南アフリカで急速に感染を広げている変異株オミクロンは感染性と免疫逃避能が高い可能性があるとして全世界で恐れられている。データはまだ速報的でしかも限られているが、本稿ではオミクロンについて現時点でわかっている点を整理する。

再感染

南アフリカにおけるオミクロンの感染爆発はハウテン地方ではじまり周囲に波及しており、同国の新規感染者数は1週間で4倍という大変に速い勢いで増えている。

注意すべきなのは、南アフリカは過去の流行の波が大変に大きく、国民の圧倒的多数は感染したか、ワクチンを接種済みであると見積もられている。それゆえに、自然にデルタに感染してできる免疫ではオミクロンの感染を防ぐのには十分ではないと考えられている。

つまり、オミクロンは自然にコロナに感染することでできる免疫を逃避して再感染を容易に樹立できる可能性がある。また現在の急速な流行拡大からも、感染を広げる力が相当程度に大きいことが推測されている。

これらはいずれも速報であり、データの検証はまだこれからである。

重症化率について

重症化率は今後2−3週間ほどのあいだに速報的な最初の見当がついてくると考えられる。

オミクロンは軽症者が多いと主張する南アフリカの医師のビデオが拡散しているが、もともとコロナは軽症者が多い感染症であり、どの年齢層で患者が増えているかでも重症者数は大きく異なってくる点に注意すべきである。

本稿を書いている時点で、南アフリカの新規感染者数の増加の勢いよりも重症患者の増加の勢いがゆるいのは確かだが、そもそも症例数が急増してからまだ1週間あまりである。現在は、もし重症化が増えるなら、それはまだこれからである、というタイミングである。

またハウテン地方では若者のクラスターから感染爆発に至っている点にも留意する必要性がある。今後流行が高齢者に広がっていったときにどうなるかが焦点になる。

年齢別の感染者数・重症患者数などのデータがでて統計的に分析されるまでは、本当の重症化率はわからない。南アフリカの状況の全貌がみえるまでに、あと数週間はかかる。

現実世界のデータ〜ワクチンの効果

オミクロンの今後の振る舞いを予想するうえでは、南アフリカから発信されているような、現実世界のデータが最重要である。一方で、南アフリカは平均年齢が低い(中央値で27.6歳〜日本は48.4歳)、若い国であり、またワクチン接種率は30%未満と低い。多くの点で日本と異なる国である。

日本の場合、現時点でワクチン接種率が高いので、オミクロンがワクチン接種済みの人のあいだでどの程度感染するのか、重症化をワクチンでどれだけ防げるのかという2点が焦点になる。

この点、同様にワクチン接種率が高いオランダ・英国などの欧州などでオミクロンの報告数が増えてきているので、おそらく年明けの1月までにワクチンのオミクロンに対する効果がある程度判明しはじめるだろう。そうすれば、オミクロンとデルタとの精密な比較ができるようになり、今年の冬から春先にかけての世界の予測がつくようになる。

南アフリカにおける感染爆発の勢いを考えると、今のうちに、オミクロンの流行を想定したうえで、オミクロンが今懸念されているようなウイルス学的・免疫学的性質を持っていた場合にどのように対応するか、関係機関が方策をたてておく必要性は高い。

ワクチンの感染防御効果はもともと不十分であることについて

デルタまでの話をまず書くと、現在日本で使うことができるワクチンはいずれもデルタや従来株感染時の重症化予防に大変優れた効果を示す。2回接種で免疫ができた直後は9割以上の防御効果がある。

ただしワクチン接種後5〜6ヶ月ほどで、特に80代以上の高齢者などで重症化防御の効果の低下が問題になってくる。これが特に高リスク者(高齢者、糖尿病などの基礎疾患を持っている人)でブースター接種が強く推奨される理由である。

ワクチンはデルタに対する感染防御についてはそこまでは高い効果は示さない。感染防御能力はデルタに対しても4〜6割程度である。

さらに、ワクチンの感染防御効果は半年以上時間がたつと低下が目立ってくる。つまりワクチンを2回接種をしてもデルタに感染する可能性は織り込んで行動する必要性があった。

つまり、コロナのワクチンの主たる目的は、接種する人を重症化から守るところにある。

ここまでがオミクロン登場前の、デルタ再流行に備えた知識であった。

オミクロンは下に詳しく書くように、ワクチンによる感染防御効果がある程度落ちること〜おそらくデルタよりもさらに落ちること〜が予想されている。今冬の流行動態を予測するうえでは、感染防御効果がどの程度落ちるかの数字が重要であるが、これについては現実世界のデータがでるまではわからない。

