ウクライナ情勢が緊迫している中で、原油価格が高騰し、ガソリン価格の高騰にもつながっています。国会では「トリガー条項凍結解除」に焦点が集まっていますが、元売り会社への補助金上限金額引き上げなど様々な施策が検討されており、与野党の駆け引きにも繋がっています。なぜ「トリガー条項凍結解除」がすぐに行われないのか、元売り会社への補助金上限金額引き上げが対策として十分なのか、そしてこれらの問題を取り巻く与野党の思惑について解説します。

ウクライナ情勢の緊迫でガソリン価格は急騰

「ガソリン価格比較サイト gogo.gs」より、全国のガソリン平均価格(レギュラー)推移を最近1年分で表したグラフを引用
「ガソリン価格比較サイト gogo.gs」より、全国のガソリン平均価格(レギュラー)推移を最近1年分で表したグラフを引用

 資源エネルギー庁が3月2日に発表した2月28日(月)時点のガソリン等の店頭現金小売価格調査の結果はレギュラーガソリンで1Lあたり「172.8円」と8週連続の値上がりとなっています。総務省統計局の資料によれば、「産油国から日本への輸送に時間が掛かることや、原油からガソリンへ精製する工程が必要なため、ガソリン価格が原油価格の変動の影響を受けるのは、1か月程度後にな」るとされています。ロシアによるウクライナ侵攻は2月24日に開始されましたが、まだ軍事侵攻から2週間も経っていない中ですでに「172.8円」ということであれば、ウクライナ侵攻による影響が今後ガソリン小売価格に転嫁された場合、いったいどうなるのでしょうか。

 WTI原油先物はウクライナ侵攻直前まで1バレル95ドル程度で推移していましたが、開戦後は一時116ドルを超えました。およそ20%も上昇した原油価格がそのままガソリン小売価格に仮に転嫁されるようなことがあれば、計算上は1Lあたり「207.4円」にまで上がることになります。厳密には、日本で販売されるガソリンは中東を産地とする原油が燃料であることや、その時々の需給の状況などによって価格は変動しますが、経済学者や政治家からも「200円超えは時間の問題」との声が聞こえてくるようになりました。

 なお、総務省統計局の小売物価統計調査によれば、ガソリン1L当たりの小売価格(東京都区部)の過去最高値は2008年8月の「182円」で、2022年2月の「170円」とはわずか12円差です(同調査の価格は消費税込)。先ほどの原油価格とガソリン小売価格の時差を考えれば、ガソリン価格の過去最高値はほぼ間違いない情勢といっても良いでしょう。

ガソリン価格に重くのしかかる税金とトリガー条項

 ところで、ガソリン価格のうち「53.8円」が揮発油税と呼ばれる税金であることをご存じの方も多いと思います。本則税率として28.7円(国24.3円+地方4.4円)が課せられているほか、特例税率として25.1円(24.3円+0.8円)が課せられています。さらに、ガソリン税は納税義務者が石油会社であり原価を構成するコストと見做されるとの論理から、この揮発油税に対しても消費税がかかっており、実際は「59.18円」が揮発油税に関連する税金ということになります(このほかにも石油石炭税など多くの税金がガソリン価格には含まれていますが、本論から外れるので省略します)。

 このため、ガソリン価格が高騰した場合に、消費者たる国民の納得が得られないのではないか、という議論が2008年のいわゆるガソリン国会を中心に行われてきました。2009年に当時の民主党が、ガソリン税暫定税率(後の特例税率)の廃止を公約として衆院選を戦い政権交代を実現したにもかかわらず、財源の課題などから廃止にできなかったことで、代替案として登場したのが「トリガー条項」です。この「トリガー条項」とは、ガソリン価格が3カ月連続で1リットル160円を超えたことを執行条件(トリガー)として、揮発油税のうち特例税率の適用を停止するなどを引き下げる特別措置でした。

「揮発油価格高騰時における揮発油税及び地方揮発油税の特例税率の適用停止等について(平成23年4月国税庁)」より引用
「揮発油価格高騰時における揮発油税及び地方揮発油税の特例税率の適用停止等について(平成23年4月国税庁)」より引用

