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阪神タイガース・原口文仁選手が『カミカミ王子』になってしまった理由

岡本育子フリーアナウンサー、フリーライター
5月17日、甲子園でのお立ち台は高山選手(右)と“普通に”しゃべっていました。

きのう7日の午前、関東、東海、中国、四国とともに梅雨入りした近畿。昨年は4日くらいだったかなあと記憶をたどっていた午後、セ・リーグとパ・リーグの5月度月間MVPが発表されました。そういえば昨年の5月度MVPは原口文仁選手が受賞し、「○○選手以来○年ぶり」という表現がてんこ盛りだったのを思い出します。その当時の記事は、こちらからどうぞ。<祝・月間MVP受賞!新たな“勲章”にも、感謝と謙虚さを忘れない原口文仁選手>

今季は試行錯誤しながらも、4月6日に放った人生初のサヨナラホームランなど、印象深いヒットがある原口選手。きょうは6月6日のオリックス戦(京セラ)終了後に行われたヒーローインタビューの件でどうしてもお伝えしたいことがあり、記事を書かせていただきました。あとで「なんや~それ!」と突っ込まれるであろうことは覚悟しつつ…。すみませんが、お付き合いください。

衝撃の『カミカミ王子』

原口選手のヒーローインタビューは4月6日が今季初。京セラドームでのヤクルト戦、延長11回に放ったサヨナラホームランの日です。次が4月16日の広島戦(甲子園)で、これは8回の勝ち越しタイムリーが決勝打となって今季甲子園初のお立ち台。また5月17日の中日戦(甲子園)では同点のソロホームランが出て、勝ち越し二塁打の高山選手と2人でお立ち台に上がりました。

そして6月6日のオリックス戦(京セラ)は、3打数3安打の活躍により今季初めてビジターでのヒーローとなって、問題のインタビューを迎えます。阪神はビジターチームだったものの、その声が場内に流れたことで問題は起きたのです。

第一声の「ありがとうございます!」は普通に答えていたものの、ここから少しおかしくなってきました。「前のバッターたちが、もうホントつないで、つないどぇという打席だったん」。自分でも違和感があったのか、ちょっと怪訝な表情。それでも一生懸命続けます。「まあ僕も…つなぐ意識で入りました」

そして本人いわく「きょうは抑えめにした」という、おなじみの「必死のパッチで打ちました!」は問題ありませんでした。これで立ち直ったかに見えたのですが、ますます深みにはまっていく様子は、まるで底なし沼。

ひとことずつ間を取りながら答えて後半へ入り、秋山投手のことを聞かれた時です。「アキも、初回2点取まれましたけろ、粘っていたので、いい援護ができてよかったです」。さらに「やっぱり結果が求められる立場なのなのれ、ほんと出た時にしっかり結果を出したいと…思い…ま…す」。ブツ切れになっちゃいました。

締めくくりは「きょうも、たくさんの応援ありがとうゴザマシタ。1試合、1試合、全力で頑張ります。よろしくお願いしめぇす!」。最後の『しめぇす!』は原口選手が帰宅後、奥さんと2人でもう一度見て、大笑いしたそうですよ。私が一番ウケたのは、あまりに噛みまくっていたから「電波障害かと思いました(笑)」という奥さんの言葉です。今こうやって書いていても腹筋が痛いほど笑えます。

って、ここまで書かれると思っていなかったでしょう、原口選手も。すみません。これで終わったら本当に怒られますね。もともと丁寧に言葉を選びながら話すタイプなので、流暢なしゃべりではありませんが、これは衝撃でしたねえ。なぜこんなカミカミになってしまったのか?その言い訳…ではなくて、原因を伝えなくては。

しゃべりながら聞こえる自分の声に…

実は「自分のしゃべった声が聞こえて、メチャクチャやりづらかった」のだそうです。屋外や広い会場の中だと、スピーカーを通じて場内に流れる音は遅れて聞こえます。放送業界では“返り”と表現していますが、いっこく堂さんみたいな感じですかね。その差が少なければ自分がゆっくりしゃべったり、言葉の間を空けたりすることで対処できるけれど「京セラドームは返りが遅いので、やりにくかった気がする」とインタビューを担当したことがあるアナウンサーの方も言っていました。

