母の日の甲子園 戻ってきた背番号35《阪神ファーム》
5月8日、阪神甲子園球場で行われたウエスタン・リーグの阪神-中日戦。先発マウンドに上がった阪神の才木浩人投手(23)は、タテジマに背番号35のユニホーム姿でした。4日に支配下登録されてから初めての登板が有観客の甲子園で、才木投手もファンの皆様もよかったですね。
そして、この日は才木投手のご両親もスタンドで観戦。お母さんは「支配下に復帰して初の登板が甲子園って。しかも35のユニホームで。母の日のいいプレゼントです!」と大喜びです。そう、母の日だったんですよね。才木投手と母の日といえば、以前こんな記事を書いていました。
才木投手がルーキーだった2017年5月のものです。→<才木浩人投手と浜地真澄投手へ。お母さんからの言葉>
◆“持っている”才木投手
試合前の練習では、まだ『121』のユニホームだったみたいで、お母さんは一緒に行っておられた方々と「新しいのが間に合わんかった?」「それなら前のを着ればいい」なんて話していたと笑います。「と思ったら…試合でジャーン!でした」とお母さん。ですよね。そこは狙っていたのかも。
先発のマウンドへ向かう際はどうでしたか?「すごい拍手でした。私は、新しくしたテーマ曲を必死で聞いていました。ことし変えたんですよ。緑黄色社会の『始まりの歌』という曲に。思うところがあっての選曲だったんでしょうね。しっかり聞きました」
それに、大型ビジョンにも1軍戦と同じく選手紹介の映像が流れますもんね。「そうなんですよ!鳴尾浜では映像も曲も流れないし。そもそも鳴尾浜だったら観戦すらできていなかった。ほんま、ついてる子(笑)。皆さんがよく“持っている”と言ってくださいますけど、本当にそうですね」
持っている、で思い出すのは才木投手がルーキーだった2017年7月22日。ファーム公式戦での先発ローテーションに入って1か月、この日のソフトバンク戦で“プロ初勝利”を挙げました。しかも、そのシーズンでは最後となる甲子園開催3連戦で、ナイターだったんですよね。
1軍選手と同じ“ウル虎イエローユニホーム”を着用し、ファームで異例の試合前イベントもありました。前日、2年目でやはり初勝利を挙げた竹安大知投手(現オリックス)に続いてのこと。掛布雅之ファーム監督も、大勢のお客様が来られた甲子園でのヒーローに大喜びだったのを覚えています。
この日は4対1で阪神が勝ち、才木投手も6回1安打無失点という素晴らしいピッチングでした!ヒーローインタビューで、なぜか「きょうは小豆畑さんの誕生日だったんで」と。しかも繰り返し言って、場内も大ウケ。懐かしいですねえ。
◆4回パーフェクト!からの…
では試合を振り返ります。
《ウエスタン公式戦》5月8日
阪神-中日 7回戦 (甲子園)
中日 000 060 040 =10
阪神 002 011 001 = 5
▼バッテリー
【中】○福島(3勝1敗)(6回)-福(1回2/3)-加藤翼(0/3回)-森(1/3回)-根尾(2/3回)-石森(1/3回) / 大野奨
【神】●才木(2敗)-岡留-及川-牧-ケラー / 藤田-中川
▼本塁打 神:遠藤1号ソロ(福島)
▼三塁打 神:小幡
▼二塁打 神:高寺、マルテ、板山、遠藤
▼盗塁 中:三好(3)
▼打撃 (打-安-点/振-球/盗/失) 打率
1]中:江越 (5-0-0 / 3-0 / 0 / 0) .161
2]遊三:小幡 (3-1-0 / 1-2 / 0 / 2) .167
3]一:マルテ (3-1-1 / 0-0 / 0 / 0) .250
〃一:板山 (1-1-0 / 0-0 / 0 / 0) .205
4]右:井上 (3-0-0 / 2-1 / 0 / 0) .185
5]指:陽川 (3-0-0 / 0-1 / 0 / 0) .213
6]左:豊田 (4-1-0 / 0-0 / 0 / 0) .245
7]二遊:高寺 (4-2-0 / 2-0 / 0 / 0) .277
8]捕:藤田 (0-0-0 / 0-0 / 0 / 1) .189
〃打捕:中川 (3-1-0 / 0-0 / 0 / 0) .188
9]三二:遠藤 (4-3-3 / 1-0 / 0 / 1) .256
