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阪神ファーム・矢野監督が受け継ぐ「厳しくて、思いっきりやさしい」星野イズム

岡本育子フリーアナウンサー、フリーライター
10日の夕方、試合と練習が終わったあとで矢野監督にポーズをお願いした写真です。

 東日本大震災から7年が経った11日はプロ野球のオープン戦が各地であり、その試合前に黙祷がささげられたようです。阪神タイガースも1軍のオープン戦(対巨人)が始まる5分前に甲子園球場で、またファームは12時半開始の交流試合・滋賀ユナイテッド戦の前に行いました。ことし入団してきた馬場皐輔投手、熊谷敬宥選手は宮城県出身。中学3年生の卒業式直前に経験したんですね。

 この2人と同じルーキーの高橋遥人投手が甲子園で先発。1点失ったとはいえ、落ち着いた投げっぷりを披露しました。マウンドではいつも通り飄々と、でもベンチでは抑えて戻った時も何だか落ち着かない様子で、まだ居心地悪そう。それが初々しくてたまりませんね。そしてチームもようやくオープン戦初勝利。ここからです。

ふと気づく、星野さんの教え

 さて、ことし1月4日に亡くなった星野仙一さんの追悼試合として行われた10日のオープン戦(対中日)は阪神が全員『77』の背番号と星野監督時代のタテジマユニホーム、中日は背中が20番で胸に77番をつけての戦いでした。引き分けという結果に、空の彼方で星野さんがニヤリと笑ったような気もします。秋山拓巳投手と原口文仁選手の先発バッテリーは素晴らしかったですね。

 そして鳴尾浜の交流試合も全員が77番。ファームには2003年の優勝を経験したコーチが多く、それぞれ当時に思いを馳せながらの一日になったでしょう。特に矢野燿大監督は、すべての節目にあの闘将がかかわっている巡り合わせ。お話を聞いたのは試合後ですが、先に紹介させてください。

 最初のひとことは「77番をつけるなんて一生に一回というか、ないし」でした。そして次々に思い出が出てきます。

 「中日時代はトレードも出されたし、阪神では優勝もさせてもらったし、獲ってもらったのも星野さん。一番お世話になった方。それが急に…。でも、こういうふうに、みんなで偉大な方を思い出す機会が今後もあればいいなと思う」

 「俺の中の“星野イズム”ってのは、指導者になって冷静に考えたら『あ、これ星野さんが言っていたことやな』というのがいっぱいある。厳しい部分と、思いっきりやさしい部分があって、星野さんのすごいところだったと思う。それを若い子に、内面の部分も技術の部分も伝えていきたい」

解放させながら厳しさもある

 ファームの監督となって、掲げたのは“超積極的”という方針。「1軍ではやっちゃいけないことが多い。俺も若い頃、怒られるんちゃうかなあと思っていたことがあるし。でも上でやるために、ここでは(失敗しても)いいんやから。半歩出て牽制でアウトになってもいい。みんなの可能性を引き出してあげたい」

すべての練習が終わり、最後に残ったルーキーズ。熊谷選手(右)と島田選手(左)。
すべての練習が終わり、最後に残ったルーキーズ。熊谷選手(右)と島田選手(左)。

 「俺らが勝手に先入観を持って見ていることもあるんでね。たとえば伊藤隼太などは(2月の)キャンプでそれがわかった。守れるよ、肩も強くなってるよ、走れるやん!ってね。ある意味、自分たちも“勘違い”できる。そういう選手が出てきてほしい。早くチャンスがくれば、上で見せてくれるんじゃないかな」

 星野イズムは、矢野監督いわく「“解放”させながら、厳しさもあるよと伝える」ことで浸透していくのかもしれません。「試合の中では勝つことに厳しい人だった。自分が引退して何年も経って、コーチになって2年目。バレンティンとやったのも星野さんの、ピッチャーを守ってやれという教えだったかなと。とっさに藤浪が…と思って(飛び蹴りをしに)行ったのも冷静になって考えれば。まあ空振りやったけどね」。もちろん乱闘を推奨しているわけではないとのことです。

 「ベンチで声を出すとか、1軍でも2軍でもやっている。それはどこから?と思ったら、ああ星野さんだったなと気づく」

筒井コーチの『77』ユニホームです。
筒井コーチの『77』ユニホームです。

 すべての練習が終わった夕方、誰もいないグラウンドでユニフォーム姿になってもらい、背中越しに写真撮影。矢野監督は「ほんま記念になるなあ」と、とても感慨深げでした。また筒井壮守備走塁コーチにも撮影をお願いしたところ「追悼試合を両方でやってもらって、お別れの会も東京と大阪であって、すごいことですよ」と話しながらユニホーム姿に。偉大な叔父さんの遺志を筒井コーチがしっかり受け継いでくれるでしょう。

