべきことなのに、社会保障の手薄さがボトルネックになり踏み出せないのは、すごくもったいないと思ったそう。

今まではスキルも人脈も覚悟もある一部の人がフリーランスをやっていたから、自己責任でよかった。けれど今はフリーランスの数も増え、主婦や学生やシニア、障碍者もフリーランスを望む権利がある。病気やケガ、出産や介護などのライフリスク(生活や健康のリスク)に対しては雇用の有無を問わず、働き方に中立なセーフティーネットがあって欲しいと平田さんはいう。

※1シェアリングエコノミーとは、

物・サービス・場所などの遊休資産を、多くの人と共有・交換して利用する社会的な仕組み。自動車を個人や会社で共有するカーシェアリングをはじめ、インターネットを活用して、個人間の貸し借りを仲介するさまざまなシェアリングサービスが登場している。

※2クラウドソーシングとは、

不特定多数の人の寄与を募り、必要とするサービス、アイデア、またはコンテンツを取得するプロセスである。このプロセスは多くの場合細分化された面倒な作業の遂行や、スタートアップ企業・チャリティの資金調達のために使われる。群衆(crowd)と業務委託(sourcing)を組み合わせた造語で、特定の人々に作業を委託するアウトソーシングと対比される。クラウドソーシングは狭義では、不特定多数の人に業務を委託するという新しい人材活用形態を指す。

●セーフティーネットが必要な一方で、「最低報酬の設定」や「労働時間規制」には抵抗も

保護」というワードに対して抵抗を持つフリーランスもいる、と平田さんはいう。「保護」という言葉の裏側に、「弱いから保護する」という弱者のイメージがある。フリーランスと発注主の本来あるべき関係は、“対等なパートナーシップ”。発注主は企業のこともあれば個人のこともあるが、関係性はあくまで“対等” を目指すべきだ。労働法は、産業革命期の労使関係において資本家と労働者が対等ではない前提で作られた工場法が基盤となっているので、労働者には「保護」が必要だと考えられている。

たとえば、「最低報酬」を設定してフリーランスを守るという意見が出ているが、これには反対するフリーランスの声も大きいと平田さんはいう。企業におけるフリーランス活用のリテラシーが乏しい現段階では、最低報酬が決まると、そこに相場が引きずられてしまうという懸念がある。また、フリーランスは独立した事業者なので、戦略的な経営も行ったりする。戦略的に価格を下げて競争力を高め、これは格安でやって次につなげるという場合もある。その際に色々と縛りが入るのは、逆にフリーランスのクリエイティビティーを損なう危険性があるという。

労働時間規制」についても、難色を示すフリーランスが殆どだそうだ。そもそも自分のペースで仕事をしたくて独立するフリーランスが多い中で、ワークライフバランスのとり方は人それぞれだと平田さんはいう。時間の切り売りではなく、創造性の高い業務に従事するものも多く、集中する時と休む時のメリハリが大切なこともある。最低報酬や労働時間規制を望む人には、フリーランスではなく派遣社員になるという選択肢もある。

取材時に筆者撮影
取材時に筆者撮影

●会社員でも自律的なキャリアを築く意識を欲しい

フリーランス協会のミッションは、「誰もが自律的にキャリアを築ける世の中にする」こと。

日本人はひとたび就社すると人事部に人生を丸投げしてきた。転勤も異動も言われたとおり従い65歳まで勤め上げる。今までは終身雇用で、それが人生のゴールだったからよかったが、人生100年時代と言われる今は、65歳まで勤め上げてもまだ残り20~30年働かなければならない。そのときに会社から放り出されても、身動きが取れない。「あなたは何ができますか」と言われて「部下が30人いました」と言っても、「いやいや、どういったご専門で?」となってしまう。会社の看板を外されると何もできなくなるという人をたくさん生み出してきたのが、今までの人事部への丸投げシステムだったと思うと、平田さんはいう。

