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義援金を保護する(差押禁止)臨時法成立~急がれる全ての災害義援金を対象にした恒久法~

岡本正銀座パートナーズ法律事務所・弁護士・気象予報士・博士(法学)
令和元年特定災害関連義援金に係る差押禁止等に関する法律案

■令和元年台風第19号などの義援金が差押禁止に

2019年12月6日、令和元年に発生した災害の一部について、義援金の差押え等を禁止する法律が参議院を全会一致で通過し、成立した。具体的には、「令和元年8月豪雨」(九州北部の前線による豪雨被害)と「令和元年台風第15号、令和元年台風第19号、令和元年10月24日から同月26 日までの間の豪雨による災害」の義援金については、差押えをしたり、受給する権利を担保に入れたり、譲渡したりできなくなる。

被災者の手元に義援金が確保され、自己のために利用してもらえることを意図したものである。このような法案が超党派の議員立法によって成立したことは高く評価したい。なお、同種の法律は、これまでに東日本大震災(2011年)、熊本地震(2016年)、平成30年の特定災害(西日本豪雨と平成30年大阪府北部地震が対象)の3例があるにとどまっている。いずれも弁護士等からの提言を契機にするなどして、超党派の議員立法により成立してきた経緯がある。

令和元年版の法案の全文を以下に掲載する。

令和元年特定災害関連義援金に係る差押禁止等に関する法律

1 令和元年特定災害関連義援金の交付を受けることとなった者の当該交付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押さえることができない。

2 令和元年特定災害関連義援金として交付を受けた金銭は、差し押さえることができない。

3 この法律において「令和元年特定災害関連義援金」とは、次に掲げる災害の被災者等(被災者又はその遺族をいう。以下同じ。)の生活を支援し、被災者等を慰藉(いしゃ)する等のため自発的に拠出された金銭を原資として、都道府県又は市町村(特別区を含む。以下同じ。)が一定の配分の基準に従い被災者等に交付する金銭をいう。

 一 令和元年八月二十六日から同月二十九日までの間の豪雨による災害

 二 令和元年台風第十五号、令和元年台風第十九号又は令和元年十月二十四日から同月二十六日までの間の豪雨による災害

附則

(施行期日等)

1 この法律は、公布の日から施行する。

2 この法律は、この法律の施行前に交付を受け、又は交付を受けることとなった令和元年特定災害関連義援金についても適用する。ただし、この法律の施行前に生じた効力を妨げない。

(検討)

3 差押えの禁止等の対象となる義援金(災害の被災者等の生活を支援し、被災者等を慰藉する等のため自発的に拠出された金銭を原資として、都道府県又は市町村が一定の配分の基準に従い被災者等に交付する金銭をいう。以下この項において同じ。)の範囲その他の義援金の差押えの禁止等の在り方については、速やかに検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。

■これまで4度の臨時法、急がれる恒久法案

今回を含めて義援金の差押えを禁止する臨時法の成立は4度目となる。法案成立の際には、都度、対象となる災害を特定して列挙してきたが、そのためか「取りこぼし」も多いのが実情だ。

たとえば、2018年7月20日に成立した「平成三十年特定災害関連義援金に係る差押禁止等に関する法律」では、同年の西日本豪雨(7月6日)やその直前の大阪府北部地震(6月18日)が対象になっている。しかし、その後に発生した「北海道胆振東部地震」(9月6日)の義援金については、差押禁止臨時法の成立に至らなかった。国会が閉会中だったことで機を逸してしまったという見方が大勢である。

また、今回成立した法案でも、9月初旬の岡山県新見市の集中豪雨被害(住宅被害は約300棟に及んでいる)に関する義援金等は対象にならないなど、災害ごとの格差も残る結果となった。

これらの事態は、災害の都度、臨時法で対応するには限界があることを示している。

大阪弁護士会も、2018年11月の時点で「全ての災害を対象とした義援金の差押えを禁止する法律の制定を求める意見書」を発表している。北海道議会大阪市会をはじめとする地方議会でも同趣旨の意見決議を行い、義援金差押え禁止の対象を広くすることを求めている。

なお、災害時の金銭給付支援である「被災者生活再建支援金」や「災害弔慰金・災害障害見舞金」については、それぞれの根拠法で差押え禁止条項が整備済みとなっている。

■すべての災害で義援金を差押え禁止に

「義援金」については、すべての「災害」において、その差押え等を禁止し、被災者の手元に確実に残るように手当がなされるべきだ。災害を特定した臨時法ではなく、恒久的な法案を作る必要性がある。

法律上、「災害」とは「暴風、竜巻、豪雨、豪雪、洪水、崖崩れ、土石流、高潮、地震、津波、噴火、地滑りその他の異常な自然現象又は大規模な火事若しくは爆発その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する政令で定める原因により生ずる被害」をいう。災害対策基本法2条で既に定義は明確になっている。「災害」の義援金といえば、法律の条文上も特定として十分であり、法的な安定性を揺るがすこともない。すなわち、災害の規模で区切ったり、災害法制の適用関係にあわせて線引きをする等の措置は必要ないということだ。

また、これまでの臨時法で「義援金」とは、一貫して「災害の被災者等の生活を支援し、被災者等を慰藉する等のため自発的に拠出された金銭を原資として、都道府県又は市町村が一定の配分の基準に従い被災者等に交付する金銭」と定義されてきた。行政機関を通じて給付されるものに限って差押えを禁止する義援金として扱う以上、制度が濫用等されるおそれも無いと考えてよいだろう。

債権者側としても義援金それ自体を当てにして融資や貸し付けをしているわけではないので、義援金の差押え禁止法案が成立したところで、債権者側の既存の利益を害するということにもならない。

■恒久法案に向けた立法府や政府の動きに期待

今回成立した法案では、附則3項で「差押えの禁止等の対象となる義援金…の範囲その他の義援金の差押えの禁止等の在り方については、速やかに検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。」との検討条項が挿入された。次期通常国会では恒久法案成立を目指すという立法府の決意と信じたい。また、政府も一層の検討・調整を進めてほしい。

国民の善意の寄付金である義援金は、確実に被災者自らが使ってほしい。しかし、現在の法律のしくみでは、その願いは必ずしも確実にならない。大規模災害が発生しても、金銭給付を伴う公的支援は限られている。義援金が頼りになる被災者も大勢いるはずだ。今度こそは、国民の願いを形にしてほしい。すべての災害における義援金の差押え禁止の恒久法案の成立が強く望まれる。

銀座パートナーズ法律事務所・弁護士・気象予報士・博士(法学)

「災害復興法学」創設者。鎌倉市出身。慶應義塾大学卒業。銀座パートナーズ法律事務所。弁護士。博士(法学)。気象予報士。岩手大学地域防災研究センター客員教授。北海道大学公共政策学研究センター上席研究員。医療経営士・マンション管理士・ファイナンシャルプランナー(AFP)・防災士。内閣府上席政策調査員等の国家公務員出向経験。東日本大震災後に国や日弁連で復興政策に関与。中央大学大学院客員教授(2013-2017)、慶應義塾大学、青山学院大学、長岡技術科学大学、日本福祉大学講師。企業防災研修や教育活動に注力。主著『災害復興法学』『被災したあなたを助けるお金とくらしの話』『図書館のための災害復興法学入門』。

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