マタハラ防止で出没しはじめる、お妊婦さま!

過剰な権利意識のお妊婦さまイメージ(写真:アフロ)

●お妊婦さまとは

私は企業向けにマタハラ防止セミナーを行っている。ここ最近、企業の人事担当者から相談があるのが” お妊婦さま問題”だ。

妊娠した女性が周囲にパワハラをしているので注意すると、その女性から“マタハラだ”と言われてしまったがどうすればいいか」「妊娠した女性が体調不良を訴え休職したいというので替わりに派遣社員を雇ったら、今度は働けると言い出したので業務を与えると“その仕事はできない”とえり好みするのだがどうすればいいか」などという相談が今まであった。

妊婦が「妊娠」というカードを最大限に利用して仕事や周囲への気遣いをせずに、過剰な権利意識で迷惑を掛けたり傷つけたりする行為は「お妊婦さま」と呼ばれ、時として妊婦側が加害者化してしまうことをいう。

この1月よりマタハラ防止が企業に義務化されたのなら、それに合わせ女性側も成熟する必要があると思う。裁判を闘い抜きこのマタハラ防止を勝ち取ってくれた女性たちのためにも、また今なお本当のマタハラ被害で苦しむ女性たちのためにも、お妊婦さまが登場しないように周知したい。ガバナンスがきかなくなったお妊婦さま事例が以下である。

●妊娠と同時に態度を変えるお妊婦さま

社員のA子さんに大きなミスが続いたので、上司が2人で話す機会を設けた。今まではミスについて素直に受け止めていたA子さんだったが、この日は言い訳ばかりを並べ認めない。それどころか、自分の就いていた職に対し「こんな役職、最初からやりたくなかった。役職から降りたい」と言い出した。普通なら降格や退職もやむを得ない相談事項に上がると思うが、A子さんは「私、妊娠しました」と報告し、妊娠を機に強気な態度に変わった。降格や退職はマタハラにあたると考えたのである。

以前にA子さんは、1社目も2社目もハラスメントで辞めたと言っていたことがあった。特に2社目で第一子を妊娠した際にマタハラに遭い、「自分は上司に楯突いたので、他の社員は産休育休を取得させてもらえたのに、自分だけ取得させてもらえなかった」と言っていた。上司はA子さんがマタハラを受けたことに理解を示し、普段から配慮していただけに、強い失望を覚えたという。このあと、A子さんのミスは益々増えていった。

●なんでもかんでも「マタハラ」と言い立てるお妊婦さま

正社員1名(B子さん)、アルバイト、業務委託と合わせて数名の小さな会社の経営が傾いた。業務縮小せざるを得ず、B子さん以外のアルバイト、業務委託は全員解散となり、社長の給与も未払いとなった。問題となったのはB子さんの雇用で、B子さんは妊娠していた。

B子さんは社長と直接の話し合いをする前に、会社のこの状況を「妊娠を理由にしたマタハラだ!」と会社名を出して複数の外部相談機関に触れて回った。「マタハラだ」と吹聴することで、この状況でも自分の産休育休を確保しようと予防線を張ったのだった。

社長が直接の話し合いの場を設けると、B子さんは「給与が払えないなら休職し傷病手当金をもらいながら産休育休まで繋ぎたい。この組織体制では働きたくないので転職したいが、育休復帰後に転職する」という。社長が「産休育休までは繋げるから、育休後に転職するという同意書を書いてくれるか」と相談しても、それも「マタハラだ」と口外された。

B子さんと社長の給与の支払いはなくなっても、産休までの社会保障や税金、外部取引先への支払いや借金などがある。その支払いを賄うために、社長は一人であるプロジェクトを進めていた。しかし、このプロジェクトの協力会社にもB子さんが「自分はマタハラされている」と言ったことで、社長は信頼を失い、プロジェクトを断念することになった。社長はプロジェクトに携わった関係者に謝罪して回ったが、B子さんは自分のしたことで多くの人たちに迷惑を掛け会社の収益に損害を与えても、そんなことは知ったことではないといった様子だった。

●「妊娠報告」と「妊娠公表」の違いを理解できないお妊婦さま

中小企業を経営する女性社長と、社員C子さんはほぼ同時期に妊娠した。C子さんはメインの外部取引先に、女性社長の妊娠を初期段階から漏らしてしまった。女性社長はC子さんに注意したのだが、「取引先はすでに気付いていて不信がっているから」と言い返してくる。仕方なく女性社長は妊娠初期から取引先に公表する羽目になった。

同じ頃、女性社長がC子さんの妊娠を会社のアドバイザーの1人に報告し、今後のC子さんの業務をどうすべきか相談していた。するとC 子さんは女性社長に「社長の妊娠を外部に伝えることは注意しておいて、私の妊娠は勝手に伝えるのか」と抗議してきた。

産休育休取得のために必要な人物に「妊娠を報告する」のと、社長の妊娠を「外部に公表する」のとでは全く話が異なる。これをC子さんは理解できなかった。結局、女性社長の妊娠を取引先に公表したことで、この取引がなくなるきっかけとなってしまった。

●お妊婦さまを出さないための会社の対応

このようなお妊婦さまは極めてごく少数と予想するが、マタハラ防止が施行されたこのタイミングでは”悪目立ち”してしまう。しかも、仕事のできない女性ほどお妊婦さまになりがちで、「妊娠」「マタハラ」を盾に自己防衛に走るので余計に質が悪い。

お妊婦さまが出てくる要因は、産休育休取得者がまだ少なく、権利にともなう義務はどこまで課せられているのか、制度利用者はどうあるべきか、職場の理解と経験が少ないためと考えられる。

では、企業はこのような女性を出さないためにどのようにすればいいか。今回のマタハラ防止措置の11項には「制度等の利用の対象となる労働者に対し、労働者の側においても、制度等の利用ができるという知識を持つことや、周囲と円滑なコミュニケーションを図りながら自身の制度の利用状況等に応じて適切に業務を遂行していくという意識を持つこと等を周知・啓発することが望ましい」とあり、女性への啓発も必要だと分かる。

参考資料:企業が講ずべきマタハラ防止措置義務(11項)

だが、妊娠してから教育しても、お妊婦さまは「マタハラだ」と言いかねない。大事なのは妊娠する前、入社した時点から、正しいマタハラの知識を女性たちにも教育していくことだろう。できればきちんと制度を取得した先輩女性から後輩に伝えてあげるといいように思う。たとえば、育児で時短勤務制度を利用する女性社員と新卒社員とでペアを組ませるなども1つの方法だろう。

参考資料:マタハラ防止措置の対象となる言動

なお、私はマタハラ防止セミナーで「” 妊娠の報告”は妊娠判明と同時に直属の上司に伝えることが望ましい。ただし、報告を受けた上司が” 周囲に妊娠を公表する”のは安定期に入ってから」と伝えている。

弊社では制度を利用する女性社員向けの無料パンフレットもデータでお渡ししているので、職場内で利用いただければと思う。

参考資料:女性社員向けパンフレット(お妊婦さま防止用)