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横浜市長選告示前最終情勢 菅首相お膝元の選挙の展開はいかに

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト
政令指定都市では大阪を抜いて最も人口の多い横浜市(写真:アフロ)

 明日8月8日告示・8月22日投開票の横浜市長選挙が注目を集めています。

 最大で10名が立候補を表明した横浜市長選挙も立候補取り止めなどがあり、最終的には告示前日の時点で8名が立候補を表明している状況ですが、現職に対して複数の有力新人候補が挑戦する構図となっており、終盤まで予断を許さぬ展開となりそうです。

 私が代表を務めるジャッグジャパン株式会社では、先週の段階で横浜市長選挙ならびに横浜市政に関するインターネットパネル調査(横浜市民対象、N=2,082)を行いました。この調査結果や各種取材をもとに、横浜市長選挙の情勢をみていきたいと思います。

「カジノを含むIRの誘致」は依然6割弱が反対

 当社が行った調査では、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)の誘致について、「強く賛成」「どちらかといえば賛成」の合計が22.0%に対し、「強く反対」「どちらかといえば反対」の合計が58.7%となっており、依然として反対の意見が多いことがわかります。一方、今回の市長選では候補予定者の多くが反対の立場を表明していることから、反対票が各候補者に分散する一方、「賛成」票はそのまま現職市長に票集中することが予想されます。

「横浜市が進めるカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の誘致に対して、あなたはどうお考えですか?」の回答比率(性別)/インターネットパネル調査(ジャッグジャパン株式会社調べ)
「横浜市が進めるカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の誘致に対して、あなたはどうお考えですか?」の回答比率(性別)/インターネットパネル調査(ジャッグジャパン株式会社調べ)

 性別で比較すると、特に女性はカジノ・IR賛成の割合が少なく、「強く賛成」「どちらかといえば賛成」の合計は14.5%しかありません。一方、男性は「強く賛成」「どちらかといえば賛成」の合計は28.7%であり、男女の性差が強く認められます。

「横浜市が進めるカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の誘致に対して、あなたはどうお考えですか?」の回答比率(年代別)/インターネットパネル調査(ジャッグジャパン株式会社調べ)
「横浜市が進めるカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の誘致に対して、あなたはどうお考えですか?」の回答比率(年代別)/インターネットパネル調査(ジャッグジャパン株式会社調べ)

 年代別では、賛成の割合は若い世代から高齢者世代まで一律して20%台前半で安定しているのに対し、「強く反対」の割合は年代が高くなるほど明らかに多くなる傾向がありました。このことからも女性や高年齢層を中心にIR・カジノ反対が強い傾向であることがわかります。

情勢は「小此木・林・山中の3候補に田中・松沢がどう絡むか」

 横浜市長選挙には、表明順に市会議員の太田正孝氏(75)、前衆議院議員の福田峰之氏(57)、水産仲卸業者の坪倉良和氏(70)、前国家公安委員長の小此木八郎氏(56)、元横浜市立大教授の山中竹春氏(48)、元長野県知事の田中康夫氏(65)、現職の林文子氏(75)、参議院議員の松沢成文氏(63)が立候補を表明しています。このほか、藤村晃子氏(48)と郷原信郎氏(66)が立候補を表明していましたが、いずれも撤回しました。

 立候補予定者8名のうち、IR賛成を訴えているのは福田氏と林氏、それ以外の6名は反対を表明しています。このことから、前述の通り「IR・カジノ反対」が多数を占めているにもかかわらず、反対票が各候補者に分散する一方、「賛成」票はそのまま現職市長に票集中することが予想される展開になるでしょう。

 当社の調査ならびに各種取材によれば、小此木氏と林氏がややリードし、山中氏が追い上げ、田中氏と松沢氏がその3人を追う展開となっています。ただし、態度未決定者もまだ多く、現状では予断を許さぬ展開となりそうです。以下、この5候補を中心に候補予定者別の特徴をみていきたいと思います。

候補予定者別の特徴と展開の予想

 小此木氏は、特に男性・高齢者層を中心に人気があり、IR・カジノについては「どちらかといえば反対」「どちらともいえない」層を中心にまとめつつあります。一方、自民党分裂の影響を受けて、必ずしも自民党・公明党支援者の票が小此木に一本化できていない現状もあります。投票率が低ければ、小此木氏にとって有利とも言えそうです。

 林氏は、IR・カジノの賛成票をまとめているほか、全世代的に一定の支持を集めており、また女性や公務員からの支持も他の各候補予定者と比較すると多く集めています。一方、現職市長とはいえIR・カジノの反対派からの支持は集められておらず、この態度表明が吉と出るか凶と出るかが鍵になるでしょう。女性や若い世代から一定の支持があることから、投票率を上げられるかどうかも終盤にかけて重要です。

 山中氏は、IR・カジノについて「強く反対」している層から強固な支持を受けているほか、野党支持層からの支持が厚い状況です。特に高年齢層から支持を受けている一方、50代以下の若い層への浸透が今後鍵となってくるでしょう。また、立憲民主党支持層は山中支持で固まりつつありますが、共産党支持層はまだ固まっておらず、無党派層への浸透も課題となっています。

 田中氏は、40代後半から50代の支持が高い一方、高齢者からの支持は伸び悩んでいます。無党派層からの支持も高いものの、IR・カジノについて「わからない」と応えるなど政治的無関心層からの支持がある状況から、これらの層の投票率を上げられるかが課題となるでしょう。

 松沢氏は、高齢者層を中心に支持を集めつつあるほか、日本維新の会支持層から一定の支持があります。男性からの支持の割合が多い反面、女性からの支持が伸び悩んでおり、自営業や経営者層からの支持が多いことを鑑みると、高所得者層へのリーチに留まっているとも言えそうです。

 このほか、太田氏、福田氏、坪倉氏は自身の支持者を中心に支持を今後どのように広げていくかが選挙戦全体の展開となるでしょう。太田氏は長年市議としての経験があることから地元での票が一定数見込めるほか、福田氏は数少ないIR・カジノ賛成派としてどこまで存在感を出せるかが鍵となります。坪倉氏はIR・カジノ代替案としての「山下ふ頭を食の拠点」を浸透させられるかどうかにも注目です。

横浜市長選が衆院選に与える影響

緊急事態宣言に4府県を追加することを発表する菅首相
緊急事態宣言に4府県を追加することを発表する菅首相写真:代表撮影/ロイター/アフロ

 この横浜市長選挙は菅首相のお膝元で行われる選挙であり、今後衆院選にも影響が出る可能性があります。7月29日発行の地元誌では、小此木氏と菅首相の対談記事が掲載され、菅首相が「全面的かつ全力で応援する」と表明しています。

 小此木氏が勝てば政権へのダメージは最小限で済みますが、それでも自民党分裂のしこりが残る可能性があります。林氏が勝てば、菅首相にとってはダメージとなるほか、自民党分裂の影響は小此木氏勝利よりも大きくなるでしょう。

 または、山中氏が勝てば野党推薦候補の勝利となり、当然野党側に大きな弾みとなるほか、菅首相の影響力低下や「菅下ろし」への発展の可能性すらあります。そういった意味でも、一政令市の首長選挙という域を超えて注目の選挙戦と言えるでしょう。

 神奈川県は緊急事態宣言下で、かつコロナ感染者数が爆発的に増えている異常事態で迎える横浜市長選挙は、明日8日告示・22日投開票(即日開票)で行われます。

選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。

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