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マタハラ防止義務化でフリーズしないために、これだけは押さえておきたい4つのポイント!

小酒部さやか株式会社 natural rights 代表取締役
マタハラ防止義務化でフリーズする管理職のイメージ(ペイレスイメージズ/アフロ)

私は企業向けにマタハラ防止セミナーを行っている。企業側から聞こえてくる声として、妊娠した部下を持つ上司、なかでも男性上司が「マタハラ」と言われるのを恐れ、上手くコミュニケーションが取れなくなっていると聞く。女性部下が流産してしまった場合、男性上司からどのような声掛けをしていいか分からず、何かコミュニケーションを取らなくてはと思いながらも通常通り働かせてしまったというケースを聞いた。そこで、これだけは押さえておきたい4つのポイントをまとめてみた。

ポイント1:マタハラに当たらない業務上の必要性

まず知っていただきたいのが、マタハラ防止の指針では、業務上の必要性に基づくものはマタハラには当たらないとされていることだ。例えば、上司が長時間労働している妊婦に対して、「妊婦には長時間労働は負担が大きいだろうから、業務分担の見直しを行い、あなたの残業量を減らそうと思うがどうか」と「配慮」することは、業務上の必要性に基づくマタハラには当たらない言動であると考えられている。一方、本人の意思を無視して一方的に残業量を減らしてしまうと、「配慮」ではなく「強要」したことになりマタハラとなってしまう。

客観的にみて妊婦の体調が悪い時に、業務量を調整し残業を減らして定時に帰らせるなどすることは、妊婦本人がこれまで通り勤務を続けたいという意欲がある場合であっても、マタハラには当たらないとされている。【厚労省のパンフレット11頁の記載に基づき修正しました。2017.05.18】

私はセミナーで「先回りの一方的な配慮はマタハラになる可能性が高いため、本人が希望を言い出してから対応しても間に合う場合がほとんどです」と説明している。冒頭の流産してしまった場合のように、男性上司からも女性部下からもコミュニケーションが取りづらい場合には、可能であれば人事の女性担当者が間に入り女性社員の希望を聞いてあげてもいいように思う。マタハラ防止とともに、これからは人事に女性担当者がいることも必要になってくる。

参考:「ハラスメントに該当しない業務上の必要性」

ポイント2:「母健連絡カード」の存在を知ろう

では、客観的にみて妊婦の体調が悪いとはどのような場合か。分かりやすいのが、「医師の診断書」が出された場合。また、「母性健康管理指導事項連絡カード(略して母健連絡カード)」(主治医などから受けた勤務時間や休業についての指導事項を、妊婦である女性労働者から事業主へ的確に伝えるためのカード)が提出された場合も客観的に体調が悪いといえる。このカードは、自治体によっては母子手帳の後ろに添付されている。診断書の代わりになるものであり、診断書よりも安く作ってもらえるため、妊婦としては積極的に活用した方がよい。

また、上司もこのカードの存在を知っていればデリケートな質問を直接しなくても済むし、明らかに無理をして働いている場合には、上司側からこのカードを利用するよう女性部下に「配慮」することもできる。

参考:母性健康管理指導事項連絡カード(母健連絡カード)

ポイント3:妊娠判明と同時に妊娠報告をしてもらえるよう日頃から促す

妊娠を把握していない状況で、流産や不正出血などの緊急報告を受けた結果、フリーズしてしまった管理職のケースについてお伝えしたい。大事な客先でのプレゼンの日に部下から「じつは妊娠していて、不正出血したので病院に行かせてください」と電話を受けた。妊娠報告を受けていなかったため不正出血と聞いてもピンと来ず、生理になったくらいかと思い「何をやっているんだ!早く来い!」と怒鳴ってしまった。部下は「お怒りの気持ちは分かりますが、とにかく今は病院に行かせてください」と電話を切った。その後、自分の妻から妊娠初期の不正出血は流産の恐れもある重大な事態だと聞かされ、なんてことをしてしまったのかと後悔し翌日謝罪したのだが、女性部下の受けたショックは大きく退職していってしまったという。

このような両者にとって悲しい結果とならないよう、日頃の会話のなかで、または社内配布する啓発パンフレットのなかで、妊娠判明と同時に直属上司には報告するよう促そう。ただし、初期は流産の可能性もあるので、報告を受けた上司が周囲への公表をするのは、安定期まで控えるのがマナーだ。また、初期に妊娠の報告を受けていれば、休業に入ったときの業務調整にも十分な時間が掛けられる。

参考:制度を利用する女性社員向けの無料パンフレット

ポイント4:まずは「おめでとう!」と言おう

半数の働く女性が妊娠に不安とのデータがあり、上司への妊娠報告は女性側も気がかりだ。妊娠の報告を受けたら、まずは「おめでとう!」と笑顔で返してあげて欲しい。そして「産休はいつから/育休はいつまで取得するのか」と制度利用が大前提として話してあげて欲しい。特に、男性社員から奥さんの妊娠報告を受けた場合は、「育休はいつから取得するのか?」と聞いてあげて欲しい。「育休は取得するのか?」では男性社員の多くが「取得しません」と答えざるを得ないのが現状だ。男性社員にも制度利用が大前提として「いつから?」と声掛けし、男性の育休取得率の向上を促そう。

この妊娠報告時のコミュニケーションさえ誤らなければ、「マタハラ」を恐れることはない。「マタハラ」と「業務上の必要性におけるコミュニケーション」は異なるものだと、しっかり理解した上で管理職の方々には対応してもらいたい。

最後に、行政への希望として、今後はマタハラ防止強化だけでなく、良い取り組みをした企業に社会保険料の優遇減税措置を取るような制度の導入があるといいように思う。くるみん認定企業(子育てサポート企業として認定を受けた企業)には税制での優遇があるが、今回のマタハラ防止措置義務とは直接は連動していない。インセンティブがあれば、よりポジティブアクションが生まれてくるように思う。

※本記事は塚本健夫弁護士との対談をもとに作成しています。

株式会社 natural rights 代表取締役

2014年7月自身の経験から被害者支援団体であるNPO法人マタハラNetを設立し、マタハラ防止の義務化を牽引。2015年3月女性の地位向上への貢献をたたえるアメリカ国務省「国際勇気ある女性賞」を日本人で初受賞。2015年6月「ACCJウィメン・イン・ビジネス・サミット」にて安倍首相・ケネディ大使とともに登壇。2016年1月筑摩書房より「マタハラ問題」、11月花伝社より「ずっと働ける会社~マタハラなんて起きない先進企業はここがちがう!~」を出版。現在、株式会社natural rights代表取締役。仕事と生活の両立がnatural rightsとなるよう講演や企業研修、執筆など活動を行っている。

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