しかし、この「トリガー条項」は、翌2011年に東日本大震災が起きると、一度も発動されることなく、その条項ごと停止することになりました(「トリガー条項の凍結」)。

 法律上は少しややこしく、租税特別措置法88条の8で特例税率(規定)が規定されつつ、その次条(89条)で揮発油価格高騰時の特例規定の適用停止(「トリガー条項」)が定められています。

租税特別措置法

第八十八条の八 平成二十二年四月一日以後に揮発油の製造場から移出され、又は保税地域から引き取られる揮発油に係る揮発油税及び地方揮発油税の税額は、揮発油税法第九条及び地方揮発油税法第四条の規定にかかわらず、当分の間、揮発油一キロリットルにつき、揮発油税にあつては四万八千六百円の税率により計算した金額とし、地方揮発油税にあつては五千二百円の税率により計算した金額とする。

第八十九条 前条の規定の適用がある場合において、平成二十二年一月以後の連続する三月における各月の揮発油の平均小売価格がいずれも一リットルにつき百六十円を超えることとなつたときは、財務大臣は、速やかに、その旨を告示するものとし、当該告示の日の属する月の翌月の初日以後に揮発油の製造場から移出され、又は保税地域から引き取られる揮発油に係る揮発油税及び地方揮発油税については、同条の規定の適用を停止する。

そして、更に「東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律」で、この「租税特別措置法第八十九条」の適用を停止(「トリガー条項の凍結」)しています。

東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律

第四十四条 租税特別措置法第八十九条の規定は、東日本大震災の復旧及び復興の状況等を勘案し別に法律で定める日までの間、その適用を停止する。

 ここまでトリガー条項について解説をしてきましたが、まさに2008年以来、もしくはそれを超える勢いのガソリン価格高騰で、まさに議論となっているのは、この「トリガー条項の凍結解除」、言い換えれば「トリガー条項の復活」なのです。

トリガー条項発動が焦点となって予算案に賛成した国民民主党

国民民主党「第49回衆議院議員総選挙特設サイト」(https://election2021.new-kokumin.jp/policies/)より引用
国民民主党「第49回衆議院議員総選挙特設サイト」(https://election2021.new-kokumin.jp/policies/)より引用

 この「トリガー条項の凍結解除」を先の衆議院議員総選挙で公約にした政党がありました。玉木雄一郎代表の国民民主党です。衆議院議員総選挙後の臨時国会においては、トリガー条項凍結解除法案を日本維新の会と共同で衆議院に提出するなど、このトリガー条項の凍結解除に向けての動きを進めていました。

 そして、今通常国会では政府提出の令和4年度予算案(本予算案)に国民民主党は衆議院本会議で賛成しました。通例、国会における野党は政権を担わず、政府と対峙するため、政府の予算案には反対します。しかしながら、野党であるにもかかわらず、玉木代表は「対決より解決」と訴え、このガソリン価格値下げを勝ち取る見込みが出てきたことを理由として、本予算に賛成しました。

 この動きに他の野党は反発を強めています。立憲民主党の泉健太代表は「野党とはいえない選択だ。非常に残念な判断だ」と述べたほか、大串博志予算委筆頭理事は「政権全体をよしとするに等しい」、日本共産党の小池晃書記局長は「事実上の与党入り、与党宣言だ」とそれぞれ述べるなど、野党としての行動に疑問を呈しました。また、トリガー条項凍結解除法案を共同で提出した日本維新の会からも、足立康史衆議院議員が「「検討」だけで、私たちのトリガー条項凍結解除法案が可決もされてないのに賛成?」と疑問の声が上がっています。

 玉木雄一郎代表がコメントしている通り、与野党の議席数から本予算が成立することは濃厚な状況であり、政治を前に進めるために対話より解決を取ったという考えは、「名を捨てて実を取る」という考え方と捉えることもできます。先の衆院選では追加公約としてこの「トリガー条項凍結」を訴えていたことからも、公約実現のために本予算賛否の交渉材料としてこのトリガー条項を持ち出し、仮にトリガー条項の凍結解除が実現すれば国会対策の成功であり公約を実現することができたという成果とすることもできるでしょう。

 しかし、まだトリガー条項凍結解除が決まっていない段階での本予算案賛成は判断として尚早との意見があるのも事実です。現に、岸田首相は3日の記者会見で「まずは(補助金引き上げの)措置を実行し、効果を見極めるのがやるべきことだ」と述べてトリガー条項の凍結解除に否定的な見方を示しました。ある意味、予算案に賛成という賭けに出たとの見方もできます。

