武器輸出三原則見直しとTPP―ねらいはアジアの武器市場化―

2011年11月ホノルル。街頭に登場した太平洋先住民を象徴する旗

武器輸出三原則見直しとTPP―ねらいはアジアの武器市場化―

安倍政権が武器輸出三原則の見直しに前のめりだ。3月末には航空自衛隊の次期主力戦闘機F35の日本企業による部品輸出を三原則の例外とすることを決めたばかり。憲法九条にのっとり、世界の戦争に手を染めない理念を具体化した武器輸出三原則は日本の誇りでもあった。その三原則見直しの背景にはTPPがある。対中国包囲を目指し、アジア太平洋地域を経済と軍事で囲い込むTPPは、アジアでの軍拡競争を呼び起こし、アジアを武器市場とする。そのおこぼれに預かろうという狙いが、武器輸出三原則見直しには込められている。(大野和興)

◆「TPPは日米同盟も展開形だ」

TPP(アジア太平洋戦略的経済連携協定)はいうまでもなく経済協定である。域内でモノとカネとヒトの動きを徹底的に自由化して、誰にも邪魔されずに動きまわれるようにしようという目標を掲げて、現在11カ国で交渉が続けられている。日本政府や経済界はTPPに参加することで、これからの世界の経済を牽引するアジア太平洋地域の活力を日本経済に取り込め、その結果輸出が増え、経済が活性化、雇用も増えて人々が幸せになると宣伝している。

そのTPPが日米同盟と重ね合わせる議論がメディアを飾るようになったのは、菅元首相が国会でTPP参加に言及した2010年10月にさかのぼる。朝日新聞の船橋洋一主筆(当時)が2011年10月8日にワシントンで米外交問題評議会と同社の共催で開いたシンポジウムで、「(日米同盟の課題の一つは)TPPに日本も参画し、日米が提携して『自由で開かれた国際秩序』を作ることだ」と発言した。続いて読売新聞は葛西敬之JR東海会長の「日米同盟はまさにわが国安全保障の基軸であり、TPPはその展開形である。速やかに参加し、米国とともに枠組みづくりに名乗りを上げるべきだ」とする二ページにわたる長い論考を掲載、キャンペーンを張った(2011年11月8日付「地球を読む」)。

''◆経済と軍事を一体化したアメリカのアジアシフトー''''

その一年後の2011年11月、ホノルルでAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議が開かれた。野田前首相は、この場を利用してオバマ米大統領にTPP交渉参加を表明すると張り切って出かけた。

ホノルル会議が終わったとたんにアジアがきな臭くなった。APECのホスト役を終えたオバマ米大統領はそのあとすぐにオーストラリアに飛び、ギラード豪首相と会談、オーストラリア軍の基地があるダーウィンに米海兵隊を常駐させることで一致したと発表した。オバマ大統領は、その演説で「アフガニスタン、イラクは終わった」という認識を示したうえで、アジア太平洋での米国の存在を「最優先事項」と位置付け、「 アメリカはアジアに全面的にコミットする」と強調した。APECホノルル会議を舞台に進められているTPP(環太平洋経済連携協定)と重ね合わせてこの動きをみるとき、経済と軍事を一体化したアメリカのアジアシフトが新たな段階を迎えたことが明確に読みとれた。

現在この地域に展開する米軍は、ハワイ4万2380人、日本4万0178人、韓国2万8500人、グアム4137人、フィリピン182人、海上部隊11万2858人。これに新たにオーストラリアが加わったわけだ。将来2500人が常駐することになる。

TPP推進と日米同盟深化に熱心な読売新聞は11月19日付け社説で「地域安定に重み増す日米同盟」で早速歓迎の意を表し、「沖縄や韓国などの駐留米軍は、すでに中国の弾道ミサイルの射程内にある。射程外にも米軍の行動拠点を確保することは、抑止力を強化せない」と述べた(11月19日)。いまもなお「抑止」論で世界を見る思考停止のジャーナリズムに 改めて驚くが、このとき日本国家はTPP参加を掲げて、経済・軍事を米国と 一体化させる道に自らを追い込んだのである。

オーストラリアとの協議を終えたオバマ大統領はその足でインドネシア・バリ島に飛び、19日に開催された東アジアサミット(EAS)に初めて顔を出し、中国と領有権争いがある南シナ海の海洋安全保障に積極的に関与する姿勢を示した。東京新聞の2011年11月21日付け社説はこの動きを「新安保」と表現した。

◆アジアの武器輸出市場化

ホノルルでは首脳会議と並行してAPEC対抗民衆会議が開かれた。民衆会議はは「MOANA NUI」(モアナ ヌイ)と銘打たれていた。先住ハワイアンの言葉で「偉大な海」とでもいう意味 だという。 民衆会議の主役は明らかに太平洋の先住の民であった。軍事との 関連でいえば、いま米軍基地の建設が進められている韓国・済州島、沖縄、ハワイ、グアムなどから、米軍基地とたたかっている住民、活動家が報告にたった。中国シフトの第一線である済州島と沖縄、グアム、米軍の太平洋司令部があるハワイ、そして今回米海兵 隊が常駐することになったオーストラリアと二重,三重に中国を包囲するこ軍事網は地域的にTPPとほぼ重なる。アメリの一つの州ではなく、太平洋の島ハワイの州都ホノルルの街頭を「Occupy APEC」のシュプレイコールにあ わせて歩いていると、日本国内では見えないTPPの鳥瞰図が現実のこととして認識できた。

アフガニスタン、イラクにおける「テロとの戦争」という虚構を抜け出したい米国は、アジア太平洋に焦点を当てて動き出した。その次にくるのはアジアを舞台とする軍拡競争のはずだ。朝鮮半島の緊張、東シナ海や南シナ海における中国と周辺国との領土問題もある。アメリカのアジアシフトに対応して中国はいっそうの軍備拡充に走るだろう。

安倍政権は2013年度予算で11年ぶりに防衛費の増額を打ち出した。自衛隊はすでに次期戦闘機として1機100億円のステルス戦闘機を米国から購入する方針で動きだしている。南西諸島防衛では、中国機に対応して早期警戒機E2Cなどの燃料・修理費に135億円を確保した。。那覇基地でのE2C整備体制拡充にも3億円を計上した。宮古島と高畑山(宮崎県)の地上レーダーを最新型のFPS7に89億円で更新し、捕捉出来る範囲や精度を向上させる。装備品では、離島上陸作戦に必要な水陸両用車4両を25億円で陸自に導入。海自の哨戒機P3Cの後継となる国産の新型哨戒機P1を2機、409億円で取得する。F15戦闘機6機の近代化改修などにも122億円を計上した。

南シナ海で中国と領海紛争があるベトナム、フィリピンも軍備拡張に動くだろう。すでにフィリピンとアメリカとの間では新たな軍事協力が動き出している。アジアが巨大は武器市場となるのである。

いまアメリカが商品として売れるものは二つしかない。武器と食料だ。その一つ、武器の巨大市場がアジアに出現する。これこそがオバマのTPP推進の大きな理由なのだ。