今は1社で勤め上げることが一番のリスク。自分で何の専門性を伸ばすのか、どういう価値を社会に提供できる人間なのか、自覚的に意識していないといけない。そのためにどういう経験やスキルを自分の中に蓄えていく必要があるのか、自律的に考える必要がある。

資格取得するような大きなスキルでなくても、総務でも営業でも何でもよくて、その道のプロになるぞという意識を持っているかどうか。会社員であってもそういう意識を持って働いて欲しい、そうすれば日々の仕事がすごく楽しくなると思う、と平田さんはいう。

今は副業もあり、会社外でのチャンスもある。会社だけに頼らず、自分でも自分のキャリアと向き合っていく、そのための支援をしたいというのが平田さんの考えだ。

●フリーランスを増やしたいわけではない。働き方を行き来できるのが理想

今までフリーランスと会社員は、対極にあるものと思われていた。自由の引き換えに社会保障もない、何でも自己責任のフリーランスと、色々守られているが、その代わりにキャリアや働き方の裁量がない、束縛される会社員。

今はその両方が近づいている、と平田さんはいう。会社員の中でもリモートワークがOK、週3勤務でもいい、副業をしてもいいなど、働き方改革で柔軟性がより高まっている。フリーランス側も、最低限の人間としてのセーフティーネットを整えていく動きになりつつある。現に、平田さんがフリーランスの実態について報告した労働政策基本部会で作成が進められている報告書案の中に、フリーランスの「育児、介護等との両立」「社会保障」のキーワードが盛り込まれた。

平田さんは、みんながみんなフリーランスになるべきとは全く思っていない。フリーランスを増やしたいわけではないという。フリーランスと会社員、どちらにも向き・不向きがあるし、労働寿命が長くなればなるほどライフイベントやキャリアステージによって好ましい働き方も変わるはずなので、選べるような社会が理想だという。もっと言えば、会社員が一時的にフリーランスになって、その後また会社に戻ったり、行ったり来たりできるのがより理想だと思っている。雇用形態レベルの流動性を高めるため、その選択肢を増やしたい、整えたいというのが平田さんの願いだ。

平田さん、取材に協力いただきありがとうございました。

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平田さん提供写真
平田さん提供写真

平田麻莉(ひらたまり)

一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア フリーランス協会 代表理事

慶應義塾大学在学中にPR会社ビルコムの創業期に参画。人材企業や組織開発コンサルティング企業の広報経験を通じて企業と個人の関係性に対する関心を深める。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院への交換留学を経て、2011年に慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。同大学ビジネス・スクール委員長室で広報・国際連携を担いつつ、同大学大学院政策・メディア研究科博士課程で学生と職員の二足の草鞋を履く(出産を機に退学)。現在はフリーランスPRプランナーや、ケースメソッド教材のケースライターとして活動。2017年1月にプロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会設立。年会費1万円で保険や福利厚生を利用できるフリーランス向けベネフィットプランを提供し、多様な働き方の環境整備に情熱を注ぐ。日本ビジネススクール・ケース・コンペティション(JBCC)初代実行委員長。パワーママプロジェクト「ワーママ・オブ・ザ・イヤー2015」受賞。

株式会社 natural rights 代表取締役

2014年7月自身の経験から被害者支援団体であるNPO法人マタハラNetを設立し、マタハラ防止の義務化を牽引。2015年3月女性の地位向上への貢献をたたえるアメリカ国務省「国際勇気ある女性賞」を日本人で初受賞。2015年6月「ACCJウィメン・イン・ビジネス・サミット」にて安倍首相・ケネディ大使とともに登壇。2016年1月筑摩書房より「マタハラ問題」、11月花伝社より「ずっと働ける会社~マタハラなんて起きない先進企業はここがちがう!~」を出版。現在、株式会社natural rights代表取締役。仕事と生活の両立がnatural rightsとなるよう講演や企業研修、執筆など活動を行っている。

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