「トリガー条項凍結解除」か「燃料油価格激変緩和対策補助金の強化」か

 では、「トリガー条項凍結解除」に代わる対策が政府にはあるのでしょうか。

 ガソリン価格の抑制に関して、政府は既に「燃料油価格激変緩和対策」を講じています。これは、「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」に基づき、全国平均ガソリン価格が1リットル170円以上になった場合、1リットルあたり5円を上限として、燃料油元売りに補助金を支給する内容です。「トリガー条項凍結解除」と似ていますが、補助金の対象は燃料油元売りであり、直接、ガソリン小売価格に反映されるかどうかはわかりません。また、1リットルあたり5円を上限としており、既にこの上限金額に達していることから、効果はすでに限定的で、更なる価格高騰に対応できないという問題があります。

国土交通省総合政策局「原油価格高騰に対する緊急対策について」報道発表より引用
国土交通省総合政策局「原油価格高騰に対する緊急対策について」報道発表より引用

 そこで、3月4日の「原油価格高騰等に関する関係閣僚会合」では、「原油価格高騰に対する緊急対策」として、この補助金を5円から25円に引き上げることが示されました。トリガー条項の凍結解除より前に補助金の引き上げとなったことから、激変緩和の政府方針は補助金に決まったようにもみえます。ただし、補助金の対象は燃料油元売りであることから、必ずしも小売価格に25円がそのまま反映されるわけではないこと、「25円」という上限を超える事態(170円+25円=195円)にどのように対応していくのかが不透明であることから、更なる対策としてのトリガー条項の凍結解除についても検討する必要があるでしょう。

 ただし、「トリガー条項の凍結解除」もまた万能ではありません。トリガー条項の凍結解除を行った場合、揮発油税の税収が下がります。特に地方揮発油税は国税として徴収した租税をそのまま地方に譲渡する地方譲与税であり、地方の税収が下がることを意味します。さらに、トリガー条項の凍結解除では対象にならない灯油や軽油も、激変緩和の補助金では対象になることから、雪の多い地域に住む方々などの対策としても不十分との声があります。

今夏の参院選に向けての焦点づくり、テーマづくりとの見方も

岸田文雄内閣総理大臣とグータッチをする玉木雄一郎代表
岸田文雄内閣総理大臣とグータッチをする玉木雄一郎代表写真:アフロ

 今回の国民民主党による本予算案賛成を、選挙対策とみる意見もあります。実際、先週はこの「トリガー条項の凍結解除」について自民・公明と国民民主の3党首が会談し、今週は実務者での会合として幹事長会談が開かれる見込みです。

 先の衆議院議員総選挙では自民・公明による連立政権が維持されましたが、最近では自民と公明との間で選挙協力において「すきま風」が吹いているともされ、政局は参院選に向けてやや不安定な状況が続いています。議席を増やした日本維新の会ですが、自民党との間では憲法改正というテーマについては一致をみている反面、菅内閣と比べて岸田内閣では自民・維新の連携はうまくいっているとはいえず、次の参院選で「憲法改正」が大きなテーマとなれば追い風となりますが、ほかのテーマが焦点となれば、一転して向かい風になることも考えられます。

 今夏の参院選に向けて、国民民主党は東京選挙区で地域政党「都民ファーストの会」(都民ファ)と統一候補を擁立することを表明し、党勢の拡大に躍起ですが、そのためにも玉木代表の掲げる「政策提言型」の実績を急ぐ考えもあるでしょう。衆院選の公約を達成することができれば、「実績」として大々的に打ち出すことができますし、クルマ社会の地方での実績を歓迎する形での集票も期待できます。

 そうすると、この「トリガー条項の凍結解除」を自民・公明が受け入れるかどうかは、ガソリン価格の高騰やウクライナ情勢だけでなく、今夏の参院選に向けて、国民民主党との連携も含めた検討課題ということになります。いずれにせよ、ウクライナ情勢は極めて緊迫しており原油価格も過去に例のないほどの高騰をしている中で、生活必需品であるクルマの燃料価格は生活に直結する内容であることから、中長期的な対策としての「トリガー条項の凍結解除」もいずれは検討課題になるという認識で議論がされるべきでしょう。