12月3日の毎日新聞の報道「政府、2030年代半ばにガソリン車新車販売禁止へ 欧米中の動きに対抗」を受け、世界に遅れるなとばかりにEVシフトを後押しする声が高まっている。もっとも、記事の内容をよく読めば、禁止されるのは純粋なガソリン車のみであり、ガソリンエンジンとモーターを組み合わせたハイブリッドは禁止対象外であるのがわかる。

正直なところ、私はハイブリッドが禁止対象から除外されたことにほっと胸をなでおろした。理由は後述するが、性急なEVシフトは誰も幸せにしない。ユーザーの経済的負担は増し、利便性は低下し、さらには関連就業人口542万人に上る日本の基幹産業を衰退させることにすらつながるからだ。にもかかわらず、日本の大手メディアはどうやらハイブリッド車を禁止対象にしないことを手ぬるいと考えているようだ。

「ハイブリッド車が含まれていることについては『各国で事情がある』と言うだけにとどめた」(小泉環境大臣へのインタビュー)。

出典:朝日新聞デジタル

「ハイブリッドは3割で、より環境性能の高いEVは約0.5%にとどまる。ハイブリッドについては英国など販売禁止の対象とする国もあるが、日本ではトヨタなどハイブリッドを得意とする大手メーカーがあることから、政府はハイブリッドとEVを両輪として新たな環境規制を構築していく」

出典:デジタル毎日

「日本の場合イギリスと異なり、ハイブリッド車の販売も当面は認める方向。この背景についてある政府関係者は『トヨタへの配慮』と明かした」

出典:日テレNEWS24

なぜEVが「善」でハイブリッドが「悪」なのか。私にはその理屈がさっぱり理解できない。おそらくは菅首相が表明した「2050年のカーボンニュートラル」が背景にあるのだろうとは思う。ガソリンを燃やして走る時点で二酸化炭素は出てしまうし、排出量は減らせるがエンジンとモーターを組み合わせたハイブリッドにしてもそれは同じことだ。その点、EVは「走行段階」では二酸化炭素を出さない。だからEVは最高であるというのが彼らの主張のように思える。しかしそれは走行段階の二酸化炭素に限定した話であって、実際には動力源となる電力をどう作るかによって答えは大きく変わってくる。

発電電力量に占める再生可能エネルギー比率の比較(資源エネルギー庁)
発電電力量に占める再生可能エネルギー比率の比較(資源エネルギー庁)

各国の電源構成グラフを示す。中国は発電量あたりの二酸化炭素排出量がもっとも多い石炭発電(石炭を100とすると石油は80、天然ガスは60)が主力。一方、カナダは水力発電が半分以上を占める。フランスは70%以上が原子力発電。日本は約80%を石油、石炭、天然ガスといった化石燃料由来の火力発電が占める。カナダでEVに乗るのは間違いなくエコだし、グラフには出てこないが水力発電が95%以上を占めるノルウェーで使うなら最高にエコ。二酸化炭素排出量という点ではフランスも優等生だが原子力発電比率の高さが気になるところ。逆に石炭メインの中国では必ずしもエコではない、といったことがイメージとして掴めるだろう。

そういった事柄を詳細分析するのがLCA(ライフ・サイクル・アセスメント)という手法だ。車両製造時、走行時、廃棄時をあわせたトータルの二酸化炭素排出量はどうなるのか。これについてはきちんとした手法やルールが確立していないので、EV寄りの結果やガソリン寄りの結果などポジショントークが横行しているのが現状だ。そんななか、フォルクスワーゲンが5月に発表したLCA分析結果が大きな話題となった。世界でもっともEVシフトを強力に推し進めているフォルクスワーゲンだけにEVが有利になるような前提は置いていないと考えられる。にもかかわらずそのレポートが、EVの"現実"を如実に示していたからだ。

