英国の新型コロナワクチン接種 安全性と今後の見通しは?

(写真:ロイター/アフロ)

2020年12月8日、英国の91歳の女性に、製薬企業ファイザー・バイオンテックが開発した新型コロナウイルスに対するワクチン(以下ファイザーのワクチン)が接種された。臨床試験終了後のワクチンプログラムとしての接種は世界で初めてである。ワクチン開発から1年以内で、このようなワクチンが生まれたことは、悪いニュースが続いた2020年の中で、極めて歓迎すべきニュースである。

このワクチンの臨床試験第3相では、アメリカなどにおける2万人以上の被験者を対象に、コロナ感染を95%防御できることが示され、重大な副反応もみられなかった。この結果を精査した英国の医薬品・医療製品規制庁(MHRA)が、英国内におけるワクチン使用を認可した。

英国はすでに40万人分のワクチンを手元に用意しており、まずは80歳以上の人々、介護機関従事者、高リスクに晒されている医療機関の従事者から接種をはじめ、今月末までに400万人に接種することを目標にしている。

英史上最大のワクチン接種計画

英国では政府から独立した専門家で構成されるワクチン接種共同委員会(JCVI)が英政府の健康相に専門的助言を与える。同委員会はどの人々からファイザーのワクチンを接種すべきかを科学的証拠に基づいて検討、本年12月2日に政府への助言を発行した。英政府はただちにこの助言内容に基づき、英国の国営医療機関(NHS)を通じ、英国史上最大のワクチン接種計画を開始した。

このワクチン接種計画第一段階における重要な基本方針は、ワクチンの目的を接種された人を守ることにあると定義したことである。この初期段階で集団免疫は目指さない。

これには明確な理由がある。ワクチンで集団免疫をつくりだし流行を抑制するためには、大多数の国民に高度に効果的なワクチンを接種する必要がある。多数の国民にワクチン接種をするには相当長い時間がかかるし、また現時点で使用可能なワクチンがどの程度集団免疫を誘導できる効果があるかはまだ不明である。したがって、現在のように熾烈な流行が続いている状況では、コロナ感染による健康悪化や死亡を最小化するために、まず最もリスクが高い人々(コロナ最弱者)からワクチン接種を行うこととした。

ワクチン接種対象者の順位

ワクチン接種共同委員会は科学的証拠を検討し、次の優先順位でワクチン接種対象者を選んだ。選ばれた人は、NHSの家庭医(GP)から招待が届き、ワクチン接種しにいくという手順になる。

2020年12月2日ワクチン接種共同委員会発行の'Advice on priority groups for COVID-19 vaccination'に基づき筆者作成
2020年12月2日ワクチン接種共同委員会発行の'Advice on priority groups for COVID-19 vaccination'に基づき筆者作成

ワクチン接種の招待に応じることは義務ではないが、英国ではコロナワクチンを多くの人が待望している。特に今回の接種対象者は、コロナ感染が生命に危険を及ぼす可能性が高い人々であり、接種率は高くなると推測される。英国は普段からインフルエンザワクチンの接種率も高いことも特記すべきである。

今回のワクチン接種計画はまだ第一段階であり、オクスフォードのワクチンなど他のワクチンが承認された後に、ワクチン接種共同委員会は新しい指針を示すものとみられる。

ワクチン接種の現実課題

ファイザーのワクチンには接種計画を進める上で考慮すべき特徴といくつかの現実的課題がある。

第一の課題は、輸送と保管、接種までの実務遂行(ロジスティックス)にある。このワクチンは-70度で保管する必要があり、特殊な冷凍庫を必要とするうえ、輸送にもドライアイスが必要になる。

ワクチン製造工場はベルギーにあるため、そろそろ英国がEU離脱をすることを考えると、ベルギーから英国への輸送が少々の課題になる。次に、英国内にワクチンを6ヶ月まで保存できる特殊な冷凍庫と保管場所が必要になる。この保管施設から、各地の家庭医施設にドライアイス輸送し、各施設で1ヶ月までドライアイス保存。使うときには溶かして冷蔵庫で保管、3日程度までで使い切るというものである。

ワクチンは2度接種される必要性があることも少々この問題を複雑にする。コロナに対する十分な免疫を獲得するためには、最初の接種から3週間後に2度目の接種をうけることが必要とされる。また、医療人員が限られている中、このように特殊な保管と厳密なスケジュールが必要なワクチンを全国の介護施設で大規模に接種していくのは簡単な作業ではない。

ワクチンの安全性は?