ワクチンの重症化予防効果がオミクロンに対して低下するかどうかは大きな焦点の一つだが、これについてもウイルスの遺伝子配列からは予測不能である。現実世界のデータがでるまではわからない。

なぜオミクロンでワクチン・治療抗体の効果低下が懸念されているのか

ワクチンでできる免疫での効果がデルタにくらべて落ちることが懸念されているのは、オミクロンのスパイクタンパクが持つ変異の箇所に問題があるからである。

ワクチンで免疫ができると、ウイルスがひとの細胞のタンパクに結合して感染するのにつかうスパイクタンパクに特異的にくっつく抗体を、ひとの免疫細胞(B細胞)がつくるようになる。このような抗体でウイルスが細胞に感染することを阻止できるものを中和抗体という。抗体がウイルスを中和して働けなくすることができるという意味である。

製薬会社はこのような中和抗体を人や動物から採取し、優れた抗体を工場生産して治療抗体として開発、現在抗体カクテル療法として重症患者の治療に用いられている。

オミクロンのスパイクタンパクには32箇所変異が入っているが、ここで問題は、治療用抗体や一部の自然にできる中和抗体が標的としているスパイクタンパクの幾つかの要所に変異が集中していることである。

視覚的に表示すると、このリンクの赤いボールがそれぞれデルタ、オミクロンで変異している箇所である。

オミクロンでは、特に上の方、スパイクタンパクの先端の部分で、ひとの細胞に感染するときに「とっかかり」とする部位とその周辺に変異が多く集まっていることがわかる。

実はこの1年あまりのあいだに、このような変異についてはかなり徹底的に研究が行われてきた。このため、一部の抗体カクテル療法の効果がオミクロンに対して低下していることはほぼ確実であるし、ワクチンの効果も多少なり低下することが予想されている。

オミクロンはどのように誕生したのか

オミクロンはこれまでの変異株とは変異の入り方が大きく違うが、いったいどこからきたのだろうか。オミクロンはなぜこのような変異を多数持つに至ったのだろうか。

まず、オミクロンは従来株に対して人体が中和抗体をつくりやすい場所に変異を蓄積することで、免疫逃避能を獲得して流行を広げるにいたったことが考えられている。

ではそれがどのように起こったのか。

コロナの免疫逃避変異については研究が進んでいる。たとえば、新型コロナウイルスを中和抗体の存在下で細胞に感染・複製を繰り返させると、自然にその抗体に対して耐性になる変異を獲得できることが実験的にわかっている。

ウイルスが多数の変異を蓄積するのは慢性的な長期感染で起こりやすいので、AIDSなどの免疫不全患者の中で、長期にわたって従来株のコロナが不十分な免疫反応に晒され続けることで、オミクロンにみられる変異を一気に蓄積した可能性が考えられている。一部のウイルス学者は、同様なことがある種の動物の中で起きて、人間に感染した可能性も考えている。

オミクロンの感染性について

オミクロンには、ひとの細胞へ感染しやすくなる(ウイルスの受容体であるACE2に結合しやすくなる)ことが知られているスパイクタンパクの変異の箇所がいくつかある。これが「感染力が上がっている懸念」の根拠になる。

一方で、南アフリカの現実世界のデータで流行が驚くほどの勢いで増えているのは確実な事実である。状況証拠から、

1)オミクロンが人から人へと効率よく感染を広げられる性質を保っていること

2)オミクロンの免疫逃避能が高いために、デルタ株などのコロナにすでに感染した人にも再感染を容易にしてしまうこと

の2つを合わせた効果で感染爆発が起こったことが想像されているが、今後の現実世界のデータで検証される必要性がある。

オミクロンの重症化について

巷によくいわれる「毒性」は、科学的には重症化率として分析される。これが増えるか減るかについては遺伝子配列からは全く予想できないため、現実世界のデータを待つ必要がある。

なお、重症化率が高いか低いかが一番重要な問題であると思われがちだが、それだけではない。今冬の流行について考えると、むしろ、オミクロンの流行を広げる力が、重症化と同じか、さらに大きな問題である。というのは、重症化率が多少なり低かったとしても、それを上回って非常に多くの人に流行が広がってしまえば、重症患者数と死亡者数はより増加してしまうことになるからである。