加速するゲーム業界の産学連携

ゲーム会社と大学の産学連携の取り組みが進んでいる。狙いや内容はさまざまだが、近年では共同研究の枠を越えて、カリキュラムの共同開発や寄付講座の開設など、より大がかりな内容のものも増えてきた。また、大学側でゲーム開発者教育を目的とした学科やコースを開設し、ゲーム会社から実務家教員を招聘する例も見られる。ゲーム業界における産学連携の取り組みが、新たなフェーズに入りつつあると言えるだろう。

青山学院大学総合プロジェクト研究所「知財と社会問題研究所(Solving Social Problems through Intellectual Properties 以下SSP-IP)」とバンダイナムコエンターテインメント(以下BNE)が2021年1月より進める「ゲームを活用した社会課題解決の可能性の研究」もその一つだ。2021年6月26日に両者はスタートアップシンポジウムを実施し、7月14日に記録映像を公式サイト上で公開した。

シンポジウムではSSP-IPの設立説明と研究者の紹介を経て、研究員の石川ルジラット氏(総合文化政策学部助教)が「ゲーム実況におけるコミュニケーション」と題して基調講演を行った。その後、BNEで格闘ゲーム『鉄拳』シリーズのプロデューサーとして知られる原田勝弘氏も交えて、「ゲームが創造する新たな公共圏」というテーマでパネルディスカッションを行った。

ゲームは善か悪か~WHOの対応に象徴される現状

SSP-IPのミッションは「企業の知的財産(IP:Intellectual Properties)を活用した社会貢献モデルを構築する」こと。ひらたくいうとIPを活用した社会問題の解決をテーマに、産学連携でさまざまな研究を進めていくことだ。所長の竹内孝宏氏(総合文化政策学部教授)をはじめ、副所長の川又啓子氏(総合文化政策学部教授)、石川ルジラット氏、客員研究員の田嶋規雄氏(拓殖大学商学部教授)の4名で、それぞれ専門分野が異なっている。

その中でもSSP-IPが、まずゲームをテーマに取り上げたのは、川又氏をはじめとした研究ユニット「五輪eスポ」が、2018年度から2020年度にかけて進めたeスポーツ研究が背景にある(本研究は書籍『eスポーツ産業論』としてまとめられ、2020年に上梓された)。本共同研究についても、将来的に研究内容の論集執筆などを通して、研究成果を社会に還元することが予定されている。

一方でBNE側もeスポーツや動画配信サイトなどの浸透に伴い、これまで想像できなかった、新たな問題が生まれてきた。コンテンツ開発におけるアクセシビリティ、ポリティカルコレクトネス、ダイバーシティ&インクルージョンへの配慮などだ。SNSなどを通して世界が高度にネットワーク化される中、これらは思わぬきっかけで炎上要因になり得る。

これに対してシリアスゲームやゲーミフィケーションを筆頭に、ゲームが社会課題解決の一助になる可能性も、長く指摘されてきた。こうした中、BNEでは自社グループのみでは対応に限界があると判断。SSP-IPが持つ学術的な視点を取り入れながら、共同研究を開始するに至ったという。共同研究には原田氏も加わり、さまざまな議論が進められる予定だ(※)。

本共同研究に関するプレスリリースで竹内氏は「ゲームという知財(を用いて社会課題の解決を進めること)は、さしずめひとつのパラドクスともいえます。ゲームそれ自体が、社会問題の原因として注目されることも少なくないからです。しかし、それだけになおさら、この共同研究には大きな意義があると考えています」というコメントを寄せている。

原田氏も世界保健機関(WHO)がゲーム症(障害)を疾病と保健問題の国際的な分類に記載した一方で、コロナ禍をうけて「#PlayApartTogether」キャンペーンを実施した事例を示しつつ、ゲームの社会的評価には興味深いものがあると指摘。「本共同研究を通してゲームの社会的地位や、ゲームコンテンツが果たす役割を考察し、さまざまな社会的課題に対してゲームがどのように貢献できるか、可能性を探っていきたい」と挨拶した。

ゲームの広がりがもたらす新たな公共圏

続く基調講演では、石川氏がSF人狼ゲーム『AMONG US』におけるゲーム実況文化について論じた。これまで同人誌即売会やニコニコ動画の歌い手などを対象に、日本のポップカルチャーにおける創作文化の広がりについて研究を重ねてきた石川氏は、商業メディアと草の根メディアの関係性について、三角柱を用いた独自のモデルで分析。ゲーム実況が企業のマーケティング戦略などに影響を与えている様に触れつつ、両者の関係が変容しつつあると論じた。