ファイザーのワクチンはこれまでに公開された臨床試験結果で2万人程度の被験者に投与された。ここで重要なのは、長期に残るような副作用はみられなかったことである。さらに、ワクチンがコロナに有効な抗体とT細胞反応も引き出すことが示された。これらから現段階で十分な安全性と効果のチェックが行われたといえ、実際この結果をうけて、英国の規制当局(MHRA)がワクチンを承認した。

なお、多くの被験者が一時的な接種部位の痛み・頭痛・倦怠感などを経験し、一部の被験者は38度以上の発熱をきたしたが、いずれも自然に軽快するものであり、医学的には重大な問題ではない。

ただし、アナフィラキシー型アレルギーを持つ人は、このワクチンを避ける必要性がある。英国でワクチン接種計画が施行された後に、医療機関従事者の二人がアナフィラキシー反応(即時型のアレルギー反応)を起こした。この二人はいずれもアナフィラキシーの既往があり、緊急使用の注射薬エピネフリン(エピペン)を携帯していた。二人とも問題なく反応を抑えたが、規制当局はただちに使用条件を変更、アナフィラキシー反応の既往歴がある人は、原因が何であれ(コロナワクチンを含むどのワクチンであれ、また薬や食べ物のいずれであったとしても)、ファイザーのワクチン接種を行わないよう勧告を出した。

アナフィラキシー反応は、ごく稀であるが、どのような医薬品・ワクチンでも起こる可能性がある。一般では、蕎麦アレルギーや果物アレルギーによるアナフィラキシー反応が有名であろう。これゆえ一定数のひとたちはワクチン接種対象から外れることにはなるが、この規制当局の対応で十分安全性は守られると考えられる。

ワクチンは桁違いに多くの人に接種することになるゆえ、副反応のチェックは今後も重要である。このワクチン認可の条件として、英の規制当局はファイザーに副反応モニタリングと報告を義務付けている。

なお、英国では、万が一コロナワクチンの副反応により重度の障害が残ってしまった場合には既存のワクチン補償と同じ補償が受けられることが決まっており、具体的には約1700万円の一時金が支払われることになる。

なお、現在のところ、妊娠中・授乳中の人は接種をうけないよう指導されている。

最後に

ファイザーのものをふくめ、いずれのコロナワクチンの効果もまだ検証途上にある。今後検討すべき重要課題には、無症状感染を止められるかどうか、重症化を回避できるかどうか、何百万人という人に接種したときに思いがけない副反応がおきることはないか、ワクチンの効果はどれくらい持続するのか、ワクチンを1度だけで脱落してしまい2度打ちできなかった人に問題はおきないか、といった問題がある。

しかしながら、現時点では、コロナに対するワクチン開発は、予想よりもはるかに迅速に効果的なものが開発されており、2021年度以降の世界について十分希望がもてる。

この迅速さの理由の第一にあげられるのは、過去20年間の生命科学の技術進歩である。

伝統的なワクチン開発には10年ほどの長い時間がかかったが、今回のファイザーのmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンを含め、先行する新型コロナウイルスワクチンはいずれも癌ワクチンや他のウイルス疾患に対するワクチンとして過去20年間にあいだに開発、確立した最先端技術を使うことで迅速な開発が可能となった。

また複数のワクチンが世界各地で開発されたことも重要であった。近々英政府に承認される見通しである、オクスフォード大学開発のコロナワクチンは、ファイザーのものとは全く違う原理のものである。これは遺伝子改変技術によりコロナウイルスと無縁であり弱毒のアデノウイルスを使用して、コロナウイルスのタンパクを人体の細胞につくらせ、免疫を誘導する。また、製薬企業モデルナのmRNAワクチンもまた近々英国で承認される見通しである。

以上は成功例だけ並べたが、一方で、最初順調に開発が進んでいたにもかかわらず、手違いで遅滞しているワクチンや、予期しない事象で開発が止まったものもある。多くのワクチンが世界各地で開発されたからこそ順調に進んだものもできた、ともいえる。

オクスフォードのワクチンは普通の冷蔵保存で保管できる。そのため、世界の隅々まで多くの人々にワクチンを行き渡らせるには有用なものになりそうである。こうしたワクチンがコロナの無症状感染も止められるのならば、コロナに対する集団免疫をワクチンで樹立することも可能になるかもしれない。おそらく、2021年の夏ころまでには、世界の先の見通しが見えてくるだろう。

備考

筆者は本稿にでてくるどの企業・研究グループとも金銭上・研究上の直接の関係(利益相反)はない。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】