政治ライター・平河エリさんに聞く、今からでも間に合う「政治参加」とは(上)
2021年の秋は、自民党総裁選に衆院選と政治日程が目白押し。様々な場面で政治関連のニュースを目にすることも多くなってきました。自民党総裁選は党員・党友にしか投票権はありませんが、衆院選は2019年参院選以降となる国政選挙で、多くの有権者が関心を持つところです。
今回は、今夏に『25歳からの国会: 武器としての議会政治入門』を出版された政治ライター・平河エリさんにインタビューをし、総裁選や衆院選を前にして、有権者ひとりひとりがどのように政治に向き合い、また政治に参加すべきかをトークしました。(インタビューは2021年8月後半に行っています)
大人になってからの「主権者教育」の必要性
大濱﨑卓真(以下、大濱﨑): 平河さん、今日はよろしくお願いします。この度、『25歳からの国会: 武器としての議会政治入門』(現代書館)という本を出版されたそうですね。初見で面白いタイトルだと思ったのですが、なぜ『25歳からの国会: 武器としての議会政治入門』を書こうと思ったのか、出版の経緯をぜひ聞かせて下さい。
平河エリさん(以下、平河): 国会って、一般には仕組みが分かりづらいと思いませんか。例えば「三権分立」という言葉、三権分立と言っても、立法府の多数派が行政権のある内閣を選ぶっていうふうに考えると、結構、三権分立しているようで分立してなかったりするように感じますよね。それを上手く補っているのが立法府たる国会の仕組みというか、慣習だったり制度だったりすると思うのです。
国会について、よく野党は批判ばかりしているとか、本会議で居眠りしているとか、そういった事ばかりが取り上げられますけど、ワイドショーのネタになるところって一面的になりがちで、本来もっと伝えなきゃいけない事があるにも関わらず、なかなか伝わっていないところが個人的にはとても残念に思っています。仕組みとか制度的なものとか慣習とか含めて、できるだけフラットに、かつ国会を見て面白いと思って勉強になるなと思っていただけるよう書かせていただきました。
大濱﨑: 確かに「国会の三権分立」って、中学校の公民とか、高校の政治経済で一応形だけ習いますよね。ただそれだけだとテレビで国会中継見ていても、今何がどの段階なのかとかが分からないですから、本作はそういったところのいわゆる解説本といったものなのかなと思いました。
平河: 三権分立っていう割に、じゃあそれってどういう意味なんだとあまり考えていない気がしていて。日本の教育では、早足で用語だけ覚えて、あとは立法府と行政府と司法府があり、対立してバランスを取っていてというイメージみたいなものを学ぶと思うんですけど。じゃあ実際、三権分立っていうと、お互い対立しなきゃいけないじゃないですか。でも、権力がお互いに対立するのが本来の三権分立である、というところがどのぐらい理解されているかっていうと、国会が内閣に対してちょっとストップしたりすると、「決められない政治」って言葉があったりもしましたけど、非常にネガティブに捉えられるところが大きいと思うんです。
国会には国会の役割があって、選挙は選挙でもちろん役割があって、政府には政府の役割があると。それぞれの役割っていうのを知っておいて、どういうメカニズムで動いているのかが分かったらいいなと思っていて、そういう意図で書かせていただきました。
大濱﨑: 政治の分野は、知っているようで知らないことって結構ありますよね。ちょっと話が逸れますが、20歳になると年金を払い始めますけども、それがどう使われてどう運用しているかという部分を中学・高校で十分に教えてもらわないまま払い始めるから、不満も高まるということがあると思います。NHKの受信料も然り。知った気になっているけど、結構知らないことってあるじゃないですか。そういう意味で国会の知っておくべき知識が本書には入っているように思いました。
一方でここのギャップって、もっと本当は学校といった教育の部分でやるべきなのか、それともこの本のタイトルで「25歳からの」とあるように25歳からの方がよいのか。そういえば何故25歳なのか聞きたいなと思ったんですけど。
平河: 個人的には、もう少し学校教育とか主権者教育をやるべきだと思いますし、高校生に対してそういうところをやっていくっていうのは必要だと思っているんですよね。18歳選挙権になって、みんな投票できるようになったのに、投票の仕組みがどうなっているのか、分からなかったりするので。
「25歳」と区切ったのは、特に大きな意味があったわけではないんですが、(多くの選挙の)被選挙権が25歳で、僕自身がライターとして始めたのが25歳ぐらい、18歳だったら仕組みの説明部分がさらに入門書寄りになるかなという印象があって。25歳なら、もう少し踏み込んだこと書けるかなと思って、一応そういう感じで25歳になったというところです。
大濱﨑: なるほど。18歳とか20歳って、まだ学生さんだったりすることが多いし、25歳って多くの方は社会人で、さらに早い人だともう結婚したり家庭を持ったり、国民としての責任というか、いろいろと社会と関わる事が増え、ちょっと責任感が出てくるタイミングですよね。個人的には、この25歳っていうタイミングで投票しない人って、ずっと投票しないんじゃないかと思ってるんですよ。
平河: 結構ターニングポイントな感じがしますよね。
