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議員へのマタハラは先回りした過剰な心配が原因?

小酒部さやか株式会社 natural rights 代表取締役
女性の国会議員(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

7月に鈴木貴子衆院議員が妊娠を報告したところ、「(国会議員の)任期中に妊娠なんていかがなものか」「公人としての自覚がない」「職務放棄か」など心ない声が届いたという。

女性の当選者数が過去最多の36人となった東京都議選。そのうち新人の2名、中央区の西郷歩美議員と足立区の後藤奈美議員は、現在妊娠中で年内に出産予定という。2人の妊娠についてネットに「(出産で)休むことが前提の出馬は無責任」「報酬泥棒」など心ない言葉が書き込まれた。

6月には金子恵美衆院議員が子どもを公用車で保育所に送迎していることが週刊誌に掲載され、賛否両論の末に金子議員は「公用車では保育所の送迎はしない」となった。

産婦人科医の宋美玄(そん・みひょん)氏がこれらに触れた記事を7月21日に投稿すると、実に様々な意見が上がっているが批判的なものばかりだ。なぜ、女性議員の出産・育児にはバッシングが相次ぐのか?

●議員へのマタハラは先回りした過剰な心配がほとんど

宋美玄(そん・みひょん)氏が書いた記事のコメント欄をみてみよう。

宋美玄氏の記事:「国会議員の出産・育児はいけないことなの?」

コメントを新着順に見るとまず

「金子議員の公用車OK、任期中の鈴木議員OK。しかし、妊娠中の立候補はNG」という意見がある。理由は「当選してすぐ産休育休で休むのは問題」「選挙中に破水でもしたら大変」など。

2人は候補者ではなくすでに当選している。有権者が妊娠した女性に都議になってもらいたいと票を入れ代表者になったのだから、それを今更とやかく言うことではないように思う。都議には産休育休の制度はなく、休んだ場合の報酬もどうするか決められていない。2人の” 当事者”が入ることで、より実効性のある制度や報酬のあり方が議論されていくのではないか。また、本人たちがどのように休みを取るのか、その間はどうやって職務に関わるのか、期間の長さも含め当事者たちが現場にいなければ、出産・育児をする女性議員のあるべき姿も確立されていかない。

選挙中の体調管理については本人の問題であり、それに対し先回りして過剰な心配をするのは余計なお世話というものである。これが職場で上司が女性部下に「妊娠して体調が辛いでしょ、仕事はしなくていいからね」と、女性の意思を無視して一方的に仕事を奪えば不法行為のマタハラに該当する可能性が高い。「破水したら大変だから立候補しなくていい」もこれに似ている。

次にコメントを見ていくと、

「議員の妊娠出産育児はNG」という意見になっていく。

「あくまでもその任期ごとで責務を全うすることが前提であり、任期の大半を「育休」するような形になっておきながら、次回の選挙に勝った時に次の任期で経験を生かそうというのは誤りである」

「オリンピック強化選手に選ばれている間に妊娠出産考える人いないでしょ。それぐらい国会議員は 任期中 特別な仕事だってことです。代表なんです」

「産休育休で休むのは個人的には微妙。任期があるものだし、その間はやめておいてほしい。代表でしょ」

任期の大半を「育休」するような、そんなお妊婦さま議員がいたらその時に大いに批判すればいいわけで、普通に考えてそんな議員がでるとはとても思えない。そんなことをすれば二度と当選はなく議員生命を絶たれるのだから。

オリンピック選手と議員が同等に並べられているが、そもそも議員はなんの代表なのか。私たちの生活をよりよくしていくための代表ではないのか。その代表となる人が、妊娠・出産・育児も知らないで、この国の子育て事情が改善していくとはとても思えない。国会中継で寝ているオヤジ議員なんてたくさんいるではないか。あの人たちに代表を任せてきた結果が、今のマタハラが横行した子育てしずらい少子化大国日本なのではないか。

●先回りして、出産適齢期の女性を政治から遠ざけてきた弊害が出ている

議員は国民の代表、私たちの税金を受け取っているというところから厳しい視線が向くのは分からなくもない。現に次のようなコメントが多い。

「女性議員が妊娠することが問題なのではなく、出産育児で休んでいる間も多額の給料が支払われていることが問題」

「産休は仕方ないとしても育休期間の給与支給はどうかと思う」

「議員が国会や政党でやってる役職は代理を立てられるけど、議員の職自体には代理は立てられない」

ここから派生して「時期を考えろ」「妊娠したら辞職しろ」「病気と違って妊娠のタイミングはコントロールできる」という意見になっていく。

そもそも妊娠・出産・育児を任期中にする女性議員が少ないから、休業した場合の報酬をどうするか、代理を立てるのか立てないのかなど大事なことが何も議論されていかない。議論され整備されていかないから、このようなバッシングが多数上がる。バッシングが上がるから妊娠・出産・育児を任期中にする女性議員が増えていかない、というように負のスパイラルが続いている。