鳴尾浜は完封勝ちが続いています

 お待たせしました。10日に行われた四国アイランドリーグplus・香川オリーブガイナーズとの交流試合結果です。3得点は梅野選手のタイムリーと植田選手の遊ゴロ、熊谷選手の犠飛。先発の福永投手は5回を投げ、2安打8三振3四死球で無失点。そのあと山本投手が2回を完ぺきに抑え、安芸キャンプ中の2月12日の練習試合(ハンファ戦)以来の登板となった尾仲投手が1回を無失点、最後は伊藤和投手が三者凡退で締めました。

 これで2試合連続の完封リレー!と思ったら、きょう11日のルートインBCリーグ・滋賀ユナイテッド戦も5対0で完封勝ちだったとか。これで3試合連続の無失点ですね。投手陣、頑張っています。次は13日と14日にナゴヤ球場で中日と対戦して教育リーグ終了。ウエスタン・リーグは1週間後に開幕です。

《交流試合》

 阪神- 香川 (鳴尾浜) 

  香川 000 000 000 = 0

  阪神 000 110 10X = 3

  

◆バッテリー

【阪神】福永-山本‐尾仲‐伊藤和 / 岡崎-小宮山(8回~)

【香川】畝(3回)-石田(1回)-森崎(0/3回)-秀伍(2回)-箱島(0/3回)-原田(2回) / 三好

◆二塁打 阪神:植田

◆打撃 (打-安-点/振-球/盗塁/失策)

1]右:島田  (4-0-0 / 2-0 / 0 / 0)

2]二:植田  (4-2-1 / 0-0 / 1 / 0)

3]一:荒木  (3-0-0 / 0-1 / 0 / 0)

4]中:伊藤隼 (4-1-0 / 1-0 / 0 / 0)

5]左:板山  (4-0-0 / 1-0 / 0 / 0)

6]指:梅野  (2-1-1 / 1-0 / 0 / 0)

〃打指:今成 (2-0-0 / 2-0 / 0 / 0)

7]三:森越  (1-0-0 / 0-2 / 1 / 0)

8]捕:岡崎  (3-0-0 / 0-0 / 0 / 0)

〃捕:小宮山 (0-0-0 / 0-0 / 0 / 0)

9]遊:熊谷  (1-1-1 / 0-1 / 2 / 0)

7回、熊谷選手の中犠飛で
7回、熊谷選手の中犠飛で
森越選手が生還!ホームインの写真は見事に審判さんとかぶっちゃいました…。
森越選手が生還!ホームインの写真は見事に審判さんとかぶっちゃいました…。
先発の福永投手。いろんな球種で5回8奪三振でした。
先発の福永投手。いろんな球種で5回8奪三振でした。

◆投手(打-振-球/失点-自責) 最速キロ

福永  5回103球(2-8-3 / 0-0) 145

山本  2回 34球 (0-2-0 / 0-0) 136

尾仲  1回 17球 (1-1-1 / 0-0) 144

伊藤和 1回 12球 (0-0-0 / 0-0) 147

<試合経過>※敬称略

 まず阪神の攻撃。3回2死まで完璧に抑えられていた打線は、熊谷のセーフティバント成功(投手への内野安打)により初の走者を出します。島田の打席で4度も牽制されたにもかかわらず、1球目で盗塁を決め2死二塁としましたが、ここは得点なし。

 しかし4回、先頭の植田がファーストへの内野安打で出て初球で二盗成功。1死後に伊藤隼の中前打(内野との間にポトリ)などで2死一、三塁となり梅野が左前タイムリー!さらに5回は熊谷が四球を選び、また盗塁。島田の中飛で三塁まで進み、続く植田の遊ゴロで生還して2点目が入ります。

 7回には四球を選んだ先頭の森越が二盗、岡崎の中飛で1死三塁として熊谷の中犠飛でもう1点追加。8回は先頭の植田が右前打を放ち、荒木の四球で無死一、二塁とするも、後続がすべて三振に倒れて無得点。

2人目は山本投手。2回パーフェクトです。
2人目は山本投手。2回パーフェクトです。
尾仲投手は1か月ぶりの登板となりました。
尾仲投手は1か月ぶりの登板となりました。
最後は安定の伊藤和投手が三者凡退締め!
最後は安定の伊藤和投手が三者凡退締め!

