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小虎日記番外編・中日の山本拓実投手「特別な場所」甲子園でプロ初勝利

岡本育子フリーアナウンサー、フリーライター
ことし3月20日、阪神にとっての今季開幕戦(鳴尾浜)で先発した山本拓実投手。

 きょう8月1日までの中日戦が終わると、しばらく甲子園球場を高校野球に明け渡す阪神タイガース。8月27日の、これまた中日戦から戻ってきます。その間も2カードは京セラドーム大阪で開催されるので、今や“長期ロード”とも呼べないくらいですが、やはり甲子園を離れる寂しさもあり。きょうが最終日の『ウル虎の夏2019』は早くから盛り上がっていました。きょうは甲子園球場95歳の誕生日なんですね。

 そして何といっても藤浪投手が今季1軍初登板、初先発!私も黄色いユニホームの戦いをテレビで見ながら、これを書いています。5回途中で交代したものの、ベンチへ向かう藤浪投手に大きな拍手が起きました。暑い暑い鳴尾浜で、どんなに頑張ってきたか。ファンの皆さんはよくご存知です。そして負けを消してくれた北條選手のホームラン!さすが同期。ウル虎の夏を勝利で締めくくった阪神、藤浪投手の夏もこれからでしょう。

ファームで先に経験した甲子園

 そんな中日戦で、きのう7月31日は中日ドラゴンズ2年目の山本拓実投手(19)が、プロ初勝利を挙げました。つまりは阪神が負けたということで…記事を書こうかどうか迷ったんですけど、約1年前にナゴヤ球場で聞かせてもらった話を思い出してご紹介します。

 山本投手は兵庫県宝塚市の出身で、西宮市立西宮高校から2017年のドラフト6位で中日に入団しました。地元では市西(いちにし)と呼ばれる進学校で、高校野球選手権大会開会式に女子生徒がプラカードを持つことは有名ですが、野球部の甲子園出場は長らくありません。在学中に好投した試合は多かったけれど届かずじまいだった山本投手も、他県の高校球児と同じく憧れの球場であるのは確かでしょう。

 おまけに小さいころから野球が好きで、阪神タイガースが好きで、何度も観戦に通ったという甲子園。そのマウンドに立つ夢がプロに入って実現します。経験したのは「満員の甲子園」でなく、ファームの試合が先でした。

昨年6月17日、山本投手が初めて甲子園で投げたウエスタン公式戦です。
昨年6月17日、山本投手が初めて甲子園で投げたウエスタン公式戦です。

 2018年6月17日のウエスタン・阪神-中日戦は甲子園開催で、ルーキーだった山本投手は清水投手、福投手のあとを受け、5回に登板しました。5回は2死から北條選手に三塁打を浴び、緒方選手のタイムリーで1失点。6回は島田選手に内野安打と盗塁を許し、1四球を与えてから板山選手のタイムリー二塁打、さらに森越選手の犠飛で計2点。7回は1四球のみで、3イニングを投げて4安打1三振4四球の3失点です。

江越選手の一発に圧倒された夏

 次は7月22日、山本投手は先発でした。7月20日からの中日3連戦は『ウル虎の夏2018』として黄色いユニホームで戦い、3連勝したんですよね。覚えていらっしゃいますか?これを含めた7月18日から8月1日まで、2001年以来17年ぶりの9連勝(カードはソフトバンク、中日、広島、中日)があったのを。あれから1年ですか。もっと前のような気も…。あ、すみません。話が逸れました。

 この日、山本投手は立ち上がりに江越選手の先頭打者ホームランを浴びています。なんせ江越選手がシーズン8本もの初回先頭打者ホームランという、おそらくリーグ新であろう記録を作った年ですからね。そのあと連打と味方エラーでもう1点。2回は連続四球とヒットで無死満塁として、江越選手を空振り三振に取るも、1死後に荒木選手の犠飛、緒方選手と高山選手の連続タイムリーにエラーも絡んで4失点。2回6安打2三振2四球の6失点(自責4)で交代して負け投手になっています。

これは、ことし3月20日の鳴尾浜。いい“面構え”です!
これは、ことし3月20日の鳴尾浜。いい“面構え”です!

 この2試合でコメントは聞けなかったのですが、8月にお邪魔したナゴヤ球場で話をさせてもらいました。登板がなかった山本投手に試合後、様子を尋ねると「まだ練習とトレーニングがあるので、終わってからでもいいですか?」と申し訳なさそうに言います。そりゃもう、もちろん!ということで、風が心地よい夕方に立ち話をした次第です。実は鳴尾浜で初登板した際の、私の記事を読んでくれていたとか。ありがたいですねえ。

ずっと憧れていた場所に立って

 6月に初登板、7月には初先発のマウンドに上がった甲子園。どうでしたか?

