Yahoo!ニュース

「今がとても楽しい!」と語る元中日・武田健吾選手、元オリックス・金田和之投手の社会人1年目

岡本育子フリーアナウンサー、フリーライター
ことしから三菱重工Eastでプレーする武田健吾選手。好守備のあと笑顔でベンチへ。

 今回は、ことしから三菱重工Eastでプレーしている武田健吾選手(28)について書かせていただきます。阪神とは関係ないんですけど、オリックス時代にウエスタン公式戦で話をしたり、2014年のフレッシュオールスターゲーム(長崎)などで取材をしたため、勝手に縁を感じていたということで、ご理解ください。

 フレッシュオールスターといえば、この時は阪神から同い年で仲のいい北條史也選手と1つ下の横田慎太郎選手も出場していて、同じ外野手として横田選手の面倒をよくみてくれたことも思い出します。そうそう!北條選手がきょう6日に1軍へ昇格しましたね。余談ですけど。

 三菱重工Eastは神奈川県横浜市が本拠地のため、試合を見られる機会はなかなかないだろうと思っていたところ、うまい具合に『わかさ生活第72回JABA京都大会』にエントリーされていたのです。そこで大会初日の4月25日、わかさスタジアム京都へ行ってきました。

 この日は大阪ガスとの対戦で、4対1で三菱重工Eastが勝利。試合後に取材エリアへ呼び出してもらったものの、ヒットは打っていないのになぜ?と思ったかもしれません。おまけに何年振りかの対面、マスク着用で不安でしたが「お久しぶりです!」と言ってくれてホッ。わかってもらえてよかったです。

◆持ち味は積極性の1番打者

 まず試合に関しての話。4対1というスコアですが、大阪ガスは11安打で毎回ランナーを出す展開(計16残塁)だったので「勝ってよかったです」という言葉。3回1死二、三塁で、武田選手の打ったゴロをショートが送球エラーしての先取点でしたね。「内野も下がっていたし、追い込まれていた(カウント2-2)ので、あそこで打ちにいって1点取りたかった」

 9回には犠打もしっかり決めました!「僕、バントが得意というか、好きなんで(笑)」。そうなんですね。その犠打で1死二塁して貴重な追加点が入ったわけです。「はい、いい点の取り方ができました」。守備はさすがの安定感。「自信をもってやれているので、そこは」

 ずっと1番を打っていますね?「そうです。こっちに来てから」。何か意識しているところは?「いや、打順はあんまり関係なく。持ち味の積極性を大事にやって、いい結果につながったのかなと。変えずにやっていきたいです」。そんな気持ちが、動きや表情に表れています。

 ところで、一戦必勝の社会人野球はどうですか?と聞いてみたら、目をキラキラさせて「楽しいですっ!」と言い切った武田選手。ふと10年ほど前の “健吾くん”を思い出しました。野球ができる、試合に出られる、それが何より楽しいのはいくつになっても同じなんでしょう。

3回の打席で遊ゴロ、と思ったらショートが一塁へ送球エラー!
3回の打席で遊ゴロ、と思ったらショートが一塁へ送球エラー!

それを見て走る武田選手。これで三塁ランナーが還り、1点を先取しました。
それを見て走る武田選手。これで三塁ランナーが還り、1点を先取しました。

◆また好きな野球をやれる

 武田選手は2012年のドラフト4位で、福岡の自由ケ丘高校からオリックスに入団。守備はもちろん長打力も期待され、阪神・平田勝男ファーム監督が率いた2014年21Uワールドカップ出場。2016年にもU-23ワールドカップの日本代表メンバーとして優勝に貢献。ベストナインに選ばれたんですよね。

 2017年は1軍で活躍するも、それ以降はなかなか定着できず…。2019年6月末に2対2の交換トレード(オリックス・松葉貴大投手、武田選手と中日の松井雅人選手、松井佑介選手)で移籍。中日では1軍出場も多く、やりがいを感じていたと言います。2021年も開幕からずっと1軍にいました。

 ところが10月6日の広島戦(バンテリン)で、代走でも守備からでもなく代打出場して、その夜に「あす球団事務所へ」という電話を受けたそうです。翌日聞いたのは来季構想外の言葉。初めて1軍でフルシーズンを過ごした秋にまさかの…ですよね。その時の気持ちは忘れられないでしょう。

 約2か月後の12月8日、12球団合同トライアウトに参加して2安打を放ちました。NPBで、という願いは残しつつ「また好きな野球をやれるなら、どこでも」との思い。そこへ声をかけてくれたのが三菱重工Eastだったということです。快諾したのも「一番に声をかけていただいたチームだったので」という理由。

