これぞ「昭和の価値観押し付け型」経営者

(頑固そうなおじさんのイメージ)

●中小企業の経営者からのメール

マタハラ防止活動をする私のもとに、中小企業の経営者からこんなメールが送られて来たことがある。

マタハラといいますが、職場の一員として甘えすぎだと思います。

私は経営者で少ないながらも従業員を雇っている立場ですが、職場は戦いの場、戦場です。努力を怠れば淘汰されます。私たちのような小さな会社は一人の戦力離脱でも死活問題です。正直、妊娠、出産、育児は会社にとっては迷惑です。

勤務する女性に対しては微力ながらも配慮しているつもりです。毎月の洋服手当(5,000円)やスイーツ手当(1,000円)など、男性社員にはない手当を出しており、入社した女性はその手当にたいてい驚きます。また、月に1回ですが、「公認早退(有給早退)」を設けて、役所や公的機関への用事に配慮しております。(これは男女一緒)

当方の業界は技術の革新が速く、2年もいなければその後ついていけないと思いますし、研修するような余裕はありません。妊娠、出産、育児を経験するとその後の復帰はまず無理です。

大企業なら復帰支援など可能でしょうが、我々のような中小零細では無理です。

妊娠、出産、育児をするならまず、身の回りの環境を整えたうえ(金銭的な面など)、「立つ鳥跡を濁さず」で考えていただきたいです。

当方でも今まで妊娠された女性社員は二名いましたが、それを機に退職しました。ただ、二人とも退職の2年前から社内積立で妊娠後にある程度備え、円満に退職しました。今でも年に数回子どもを連れて会社を訪問してくれます。

少子化問題といいますが、皆本質を間違えています。本当の少子化問題の解決には、待機児童対策や仕事上の支援ではなく、保育所に預けるのではなく、父親もしくは母親が家に居て、手厚く愛情を注いであげる、そのためには収入や社会保障を憂慮することのない社会の構築が何よりも大事だと強く思います。

私は4人きょうだいで家は決して裕福ではありませんでした。ただ、学校から帰ると必ず母が居て、学校であったことや友達のこと、先生のことなど何でも話していました。私はそのような環境はいじめや不登校などをなくす最大の解決策だと思いますし、少子化対策に対してもきわめて有効だと考えています。

仕事場は戦場です。一人一人に重い責任があります。私は経営者として妊婦に責任を背負わすことはできませんし、妊婦も積極的に責任を負おうと考えないと思います。(絶対に守りに入りますから)

戦場ですから士気が上がるような手当や待遇は考えますが、戦力外になる者にまで優遇できません。

妊娠は否定しませんが、それならまず身の回りの環境を整え、人に迷惑がかからないことを第一に考えてほしいとともに、最低でも「女性だから優遇される」という甘い考えだけは捨ててほしいと強く思います。

※全文そのまま掲載

●昭和の価値観押し付け型

(マタハラ4類型 資料出所:小酒部さやか著書「マタハラ問題(筑摩書房)」)
(マタハラ4類型 資料出所:小酒部さやか著書「マタハラ問題(筑摩書房)」)

「小さな会社は一人の戦力離脱でも死活問題」というのはよくわかる。「女性だから優遇される」という権利主張のお妊婦様思考もあってはならないと思う。けれど、このメールの社長のいう「母親が家に居て、手厚く愛情を注いであげる、そのためには収入や社会保障を憂慮することのない社会の構築が何よりも大事だ」というのは、男性が外で働いて、女性が家事育児を担ってという昭和の”性別役割分業”の時代に戻ると言っているようなものだ。

マタハラは4つの類型に分けられる。そのうちの1つに「昭和の価値観押し付け型」というのがあるが、この社長はまさにこれに当てはまる。

これからの少子高齢社会では労働人口がますます減少する。そのような状況では女性の労働力は必須だ。また、OECD24ヵ国においては、女性の労働参加率と出生率は比例の関係にあり、女性が働いた方が子どもを産むと言えるデータがある。

毎月の洋服手当やスイーツ手当に入社した女性が驚くのは、「そこじゃない!」と思っているからではないだろうか。この会社では妊娠した女性は円満退社したそうだが、実際の本人の受け取り方は、その方にしか分からない。

「職場は戦いの場、戦場だ」というのであれば、男性だって負傷兵になる可能性があるし、このメールの主である社長自らも働けなくなる可能性がある。昭和のやり方を押し通していれば、いずれメールの主自身が淘汰されてしまうだろう。

●優良企業の社長はココがちがう!主婦を歓迎して積極採用

旅館総合研究所さん会社ロゴ
旅館総合研究所さん会社ロゴ

渋谷にある中小企業の旅館総合研究所さんは、クライアントである旅館やホテルに代わって、インターネットで宿泊プランなどの商品提示をしている。基本的に、旅館やホテルのパソコン作業を代行することが多いため、根気よく正確に仕事をする能力が必要で、この仕事には、主婦の方が向いていると重松社長は感じたそう。採用しながらいろいろ考えていたところ、バツグンに仕事ができるのは子どもを持つ主婦であると気づいたと言う。

子どもがいると時間に限りがあって、遅くなる前に何が何でも帰らなくてはならない。そうすると、時間にシビアになって、仕事が効率化できる。仕事の期限を明確に意識し、「絶対に終わらせる」という意識が非常に高い。効率のよい彼女達の仕事ぶりを見ているうちに、残業をしようがしまいが、あまり業務の質に変化はないと気づき、残業はなくし定時退社の会社にしたそう。

重松社長は、社員の子どもが熱を出した場合、有無を言わさず帰宅させる。その仕事の穴を埋めるためにできたのが、「ペア制度」。 例えば、1社のクライアントを社員1人が担当するという「1対1対応」ではなく、ペアを組んで「複数」対「複数」で仕事を担当する。Aという旅館をメインに担当しつつ、Bという旅館もサブで担当するというように、複数人で受け持つイメージ。穴が開くことを前提として仕事をするのではなく、そもそも穴が開かないように全体を調整できるようになっている。効率化と業務の見える化によって、"新しい仕事のやり方"が見えてきて、会社として進化してきたなと感じているという。

メールの主のように「妊娠、出産、育児は会社にとって迷惑」ではなく、人が抜けても業務が滞らない仕組みを考えてもらえたらと思う。

出典:先進企業の事例紹介

出典:小酒部さやか著書「ずっと働ける会社~マタハラなんて起きない先進企業はここがちがう!~」