Yahoo!ニュース

夫婦共にフリーランスだと認可保育園は申請前に門前払い?!多様な働き方への認識がもっと広まって欲しい

小酒部さやか株式会社 natural rights 代表取締役
取材時に筆者撮影

働き方の多様化にともなって、フリーランスで働く人が増えている。その数は国内で推計1100万人余り。一方、フリーランスや経営者の多くは、雇用関係がなく雇用保険に加入できないため育児休業制度がない。また、国民健康保険への加入であれば産前産後の休業制度がなく、手当金も社会保険料の免除もないため母体保護がなされていない

産休もろくになく、すぐに働かなくてはならないのに、預け先を探すのに苦労する。会社員同様かそれ以上の労働時間でも、フリーランスや経営者だと認可保育園の申請ポイントが低い自治体もある。また、昨年施行されたマタハラ防止からも雇用関係にないため適用外。妊娠を告げた途端に取引先から仕事の契約が切られたとしても、泣き寝入りせざるを得ない。

このような実態を浮き彫りにした調査結果とそれを踏まえた政府への要望を「雇用関係によらない働き方と子育て研究会」という当事者団体が、2月22日に記者会見して発表した。

参考記事:

経営者やフリーランスで働く女性の44.8%が産後1ヶ月以内に仕事を開始。日本初の実態調査が発表された

今回は、「フリーランスが多い自治体」とされる渋谷区在住で、夫婦共にフリーランスの女性に話を聞いた。彼女も保育園申請の際に「フリーランスの壁」を感じたという。

取材時に筆者撮影
取材時に筆者撮影

●出産期は収入が完全にないのに、社会保険料を払う“出産貧乏”

渋谷区在住の工藤さん(仮名/41歳)は女性誌のライター、夫はデザイン関連業をしており、夫婦共にフリーランス。就職氷河期を経験し、大卒からずっとフリーのライターをしている。工藤さんの場合は、好んでフリーランスになったというより、就職難で会社に属せず、仕方なくフリーランスというケースだった。けれど今は、このフリーランスという働き方に誇りを持っている。

2012年5月に第一子を出産した。妊娠は順調で、妊娠したからといって契約していた仕事を外されるなどはなかった。ただ、出産時期はどうしても仕事を休まざるを得ない。その期間、レギュラーワークを変わってくれる人を自分で探さなければならなかった。この経験で、フリーランスは日頃から自身でネットワークを形成しておくことが大事だと実感した。これは、男性フリーランスが病気やケガをした場合も同様なことが言えるだろう。

国民健康保険への加入であった工藤さんには、産前産後の休業制度がなく、手当金も社会保険料の免除もない。出産期の所得補償をする手当金がなく収入が完全にないのに、社会保険料は払い続けなければならない“出産貧乏”を味わうこととなった。

そのため、産後2ヶ月で復帰。幸い夫が在宅ワークなこと、夫の両親が都内在住のため育児のサポートを得られることもあり、ベビーシッターも使いながら仕事復帰を果たした。

工藤さん(仮名)提供写真
工藤さん(仮名)提供写真

●認可保育園は申請前に門前払い。フリーランスはお断りなのか?

家庭内で育児をやりくりして復帰はしたが、夫にも仕事がある。子どもの月齢が上がってくれば寝ている時間も短くなり、手がかかるようになる。育休がないため出来るだけ早く保育園に預けたかったが、当時の保育園申請のポイント制では、工藤さん夫婦は認可保育園に入園した人の最低指数(ボーダー)に満たなかった。行政の保育課で、入園を希望する園について、昨年度の0歳4月入園内定者の最低指数を教えてもらったので、申請前に自分たちの入園内定は望みが薄いことが分かった。

当時の渋谷区の場合は、週5日8時間勤務/外勤で20点。夫婦二人で40点。1年以上働き続けていれば、ポイントが1点ずつ加点され夫婦で2点。平均会社員ならこの時点で42点となる。また、ポイント調整に「育児休業給付金を受給している」という要件があり、これによっても加点がつく。これで会社員だと44点。これが希望する認可保育園入園のための最低指数だった。

