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岸田自民党新総裁が誕生、事前予想と党員・党友票の地域別偏りを検証

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト
第27代自民党総裁に岸田文雄前政調会長が選出された(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 自由民主党総裁選挙は9月29日、議員票の投開票ならびに党員票の開票が行われ、決選投票の結果、岸田文雄前政調会長が第27代新総裁に選ばれました。

 早速、この総裁選の総括と議員票の当初予測の事後分析、ならびに都道府県別の党員・党友票について解説をしていきます。

議員票は予想より河野氏↓高市氏↑、その理由は

 議員票については、自らがどの候補に投票するかを明らかにした集計「自民党総裁選2021_議員票動向」によれば、投票が始まる直前の状況で河野氏89票、岸田氏101票、高市氏69票、野田氏21票、(不明102票)でした。

 また、各種報道などによれば、議員票については岸田氏が約145票、河野氏が約125票、高市氏が約90票、野田氏が20票程度との観測が多くみられました。

 一方、最終的な結果は、岸田氏は146票とほぼコンセンサス通りでしたが、河野氏は86票、高市氏は114票、野田氏は34票となり、河野氏が議員票予想から40票程度減らした一方、高市氏が25票程度、野田氏が15票程度増やしました。

初回投票の結果、自民党広報(@jimin_koho)のTwitterアカウントより画像を引用
初回投票の結果、自民党広報(@jimin_koho)のTwitterアカウントより画像を引用

 投票日前日には河野氏・高市氏が相次いで二階幹事長を訪問したほか、二階幹事長はその日の会見で決選投票における二階派の動きについて「(派閥拘束に)対応したくない人は、出ていってもらうしかしようがない。ちょっと愚問じゃないかな。プロの世界では」と述べるなど、二階派での結束が予測されていました。

 河野氏は決選投票で岸田氏と戦うと不利とみて高市氏に票を回すという観測について「ひどいフェイクニュースだ」「するわけないですよ、そんなこと。冗談はよしてください」と述べていました。最終盤では高市氏の伸びが想定より少ないことからこの作戦は実際に行われなかったとみられますが、結果的に票の流れがこのようになったことは、河野氏(陣営)の意思とは別のところで、議員票を回す動きがあったとの考え方もあるでしょう。

党員・党友票の地域別偏りはどうだったか

総裁選4候補の都道府県別「党員・党友票」占有率(地図:ジャッグジャパン作成)
総裁選4候補の都道府県別「党員・党友票」占有率(地図:ジャッグジャパン作成)

 各候補の都道府県別党員・党友票占有率をGIS(地理情報システム)アプリケーション「ArcGIS Experience Builder」を使い、地図上に可視化しました。(拡大した画面はこちら

 NHKによれば、岸田氏は自身の出身である広島県だけでなく、岸田派が強いと呼ばれる都道府県など想定を上回る都道府県で有利になったことも最終的な票が伸びたことの理由となったことでしょう。河野氏は全体的に党員・党友票を伸ばすことができましたが、それでも地域差が出ました。高市氏は都市部に強く、また野田氏も一部の都道府県で健闘した結果がうかがえます。

 各候補別にみていきます。

岸田候補の都道府県別党員・党友票占有率

都道府県別党員・党友票占有率(岸田候補)(地図:ジャッグジャパン作成)
都道府県別党員・党友票占有率(岸田候補)(地図:ジャッグジャパン作成)

 岸田氏が党員・党友票で1位を獲得したのは、青森県、山形県、山梨県、島根県、広島県、山口県、香川県、熊本県でした。党員・党友票で3割近く取れたことは当初の想定よりも上回った一方、党員・党友票の都道府県別のばらつきが大きく、また都心部では相対的な票はそこまで伸びていません。農村地域に強いとされる岸田氏の傾向に加えて、組織・職域票の動向や支援議員の有無が色濃く反映されたと見るべきでしょう。

河野候補の都道府県別党員・党友票占有率

都道府県別党員・党友票占有率(河野候補)(地図:ジャッグジャパン作成)
都道府県別党員・党友票占有率(河野候補)(地図:ジャッグジャパン作成)

 河野氏が1位を獲得したのは、37都道府県でした。全体的に党員・党友票の多くを獲得できたのが河野氏の強みだったと言えます。北関東や四国、南九州での党員・党友票支配率が高かったのが特徴である一方、北陸や北九州では伸び悩みました。西日本側に強いと呼ばれる石破氏の票が反映された地域と反映されなかった地域があるとみられます。

高市候補の都道府県別党員・党友票占有率

都道府県別党員・党友票占有率(高市候補)(地図:ジャッグジャパン作成)
都道府県別党員・党友票占有率(高市候補)(地図:ジャッグジャパン作成)

 高市氏が党員・党友票で1位を獲得したのは、地元の奈良県でした。関西では票が比較的多かったほか、神奈川県や千葉県、愛知県、大阪府、兵庫県といった人口の多い地域で党員・党友票支配率が高く出ました。岸田氏の強い地域では高市氏の票が伸び悩んだことも見受けられます。いずれにせよ立候補表明当初想定されていた票よりも党員・党友票が伸びたことがうかがえます。

野田候補の都道府県別党員・党友票占有率

都道府県別党員・党友票占有率(野田候補)(地図:ジャッグジャパン作成)
都道府県別党員・党友票占有率(野田候補)(地図:ジャッグジャパン作成)

 野田氏が党員・党友票で1位を獲得したのは、地元の岐阜県でした。北海道や東海ブロック、和歌山県などで相対的に票が多かった一方、中国・四国地方では票が伸びませんでした。占有率10%を超えた岐阜県と和歌山県のうち、和歌山県は元夫で今回推薦人の鶴保庸介参院議員の選挙区でもあります。

 各候補によって、党員・党友票の結果も特色が出ました。いずれにせよ、総裁選の結果、新総裁となった岸田文雄氏のもとで自民党は衆院解散総選挙を戦うことになります。今後の党人事・組閣の動きにも注目です。

選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。

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