辻元清美氏までも敗北 維新が大阪を中心に4倍増の躍進を果たした背景は
与党の右傾化・野党の左傾化でぽっかり空いた中道
衆院解散総選挙は、自民党が想定外に健闘したとはいえ、議席をやや減らす結果となりました。一方野党の立憲民主党も議席を減らしただけでなく共産党も議席を減らしたことで、厳しい結果となりました。与野党が議席を減らした中で、議席を大幅に増やしたのは、日本維新の会です。小選挙区で16議席、比例代表で25議席の合わせて41議席を獲得し、改選前からおよそ4倍の議席を獲得しました。大阪では、立憲民主党の辻元清美氏が比例復活もせずに落選したことが話題となりましたが、それだけ日本維新の会が強かったことがわかります。
この理由について考えてみたいと思います。自民党は岸田内閣成立の過程において総裁選が行われ、高市早苗候補のような保守系候補が誕生し、保守的な露出が増えていました。コロナ禍で滞っていた憲法改正論議をはじめ、安全保障問題などといったテーマは自民党支持者を結束する効果をもたらす結晶化効果がある反面、与党自民党右傾化をもたらすことになります。
一方、野党は野党共闘態勢の確立により小選挙区での議席獲得を狙う戦略でしたが、これも立憲民主党と日本共産党を掛け合わせた「立憲共産党」という指摘を与党が行ったように、野党の左傾化を招く結果となりました。結果的に、与野党が右傾化・左傾化をしたことで、中道とよばれるポジションがぽっかり空いたことになります。ここのポジションを取りにいったのが、日本維新の会でした。
全国で候補者を擁立する勝負に勝つ
日本維新の会はこの衆議院議員選挙に、小選挙区94人、比例単独2人の計96人を擁立しました。2017年の総選挙で小選挙区47人、比例単独5人の計52人を擁立したことを踏まえれば、候補者擁立が非常にアグレッシブだったことがわかります。
候補者擁立はそれだけ費用もかかります。小選挙区では300万円、比例代表では更に300万円の供託金がかかることから、今回の総選挙では供託金だけで約6億円近い費用がかかったことになります。結果的には41議席を獲得することになったことを踏まえれば、この全国に候補者を擁立する動きは正しかったと言えますが、それだけ費用をかけた挑戦だったことがわかります。
中道とよばれるポジションでいえば、国民民主党もこれにあたります。国民民主党は選挙区と比例区あわせて27人の候補者を擁立しましたが、これは日本維新の会の候補者数と比べれば極端に少ない数です。結果的に国民民主党も議席を伸ばすことに成功しましたが、全国的に候補者を擁立するだけの動きができていれば、あるいは「日本維新の会の躍進」は「日本維新の会・国民民主党の躍進」になっていたかもしれません。衆院選に焦点を合わせて候補者擁立という大作業を展開できた維新の作戦が見事に成功したことになります。
「大阪だけ」と言わせないための戦略
日本維新の会は今回、はじめて大阪以外の小選挙区でも候補者を当選させることに成功しました。兵庫6区の市村浩一郎氏は、小選挙区で自民党の大串正樹氏を破り、小選挙区での当選を決めています。「大阪だけは強い」と呼ばれていた日本維新の会は、大阪の小選挙区で全勝するだけでなく、初めて(近畿ブロックとはいえ)大阪府以外の小選挙区で勝利したことは、兵庫県を全国展開の足がかりとして重点地区にしていた維新にとっては大きな意味があるでしょう。
また、比例でも多くの議員が当選しました。各ブロックで2議席以上を獲得しましたが、そのほとんどは小選挙区の比例重複候補ですから、地元を持つことになります。これらの候補者が「議員」となって活動を行うことは、次の衆院選に向けて小選挙区で勝利するための素地づくりが行えることを意味します。ポジション取りに成功した維新は、その中道ポジションを取って議席を増やしただけでなく、全国各地に拠点を作ることも成功したわけです。
衆議院第3党の意味とこれからの展開
衆議院では公明党の議席を上回り、第3党となりました。自公連立政権はこれからも継続されることが濃厚で、自民が大きく議席を減らさなかったことを踏まえれば、直ちに維新が自公連立政権の枠組みに参加する可能性は低いでしょう。自民・公明・維新の3党で衆議院では3分の2(310議席)を確保することから、衆議院では憲法改正発議をすることができます。一方、参議院では現時点で与党側が3分の2を確保していないことから、まずは参議院議員選挙で大幅に議席を増やすことができるかどうかが焦点でしょう。
日本維新の会としては、今回の衆議院選挙での大勝を足がかりに、大阪以外での都道府県選挙区での議席獲得を更に増やす動きを展開することでしょう。また、再来年春には統一地方選挙がありますが、地方議員を増やす動きが展開できれば、衆議院議員にとっては地元の足固めとなり、再選への道や小選挙区での勝利への動きも広がると思われます。
一方、政党のリーダーシップや候補者の育成も課題です。松井代表・吉村副代表の知名度や地元関西での人気は絶大なもので、コロナ禍におけるテレビ露出などもあったことから街頭演説には多くの聴衆を集めることができる貴重な存在でした。一方、松井代表は党代表選が行われる場合には立候補せずに、来年1月の任期満了をもって退任する意向を示しています。松井代表や吉村副代表に代わるニューリーダーが日本維新の会に誕生できるのか、新たなニューリーダーが全国知名度を手に入れるまでにどの程度の時間がかかるのかも、今後の選挙戦略では重要なポイントでしょう。また、今後も候補者を擁立していくのであれば、それだけ政治家志望の人物を集めて育成する必要があります。政治資金の透明性など「クリーンさ」を訴えるのが日本維新の会の政策の特徴ではありますが、一方で維新の会所属議員の不祥事なども報道されることがあり、候補者の育成が課題と指摘されることが多いのも事実です。大幅に議席が増えたことで政治家志望者が日本維新の会の門を叩くことも増えると予想されますが、候補者育成がどれだけ進むのかも、参院選や地方選、さらに次の衆院選における維新の更なる躍進の鍵となることは間違いありません。