会社員がもらえる数十万円の出産手当金なく産後3時間で仕事 フリーランス女性、出産への壁

雇用関係によらない働き方と子育て研究会/筆者撮影

「雇用関係によらない働き方と子育て研究会」は4日、フリーランスや経営者の妊娠・出産・育児についての社会保障拡充を求めて、厚労省に署名を提出し、記者会見を行った。私は発起人の一人だ。

フリーランスで働く人は増えており、国内で推計1100万人余りとも言われている。一方で、フリーランス女性の多くは、育児休業給付金や出産手当金、産休期間の社会保険料免除がない。これらの社会保障には批判的な意見も多いが、どう考えるべきか。事例に加え、専門家の意見や厚労省の動向を取材した。

●フリーランスの出産などへの社会保障、約1万4000人が賛同

研究会が厚生労働省に提出した署名は約1万4000人分に及んだ。政府への要望内容は以下4つだ。

1.被雇用者の産前産後休業期間と同等の一定期間中は、社会保険料を免除してください。

2.出産手当金は、国民健康保険では任意給付となっていますが、一定以上の保険料を納付している女性には支給してください。

3.会社員と同等かそれ以上の労働時間であれば、認可保育園の利用調整においてどの自治体においても被雇用者と同等の扱いをしてください。

4.託児にかかる費用が認可保育園の利用料を超える部分は、国や自治体の補助が受けられるようにしてください。それが難しければ、必要経費もしくは税控除の対象としてください。

なぜこのような要望になるのか。フリーランスで働きながら出産した女性に話を聞いた。

●収入ゼロを避けるため産後すぐに仕事を開始 3ヶ月で倒れ、救急車で運ばれた

佐野明子さん(実名/41歳)は大学卒業後、地元静岡の印刷会社で5年、メーカーに1年半勤務した後、2006年からフリーランスとして働き出した。フリーランス歴は12年近くになる。

佐野明子さん/佐野さん提供写真
佐野明子さん/佐野さん提供写真

業務はグラフィックデザイン、Webデザイン、翻訳など。独立後何年かしてやっと仕事が安定し、2011年に結婚、愛知に移住した。結婚当初はフリーランスと会社勤務(契約社員)をかけ持っていた時期もあったが、2014年から不妊治療を始めることをきっかけにフリー1本に絞った。今振り返れば、契約社員なら産休育休や社会保障料の免除などがあることは知っていたが、職場に迷惑をかけるからと思い、厳しい道を選んでしまったという。

2015年6月に妊娠が分かり、2016年2月に長女を出産。産後入院しているうちからパソコンでメール対応し、1ヶ月後からは本格的に仕事復帰をした。子育てでこれからお金がかかるからと、営業をかけて通常の2倍の仕事を抱えていた。昼夜問わず子どもが寝てから働いた。仕事はやり切ったが、身体はついていかず、産後3ヶ月で倒れて救急車で運ばれた。原因は過労。その日は産後初めての休日だった。

仕事を抱え込んでしまったのは、フリーランスは出産手当金がないためだった。会社員であれば、勤め先の健康保険から、産前42日、産後56日の範囲内で会社を休んだ分の手当金をもらうことができる。支給額は出産前の月給を元に算出するが、例えば月給が20万円の場合は、満額で約43万円を受け取れる。しかしフリーランスは国民健康保険の加入のため、支給は任意だ。

さらに会社員なら手当金に加え、産前42日、産後56日中、月額給与の14%程度(月給が20万円なら月2.8万円)の社会保険料が免除になるが、フリーランスの場合は社会保険料の免除もない。休めば無一文になるどころか、出費ばかりでマイナスになってしまう。

(なお、社会保険料は国民年金保険料、国民健康保険料、介護保険料を指すが、2019年4月よりフリーランスも国民年金保険料のみ産前産後期間、免除される。)

佐野明子さんと長女/佐野さん提供写真
佐野明子さんと長女/佐野さん提供写真

●在宅ワークは認可保育園のポイントが低く、希望の保育園には入れない

1歳を過ぎた4月に長女を保育園に預けようと思った。入園の審査は、自治体が年収や雇用形態などをポイント換算して行うため、高いポイントが必要だが、夫も自分もフリーランスのため、申請のポイントが低く、2歳までの小規模保育所にしか入れなかった。

