トランプ現象は反グローバリズムであるのか

トランプ大統領誕生とイギリス国民投票によるEU脱退決定(Brexit)はグローバリズムへの反発であるという言説が優位になりつつある。これは大筋では同意できる部分が多々あるのだが、「反グローバリズム」や「グローバリズムの終焉」という言葉が飛び交うようになると、これらの言葉の中に明るい未来への革命的な変化への期待が見え隠れするところがどうも気になる。これは現在のトランプ・Brexitにある負の局面を巧みに覆い隠してしまうことにならないか懸念している。

英米のBrexitとトランプが、これまで両国が行っていた移民労働力への依存・自国民使い捨ての政策が長く続いていたために社会に歪みが蓄積し、それをリーマンショック後も放置してきたことに大きな原因があるという意味では、確かに移民依存社会における揺り戻しの一つの動きではある。

多少話がそれるが、筆者がこれまで英国で観察している限りでは、英国社会の自国民使い捨て傾向は確かにひどいと思う。ごく一部にだけ開かれたエリート養成は充実しているけれども、たいていの組織では人をまともに育てる気がないのではないか。実際、ひとを採用するときには経験が重視され即戦力が求められて、適材がいなければ外からでも外国からでも呼んでこればいいと考えることは普通である。一方で、学歴社会は峻烈で、敗者復活戦の可能性は日本よりも少ないと思う。何かが行き過ぎている。

社会に問題はある。しかし、特にトランプ主義については、揺り戻し方としてはこれ以上悪いやり方はないのではないかとまず直観的に思う。大統領選中のトランプの言動からは、人間の差別感情という劣情に訴えるという安易な方法で負のエネルギーをもとに社会を動かしてきた。こうした言動を認めてしまうことは、人種差別主義・女性蔑視を主流派の考えとして堂々と認定してしまうことである。大統領就任後の動きはまだ不明であるとはいっても、トランプがスティーブ・バンノン(Steve Bannon)を要職に起用したことは白人至上主義の極右政党リーダーらから歓迎されており、KKKリーダーは「素晴らしい」と言い、米ナチ党リーダーには「トランプは本物かもしれない」と言わしめている。バンノンは反ユダヤ主義者・差別主義者として知られており、Alt-right(極右)の媒体として有名なBreitbart Newsの役員である。

米国では2015年においてすでにイスラムに対する差別に基づく犯罪(ヘイトクライム)が大きく増加していた調査結果がでている。この意味では、トランプ現象は、こうした社会にみなぎりつつあった差別・憎悪といった感情にトランプがうまく乗ることができたという結果なのかもしれない。しかしトランプの大統領就任は、この現状にお墨付きを与えることになり、差別にもとづくヘイトクライムが助長することが懸念される。実際に、大統領選終了後からヘイトクライムが噴出しているとする報告が多々ある。今後の統計調査を待つ必要があるというものの、事態は注意深く見る必要がある。

これは米国だけの問題ではない。特に米国と英国は言葉の垣根がないため、トランプのスピーチ内容が直接に英国社会にも伝わってしまうため、負の影響が懸念される。また関連は言語だけではない。トランプ・バンノン両者は、バンノンのBreitbart Newsも通じて、Brexitに大きく貢献した英国独立党のナイジェル・ファラージらと親交を深めているようである。

20世紀以来の先進国における歴史の重要な側面のひとつが、人種差別・男女差別といった差別を社会の辺縁に追いやるための革命であったとするならば、トランプ主義は差別主義側からの反撃であり、大統領選の勝利は反革命の成就と読めるだろう。肝心の自国民使い捨て主義の問題は、身近な移民に対する差別と成功したマイノリティーへの嫉妬に基づく敵意にすり替えられることになる恐れが強い。どう考えても建設的な揺り戻しには見えない。