欧州における反EUと右傾化は何を意味するのか

欧州各国で既存の主要政党への支持が軒並み崩れてきているという(英紙ザ・ガーディアン記事)。これはいったい何を意味しているのか。

EU不信

極右が伸びている国が多いのは確かだが、右傾化といったキーワードだけでこの変化を捉えるのは難しい。起こっている事柄は間違いなく現在の政治エリートへの不信であるが、これは必ずしもいまに今に始まったことではない。理解の鍵になるのは、これと同時進行しているのが欧州連合=EU=に対する不信(Eurosceptic)さらには反EU(anti-EU)であろう。EUという制度で恩恵を被っている人は一体誰なのか、そしてそこから疎外された人々は誰なのか。

EUが好景気を享受していたときには、社会の隅々までEUの恩恵はゆきわたっていたのだろう、こうした不信は表には見えなかった。しかし、いま欧州各国で反EUを掲げる政党が支持を伸ばし、英国もまたEU離脱をめぐる国民投票に突き進んでいる。

EUの恩恵

ロンドンという大都市・大学というアカデミアの世界にいると反EUの気分はわかりにくいのだが、どうやらこれらは、EUの制度のおかげで国境を移動して仕事をしている人々・そうしたEUからの移民を雇用して経済活動を行っている人々が集まっている世界であるからのようだ。(私自身も含めてのことであるが)このような環境にいる人々は、英国がEUから出ることを選択してしまうと、実際的に経済活動に支障が出て雇用問題でも困難に直面する。

またこれらの世界ではEU各国同士の国際結婚も進み、すでに家族レベルでEU各国間の絆は深まっている。これはひとつには1987年にはじまったエラスムス計画(Erasmus)により、大学生が在学中に容易にEU圏内で留学できるようになり、これが結婚に結びついた例が相当に多いことのおかげであるようである。少なくともEUの存在はこうした人々に個人レベルで恩恵となっている。

亀裂

ところがそうした世界の外に出てみると様相は違う。統計的にも英国の地方都市・田舎にいけば、反EUの気分は広がっている。彼らはEUにより直接の恩恵を被っていない層・社会集団であると考えるのが妥当であろう。ここでは反EUキャンペーンのもと、EUは雇用を奪う移民を自由通過させてしまう欠陥制度と認識されるようになっている。これらの地域は反EU・右翼ポピュリストの英国独立党(UKIP)支持とも重なり、またこれらはロンドン以外はもともと労働党の支持基盤とも重なる。

この傾向は、フランスにおいて反EUを掲げる国民戦線(Front National)かつての社会党支持基盤から支持を奪って党勢を拡大したことに重なって見える(注ー堀茂樹氏によると、「国民戦線」の党勢拡大が顕著なのは、かつての社会党ではなく共産党の支持基盤においてである」とのこと)。

EUの恩恵から疎外された人々がそこにいるとすると、その人たちの不満・不信はどこに向かっているのだろうか。

堕落

結論からいうと、EUの恩恵から疎外された多くの人々の根底には、中産階級(特に上部中産階級=upper middle class)への不信があるのではないか。中産階級の彼らは大企業や銀行の要職についていたり、弁護士・医師といった専門職をもち、あるいは終身雇用の安定した生活を享受して、国境を越えて活動しEUの恩恵を最も享受している。

経済的活動だけではない。右翼・左翼をとわず政治の運営をになっている政治家の多くがこうした一部の社会階層出身である。そしてリーマンショック後の経済悪化によっても、舵取りを失敗した当の本人たちが政治経済の場から交代することなく同じように安定した立場を独占している。

一方でこうした経済的余裕のある人々が、その社会的立場にみあう社会への責務(ノブレス・オブリージュ)があることをすっかり忘れ、自分たちの財産を増やすための投資や子供達への教育といった自分の個人的な経済問題で頭がいっぱいなようだ。この堕落が人々の不信につながっているのではないか。そして主流派の政治家とEU関係者がこういう人ばかりになり、広い庶民の意見を代弁する政党がなくなっているということが、既存の主要政党への支持が崩れていることの背景にあろう。だから、これは政党の問題というより、社会的な問題である。

表現型

こうした社会の変化の結果としての表現型は国によって様々である。ハンガリーは極右が圧倒的に勢力を伸ばした典型的な国であり、ロンドン在住のピアニスト、アンドラシュ・シフは匿名の極右の人々にネットで脅迫されているため自国ハンガリーに帰国することを避けているという。

オーストリアでは最近の大統領選では極右候補ノルベルト・ホーファが勝利に近づいたもののごく0.6%の僅差で敗退した。

翻って見て日本において同様の問題は存在するだろうか。

欧州でEUに恩恵を被っているような中産階級は、日本でいえば安定した正規雇用にあり、しばしば海外出張を行うような人々がほぼ相当するであろうか。こうした人々の生きざまと、いまの日本社会を広く覆う病巣とのあいだになんらかの関係はないだろうか。自分自身のことは意外に理解しにくいものであるが、同時代の欧州の困難から学べることがあるかもしれない。