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阪神タイガース”初代・代打の神様”、39年ぶりに直島へ

岡本育子フリーアナウンサー、フリーライター
野球教室が終わって全員で記念撮影。子どもたちも元気にポーズしてくれました!

 札幌ドームで開催中の『NPB12球団ジュニアトーナメント2018 supported by日能研』は大会2日目の28日、グループBの阪神タイガースジュニアチームが登場しました。しかし1試合目の楽天ジュニア戦に9対2で敗れ、2試合目のオリックスジュニア戦は8対0と5回コールド勝ちしたものの…きょう29日の決勝トーナメントには出場できず。ここ2年は決勝戦まで進み、準優勝だった阪神ジュニア。あとひとつ!と八木裕監督も意気込んでいただけに、残念ですね。

 ところで阪神のジュニアチームのコーチには今、柴田講平さんと鶴直人さんがいて、来年1月1日付けで新しく若竹竜士コーチと今成亮太コーチも加わることになりました。2012年のトレードで入れ替わった同い年の2人が、今度は一緒にタテジマのユニホームを着るわけですね。さらに同い年で同期入団の鶴さんと若竹さんが揃うわけ、ちょっと感慨深いものがあります。来年のジュニアチーム初優勝を祈りましょう!

“アートの島”・直島町

直島町民グランドから見て。正面が直島幼児学園、左手が直島小学校です。
直島町民グランドから見て。正面が直島幼児学園、左手が直島小学校です。

 その阪神タイガースジュニアチームを率いた八木裕さんが、大会前にゲストとして訪れた野球教室の話を、きょうはご紹介します。まだ寒さがそれほど厳しくなかった24日、場所は香川県香川郡直島町。人口は3000人強、面積も14.22平方キロメートル(本島8、属島6)で、南北に5キロメートル、東西は2キロメートルという島です。車で1周するのに10分くらいだと聞きました。

 でも「なおしま」という名前を耳にしたことがある方は多いかもしれません。小さな島ながら美術館やミュージアム、ギャラリー、あちこちにユニークなオブジェもあり、“アートの島”として有名ですね。私は宇野港からフェリー(15分ほど)で向かったのですが、外国人旅行者の方も多く、着いた宮浦港では『赤かぼちゃ』や『直島パヴィリオン』というアート作品が出迎えてくれました。日が暮れると、あちこちでライトアップされていて、今度は芸術的な観点で行ってみたいと思います。

開会式では小林町長(右)と八木さん(左)が挨拶。
開会式では小林町長(右)と八木さん(左)が挨拶。
整列して拍手を送る直島野球少年団の選手たち。
整列して拍手を送る直島野球少年団の選手たち。

 直島の真ん中あたりに、今回の野球教室が行われた直島町民グランドはあります。そのすぐ西に直島幼児学園、南に直島小学校、小学校の東隣に直島中学校と、グランドを“コの字型”に取り囲んだ形で建つ、まさに文教地区。島の子どもたち全員が集まっている場所と言えますね。高校は島の外へ通っているそうです。

 参加したのは、直島唯一の少年野球チーム『直島野球少年団』の選手たち。小学1年生から6年生までの11人が所属しています。昔は中学校に野球部があって、離島甲子園にも出場したと聞いたのですが、今はもうありません。よって、野球を続けるには中学からもう島外の学校へ通わなくてはならないとのこと。今は子どもの数が減っているので、直島に限らず他でもそうでしょうね。

 そういった状況を踏まえて、今回の野球教室が開催された経緯を少し書かせていただきます。

直島町とミズノが3月に連携協定

岡山県の宇野港から香川県の直島町・宮浦港へ向かうフェリー。
岡山県の宇野港から香川県の直島町・宮浦港へ向かうフェリー。

 アートの町として世界的に有名になった直島町が、地方創生に向けた新たな直島ブランドを構築するため、スポーツ用品メーカー・ミズノと連携協定を結びました。事業内容は、少子高齢化が進む直島町にあってミズノの運動プログラムを活用した健康作りを促進、また各種スポーツイベントで観光客や若年層を呼び込んで地元を活性化するというものです。ミズノでは既に、健康・運動プログラムを全国で実施していて、これも子どもからシニアまでニーズに合わせて提供することになります。

3月20日の調印式にて、直島町のマスコット・すなおくん。※写真はミズノの中元さん提供。
3月20日の調印式にて、直島町のマスコット・すなおくん。※写真はミズノの中元さん提供。

 ことし3月20日、直島町役場にて『香川県直島町とミズノ、まちづくりに関する連携協定』の調印式が行われました。直島町の公式マスコット・すなおくん(写真)が着ているウエアの胸にも、直島町とミズノのコンポジットロゴがエンブレムとしてついていますし、野球教室でも役場の皆さんはロゴが入ったウエア着用でした。もうすっかり定着しているようですね。

 連携協定締結後、11月には体育協会主催のスポーツ教室が開催され「ミズノ流忍者教室」や「ヘキサスロン」を体験したそうです。また『少年の夢・育み活動』として野球、サッカー、柔道などがある中、今回の野球教室となりました。タイガースファンも多く、OBである八木さんが直島とは目と鼻の先の岡山県玉野市のご出身ということで、講師をお願いしたとか。