◆投手 (安-振-球/失-自/防御率) 最速
才木 6回 90球 (4-8-1 /6-1/ 2.63) 151
岡留 1回 12球 (0-1-0 /0-0/ 3.48) 149
及川 0.0回 25球 (4-0-2 /4-4/18.00) 147
牧 1回 16球 (0-0-1 /0-0/ 0.00) 143
ケラー 1回 18球 (0-1-1 /0-0/ 0.00) 152
※球は四球と死球の合計
《試合経過》※敬称略
先発の才木は1回、先頭の三好から151キロの直球で空振り三振を奪うと、根尾と渡辺はフォークで空振り三振!3連続三振の立ち上がりでした。2回は4番、福田を遊ゴロに、山下と石岡は空振り三振。3回は二飛2つのあと土田を空振り三振。4回もまた三者凡退で、ここまでパーフェクトピッチングです。
その間に打線が先制。3回に先頭の高寺が左中間へ二塁打を放ち、藤田が初球で送って遠藤が中前タイムリー!2死後に小幡が四球を選び、続くマルテが左翼線へタイムリー二塁打!2点を先取しました。
4回まで6奪三振ながら42球で完璧に抑えていた才木が、5回に大量失点。先頭の福田に粘られて四球を与え、山下の右前打とショート小幡のエラーで無死満塁となって、7番・滝野の左前タイムリー。続く大野奨の三ゴロを遠藤がエラー(難しいバウンドに対して攻めていった結果)。これで2人を還し、なおも無死二三塁。
土田は左飛で1死、次の三好も一ゴロでホームアウト!と思ったら、藤田が捕球エラー。これで1点追加されました。1死一、三塁から三好が二盗成功。根尾のタイムリー内野安打で2人を還します。この回、4安打と3失策で打者10人の攻撃を許し、一挙6失点(才木の自責は1)。
その裏に遠藤が今季1号ソロをライトスタンドに放り込んで3点差。6回表もマウンドへ上がった才木は、2三振を奪うなど三者凡退で終わらせて交代。その裏の攻撃で、先頭の小幡が左中間へ三塁打!大野奨の捕逸でもう1点返し、7回は阪神・岡留と中日・福がともに三者凡退でした。
“根尾投手”にビックリ!
6対4と中日がリードして迎えた8回、連投の及川が登板。根尾に四球を与え、渡辺と福田に連打されて無死満塁。山下、石岡の連続タイムリーと代打・伊藤への押し出し四球…。4連打で3点を失って降板します。
なおも無死満塁で代わった牧は1死後に土田への四球で押し出し、1点追加されるも最後は三好を一直に打ち取り、途中出場の板山が併殺に仕留めて、この試合2度目の打者10人攻撃を終わらせました。
その裏、2死から小幡が四球を選んで、続く板山が右翼線二塁打、井上も四球で満塁と攻めますが得点なし。9回表はケラーが登板して1四球のみの無失点でした。そして9回裏、なんと中日・片岡監督はピッチャーとして根尾を投入!
ざわつくスタンドは、根尾の投じる148キロ、149キロという球速にまたどよめきます。まず豊田は三ゴロで1死。次の高寺への初球で150キロが表示され、おお~!という声。高寺は左前打で出塁して、続く中川も左前打。1死一、二塁で遠藤が右翼線へタイムリー二塁打!遠藤は3安打3打点です。
そのあと江越が3球三振に倒れたところで根尾は再びショートへ。ピッチャーは石森に。最後は小幡が中飛に打ち取られて、10対5で試合が終わりました。
◆35番、甲子園、母の日
試合後にお話を伺うと、お母さんは「支配下登録されるということは、支配下=即1軍かと思っていて。えっ、もう?まだまだ1軍は無理…と焦ったんですけど、そのあともファームで投げさせてもらえるみたいでホッとしています」と言われました。
そして、もう一度「こんなに早く支配下登録してもらい、なおかつファームで登板させてもらい、そのうえ『35』に戻してもらって…」と繰り返したお母さん。「おまけに支配下復帰初登板が甲子園!さらにそれが母の日で」。既に“持っている子、ついている子”という表現は伺いましたが、まだあります。
「この先どうなるかわからないような子をプロに入れていただいて、最初にもらったのが35番なので思い入れがあります。入団発表会でも『35は才木浩人だと言ってもらえるように頑張ります!』と言っていましたからね。その番号をもう一度つけられるなんて…。感謝感激です!ほんま幸せな子ですわ~」