 社会人も視野に?「あーもう、それはもう!野球をまだやりたいという気持ちがあったので、やれるならどこでもやりたいと。最初に声をかけてもらったところに行こうと思っていました。そしたら(三菱重工Eastという)社会人野球でもすごい強豪チームで。すごくやりがいがあるなと、また一から頑張ろうと思って」

 プロ野球生活は苦しかった?「まあ、そうですね。結果がなかなか出なかったので。苦しい方が多かったかなと」。今は?「めちゃくちゃ楽しいです!」。どういうところが?「負けたら本当に終わりっていう緊張感の中でやっているので、一球の大切さとかをより感じますね」

 すっかりチームに馴染んで見えると言うと「そうですか?あはは。それが僕の持ち味なんで」と笑います。健吾さんって呼ばれているんですね。年下が多いのかな?「僕ももう30手前ですから(笑)」。とはいえ、守備の往復で走る姿もベンチで声を出すのも、すべて全力!

 「そこは大事に。いつも周りのチームメイトに応援してもらっているから」

9回に代走で出た江越海地選手(右から2人目)。その裏の守備で右飛をキャッチして、センターの武田選手(左)もにっこり。
9回に代走で出た江越海地選手(右から2人目)。その裏の守備で右飛をキャッチして、センターの武田選手(左)もにっこり。

◆JABA四国大会で首位打者に

 ここで、京都大会の前のことも書いておきます。三菱重工Eastにとって今季初の公式戦は、4月初旬に高知市(市営球場、東部球場)で開催された『第50回JABA四国大会』でした。再出発の場で、武田選手は鮮烈な“社会人デビュー”を果たしたのです。

 出場した試合はすべて1番センターで先発。まず4月7日のJFE西日本戦は1回、2回と連続で中前打を放ち、5回にはレフトへの1号3ラン!7回にも左前打があったので、5打数4安打4打点の活躍です。試合は8対5で勝ちました。

 ついで8日に日本製鉄大分は2対0の完封勝利。武田選手は4打数1安打です。予選最後は9日、アークバリアに5対2で勝って3勝0敗で決勝トーナメント進出を決めました。この日、武田選手は出場していません。

 11日、準決勝は明治安田生命に対し、7対6で逃げ切り勝ち。武田選手も5打数3安打1打点と貢献しています。しかし日本生命に8対0と完封負けを喫した決勝は4打数ノーヒットでした。

 それでも武田選手は通算18打数8安打(打率.444)で、この大会の首位打者賞を獲得!日本選手権出場にあと一歩の準優勝に終わったものの、同じく敢闘賞を受賞したチームメイト・長島彰投手とともに表彰されています。

 何といっても、決勝を除く3試合(予選2試合と準決勝)での数字が14打数8安打5打点!打率.571ですから。いきなり3ランを含む4安打デビューと首位打者賞ってインパクトありすぎでしょう?と言っても、本人は「たまたまです」と微笑むばかりでしたけどね。

9回表の攻撃。無死一塁で、得意の犠打を決めた武田選手。
9回表の攻撃。無死一塁で、得意の犠打を決めた武田選手。

ベンチでみんなに迎えられます。このあと2番・汐月祐太郎選手がタイムリー!4点目が入りました。
ベンチでみんなに迎えられます。このあと2番・汐月祐太郎選手がタイムリー!4点目が入りました。

◆「今が楽しい!楽しすぎます!」

 その四国大会に続いて、京都大会もまた準優勝。優勝チームは社会人日本選手権の出場権を得られるわけですが、三菱重工Eastはこのあと都市対抗予選を挟んで、6月に最後の日本選手権対象である『JABA九州大会』があります。そこで優勝すれば決定、ダメなら9月の地区最終予選へ持ち越しです。

 立場は変わるけど、京セラドーム大阪でプレーを見せたいですよね?「はい。家族とか、なかなか見には来られないので、テレビで頑張っている姿を見せられるように」。都市対抗野球は1回戦から全部テレビ中継がありますし、東京ドームにも行きたいでしょう。「そうですね!」

 ところで、阪神・江越大賀選手の弟、江越海地選手とは同い年?「そうです、海地は同級生です」。高校の時は?「僕が福岡で海地は長崎なので知らなかったですね。でも龍(幸之介外野手)は高校も近くて、彼はスーパースターでした!結構、同い年は多いですよ。ショートの矢野(幸耶内野手)もそう」。じゃあ気持ちは楽ですね。「はい。入ってきた時もいろいろ教えてくれたり、ありがたいです」

 取材陣の輪が解けてから、武田選手は小さな声でもう一度、言いました。

「楽しいです!楽しすぎます!」

 そんな思いがあふれた姿を次に関西で見られるのは、秋の京セラドームであるよう祈っています。

ベンチ前の円陣に加わる際の、この笑顔。いい守備のあとだったのかな?
ベンチ前の円陣に加わる際の、この笑顔。いい守備のあとだったのかな?