大濱﨑: だから、いかに選挙権を得てからの最初の選挙に行ってもらって、原体験として選挙に行くという経験をしてもらう。そして選挙に行くことがある種当然というか、法律上の義務にはないにしろ、どのように投票してもらうかとは、すごく大事だと思います。
若い世代の政治関心とSNS世論
大濱﨑: コロナ禍の今、政治的な不満が高まってきていますよね。菅内閣支持率も非常に低い数字が出てきていて、若い世代は特にワクチン接種が遅れているなどで、不満が高まっているとも言われていますが、これが総選挙に影響が出るかどうかは、ひとえに若者の投票率にも懸かってくるなと。ただ、これだけ不満が高まっていても、野党に票が動くような投票行動まで一気に波が来るとはまだ考えにくい。そういった大きな波をもたらすためには、この本を読んだところから投票行動までにいくつかのステップがあるんじゃないかなと思うんですが、この本以外に何が必要ですかね。
平河: 特にこの数年、野党側で一番大きく変わったところは、今まで中心だった「平和」とか「反核」というような若い世代には届きづらかったイシューが、「選択的夫婦別姓」とか「ジェンダー」の問題とか、「クオータ制」とか、より幅広に多くの人の課題感を感じているところに、移ってきていることだと思います。これは、とてもポジティブに捉えていいところでしょう。こういった変わるべき点が変えられてないっていうところの課題感は、オリンピックも含めて、多くの人が感じているのかなと思っているんですが、何か変だよねという空気感があっても、それが投票に結びつかないところがまさに今課題なのかなと思います。
ただ、草の根的にネットで多くの方が繋がっていますし、連帯していって、その連帯がうまく投票っていう行動に進んでいくように、今は芸能人の方でも投票に行こうって呼び掛けてる方も少なくないですから、そういうところから、少しずつ横のつながりで投票率も上がる形になると一番良いのかなっていうふうに思ってますね。
大濱﨑: 横の呼び掛けが大事ということですね。
平河: ただ投票に行こうだけだと、それで誰に入れたらいいのってなると思うんですよね。こういう問題を解決したいから、これに対して賛成している人に投票しようとかっていうほうが、私は分かりやすいかなと思っていて。例えば選択的夫婦別姓に賛同する人に投票しようとか、女性の議員に投票しようとか、年齢が若い人に投票しようとか、何でもいいと思うんですけど。何か一つイシューがあって、そこに対して投票を呼び掛けるっていうのは、私は必要だと思っています。
大濱﨑: 横でつながっていくっていうと、例えばSNSが今、これだけ広く浸透していて、昨年は「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグが話題になりました。ただ、最近はTwitterを見ても、もう明らかに仕組まれたようなハッシュタグ運動だとか、露骨なトレンドを狙う動きも目立ちます。一方で、自然現象的に起きたとされるハッシュタグとかが注目浴びたりすることも、まだ事実としてはある。このSNSの台頭っていうのが、前回の総選挙(2017年)から今回の総選挙(2021年)の変化、言うなれば衆院選の見どころみたいな感じになるのではと思うんですが、どうでしょうか?
平河: かなり影響は大きいかなと。例えば実名で発信する人の数が結構増えましたね。特に女性とか若い方で増えてきたと感じています。もともとインターネットって若い男性のもので、それが徐々に高齢化してきて。そこからまた少し流入が増えてきて、今割と年齢層とか幅広くなってきているっていうところが、特にTwitterだと多いのかなっていう気がしているんですね。
相互監視されるようになってきていて、例えば、ネットも初期の頃ってお互いがお互いの中で好きなこと言い合っていたところがあるんですが、今は察し合うというか、強い言葉による批判的な発言をしてしまうと、それが一気に炎上して、アカウント消えるところまでいっちゃうみたいなところがあって。それをネガティブに捉える向きもあるとは思います。気軽に発言できなくなってきているという意見も分かるんですが、しかしもうちょっとポジティブに捉えれば、SNSの中での発言の一定のコードみたいなところが少し醸成されてきたのかなと。ただSNS世論という表現で言えば、Twitter世論とFacebook世論なども全然また違うので、そこは勘違いしちゃいけない。
基本全部違うので、読み違えちゃいけないんですけれども、少なくともTwitter世論の大勢というか、大きなところっていうのは、幾つかのグループに、今、集約されていって、そのグループの発信力の高い人がそこから広めてくっていう構造になっているかなと。インフルエンサーみたいな人がTwitterの中にいてそこから同質性の高いところに広まっていく様相が見えてきていて、それがトレンドとかになると、一般の人にも触れるわけで、そこからからまた世論が形成されていくっていうのは面白い現象かなって思っています。
大濱﨑: なるほど。今平河さんがサラッと、Twitter世論とFacebook世論とInstagram世論と、違うよっていう話があったのですけど、多分Yahoo!ニュース読者にもすごく興味があるところだと思うので、ぜひそこの解説をいただきたいです。