 次に投手陣。先発の福永は先頭から2三振を奪って三者凡退の立ち上がり。2回は4番・クリスに左前打、2死後に死球を与えますが点は与えません。3回も1番・岡村のサード内野安打と四球があったものの無失点。そして4回は5番からの3人をすべて空振り三振(3回からでは4者連続)に切って取りました。

 5回は先頭に四球を与え、犠打で二塁へ。岡村のゴロを捕った福永は振り返って二塁へ送球。ショート熊谷が一塁へ転送して併殺!と思ったら…え、オールセーフ?思わず「ええーっ」と膝に手をつき、ガックリと肩を落とす福永。塁審に訴える熊谷と植田。しかし特に抗議もなく、記録は投手の野選でゲームは続きます。2死後にバッテリーエラー(暴投か捕逸か微妙)があり二、三塁とするも、最後は二飛。福永は5回2安打8三振で無失点です。

 ついで山本が登板して、6回は2奪三振で三者凡退、7回も三者凡退とピシャリ!8回は尾仲と小宮山のバッテリーに代わって、1死から途中出場の白方に四球を与え、盗塁を決められます。続く3番・中村の中前打でホームを狙った白方を、伊藤隼が捕殺!尾仲も無失点で、9回は好調を維持している伊藤和がビシッと三者凡退締め。2試合連続の完封リレーでした。

「いかに次へつなげるかを考えて」

 では選手のコメントです。3回にバントヒットと盗塁、5回は四球と盗塁、7回が犠飛で1打数1安打1打点の熊谷選手。3回のセーフティーバントについては「前の打者にフライが続いていたから、あそこで簡単にフライを上げるのではなく、次につなげるため何としても出塁したかったので、セーフティをしました。ファウルでもいいイメージで打とうと。うまくいきました」と言いながら、そのあと続けて「まぐれです」と小さな声。ちゃんと聞こえましたよ(笑)

試合後に取材を受ける熊谷選手。さりげなくバットが写るように持ちました。
試合後に取材を受ける熊谷選手。さりげなくバットが写るように持ちました。
香川の4番・クリス選手。せっかくなので(何が?)イケメンを並べさせていただきます!
香川の4番・クリス選手。せっかくなので(何が?)イケメンを並べさせていただきます!

 盗塁2つですね。「初めて対戦するピッチャーで、クイックや牽制(をどうやってくるか)がわからない中、リードを大きくしたりして、うまくできたんじゃないかなと。今のうちはどんどん積極的にやって、自分のレベルを知るべき。きょうはうまくいったので、気持ちの面で自信がついたなと思います」。そして「目指すところは1軍の試合での盗塁。ここでどれだけ走れるかがカギになってくるので、自信があるというより自信を持てるようにしていきたい」と熊谷選手。

 ちょっと自信をなくしていた?「なかなか守備もバッティングもうまくいかなくて、盗塁でいい状態のリズムを作れているかなと。また、9番にいることを考えながらやっています。どれだけチャンスを作って1番に回せるかを考えながら」。きょう11日も9番で先発出場してタイムリー、盗塁もあったようです。

 ちなみに10日の練習がすべて終わった時、熊谷選手と一緒に引き揚げてきた島田海吏選手は、何やら自分に腹を立てている様子。どうしたのか聞いてみたら「打てない」と。いっぱい悩んで、たくさん吸収してください。最後は植田海選手です。8回の右翼線二塁打は左打席で放った強烈な当たり。よかったでしょう?「そうですね。よかったですね。でも、たまたまです」という言葉を残して室内練習場へ打ち込みに行きました。

 最後に、先発した福永投手は5回の野戦を「アウトにできたと思っていました」と振り返ります。確かに、かなり残念がっていましたもんね。でも試合後、福原忍投手コーチから「よく後ろを見て、よく投げた。ナイスプレー」と言ってもらったそうですよ。フィールディングも大切な仕事。自分自身を助けますから。なお、これ以外の福永投手コメントは次の記事でご覧ください。→<阪神・福永春吾投手 甲子園のマウンドに残してきた課題を解くのは自分自身>

    <掲載写真は筆者撮影>

フリーアナウンサー、フリーライター

兵庫県加古川市出身。MBSラジオのプロ野球ナイター中継や『太田幸司のスポーツナウ』など、スポーツ番組にレギュラー出演したことが縁で阪神タイガースと関わって約40年。GAORAのウエスタンリーグ中継では実況にも挑戦。それからタイガースのファームを取材するようになり、はや30年が経ちました。2005年からスポニチのウェブサイトで連載していた『岡本育子の小虎日記』を新装開店。「ファームの母」と言われて数十年、母ではもう厚かましい年齢になってしまいましたが…1軍で活躍する選手の“小虎時代”や、これから1軍を目指す若虎、さらには退団後の元小虎たちの近況などもお伝えします。まだまだ母のつもりで!

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