VWによるLCA解析  出典:Volkswagen
VWによるLCA解析 出典:Volkswagen

グラフはゴルフのEV版であるeゴルフとディーゼルエンジンを積んだゴルフを20万キロ使ったときの総二酸化炭素排出量の比較。棒グラフの赤部分は製造時の排出量だが、同じボディであるにもかかわらず赤部分が異なるのは、EVはバッテリー製造時に大量の二酸化炭素を排出するためだ。水色と青の合計が走行段階での二酸化炭素排出量を示す。まずディーゼルだが、平均すると1km走行あたりの二酸化炭素排出量は140グラムとなる。それに対し、EVを100%風力発電の電力で走らせると59グラムと約6割減になり、かなりエコだ。同様にEUの平均電源構成を元に計算すると119グラム、火力発電が多いドイツとアメリカでは142グラムとディーゼルがわずかにエコになる。そして前述した石炭発電の多い中国では183グラムと、逆に二酸化炭素排出量が30%も増えてしまうのだ。グラフに日本の試算は含まれないが、火力発電比率が高いため世界最高水準の効率を誇る発電設備をもってしてもドイツ&アメリカよりわずかに多くなる。

 

以上の考察から、少なくとも現時点ではEVが必ずしも圧倒的にエコなわけではないことがおわかりいただけただろう。ちなみに、先日発売されたヤリス・ハイブリッドの走行段階での二酸化炭素排出量は64グラム/Km(NEDCモード)と、EVを超えるエコっぷりである。

もちろん、発電構成が風力、太陽光、水力、地熱といった再生可能エネルギー中心に変わっていけばEVのエコ度は向上していくし、2050年のカーボンニュートラルを実現するためにはそうしていかなければならない。EVは間違いなくカーボンニュートラル社会実現のキーテクノロジーになる。しかし電源構成の見直しは一朝一夕ではできないことであり、EVシフトはそれに歩調を合わせて確実に進めていけばいい。性急なEVシフトは必ずしもエコにつながらないし、高い車両価格や航続距離の問題、長い充電時間といったデメリットを自動車ユーザーに押しつけることになる。

なにより怖いのは、EV以外はダメだという排他的EV推進論が幅を効かせることだ。おそらく経済産業省は私が展開してきた論など百も承知だろう。しかし世論が強まれば政治家が影響を受ける。そして政治家が誤った方向性を打ち出せば官僚はそれを飲まざるを得なくなる。その気になればイギリスのようにハイブリッド車販売禁止という強硬手段さえ取れるのが国家の国家たる所以であり怖さである。「カーボンニュートラルを実現するためにEV社会を目指しましょう! 子どもや孫により良い世の中を残さなければなりません! 皆さん、排ガスを撒き散らすエンジンなどもうやってる場合ではありません!」といった誰もが反対しにくいキャッチフレーズに皆が巻き込まれ、その結果国が誤った選択をしてしまったら取り返しの付かないことになる。事実、永田町にはEV一本槍政策を主張する政治家が増えているという。

ドイツは影響力を増す緑の党の主張に沿うよう、国を挙げてEVシフトを推進しているように見えるが、その実メルセデス・ベンツもBMWもフォルクスワーゲンもまだまだエンジンを諦めてはいない。鍵となるのがe-fuelと呼ばれる水素と二酸化炭素を反応させてつくる液体燃料だ。e-fuelを使えば、従来のエンジンでも二酸化炭素排出量ゼロを実現できる。実際、22年にはポルシェとシーメンスがチリでテストプラントを立ち上げ、26年までには約5億5000万リットルのe-fuelを生産する予定だ。一方、中国も超高効率次世代エンジン開発に本腰を入れて取り組んでいる。そう、世界はEVに舵を切っているように見えて、実はEVの弱点にも気付いていて水面下でエンジン研究を着々と進めている。もし日本が世論に押されエンジン開発をやめ、EV一本槍の路線へと舵を切ったら、それこそ日本の自動車産業の終わりの始まりだろう。電機産業が低迷したいま、唯一世界的に競争力を保つ自動車産業が国際競争力を失ったら日本はどうなるのか。もちろん超高効率を誇る画期的な太陽電池や車載用バッテリーが発明される可能性も否定はできない。しかしそれは可能性に過ぎず、100%ではない以上、排他的EV推進論は日本の基幹産業をギャンブルに巻き込むきわめて危険な考え方だと言わざるを得ない。

そういう意味で、ミスリードを展開している大手マスコミには自動車やエネルギーのことをもう一度勉強し直せと言いたいし、読者の方々には誤った報道を鵜呑みにせず、冷静な判断をしていただきたいと切に願う。

自動車経済評論家の池田直渡氏と私が、排他的EV推進論の危うさについて実例を挙げながらYouTubeでさらに詳しく解説しています。