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投票日当日のSNS投稿に注意、シェアやリツイートでも違反のおそれ

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト
(写真:當舎慎悟/アフロ)

 今日7月10日は参議院議員通常選挙の投票日です。立候補者による18日間の選挙運動も9日で終わり、あとは20時からの開票を待つばかりです。現代の選挙戦ではSNSをふくむインターネットでの選挙運動も広く行われ、多くの候補者が昨日9日の23時59分まで投票依頼などの投稿を行っていますが、これらの投稿を今日10日にシェアやリツイートなどすると、公職選挙法違反に問われるおそれがあります。今日10日にできることとできないことについて、まとめてみます。

投票日当日の選挙運動は禁止

公職選挙法の条文には、「投票日に候補者のSNSをシェアやリツイートしてはいけない」と直接的に書かれている文言はありません。しかし、以下の理由からそういった行為は禁止されていると解釈されています。

 まず、選挙運動は投票日前日までと法律で定められています。

公職選挙法第百二十九条 選挙運動は、各選挙につき、(中略)公職の候補者の届出のあつた日から当該選挙の期日の前日まででなければ、することができない。

 ここでいう選挙運動とは、これまでの判例などにより「特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的として、投票を得又は得させるために直接又は間接に必要かつ有利な行為」(総務省HPから引用)とされており、例えば今回の参院選であれば、参院選の候補者の当選を目的として、投票させようとするための行為全般を指します。そのため、SNSなどのインターネット上に、特定の候補への投票を呼びかける投稿を投票日にすることは、公職選挙法第百二十九条の違反となるおそれがあります。

シェアやリツイートも「投稿」とみなされる

投票日当日のリツイートやシェアには注意
投票日当日のリツイートやシェアには注意提供:イメージマート

 では、自らそういった投稿をするわけではなく、候補者や陣営、他人が行った投稿をシェアやリツイートすることも問題なのでしょうか。

 様々なSNSプラットフォームによって動作に違いはありますが、シェアやリツイートは「自らのアカウントで再投稿」をする機能です。他人の投稿とはいえ、それを今日(投票日)に再投稿することは、結果的に意思をもって選挙運動をおこなったとみなされる可能性が高く、先ほどの公職選挙法第百二十九条の違反となるおそれがあります。

 それでは、TwitterやFacebookの「いいね」機能はどうでしょうか。「いいね」機能は、自らのタイムラインに再投稿をする機能ではなく、あくまで相手のタイムライン上に表示されるものです。しかしながら、TwitterやFacebookでは、「〇〇さんがいいねしました」といってタイムラインに表示させる機能があります。SNSのアルゴリズムによって、とあるユーザーからみた時に「〇〇さんがいいねしました」という形で、今日(投票日)に選挙運動にわたる投稿が上位に表示されるようなことがあれば、それは選挙運動とみなされる可能性が否定できません。

 「ただ単に「いいね」をしただけで、選挙運動をするつもりなんてなかった」という主張もあるでしょう。一方、例えば一つの投稿に「いいね」をしただけであればともかく、組選挙期間中の投稿を短時間に連続して「いいね」をつける行為を組織的に行うようなケースは、明らかに「投票を得又は得させるために直接又は間接に必要かつ有利な行為」とみなされるでしょう。最終的には司法の判断ですが、投票日当日の「いいね」をつける行為は態様によっては公職選挙法違反とされる可能性があります。

投票日前日までの投稿は消さなくていいのか

 では、そもそも投票日前日までの投稿がそもそも今日(投票日)表示されてしまうことは問題ないのでしょうか。公職選挙法では、この点についても明文化してあります。

公職選挙法第百四十二条の三 2 選挙運動のために使用する文書図画であつてウェブサイト等を利用する方法により選挙の期日の前日までに頒布されたものは、第百二十九条の規定にかかわらず、選挙の当日においても、その受信をする者が使用する通信端末機器の映像面に表示させることができる状態に置いたままにすることができる。

 この条文からは、あくまで選挙の期日の前日までに頒布されたものについては、その状態で置いたままにすることができる、とあります。従って、陣営や関係者はもとより、一般有権者が選挙(運動)に関連した投稿を消す必要はありません。

政治について一切語れないのか

 では、投票日当日である今日、政治に関して一切SNSでは語ってはいけないのでしょうか。結論からいうと、そういうわけではありません。

 先ほどの「選挙運動」の定義は、あくまで投票を得るためなどの目的が問われます。例えば「選挙に行こう」「(選挙権を)棄権するな」といった呼びかけ自体は問題ありません。また、特定の候補者に投票を得る目的ではない範囲で、政治的な論争や主義主張を述べることまでを、公職選挙法では禁じていません。政治的イシューについて自らの考えを述べること自体は、(それが特定の候補者への投票を得る目的ではなければ)問題ないということです。ただし、例えば政治的な主義主張の訴えが、明らかに特定の候補者への投票を得る目的であったり、例えば定数1の選挙区で候補者が2人しかおらず、AとBという候補者がとある政治的イシューについて賛成と反対を述べていたときに、特定の選挙区を図示して「賛成」「反対」を殊更強調して訴える等をした場合には、候補への選挙運動と見做される可能性もあります。

意図せず違反をしないためにも注意

 今回の参議院議員選挙では、コロナ禍ということもあって、インターネットを活用した選挙がさらに進んだ印象があります。SNSには高価なカメラ機材で撮ったと思われる映画のような動画が出回ったり、ライブ動画による街頭演説の中継なども多くみられました。応援している政治家の、こういった投稿を今日(投票日)見て、思わず「いいね」や「リツイート」をしたくなる気持ちもよくわかります。

 一方、これまで述べてきたように、投票日当日の選挙運動は法律で禁止されており、意図しない「いいね」も選挙運動とみなされる可能性があります。投票を済ませ、20時までは心の中で応援する気持ちを温め、開票を見守りたいところです。

選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。

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