◆JABA京都大会も準優勝

 さて、『わかさ生活第72回JABA京都大会』は三菱重工West、セガサミー、三菱重工East、日本製鉄広畑の4チームが予選リーグを突破。今大会は雨で延期された試合も多く、最終日の決勝トーナメントも当初の予定より1日伸びた5月1日だったのですが、その日もまた朝から雨で順延。結局5月2日に行われました。

 準決勝1試合目は三菱重工Westが6対1で日本製鉄広畑に勝ち、2試合目は三菱重工Eastが延長の末にセガサミーを振り切って決勝進出。第2試合の三菱重工Eastは1回に1点を先取し、先発・森圭名投手も8回まで無失点だったのですが9回に追いつかれて延長戦へ。10回は追加点なく、11回から無死一、二塁で始めるタイブレークへもつれ込みました。

 そこで先攻の三菱重工Eastが四球を選んで塁を埋め、ショート内野安打で1点を勝ち越し、その裏は9回途中からリリーフした長島投手が0点に抑え、11回、3時間44分という長い試合が終了しています。

JABA京都大会初日のわかさスタジアム京都。この日は最高気温29という暑さでした
JABA京都大会初日のわかさスタジアム京都。この日は最高気温29という暑さでした

◆決勝は三菱重工の東西対決

 ここまで読んでいただいて、金田和之投手(31)のことが出てこないと思われたでしょうね。実は今回のJABA京都大会で、ことごとく試合日程と自分の予定が合わず、まったく見に行けなかったのです。しかも三菱重工の両チームが決勝トーナメント進出とあって何が何でも!と思ったら順延…。

 おまけに決勝が、その金田投手がいる三菱重工Westと武田選手所属の三菱重工Eastの顔合わせになったもんで、本当にもう雨を恨みました。三菱重工野球部が東西2つに再編成されてから初めての“東西同門対決”だったんですね。

 準決勝が2試合とも長かったため、なんと17時01分から始まった決勝は、1回裏にWestが2点を先取。Eastは2回裏に、武田選手と同い年の5番・龍選手がホームラン(この大会2号)で1点を返したのですが、以降は両チームとも得点なし。2対1でWestが逃げ切っています。

 Eastの武田選手は1番センターでフル出場し、4打数1安打でした。そして金田投手は、7回2安打1失点だった先発・竹田祐投手のあとを受け、8回に登板。最速151キロの真っすぐなどで簡単に2死を取ったと思いきや、そこで武田選手に左前打されたわけですね。でも次は三振で無失点。

 9回も続投すると、いきなり先頭の3番・中山遥斗選手に三塁打を浴びますが、以降は投ゴロ、三邪飛、三振でビシッと締めて試合終了!さすがですねえ。ニュース記事で、駆け寄ってきたキャッチャーと笑顔で喜ぶ金田投手の写真を見ました。

 写真といえば金田投手の、三菱重工Westのユニホームを着た写真が1枚もなくて…すみません。早く入手できるよう頑張りますので、今回はお許しください。

◆社会人野球の醍醐味も味わう

 その日の夜、電話で話を聞かせてくれた金田投手。長い1日だったでしょう?準決勝は登板がなかったものの、常に準備はしていたはずなので。「そうですね。ダブルヘッダーの経験自体がないですからね」。確かに。

 オリックスの元同僚、武田選手のヒットは「健吾に打たれましたねえ」と笑います。そして「社会人になって初めてのイニングまたぎ」だったという9回。いきなり三塁打…と思ったら後続をピシャリ!「ラッキーでした。守備と、キャッチャーのおかげです。キャッチャーの配球がよかったので」

 キャッチャーや、他の選手とのコミュニケーションは取れていますか?「最初はだいぶ距離感がありましたけど、試合や練習を重ねていくうちに、いい関係になれたと思います」。年齢的には上の方ですよね?「もっと先輩がいますよ」。そうそう!ことし35歳になる守安玲緒投手がいましたね。

 金田投手も武田選手と同じく昨年12月のトライアウトを受け、その日の夜に三菱重工Westが獲得の意向を示している、との連絡をもらったとか。ただ当時は、まだNPBでやりたい気持ちがあったのは正直なところ。その気持ちを汲んで「待つからと言っていただいた」そうです。