 奥さんと子どもさんは去年、直島へ来られたことがあるそうですが、八木さん自身はなんと39年ぶり!中学時代に試合で訪れて以来だと言われます。

打撃で3ポイントのアドバイス

キャッチボールの前に“八木先生”の話を聞く選手たち。
キャッチボールの前に“八木先生”の話を聞く選手たち。

 町民グランドに着くと、もうユニホーム姿の子どもたちがウォーミングアップをしていました。午前10時から開会式があり、小林眞一町長と八木さんの挨拶。すぐに野球教室が始まります。選手たちを集めた八木先生は早速、身ぶり手ぶりで何かを伝え、そのあと散らばってキャッチボール開始。続く守備練習では八木さんがノックを打っています。

11人のうち2人が女子です。右がくれあちゃん(4年)、左はみずきちゃん(3年)。
11人のうち2人が女子です。右がくれあちゃん(4年)、左はみずきちゃん(3年)。
最年少は1年生のこうあくん。バット、こんなに余っていますが、スイングはなかなかのものです。
最年少は1年生のこうあくん。バット、こんなに余っていますが、スイングはなかなかのものです。

 そして打撃練習の前にまた全員集合。八木さんから「いつも、いつも打てるわけじゃない。5割も打ったらすごいこと。まず自信を持って打席に入る。打てるかどうかわからないけど、バットに当たるかもしれんやろ?だから自信を持って打席に入ること。これが1つ目」という話が始まります。

 「バッティングで何が大事だと思う?」という八木先生の問いかけに、子どもたちは恥ずかしいのか答えられずにいると「じゃあ気をつけているのは何?スイング?」と聞かれて少しずつ言葉を発します。それを受けて「右足?マニアックやね。右足を内に?それも大事だね。他には?」と八木さん。他には「ボールをよく見る」「かかとを上げる」「上から叩く」「下半身を使う」などが出てきました。

 「2つ目はボールをよく見ること。最後までしっかり、バットに当ててからも見るくらいのつもりで。3つ目は、当てにいかないでしっかりスイングすること。素振りの段階から全力で振るんだよ。そうしたら当たるようになればヒットが打てる。わかりますか?もう一度言いますよ。まず自信を持って打席に入る、ボールを最後までよく見る、しっかり素振りする。この3つを大事にしよう」

レッドタイガースの先発は、かんたくんでした。
レッドタイガースの先発は、かんたくんでした。

 教えを思い出しながら子どもたちは2か所に分かれてティーバッティングを行い、八木さんがアドバイス。次は守備位置に散らばってのシートバッティングと続きます。シートバッティングを野球教室でやるのは珍しいかも?と思ったら、なんと「休憩を挟んで紅白戦をやります!」と。こ、紅白戦?それはすごい。全部で12人(この日は島外のチームから1人参加)しかいないけど、そこは心配無用でした。

 三菱マテリアル直島製錬所野球部(軟式)と、町役場の軟式野球部からお手伝いに来てくださっていたのです。なんたって全員が直島野球少年団のOBですからね!子どもたちは2チームに分かれ、足りないところは強力な助っ人の皆さんが守備も打席も手伝ってもらいます。

「代打・八木」に沸く観覧席

4回表、代打で2点タイムリー二塁打を放った“神様”。
4回表、代打で2点タイムリー二塁打を放った“神様”。
(左)内角に思わずのけぞる八木さん。(右)押し出し四球で生還。
(左)内角に思わずのけぞる八木さん。(右)押し出し四球で生還。

 レッドタイガースとホワイトタイガースというチーム名での紅白戦、先発ピッチャーは背番号10のゆいとくん(キャプテン)と、背番号1のかんたくん。一番小さな男の子は1年生で、背番号0のこうあくん。また女子も2人いて、4年生のくれあちゃんと3年生のみずきちゃん。紅白戦ではセカンドを守っていました。

 なお、それぞれのチームが1度ずつ「代打・八木」を使える特別ルールですが、これは条件つきです。攻撃が始まる際に「代打、お願いいします」と選手が言いにいったら「チャンスでないとダメ」と却下されました。また走者を置いていても序盤は子どもたちだけで打順を組んでいたため、お願いすると「大人の時じゃないとダメ」と、これも却下です。

4回まで行われた紅白戦。結果はご覧のようになりました。
4回まで行われた紅白戦。結果はご覧のようになりました。

 試合は、走者が出るものの1回から3回まで両チーム得点なし。3回裏のレッドタイガース攻撃中に、ようやく「代打・八木」登場しました。レフトフライという結果に“神様”は苦笑い。そして0対0のまま迎えた4回表、1死二、三塁として八木さんがマイクで「代打オレ」と自らコール。打球は左中間のネットをワンバウンドで超えてエンタイトルツーベース!2点タイムリーです。そのあと満塁になって押し出し四球があり、サードにいた八木さんが生還。この回3点を取ったホワイトタイガースが裏を抑え、3対0で勝っています。