2018年1月、第二子となる次女を出産した。今度は長女の時の失敗をなくすために、無痛分娩を利用して身体への負荷を減らし、産後3時間から仕事をした。

次女は生後2ヶ月で保育園に預けたが、長女と同じ保育園には入れず、現在二人の送り迎えに1時間かけている。

佐野さんは、雇用されない働き方にも最低限のセーフティネットを整備して欲しいという。「健康であることは、働く人全員にとって大切なことで、平等であってほしい。出産手当金もそのひとつとして考えられるのではないか」と感じているという。

Copyright 2018 雇用関係によらない働き方と子育て研究会 - All Rights Reserved
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●経営者やフリーランスで働く女性の44.8%が、産後1ヶ月以内に仕事を開始

雇用関係によらない働き方と子育て研究会が2月22日に発表した調査では、妊娠・出産・育児を経て仕事を継続している人の復帰タイミングは、産後2ヶ月以内が59.0%、産後1ヶ月以内でも44.8%に上った。なお、労基法で定められた産後休暇期間は産後8週間(約2ヶ月)である。これは、母体保護の概念に反した早すぎる復帰といえる。

参考記事:

経営者やフリーランスで働く女性の44.8%が産後1ヶ月以内に仕事を開始。日本初の実態調査が発表された

●厚労省は態度を変えつつある 保育園ポイントの不均衡に言及

認可保育園申請のポイントは、これまで、育休取得者は「就労」中として扱われるのに対して、育休がない休業者=フリーランスなどは「求職」中として扱われ、今まで著しく不利になっていた。これは2014年に国が出した通達によるものだった。

しかし、2017年末に厚労省から各自治体に以下の点を改善するよう事務連絡が出され、風向きが変わってきた。これは、フリーランスに過度な負担がかからないようにという理解が得られるようになったがゆえである。

◆改善内容の主なもの

・居宅内での労働か、居宅外での労働かという点のみをもって一律に点数に差異を設けない

・育児休業を終了した場合とそうでない場合とで差異を設けない

・保護者が取引先職場に子どもを連れて行くケースなど、居宅外で保育している場合について、一定程度子どもを保育できている状態であるとして点数付けにおいて減点対象とするのは不適切

・フリーランスは就労証明の提出書類が煩雑かつ多岐にわたることについて、過度の負担を負うことがないよう努める。(例:所定の書式の整備など)

ただし、事務連絡のため最終的に取り入れるかどうかは、各自治体の判断に委ねられている。

現在行われている労働政策審議会(労政審)の労働政策基本部会では、フリーランスの「保護のあり方」について議論されており、その中には出産・育児・介護との両立も含まれている。

●フリーランスは「今後増加する」と有識者

雇用関係にない働き方に詳しい神戸大学の大内伸哉教授に、フリーランスのセーフティネットや、今後の動向についてお話を伺った。

大内伸哉教授/取材時に筆者撮影
大内伸哉教授/取材時に筆者撮影

―フリーランスや経営者など雇用関係にない働き方は、今後どのような動向になりますか?

大内:フリーランスのような「個人で働く」という働き方は、今後中心的な働き方になるだろうとみています。

企業では、人間がやっている定型的な仕事は、ロボットやAIなどの機械によって代替され、必要とするのは、機械ではやれないような仕事をする人材に限られていきます。しかし、技術が急速に発達するなかで、こうした人材を企業が自前で育成するのは難しい。企業はニーズに応じて、外部の人材を活用するようになるため、専門性や独創性をもったフリーランスの出番になります。

労働者側のニーズでいうと、ICT(情報通信技術)の発達によりフリーランスの人がテレワークで働きやすくなっています。育児や介護を抱える人、高齢者や障害者などでも、場所・時間が自由なテレワーカーとしてなら働ける。こういう働き方がいいと考えている人たちは、徐々に増えていくでしょう。

企業側と労働者側、両方にニーズがあるならば、この働き方は増えざるを得ないだろうと思いますね。

●海外では雇用関係にかかわらず手当てが出る場合も

―海外ではフリーランスの社会保障に対しどのような対応をしているのですか?