◆長かった痛みとの闘い
才木投手が右ヒジに違和感を覚えたのは2019年5月のこと。13日に1軍登録を抹消されたあと、19日にウエスタン・広島戦(由宇)で先発したものの、先頭打者を打ち取ったところで降板。そこから戦列を離れ、以降はファームでも登板していません。
翌2020年はファームで5試合に投げていますが、ヒジ痛みは継続。その年の11月に右ヒジの内側側副じん帯再建術を受けました。リハビリに専念する期間を考慮して、12月8日に育成契約となっています。
手術するまでの間は、たとえばドアノブを回す時、たとえば着替えをする時など、生活の中での1つ1つの行動が、痛みを確認させるような日々だったのでしょう。過去にも、同じような経験をしてきた選手が「痛くない日なんか一度もなかった」と、つぶやいたのを思い出します。
お母さんは「痛みが癒えないまま、育成契約になるとわかった時はさすがに落ち込んでいたので言ったんですよ。クビになったわけじゃない。こんなとこで終わったらあかん!って」とおっしゃいました。さすが、お母さん。この一撃は効いたかも。
手術をしてから1年半、痛みが出てからだと3年かかりました。「長かったです。ケガをして、ずっと投げられていない時間が長かった。ヒジが痛いと言ってから今まで。本人も、長かっただろうなと思います。でも手術をした後は元気で、リハビリも前向き。先輩が相談に乗ってくれたり、一緒に手術した島本(浩也)さんがいてくれたのも大きかったですね」
「同じ手術を経験した藤川球児さんが親身になってアドバイスをくださったのもありがたかったです。気持ちがすごく楽だったと思いますよ。術後の痛みも、それまでのことを思えば痛みではなかったはずです。人にも恵まれて、本当に得な子」。あ、“得な子”も追加ですね。
◆孝行息子からの贈り物
お父さんはお仕事の関係で平日の試合は1軍もファームも見に行けず、なかなかタイミングが合わなかったのですが、この日は2人そろって観戦されたとか。本当に久しぶりだったみたいです。お母さんがおっしゃるには「いつも感情を表に出さない人だけど、きょうはさすがに嬉しそうでした」とのこと。
そこで終わるかと思いきや「4回までは…」とお母さん。その話術、勉強させていただきます。
「でも5回で終わっていたら辛かったけど、6回も投げさせてもらって3人で終わって、本当によかったです。ホッとしました」。そうですね。平田勝男監督や安藤優也投手コーチも、おそらく「ビシッと3人で締めてこい!」という気持ちだったと思います。
母の誕生日には必ず、長男と次男からプレゼントが届く才木家。昨年、次男の浩人投手から贈られたのは“名前ポエム”っていうんでしょうか?お母さんの名前である『久』と『子』の文字が織り込まれた詩の周りを、8月の誕生花・ひまわりが囲む額でした。真ん中には“感謝”の大きな字があったとか。
「今までで一番いいプレゼントでした」と楽しそうに教えてくださいます。本当に親孝行な息子さんですね~と言ったら、「実は納品書も一緒に入っていましたけど(笑)」とお母さん。あららら、値段もバレバレだったとは。やっちゃいましたね、才木投手。それをまたここで暴露してすみません。
今回の登板は、そのプレゼントに匹敵するくらい嬉しい母の日の贈り物だったでしょう。
◆お母さんからの言葉
5年前と同じくお母さんから息子さんへのメッセージをお願いしました。
『長いリハビリの間、良きにつけ悪しきにつけ、いろんな経験をしてきたと思う。メンタル的なことも、フィジカル面でも。
せっかく経験させてもらったのだから、それを生かして次のステップへ進まないと、もったいない。ただで起きるな!
その経験を糧にして以前とは違う姿を、人としても大きくなった姿を見せてください。楽しみにしています。頑張れ、浩人。復活!強気!浩人!』
お忙しいところ、いろんなお話を聞かせてくださった才木投手のお母さん、本当にありがとうございました。せんえつながら私からもエールを送らせてください。
「何度でも始まりの歌を歌おう
もう終わりなんて
決めつけてしまわないように」
(緑黄色社会「始まりの歌」作詞作曲:長屋晴子 より)
<掲載写真は筆者撮影>