 結果的に、社会人野球の世界に飛び込む決意をしました。「誘っていただいて、ありがたかった」「やっぱり野球をやりたいと思って」。そして今、金田投手も「すごく楽しいです!」と声がはずんでいます。負ければ終わりの緊張感も「そこがおもしろい。それが社会人の醍醐味やと思いますね、やっぱり」とのこと。

こちらは武田選手と一緒に三菱重工Eastへ入った元巨人の山下航汰選手(21)。
こちらは武田選手と一緒に三菱重工Eastへ入った元巨人の山下航汰選手(21)。

◆「投げた試合は全部抑えたい!」

 ここまで三菱重工Westは三菱重工Eastと同じく、『JABA四国大会』と『JABA京都大会』に出場していて、金田投手は四国大会で1試合(4月9日、シティライト岡山戦)に登板。9回1イニングを三者凡退で終えています。

 そして京都大会では4月25日の宮崎梅田学園戦(11対0で7回コールド勝ち)の7回に登板して三者凡退。27日のツネイシブルーパイレーツ戦(3対1)は9回に登板して2死から連打を浴びるも無失点。翌28日の日本生命戦(6対2)は9回1イニングを三者凡退でした。

 3戦全勝、予選1位で進出した5月2日の決勝トーナメントは、先ほど書いたように準決勝の登板がなく、決勝では初の2イニングを投げて1本ずつヒットを許しながら0点に抑え、1点のリードを守り切って優勝に大きく貢献したわけです。

 公式戦5試合に登板して計6イニングを無失点!防御率0.00とまさに守護神の働きで、監督やコーチから「頼りにしている」という言葉ももらったそうですが、本人は「もっと頑張りたいと思います!」「もっとです」と繰り返しました。

 これで、10月30日開幕予定の社会人野球日本選手権は出場決定!京セラドーム大阪でまた投げられますね。その前に、夏は東京ドームの都市対抗野球がありますね。「もちろん!行きたいです」

 では、ことしの目標をどうぞ。「個人としては、投げた試合を全部抑える。チームでは日本一。貢献できるように頑張ります!」。なるほど、全部抑えるんですね。そのために、もっと頑張りたいと。

ことしは応援も復活しました。といっても、ほとんどのチームがまだですけど、これは大阪ガスのチアです。
ことしは応援も復活しました。といっても、ほとんどのチームがまだですけど、これは大阪ガスのチアです。

◆次は今週末からの九州大会

 今回のJABA京都大会ではマイクや太鼓、チアによる応援が復活していました。もちろんコロナ前に比べると規模も人数も控えめですが、大阪ガスのおなじみの歌を聞いて「あ~懐かしいなあ」と思ったんですよね。

 金田投手は、都市対抗や日本選手権の本大会で繰り広げられる応援合戦は知らないそうで「まだ見たことないです。そうなんですか。楽しみです!」と言っていました。

 そうそう、鹿児島のご家族にも投げるところを見てもらいたいですね。阪神時代、1軍での登板を見に甲子園へ来られたりしていましたが、社会人ではまだ?と聞いたら「それが、岡本さんと一緒で…」という返事。どういうことでしょう?

 「実はゴールデンウィークを利用して、大阪へ遊びに来ていたんですよ。でも雨で延びて…見られずに帰りました」。あちゃー、せっかくだったのに残念。だって胴上げ投手ですよ!「そうでしたね(笑)。あとは九州大会もワンチャンで、来られるかも」

 九州大会なら近いと言いたいけど、会場は北九州と下関なので鹿児島からは遠いですね。しかもまた“ワンチャン”のスケジュールなんですね。どうか雨が降りませんように。

 JABA九州大会は5月7日開幕で、三菱重工Westは8日が西部ガス、9日は三菱自動車倉敷オーシャンズ、10日にNTT東日本と戦って決勝トーナメント進出を狙います。そのあと5月23日からいよいよ都市対抗近畿2次予選!またヒリヒリする夏がやってきます。

  <掲載写真は筆者撮影>

フリーアナウンサー、フリーライター

兵庫県加古川市出身。MBSラジオのプロ野球ナイター中継や『太田幸司のスポーツナウ』など、スポーツ番組にレギュラー出演したことが縁で阪神タイガースと関わって約40年。GAORAのウエスタンリーグ中継では実況にも挑戦。それからタイガースのファームを取材するようになり、はや30年が経ちました。2005年からスポニチのウェブサイトで連載していた『岡本育子の小虎日記』を新装開店。「ファームの母」と言われて数十年、母ではもう厚かましい年齢になってしまいましたが…1軍で活躍する選手の“小虎時代”や、これから1軍を目指す若虎、さらには退団後の元小虎たちの近況などもお伝えします。まだまだ母のつもりで!

岡本育子の最近の記事