世界経済フォーラムが発表するジェンダー・ギャップ指数2016年の日本の順位は、144か国中111位。中でも政治の場に女性がいないことが、この低い数字から抜け出せていかない要因でもある。政治を変え、社会を変えるためには意思決定の場にもっとたくさんの女性が採択されるべきだ。それも男性の着ぐるみを着た女性議員ではなく、妊娠・出産・育児を身をもって行なう女性議員が必要だ。

●低いポジションに合わせようとする風潮はもう止めないか

マタハラが常識問題となったのはここ数年のこと。顕在化が遅れたのは、被害が妊娠・出産・育児といった一時期に行なわれるため、被害者同志が繋がっていかないというのが理由の1つにあった。たとえば貧困問題やLGBT問題は一生涯にわたる問題だが、マタハラはそうではない。妊娠・出産・育児についてのバッシングが鳴り止まないのも、同じ育児経験のある女性までもが、時が過ぎれば「私たちだって苦労したのだから、あなたたちも我慢しなさい」と加害者に変わってしまうからだ。苦労のポジションに合わせようとしていては、いつまでたってもマタハラはなくならないし、妊娠・出産・育児を任期中にする女性議員は増えていかない。

金子議員が公用車で保育所に送迎したことは、公務を行う場所と保育園が同じ場合、総務省の運用ルール上問題はないとなっている。にもかかわらず、東国原氏は「特権階級的行動と意識に問題がある」と非難した。

効率よく公用車を利用したのが” 特権”という遥かに高いポジションに据えられては、子育て中の議員は体がいくつあっても足りないのではないか。このような思考が、結局はマタニティマーク問題や公共交通でのベビーカー問題にまで繋がっているように思う。

参考:江川紹子の「事件ウオッチ」第82回

金子恵美、鈴木貴子議員批判などへの違和感…それは本当に「特権」なのか?過剰な反発が自分の首を絞める

●女性議員の”切迫早産”が物語っていること

鈴木議員はブログで「実は今月に入ってすぐの検診で、切迫早産との診断を受け安静生活を続けております」と述べ、現在、療養中であることを明らかにした。昨年出産した金子議員も出産前に切迫早産になっている。任期中に妊娠する女性議員が極めて少ないにも関わらず、相次いで切迫早産になっていることが私は非常に気がかりだ。

専門家の医師によると、ごく初期の流産は多くは胎児の染色体異常だが、12週以降になると、その他の環境とか働き方などが関係してくるとのこと。これは私の憶測だが、鈴木議員も金子議員も「職務放棄」などと言われないために、普段よりも何倍も無理をしていたのではと思う。ただでさえ過酷な議員の職務。先回りの過剰の心配がバッシングとなって女性議員に無理を強いれば、お腹の子にも影響を及ぼす可能性がある。まずは先回りしてあれこれ言うのをやめ、妊娠・出産・育児を任期中にする女性議員が増えていかないという現状を変えてみないか。

バッシングのコメントをしている人たちも、日本がこのまま少子化で構わないと思っているわけではないと思う。少子化の火の粉は、将来の年金や社会保障の問題となって、いずれ自分たちに降ってくるのだから。自分が放ったバッシングが、いずれは自分に跳ね返ってくることを改めて認識し、女性議員の妊娠・出産・育児について、今一度大きな視点で見つめ直してもらいたい。

参考:NHKクローズアップ現代「どう守る 妊娠中の働く女性」

(2018年9月4日一部修正)

株式会社 natural rights 代表取締役

2014年7月自身の経験から被害者支援団体であるNPO法人マタハラNetを設立し、マタハラ防止の義務化を牽引。2015年3月女性の地位向上への貢献をたたえるアメリカ国務省「国際勇気ある女性賞」を日本人で初受賞。2015年6月「ACCJウィメン・イン・ビジネス・サミット」にて安倍首相・ケネディ大使とともに登壇。2016年1月筑摩書房より「マタハラ問題」、11月花伝社より「ずっと働ける会社~マタハラなんて起きない先進企業はここがちがう!~」を出版。現在、株式会社natural rights代表取締役。仕事と生活の両立がnatural rightsとなるよう講演や企業研修、執筆など活動を行っている。

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