男性コンサルタントが経験して語る、育休制度の使いづらさと使用時のノウハウ

青山さん(仮名)提供写真:お子さんと育休中の青山さん

三菱UFJモルガン・スタンレー証券に勤めるグレン・ウッド(Glen Wood)さん(47)は、自身の育児休業取得をきっかけに“仕事を干される”などのハラスメント(パタハラ)や正当な理由なく休職命令を受けたとして、10月26日東京地裁に地位の保全や賃金の仮払いを求める仮処分を申し立てた。

参考記事:三菱UFJモルガンの幹部が顔出しでパタハラを訴えた、その思いとは。

ウッドさんは育休に関し上司から「そんな制度はない」と言われてしまう。厚生労働省によると育休の取得率は2016年度、女性81.8%、男性3.16%。(※女性の数値は、産休を取得しその後に育休を取得できた女性の割合。女性全体が分母ではなく、制度を取得できず辞めた女性などは含まれていない。現状日本は、第一子の妊娠を機に5割の女性が仕事を辞めている。)

男性3.16%という悲惨な数値にもかかわらず、これでも「過去最高」なのである。

数値の出典:平成28年度雇用均等基本調査より

「そんな制度はない」と言ってしまう会社が多数あるから、男性の育休は伸びないとも言える。11月14日、政府は、男性の育休取得率を引き上げるため、新たに官民でつくる協議会を来年設置する方針を固めた。

参考記事:男性育休どう増やす…政府、経済界と協議会

しかし、会社が育休を認めてくれる状況だとしても、この制度は男性にとって使いづらい点があるという。そう語ってくれたのは、大手コンサルティング会社に勤務し、実際に4ヶ月間育休を取得した現役社員の青山さん(仮名)。彼にその内容を聞いてみた。

(著者撮影:都内某所で取材に答えてくれた青山さん(仮名))
(著者撮影:都内某所で取材に答えてくれた青山さん(仮名))

●入社20年目にしてはじめての長期休業

青山さん(仮名:45歳)は育児をするため約半年間の休業を取得した。前半の2ヶ月間は有給消化で対応し、後半の4ヶ月間に育児休業制度を取得した。会社に入ってちょうど20年目。これまで子どもがいなかったから家族との時間に注力する機会がなかった。長期の休業を取って、一度仕事から離れてみたいという思いもあった。

男性育休に対し、会社としてはリクエストがあれば応えたいというスタンスだったので、自分の申し出にも特に問題なく、引継ぎをして休暇に入れた。中間管理職なので上司もいるが、部下もいる。日常的に人が足りない状況。人手不足はどこの会社も同じ。自分が休んで全く問題がないかといえば、そうではない。けれど、自分が抜けることで、それを容認してもらえる組織体制になったと思う、と青山さんは語る。

●最低でも3ヶ月分の給与を用意しないと、この制度は使えない

お金的なインパクトでいうと、2ヶ月分の生活費、プラス1ヶ月分の住民税、1ヶ月分の厚生年金など、最低でも今までの給与の約3ヶ月分を手元資金として用意しておかないと、この制度は利用できない。これは僕が実際に取ってみて理解したこと、と青山さんは言う。

まず、育休を取ると何が起きるかというと、取得期間中は会社からの毎月の給与が出ない。

毎月の給与から天引きされていた住民税(昨年実績で金額が発生する)は、会社から源泉徴収されていたので、青山さんの場合は、育休期間は自分が会社の口座にお金を入れることになった。(育休中の住民税は免除にならない。住民税の支払いは各自会社に確認が必要。)

次に厚生年金。これは1ヶ月遅れで支払いが発生する。たとえば5月1日に育児休業に入ると、前月4月の1ヶ月分の厚生年金の支払いが取得開始した5月に発生する。会社で源泉徴収されるので、これも会社に払わないといけない。(なお、育休中の健康保険と厚生年金は免除される。青山さんの場合は5~8月分は免除。厚生年金は取得前の前月分のみ支払いが発生。)

つまり、青山さんの場合、給与が入って来ずに、まず、1ヶ月分の住民税プラス1ヶ月分の厚生年金、そして、給与をもらっていた時と変わらない生活費(家賃や食費、光熱費など)の支払いが発生することになる。

育児給付金は支給されるが、手元に入ってくるまでに時間がかかる(後述)。そして、給付金には上限がある※。上限が月に30万弱。上限より給与のある人はその分の金額は出ない。

なので、それなりに給与をもらっている人からすると、給付金が支給されるタイミングも遅いうえに額も少なく、給与収入を前提に家賃なりローンを組んでいたりすると打撃が大きい。だから、育休取得前に最低でも給与の約3ヶ月分を手元に用意しておかなければならないのだ。

