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子どもの「園選び」を考えるための、幼児教育・保育の専門家の視点

大豆生田啓友玉川大学教育学部乳幼児発達学科教授
(写真:アフロ)

「園選び」何を大切にしたらよいの?

現在、共働き家庭が増えるなど、低年齢から長時間の保育を希望する方が増えました。また、待機児童も少なくなり、以前よりも園を選べる時代になり始めたようです。しかし、どのように園を選ぶとよいかはなかなか簡単ではありません。私もよくそうした質問を受けます。

そもそも、保育所・幼稚園・認定こども園、どこを選んだらよいのか。文字の読み書きや英語を早期からやっている園がよいか。あるいは、うちの子は運動が苦手だから運動教育に力を入れている園がよいのか等々、様々な視点が考えられます。巷の情報も多様で、早期からの能力開発をうったえる記事に、焦りを感じている方もいるかもしれません。

そのため、ここでは幼児教育・保育の研究者や実践者などの専門家たちによって作成されている国が示す幼稚園・保育所・認定こども園の告示文書を手掛かりにしながら、幼児教育・保育で大切な点について解説したいと思います。

幼稚園・保育所・認定こども園の違いは?

まずは、園の種別について触れておきたいと思います。乳幼児の教育・保育を行う施設には、幼稚園、保育所、認定こども園があり、それぞれに公立・私立があるほか、認可外施設(自治体の認証施設も含む)もあるなど多様です。3つの異なった種別は、所管の違い(幼稚園は文科省、保育所は厚労省、認定こども園は内閣府)や年齢や保育時間等々の違いなどがあります。

しかし、幼稚園と保育所はまったく異なった場であるようなイメージがあるかもしれませんが、現在は幼稚園・保育所・認定こども園の3歳以上の教育内容はほぼ同じとなっているのです。それは、どの種別の園であっても、すべての子どもに質の高い教育内容を保証するためでもあります。具体的には、国が出している3つの告示文書(幼稚園教育要領、保育所保育指針、幼保連携型認定こども園教育・保育要領)に示されています。

知っておきたい保育における5つのポイント

この3つの告示文書の表現や構成はそれぞれ異なっているためにポイントを整理するのは簡単ではないのですが、ここでは5つの重要なポイントをあげて説明したいと思います。

それぞれの園の個性や特徴はあっても、どの園でもそれぞれの要領や指針に基づいて教育・保育(以下、「保育」と表記)することが前提であるため、幼稚園教諭や保育士(共通して「保育者」と表記)が保育を行う上でのポイントでもあり、園選びの際にも知っていただきたいポイントになるのです。

【1】安心感・信頼感を基盤とした保育

まず、園は一人一人の子どもが園生活を安心して送れることを重視しています。保育者は一人一人の気持ちを肯定的に、温かく受け止めるのが基本です。しっかりとその子が受容されることによって保育者との信頼関係が作られ、情緒が安定し、園という場が心の安全基地になるのです。情緒の安定があることで、園が楽しく、自分らしさを発揮し、自立につながるのです。

個々の子どもへの丁寧で温かくきめ細かいかかわりが、安全にもつながります。0歳児などではゆるやかな担当制による保育が行われたりしています。保育者が受容的であり、子どもが自分らしさを発揮できているかが大切なポイントとなるでしょう。

【2】自発的な「遊び」を通した総合的な学び

子どもが自発的に行う「遊び」が重視されます。それは、遊びを通して主体的に環境にかかわる中で、人とのかかわり方、好奇心、探求心、思考力や知識の基礎が培われるからです。そのため、「遊びこむ」ことがとても大切にされます。

遊びこむことが、小学校以降の「学びに向かう力」につながるという研究もあります。子どもの遊ぶ時間が保障され、自由な雰囲気があり、多様な環境が保障され、熱中して遊びこんでいるかがポイントとなるでしょう。

【3】一人一人の特性や発達に応じた保育

乳幼児期は個人差も大きく、一人一人の多様性に応じることも大切にされます。それぞれの子どもの発達に応じた保育が大切にされるのです。そのため、集団活動であっても、個々の子どものペースや個性、やり方が尊重されます。

その子らしさを大切にすることが自尊心の育ちや、多様性を活かした「育ち合い」にもつながるのです。個々によってみんなタイプも違い、苦手なこともありますが、友達の魅力的な姿にあこがれてやってみたいなどの自らやってみようという気持ちを尊重して保育がなされます。保育者は一人一人の「よさ」を活かそうとするのです。