平河: Facebookって、おじさん、おじさんっていう言い方が正しいか分からないですけど、まだまだある程度地位があって年収が高くて、お給料をもらっている方が非常に強いんですよね。プラス、何ていうのかな、実名でつぶやくって、結構ネガティブなことつぶやきづらいので。
例えば、オリンピックとかに関しても、やっぱりTwitterってどうしても「オリンピックって開会式しょぼかったよね」みたいなことを言っても、別に許されるんですが、Facebookで「開会式しょぼかったよね」って言うと、どこで関係者と繋がっているか、見られているか分からない。みたいなところもあったりして。
Facebook、Instagramもそうですけど、常にポジティブなことをつぶやいていかなきゃなんないっていう世論があって。
Instagramは、ストーリーって割とLINEに近い使われ方をしているので、比較的本音に近いものが流れてきてるんですけど、やっぱりInstagramとかに関して言えば、女性のほうがストーリーを上げる頻度が高いですし、空気全体として、比較的若年から30〜40代ぐらいまでの女性がユーザー層として厚いところなので、そこはFacebookと、積極的につぶやくユーザーの質が違うっていうところも大きいのかなと思います。で、Twitterはネガティブっていう。本音に近いとか、ネガティブなことも書けるっていう感じ。
大濱﨑: なるほど。僕もこの前、違う媒体でもちょっと書いたんですけれども、政治家さんの、それぞれTwitterとかFacebookとか、Instagramも含めてやるケースってあると思うんですけれども、それらを使いこなしてる議員って、コミュニケーションで相互交流になってると思うんですけど、情報発信の域を出てない総理大臣とかいるじゃないですか。
平河: 「金メダル取りましたよ」みたいな。
大濱﨑: そうそう。一方通行というか、ただホームページ更新してる感覚というか。Twitterってすごく辛辣なコメントが来たりだとか、結構厳しいのも来るなっていう印象が、自分もやっていて思うんですけれども。そこに対応できるかどうかっていうのも、政治家のスキルになってきているなって気がしています。
平河: 辛辣なコメントが来たときに、それでメンタルを崩してしまって、政治家の方でそういうふうになってしまうと、結構しんどいというか、そういうコメントが多い職業なので、かなり大変なのだろうとは思いますね。
それはもちろん、媒体として何とかしてほしいなっていう気持ちもあるし。Yahoo!さんは、僕、大体、転載されると炎上して大変です。(笑)
大濱﨑: Yahoo!コメントは匿名じゃないですか。私は今、オーサーコメントっていう立場で実名で出しますけれども、やっぱり匿名で書いてることの極端さ、ネガティブだったり、極端にポジティブなこともたまにありますけれども、やっぱり極端になりがちっていう印象も受けていて。でもやっぱり媒体として影響力も大きいじゃないですか。それでほんとに世論が形成されていって、Twitter、Facebook、インスタとかと同じぐらいのレベルでYahoo!コメントも、世論を形成しているんじゃないか、ぐらいには思っているんですよ。
平河: そうですね。何だかんだ、1万いいねぐらい付いてたりするじゃないですか。だから、たくさん見られているし、ある意味、かつての2ちゃんねるに近いみたいな感じのスレッドになってきているので、影響力はあると言えるでしょうね。
大濱﨑: コメントを書く人がきちんとした知識を持っているかどうかも大事です。例えば、よく政治家が汚職をしたとか、政治とカネの問題のときに、平気で政治家さんに対してボランティアでやれとか、定数を例えば半分にしろとか、100人でいいじゃねえかとかって見るんですよ。でも、それこそ平河さんの本をきちんと読んだら分かると思いますけど、国会の仕事を考えたら、定数が少し減ることぐらいは分かりますけど、現実問題として国会議員100人で回るのかって、多分僕は全然回んないと思うし。報酬が1割減、2割減だったらともかく、半分だと生活できない国会議員とかも出てくるんじゃないかと思うし。それが質の低下を生むことは火を見るよりも明らかです。
平河: はい、そうですね。知識を持っているだけで世の中の見え方が変わることもあると思うし、見え方が変わると、実はいろんなところで、自分の生活とかにも関わってくるのかなと、僕は思っています。あとは、世の中の流れを知る上で、国会って皆さん優秀な方が多いので、政治家って誤解されがちだと思うんですけど、やる気がないと続かない職業でもありますから、やはりやる気を持って、ある程度能力を認められて政治家になっている方が多いわけじゃないですか。そこでちゃんと議論されているのだということを知るのは、僕はすごく大事なことだと思うので、国会もっと見てもらってもいいよねって個人的には思います。
(「政治ライター・平河エリさんに聞く、今からでも間に合う「政治参加」とは(下)」に続く)
平河エリ氏プロフィール
ポリティカル・ライター。1990年京都市生まれ。早稲田大学卒業後、外資系IT企業にて勤務し、その後コンサルタントとして独立。議会政治、選挙などを専門分野に活動。朝日新聞、講談社、扶桑社、サイゾーなど各社媒体で執筆。著書に『25歳からの国会: 武器としての議会政治入門』(現代書館)