「甲子園は特別です。ずっと憧れていた場所なので。小さい時から、ライトスタンドやアルプス席でタイガースを見ていたので」

 そこで投げて、嬉しかったですか?緊張した?

「嬉しかった!すごく嬉しかった。もう2回も投げられて嬉しいです!」

 とびっきりの笑顔で答えた山本投手ですが、こう続けました。

「でもまだ慣れないですねえ。やっぱり甲子園は特別なので、今でも浮き足立ってしまいます」

   

 7月に先発した時は、応援の方も多かったですね。

「はい。野球部の後輩たちが見に来てくれました。かっこよかった!と言ってくれていたそうですけど。お世辞ですね、きっと(笑)」

 その試合は立ち上がりに、江越選手が先頭打者ホームラン。しかも初球を打たれたんですよね。

「いや~もう完璧に打たれて…逆に気持ちよかったです」とさわやかに笑って「やっぱりすごいなあ、プロだなあと思いました」

 たとえ打たれても、甲子園のマウンドで腕を振り切って投げる先輩の姿は、本当にかっこよかったんですよ。お世辞でなく。

 こんな話をした1か月後の昨年9月11日に初めて1軍昇格。翌12日、“プロ初登板”のマウンドは甲子園でした。7回から2イニングを投げて無失点というデビューです。

忘れられない19歳の夏に

 今季、ファームでの阪神戦は3月20日の鳴尾浜(阪神にとって開幕戦)が最初。先発して4回8安打3三振2四球の6失点(自責5)という内容で負け投手。2回に藤谷選手の2ラン、4回に江越選手のソロを浴びています。ついで5月25日のナゴヤ球場で先発。1回に熊谷選手のソロ、3回に陽川選手のソロなど、4回7安打2三振2四球で4失点。やはり負けが…。ここまで13試合に登板して被本塁打は6本、そのうち4本が阪神ということですね。

ことし3月20日の阪神戦。先発バッテリーは山本投手(右)と、オリックスへ移籍した松井雅人選手(左)。
ことし3月20日の阪神戦。先発バッテリーは山本投手(右)と、オリックスへ移籍した松井雅人選手(左)。

 阪神戦では結構打たれて負けている印象でしたが、ウエスタン公式戦で3完投(うち完投勝ち1)しています。4月に一度昇格した際は登板せずに抹消されたものの、7月24日に再び出場選手登録され、その日の広島戦(マツダ)で“プロ初先発”。西川選手に初回先頭打者ホームランを打たれるなど5回2失点で初黒星を喫しました。

 そして中6日の7月31日に、憧れの甲子園で、大好きだったタイガースを相手に先発した山本投手。1軍では最長の6回を投げ、4安打1失点!降板後に1点返されて3対2という展開となり、最後はベンチから岡田投手のピッチングを「信じて」見つめる表情が初々しかったですよねえ。勝ちが決まった瞬間の喜び方も、ヒーローインタビューで「嬉しいです!」と繰り返す顔も、まだ19歳なんだなあと実感します。

 それにしても1軍の阪神戦では、いえ1軍の甲子園ではしっかり結果を出しているのがすごい。やっぱり“特別な場所”なんでしょう。昨年は「まだ浮足立つ」なんて言っていましたけど、あれから1年経って、そんな様子はまったくなかったですね。

この“投げっぷり”が魅力!小さな体が大きく見えますね。
この“投げっぷり”が魅力!小さな体が大きく見えますね。

 この日はご家族をはじめ友人、知人など大勢の皆さんがスタンドで観戦されたようです。ウル虎イエローの中に青いタオルも多く、また山本投手が小学校時代に所属した軟式野球チームの子どもたちも駆けつけたとか。決して大きくない167センチという身長でも、プロ野球選手になれる。甲子園で投げて勝てる。山本投手が一番みんなに伝えたかったことを、自身の右腕で証明してくれましたね。これからも楽しみにしています。体が地面につきそうなくらいの、あの投げっぷりを。

    <掲載写真は筆者撮影>

フリーアナウンサー、フリーライター

兵庫県加古川市出身。MBSラジオのプロ野球ナイター中継や『太田幸司のスポーツナウ』など、スポーツ番組にレギュラー出演したことが縁で阪神タイガースと関わって約40年。GAORAのウエスタンリーグ中継では実況にも挑戦。それからタイガースのファームを取材するようになり、はや30年が経ちました。2005年からスポニチのウェブサイトで連載していた『岡本育子の小虎日記』を新装開店。「ファームの母」と言われて数十年、母ではもう厚かましい年齢になってしまいましたが…1軍で活躍する選手の“小虎時代”や、これから1軍を目指す若虎、さらには退団後の元小虎たちの近況などもお伝えします。まだまだ母のつもりで!

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