【4】計画的な環境構成

園での遊びは小学校の休み時間とは異なり、教育時間となります。そのため、遊びを通して主体的な学びが起こるように環境の構成の工夫を行うのです。幼児クラスの保育室にはごっこ遊びができる環境、製作ができる環境、自然に触れることができる環境、積木などの構成遊びができる環境、絵本や図鑑などの環境などが準備されていることが多くあります。

また、虫取りがブームの時期には、虫を飼うケースや餌、科学絵本や図鑑などが出され、虫のことを絵や文字で描きたい子が描ける道具や材料が出されるなど、その時期の興味関心に応じて学びが深まるような環境が随時提供されるのです。

つまり、保育者は、現在の子どもの興味関心に応じて、明日の環境構成を計画的に行うのです。その時期や発達に応じた、子どもが取り出せる環境の豊かさがポイントになると思います。

【5】幼児期の終わりまでに育ってほしい「10の姿」

保育は小学校以上のような教科はありませんが、自発的な遊びや生活を通して、幼児期の終わりまでに育てたい「10の姿*」を育てることになっています。どこの園でも、定期的に子どもの遊びを通して「10の姿」を通した育ちを振り返り、子どもの豊かな経験を保証するために計画を再構成しているのです。

そして、小学校はこの「10の姿」を受けて、1年生の教育をスタートさせます。親からすれば、幼児期にもっと先取りをしてお勉強などをさせてほしいと思うこともあるかもしれませんが、そうではないのです。現在の小学校では学習指導要領が改訂され、1年生のスタートをゆるやかに行っています。逆に、1年生の授業で行う文字の読み書き。計算などを先取りしてお勉強してきてしまい、すべてわかってしまっていると、むしろ意欲が生まれないことも懸念されるのです。

21世紀の学校教育の中心テーマは「主体的・対話的で深い学び」であり、現在では、幼児期からの主体性を重視した保育から始まっているのです。

*幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿・・・ 「健康な心と体」「自立心」「協同性」「道徳性・規範意識の芽生え」「社会生活との関わり」「思考力の芽生え」「自然との関わり・生命尊重」「数量や図形、標識や文字などへの関心・感覚」「言葉による伝え合い」「豊かな感性と表現」

ポイントを押さえ、子どもの視点から考える

今回は、園選びを考えるために、幼児教育・保育の専門家で作成されている教育要領・保育指針など3つの国の告示文書で示されている内容のポイントを紹介しました。これらは、専門家により最新の研究の成果なども含めて示されている視点ですので、上記のポイントを押さえた保育がなされているかをまずは確認したいところです。

上記の視点は、乳幼児期の発達特性を踏まえ、子どもの視点を中心に据えており、早くから英語や読み書きなどの能力開発的な特別なプログラムがあった方がよいといった情報とは異なっています。もちろん、そうした特別なプログラムを子どもにさせるかどうかは親の選択次第です。

さらに、園選びを考えるにあたっては、これ以外にも、親との連携や支援、保育者のチームワーク、安全に関する視点、多様な子への対応等々、様々な視点があると思います。また、0・1歳児などにはこれ以外にもっと具体的な安全な生活とその環境などのポイントもありますが、ここでは説明できていません。それらについては、ぜひ、実際の保育所保育指針等をお読みいただければ幸いです。

参考文献

文部科学省 2018 幼稚園教育要領解説 フレーベル館

厚生労働省 2018 保育所保育指針解説 フレーベル館

内閣府・文部科学省・厚生労働省 2018 幼保連携型認定こども園教育・保育要領解説 フレーベル館

玉川大学教育学部乳幼児発達学科教授

専門は、保育学・乳幼児教育学。主に乳幼児期の教育・保育および子育て支援に関する質的な研究。 社会的活動としては、日本保育学会理事、乳幼児教育学会理事、こども環境学会理事、等がある。主著には、『「語り合い」で保育が変わる-子ども主体の保育をデザインする研修事例集』、『非認知能力を育てる あそびのレシピ 0~5歳児のあと伸びする力を高める』、『日本が誇る!ていねいな保育 0・1・2歳児のクラスの現場から』『21世紀型保育の探求-倉橋惣三を旅する』等がある。

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