 ちなみに2度目の代打では、八木さんのヒッティングマーチが!保護者の方が思いつかれたみたいで、皆さんも手拍子しながらの大合唱でした。それにタイムリーで応えた“代打の神様”、さすがですね。

閉会式後に、自身の名前が書かれたサインボールを手に記念撮影。ホワイトタイガース先発、エースでキャプテンのゆいとくんです。
閉会式後に、自身の名前が書かれたサインボールを手に記念撮影。ホワイトタイガース先発、エースでキャプテンのゆいとくんです。

 閉会式では1人ずつに八木さんからプレゼントがあり、子どもたちは恥ずかしそうに受け取っています。プレゼントはサインボールで、それぞれの名前入りなんですよ!八木さんが前もって書いてくれたもので、受け取った際にそれを見つけて驚きながら浮かべる笑顔が最高ですね。もらったボールを手に1人ずつが八木さんと写真を撮りました。この日のことは大きくなっても忘れないでしょう、きっと。

監督も驚きの集中力を発揮!

 それは子どもたちだけでなく、お手伝いに来てくださったOBの方々も、選手の親御さんも同じです。いや、それ以上かもしれません。小林町長は「大阪で働いていた当時、仕事終わりでよく甲子園に行きましたよ」と懐かしそうに言われ、直島野球少年団の秋友裕隆監督(46)も「八木さんは僕が子どもの頃のヒーローですから!」ときっぱり。すべて終わったあと秋友監督に、この日の野球教室を振り返って話を聞き、少し驚いたことがあります。

紅白戦で声援を送り、見事なヒットに笑顔の小林町長(右)。
紅白戦で声援を送り、見事なヒットに笑顔の小林町長(右)。
直島野球少年団の秋友監督。三塁コーチを務められました。
直島野球少年団の秋友監督。三塁コーチを務められました。

 開会式やキャッチボールの際はまだ恥ずかしいのかなと思ったけれど、ノックを受けたりバッティングをしたりしている時も、どちらかというと静かだった子どもたち。でも紅白戦では声が出ていたのです。特に守備についた選手たちが「さあ来い!」とか「よし!」と、見違えるくらい大きな声でした。

 かなりテンションが上がっていたのでしょうか?と尋ねたら「テンション高いですねえ!それに集中力も高かった」と秋友監督は驚いた様子でした。集中力もですか?「そうです。キャッチボールで、ほとんど抜かさなかった(逸らさなかった)。普段は必ず暴投になって、1人が必ずボールを拾いに走っていくんですよ。次にその子が投げたらまた暴投で相手が拾いに走って。だから2人で向かい合っている組が全然ないくらい(笑)」

 普通に見ていましたけど、そうだったんですね。「それが、きょうはキャッチボールになっていたので。すごい集中力でした」。では紅白戦の時の大きな声も、きょうは特別ですか?「はい。いつもは静かです。大人しいもんで」と苦笑いの秋友監督。今後は常に集中してやっていけるでしょう。八木さんとの一日を思い出して。

企画、営業も直島野球少年団OB

三菱マテリアル直島製錬所野球部と直島町役場野球部の皆さん。
三菱マテリアル直島製錬所野球部と直島町役場野球部の皆さん。

 最後に。2015年秋まで1年間、阪神のファーム担当だったミズノの中元翔さんも、八木さんの直島来訪をものすごく喜んでいた1人です。実は中元さん、この直島町出身(今もたまに実家へ帰っている)で、もちろん直島野球少年団のOB。現在は営業部に異動して、岡山や鳥取方面を担当していると聞きました。

 連携協定も、生まれ育った直島で自分ができることは何かないだろうかと考えるうちに、たどり着いたのでしょう。企画して営業して、今回の野球教室では司会もこなすマルチ営業マンです。そんな中元さんと、この日の直島でお会いした方々はみんな顔見知り。町民グランドに集まった人はみんな直島野球少年団のOBという、今の時代にはとても羨ましい環境でした。いいところですね。

開会式で司会を務める中元さん。
開会式で司会を務める中元さん。

 何といっても当日の早朝まで雨が降っていて、野球教室を終えて全員が町民グランドを引き揚げた直後に、また雨が降ったことにビックリ!帰りに中元さんのお父さんが手渡してくださった“町勢要覧”に「一年を通して晴れの日が多い直島」と書いてあるの見て納得した次第です。直島町の皆様、本当にありがとうございました。またお邪魔します!

    <※以外の掲載写真は筆者撮影>

フリーアナウンサー、フリーライター

兵庫県加古川市出身。MBSラジオのプロ野球ナイター中継や『太田幸司のスポーツナウ』など、スポーツ番組にレギュラー出演したことが縁で阪神タイガースと関わって約40年。GAORAのウエスタンリーグ中継では実況にも挑戦。それからタイガースのファームを取材するようになり、はや30年が経ちました。2005年からスポニチのウェブサイトで連載していた『岡本育子の小虎日記』を新装開店。「ファームの母」と言われて数十年、母ではもう厚かましい年齢になってしまいましたが…1軍で活躍する選手の“小虎時代”や、これから1軍を目指す若虎、さらには退団後の元小虎たちの近況などもお伝えします。まだまだ母のつもりで!

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