また、パネルディスカッションでは青山学院大学出身でタレントの椿彩奈氏の司会のもと、「ゲームが創造する新たな公共圏」というテーマについて、原田氏、石川氏、田嶋氏が議論を交わした。自身もゲーム実況を行うという椿氏は、eスポーツの成長に伴いゲーム文化のすそ野が広がったと指摘。『AMONG US』で実況者同士のコラボレーションが進むなど、ゲーム実況の複層化が進んでいる現状についても語った。

これに対して原田氏は、ゲームは長くゲームファンを対象にコンテンツを提供してきたため、公共という概念に乏しかったと振り返った。これがインターネットの普及に伴い、市場が一気に広がったことで、より多くの人々の存在を意識せざるを得なくなったという。これにより産業が成長したメリットもあるが、コンテンツ開発に留意すべき点も増加したとのこと。eスポーツは好例で、ゲーム開発時にプレイヤーだけでなく、観客のニーズにも答える必要が出てきた、などだ。

実際にシリーズ最新作『鉄拳7』では、勝敗がつく瞬間にゲームをスローモーションにするなどの工夫を行い、好評を得たという。こうしたアイディアをゲームに実装することで、観客から直接的な対価が得られるわけではないが、IPの成長なども含めて、中長期的なリターンが得られるため、無視できないとコメント。「昔はパッケージを売って終わりだったが、今ではビジネスモデルが一つではなくなった」と振り返った。

『AMONG US』(Steam販売サイトより画像転載) (c)2015-2020, Innersloth LLC
『AMONG US』(Steam販売サイトより画像転載) (c)2015-2020, Innersloth LLC

ゲームが実現する社会課題の解決モデルとは何か

これらの議論を引き取り、竹内氏は学生と『AMONG US』を遊んだ時の経験を振り返った。ゲーム中に竹内氏は他のプレイヤーとのコミュニケーションを拒否して逃げ回っていたが、その行動が不審がられて、殺害されてしまったという。ここから「ゲームではコミュニケーションを拒否するような行動をとるプレイヤーも排除せず、ゲームの中に取り込んでいくオープンさがあると感じた」とコメントした。

その上で齋藤純一氏(早稲田大学政治経済学術院教授)が書籍『公共性』で整理した、公共性を巡る3つの概念「Open, Common, Official」を引用しつつ、ゲームを用いた社会的課題の解決に関する考え方の道筋を示した。竹内氏によると、社会に広く開かれたOpenな状態、ゲームに参加する人々を対象としたCommon、そして社会的に有効なものにするためのOfficialという段階を、ゲーム文化が順々に進んでいくことで、社会問題の解決の糸口が見えてくるのではないかという。

他に石川氏から「引きこもりに代表される社会的弱者がゲーム実況者として就労し、活躍する未来の実現」や、川又氏から「ゲームを用いた地域振興」、そして田嶋氏から「持続的なゲーム研究に求められる産学連携のマーケティング問題」など、さまざまな研究アイディアが語られた。また、椿氏と原田氏からは、学識経験者による一般層へのゲーム文化の発信効果に対する期待感が寄せられた。

ゲームに限らず、あるコンテンツが広く支持を集め、市民権を得ていく過程で、コンテンツと社会の双方が互いに変容していく様が見られる。その過程で軋轢が発生することも少なくない。マンガ規制・アニメ規制・ネット規制などは好例だ。時には急速な社会的受容が愛好家内の分裂を招くこともある。東京2020オリンピック開会式で用いられたゲーム音楽は好例で、五輪自体の社会的コンテキストとからめて、ゲームファンから賛否両論が見られた。

本件に限らず今後もゲームの社会的受容は、さまざまなハレーションや揺れ戻しを見せつつ、徐々に進んでいくことが予測される。本共同研究によってどのような社会的課題が発見され、解決法が示されるか、今後の取り組みについて期待したい。

※2021年9月に予定されている青山学院大学公開講座「ゲームフル・ソサエティ:社会はゲームとどう向き合うのか」では、ゲスト講師として原田氏も登壇する予定だ。