フリーランスや経営者で雇用保険に加入できず給付金がない人は、加点がつかないことで、育休制度がある会社員と差がついてしまい、最低点に満たずに認可保育園への入園が申請前に叶わないと判明してしまう。

「給付金を受給しているとどうして加点なのか?」と工藤さんは行政の窓口に疑問を投げかけたことがあった。すると「社会保障である給付金を受給したのなら、必ず復帰しなければならないから」と回答されたそう。フリーランスや経営者だって「必ず復帰すべき仕事」が待っているというのに、優劣を付けられていることに屈辱を感じたという。

工藤さん(仮名)提供写真
工藤さん(仮名)提供写真

●育休がないため働かざるを得ないのに、それが減点という大きな矛盾!

さらに輪をかけて矛盾が起こる。保育園申請時に仕事復帰していると「子どもを保育しながら仕事をしている」状態にあたり、指数の減点がされてしまう。工藤さんは産後2ヶ月で復帰しているので、これに該当してしまった。産休もろくになく育休が完全にないフリーランスや経営者は、働いて収入を確保しないと生活していけないのに、一体どうすればいいというのか。このような設定項目自体がおかしい!と工藤さんは憤る。

また、保育園申請時に勤務実態を提出するが、その際もフリーランスの場合は「食事」や「移動」の時間は勤務時間に含めてもらえない。会社員の場合は、勤務時間の中に1時間の休憩が含まれており、仕事中の移動も勤務時間の一部なのにもかかわらず。

そして、会社員の場合は、仕事復帰後の3年間は時短勤務だとしても、会社と契約時に交わした時間が「勤務実態」と捉えられる。フリーランス・経営者の場合は「まだ子供が小さいから仕事のボリュームを低くして、時間を短く働く」という働き方がそのまま「勤務実態」となり、いわゆる「週5日8時間以上」の働き方にならないと指数が低くなってしまう。

これらの矛盾、不平等さに工藤さんは今でも怒りを覚えるという。フリーランス、自営業だからこそ産前産後も「働かねばならない」のに、区という公的な自治体機関から「仕事として認められていない感」を強く感じたという。

参考資料:現在の渋谷区の認可保育園申込みにおける利用調整基準表

渋谷区保育園入園のご案内(平成30年度版)

P10に「利用調整基準表」P11に「調整指数」がある。

「調整指数」において、

・「13利用希望日において、就労実績が6か月以上ある場合」とある。工藤さんが保活していた当時はこれが「1年以上」だったが、現在は「6か月以上」と短縮されている。

・「14保護者のいずれかが、育児休業給付金を受けている場合」は、現在も変わらず「+2」の加点となっている。

・工藤さんが保活していたときの「保護者が家庭内で保育しながら働いている場合」の減点は、現在はなくなっている。

・「居宅外就労」と「居宅内就労」で基本指数は変わらないが、同じ指数になったときに「居宅外就労」のほうが優先される。(※P11「同一指数となった場合の優先順位」より)

「7保護者の状況(保育を必要とする主たる要件)1.災害 2.疾病・障害 3.居宅外就労 4.居宅外就労(親族経営事業所に就労) 5.居宅内就労 6.居宅内就労(親族経営事業所に就労) 7.その他就労 8.出産・介護 9.就労内定・就学・求職中」この数字の順に優先される。

取材時に筆者撮影
取材時に筆者撮影

●様々なフリーランスがいるという認識が社会にもっと広まって欲しい!