ちなみに、厚生年金は、1ヶ月分後で払っているので、復職した際の最初の1ヶ月分は払わなくていい。住民税も来年度は育休取得期間の収入分減った金額になる。後程のメリットとしてはあるものの、それにしても給与の約3ヶ月分を手元資金として用意しておかなければ制度が利用できないとは、男性育休が進まない大きな理由がここにありそうだ。

青山さんの場合、奥さんは専業主婦で家計は青山さんの収入で支えられている。女性側が取得する場合、パートナーの収入に頼れる場合があるけれど、家計を支える人が育休を取得するとなると、それだけハードルが上がる。もっと言ってしまえば、現状は家計を支える男性が取得することを想定して作られている制度ではないのかもしれない。

※育児休業給付金の支給額は、支給対象期間(1ヶ月)当たり、原則として休業開始時賃金日額×支給日数の67%(育児休業の開始から6ヶ月経過後は50%)相当額となっている。算定した「賃金月額」が447,300円を超える場合は、「賃金月額」は、447,300円となる。(これに伴い1支給対象期間(1ヶ月)あたりの育児休業給付金の支給額(原則、休業開始時賃金日額×支給日数の67%(50%))の上限額は299,691円(223,650円))

(著者撮影:都内某所で取材に答えてくれた青山さん(仮名))
(著者撮影:都内某所で取材に答えてくれた青山さん(仮名))

●改善点その1:せめて育児給付金は通常給与をもらえていた日に支給を!

これは、実際に取得してみて初めて分かったのだが、育児休業給付金は2ヶ月単位で、しかも、通常給与が振り込まれていた日より2ヶ月以上後に指定の個人口座に振り込まれる、と青山さんは教えてくれた。

たとえば、5月1日から育休を開始したとして、5月6月分の給付金が5月の通常給与をもらっていた日にもらえるかというともらえない。実際にもらえるのは7月に入ってから。つまり2ヶ月後。7月8月分は9月に入金せずさらに遅く、青山さんの場合は10月の入金だったと言う。これは、会社側の申請のタイミングに左右される。確実にもらえるのだが、すごく遅い。少なくとも給付金に関しては、通常の給与がもらえるタイミグで支給するよう改善されると、男性育休ももう少し取りやすくなるのかもしれない。

●改善点その2:行政の手引書をもっと分かりやすく!

取得してみて初めて分かることが多過ぎる。住民税は覚悟していたけど、1ヶ月遅れで厚生年金の前月分の支払いが発生するのは想定外だった。事前に調べてみても給付金取得の手引きなど、めちゃくちゃ分かりづらかった。はっきり言ってさっぱり分からない。行政の出す手引書にも工夫が必要だと青山さんは言う。「給付金の支給は通常の給与振り込みより2ヶ月以上遅れます」など明確に書いてくれればいいのに、と。

また、給付金を受け取るためには、なんだかんだ書類を申請せねばならず、区役所に足を運ばなければならない。自分の感覚だと提出書類の情報はすでに分かっている情報だと思うのだが、今の制度上は区役所にいちいち住民票を取りに行ったりしなければならず、手間だったとも青山さんは言う。

参考:育児休業給付に関する行政の手引き

●男性育休は「この日に開始するとお得な日!」がある

女性が育休を取得する場合は、産休後にそのまま育休に入るかたちが圧倒的に多いと思うが、男性の場合、パートナーの出産予定日から子が1歳になるまではいつでも取得できる。(場合によっては2歳まで取得可能)

制度の盲点だが、青山さんは男性なら「月末に取得するのがお得だ」と教えてくれた。厚生年金は日割りではなく月割りで、月末の日に働いていたかどうかで支払いが決まる。例えば、5月25日に退職し、6月に5月分の給与を貰った場合、5月31日は無所属なので社会保険料を払う必要はない。逆に、5月31日に就職してしまうと、1日しか働いていなくても社会保険料を1ヶ月分支払う必要が出てしまう。

これにならうと、「育休はなるべく月末から取得すべき」であり、「キリがいいから翌月の1日から育休開始」というのは止めたほうが良さそう。また、同じ理屈で「育休の終了日はなるべく月末とし翌1日に復帰するとよい」と青山さんは言う。

注意が必要なのは、月末が休日だった場合。例えば、8月31日が土曜日で8月30日までを育児休業とした場合は、8月の社会保険料を支払う必要が出てしまう。

最後に、私が「半年休業して復帰した時はどんな感じでしたか?仕事の見え方が変わったりしましたか?」と尋ねると、青山さんは笑顔でこう答えてくれた。

「同じ職場に復帰しているんですけど、感覚的には新しい会社に入り直したような気持ちでした。いろんなことがリセットされて、新鮮な感覚に戻れました。育休中に子どもといた時間は他にはかえがたいもの。育児のために休むことをお薦めしたいです。給与に代えられないものがもらえるし、その方が絶対に楽しい!」と。

この記事を参考に、男性も育休を取得することを前提とした制度内容に、改善できる点は改善してもらえたらと願う。