大内:EUでは「社会的保護は働き方に中立的であるべき」とされています。病気、高齢、その他自らには原因のない理由での所得喪失などは、雇われている人だから手厚くする、というのは理屈が通らないのではないかということです。例えば、妊娠・出産の場合について、フリーランスに対しても、14週は就労中断できるようにするための十分な給付金を支払わなければならないとしています。

また、イタリアでは2017年5月に「自営業者憲章」と呼ばれるフリーランスに向けた法律ができました。例えば、取引先から報酬支払の遅延があった場合の利息の請求権がフリーランス側にあると定められています。日本でもフリーランスが取引の際に締結する契約が不当なものとならないよう、標準的な契約内容について法整備する必要があると思います。

イタリアには「母性手当」というのも国の制度としてあります。これは雇用労働者だけでなく、フリーランスにも支給されます。「自営業者憲章」では、妊娠・出産するフリーランスは、この母性手当を産前2カ月、産後3カ月、実際に仕事を休んだかどうかに関係なく受け取れると定めています。

大内伸哉教授/取材時に筆者撮影
大内伸哉教授/取材時に筆者撮影

●フリーランスの保護は不要だがサポートは必要

―政府に今回要望している内容については、どのように思われますか?

大内:社会保険料の免除については、たしかに雇用労働者は産前産後休業期間や育児休業期間には認められており、しかも年金は将来の支給額に影響しないという有利な内容となっています。フリーランスの女性たちが、せめて産前産後についてはこれと同等にして欲しいという気持ちを持つのはとてもよく分かります。

ただし、2019年4月からは、国民年金の保険料については、出産前月から4カ月間免除され、年金支給額にも影響しない取扱いがなされるので一歩前進ではあります。自営業者の現在加入している社会保険(国民健康保険や国民年金の第1号被保険者)の財政状況等をみると、そう簡単には答えが出せないところがあります。

二つ目の出産手当金は、個人的にはフリーランスにも支払われてよいのではないかと思っています。国民健康保険の場合は、任意給付となっていて実際には支給されていないところが多いようなので、雇用されているかどうかに関係なく支給されるようにできないかは、十分に検討に値するでしょう。

―国の予算も限られているためセーフティネットには反対の声もあります。

大内:母親となるフリーランス女性の問題としてではなく、フリーランスで働く全員のセーフティネットの問題の一つと捉えた方が、フリーランス間での共感も高まると思います。フリーランス以外の国民へも、要求の正当性をしっかり説明していくことが大切だと思います。次世代がいるからこそ、我々の将来の社会保障を支える原資にもなるので、「出産や次世代を育てるというのは、国にとって大切なことである」ということを正面から主張をしていくことが必要です。

それと、言葉の問題ではありますが、個人的には「フリーランスを保護する」という言葉はあまり使うべできはないと思っています。労働法において「保護」という言葉を使うのは、労働者は企業に雇用されて従属的な状況にあるからです。従属性のないフリーランスが「保護」を求めるといえば、いいとこ取りだと考えられて、世間では受け入れられにくくなります。

もちろん、出産時の給付金などは「保護」といえるのですが、これは国民の誰もが共通して直面するケガや病気などに対してのもので、いわば「国民として保護」なのです。だからそもそも雇用労働者だけが優遇されるのがおかしいにすぎません。

私は「フリーランスは将来の経済にとって中心になる。国民がそうした働き方に安心してつけるように政府はサポートする必要がある」と思います。フリーランスは「自律」的に働きますが、自分でやるには限界もあって、経済的な「自立」が危うくなるときもある。そうならないように最低限のセーフティネットも含めてサポートしていく、というのがフリーランスの法整備の肝だと思っています。

今回取材に協力してくださった方々、ありがとうございました。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人の企画支援記事です。オーサーが発案した企画について、編集部が一定の基準に基づく審査の上、一部取材費などを負担しているものです。この活動は個人の発信者(オーサー)をサポート・応援する目的で行っています。】