結局、工藤さんは実績のポイントを積むために、2013年4月には認可外保育園に子どもを預けた。そして、同一指数となった場合、居宅外就労が優先されることから、認可外保育園に通わせていた1年の間に事務所を借りることにした。この努力で、翌年の2014年4月に認可保育園に子どもを預けることができた。自身の保活経験を通して、工藤さんは言う。

フリーランスや自営業には、色々なスタンスな方がいる。「子どもを保育園に預けず、子どもとの時間も大切にしながら、家族を優先した働き方をしたいからフリーランス(=家事育児をやるためにフリーランス)」という方や、「配偶者控除内に収まるようにフリーランス(=パートやアルバイト同様のフリーランス)」という方もいる。そして、自分のようにフルタイムで働くフリーランスも勿論多くいる。様々なフリーランスのスタイルがあることは、多様な働き方の一環として、広まっていけばいいと思っている。

しかし一方で、フリーランス全体が「家事育児を優先したいんでしょ?だからいっぱい仕事しなくていいでしょ?保育園も預けなくていいでしょ?」と、“家事育児の片手間にできる楽な仕事”と見られてしまうのは困ると懸念する。女性フリーランスで自身が大黒柱という方もいる。

工藤さんは願う。様々なフリーランスがいるという認識が社会にもっと広まり、フリーランスが会社員と変わらない「ひとつの働き方」として社会に認知されて欲しい。「単なるアウトロー」とか「いつかは会社勤めがしたいけど、できないからフリーランス」というのではなく、「ひとつの選択肢」になって欲しい、と。

「フリーランスを選んだから仕方ないだろ」という自己責任論は、自身で取るべき“事業リスク”には通じる。しかし、妊娠・出産・子育てといった“生命・身体へのリスク”は責任の取りようがない。生命・身体へのセーフティネットは、会社員同等の労働時間であれば、誰もが利用できる公平な制度であって欲しいと筆者である私も願う。そして、この問題こそが、労働人口不足や少子化対策として政府が打ち出す「一億総活躍」や「働き方の多様化」の推進を阻害するボトルネックになっている。

【署名キャンペーン ご賛同のお願い】

【雇用関係によらない働き方と子育て研究会は、皆さんのご賛同と共に政府に政策提言をします】

フリーランスや女性経営者など雇用関係にない女性でも、会社員と同等の労働時間であれば、すべて女性が妊娠・出産・子育てしながら働き続けられるよう、法改正を政府に求めたいと思います。

要望内容は以下です。

-

◆被雇用者の産前産後休業期間と同等の一定期間中は、社会保険料を免除してください。

◆出産手当金(出産に伴う休業期間中の所得補償)は、国民健康保険では任意給付となっていますが、一定以上の保険料を納付している女性には支給してください。

◆会社員と同様かそれ以上の労働時間であれば、保育園の利用調整においてどの自治体においても被雇用者と同等の扱いをしてください。

◆認可保育園の利用料を超える分は、国や自治体の補助が受けられるようしてください。それが難しければ、ベビーシッター代を必要経費もしくは税控除の対象として下さい。

-

ご賛同はこちらから⇒「フリーランスや経営者も妊娠・出産・育児しながら働き続けられる社会の実現を応援してください!

※雇用関係によらない働き方と子育て研究会とは、有志のフリーランスや女性経営者、弁護士などの当事者から成る市民団体です。

株式会社 natural rights 代表取締役

2014年7月自身の経験から被害者支援団体であるNPO法人マタハラNetを設立し、マタハラ防止の義務化を牽引。2015年3月女性の地位向上への貢献をたたえるアメリカ国務省「国際勇気ある女性賞」を日本人で初受賞。2015年6月「ACCJウィメン・イン・ビジネス・サミット」にて安倍首相・ケネディ大使とともに登壇。2016年1月筑摩書房より「マタハラ問題」、11月花伝社より「ずっと働ける会社~マタハラなんて起きない先進企業はここがちがう!~」を出版。現在、株式会社natural rights代表取締役。仕事と生活の両立がnatural rightsとなるよう講演や企業研修、執筆など活動を行っている。

小酒部さやかの最近の記事