運動会やお祭り会場などでマイクアナウンスをしたことがある方なら実感されたと思います。屋外では、かなりしゃべりにくい。こだまを聞きながら、別のことを話さなくてはならないようなもので。それが屋内でもドームみたいに大きな会場は、やはり遅れが生じるんでしょう。インタビュアーはプロなので対処できますけど、答える方はそうじゃないですもんね。

というわけで、場内に響き渡る音が遅れて自身の耳に届くため「なんか、しゃべってる最中に違う自分の声が聞こえて。あれ?なんだろう?って。そこで止まって聞いてしまったんですよ」と必死で訴えました。なるほど、それで間がいっぱい空いてしまったと。「その声に気を取られたら、何を言ってるかわかんなくなっちゃって…」日本語を習いたての人みたいになったと。「とにかく本当にしゃべりにくかったんです」。よくわかりました。

その場で講じた対策は、センテンスを短くすることだったみたいですよ。返りが聞こえてくる前に文章を終わってやろうと。これ、なかなかの対処法だと思います。もしかしてスポーツ選手のインタビューで答えが短いのはそのせい?ぶっきらぼうなんじゃなくて。私は、放送局の人に言ってイヤホンを借りれば楽だとアドバイスしました。それなら反響した声でなく、いま自分がしゃべっている声を聴くことができるはずだと。でもヒーローインタビューでイヤホンを貸してくださいとは言えませんよねえ。

SNSなどでも原口選手の噛みっぷりが話題になっていたので、こんな理由があったんだと皆さんにお伝えしなければと思い、急きょ記事を書かせていただきました。でも4月6日のヒーローインタビューも京セラドームだったんですよ。あの時の映像を見たら普通にしゃべっているのに。ホームゲームの場合は、後ろにあるボードのおかげで返ってくる音が聞こえにくいのでしょうか?そこは謎のままです。

テンションの上がった出来事は

ところで、ことし原口選手で印象に残る試合といえば、5月10日の巨人戦(東京ドーム)もそうですね。8回表に代打で右前打を放ち、その裏の守備で今季初マスクをかぶった、あの試合。翌日のスポーツ紙などを見ると「少し驚いたくらい」と平静を装っていましたが、なんのなんの!攻撃が終わってベンチに戻った時、矢野バッテリーコーチに「キャッチャーな」と言われたそうです。笑いながら。なので冗談かと思いきや「本当に道具を準備されていた」と。

防具を身に着け、涼しい顔で出ていった原口捕手ですが、実は「テンパっていましたよ~!汗の量が尋常じゃなかったです」という、ぶっちゃけ話も。と言いつつ、振り返りながら非常にテンションが高かったのも事実。やっぱり、どこか気持ちに“張り”ができたのではないでしょうか。「こういう使い方もあるんだなと思いました」と言っています。キャッチャーで出場している時の打率は、それ以外より高かった選手ですもんね。

また、6月3日の日本ハム戦(甲子園)で見せた守備も印象的でした。3対2の6回表1死一、二塁で大野選手が遊ゴロ。ショート・糸原選手からセカンド・上本選手と渡って二塁は封殺、しかし一塁走者・大田選手と接触した上本選手の一塁送球が乱れ (リプレー検証を行うも守備妨害にはならず)、一塁ベースから外野方向へ大きく逸れたボールをファースト・原口選手が飛び込んでキャッチしたのです。これはスタンドで観戦していた元阪神の森田一成さんも、仲の良い後輩のプレーに「うまい!」と思わず大きな声が出ていたことを付け加えておきましょう。

あれを止められなかったら同点になってしまい、岡崎選手のお立ち台は実現しなかった可能性も。このあとピッチャーと交代してベンチに下がった原口選手は、全員から称賛を浴びているところがテレビに映っていました。名手・大和選手も褒めてくれていたみたいですね。他にも送球や打球を全力で捕りにいく姿は、これぞ原口選手という感じ。守っても “必死のパッチ” です。本人も自画自賛…はしませんが、大きな守備だったと噛みしめていました。テンションは高かったですよ(笑)

不屈の精神と変わらぬ姿勢

原口選手にとっては昨年が初めての1軍ですから、今季はいわゆる“2年目”。以前と同じようにいかないのは承知の上でしょう。初めて開幕を1軍で迎え、3月31日の開幕・広島戦(マツダ)に先発出場。「最初は胃が痛かった」と言いながらも4打数3安打1打点と上々の滑り出しでした。しかし昨年とは違って、スタメンを外れることや出番なく終わる試合もあり「仕方ないですよ。2割5分じゃ」と。それでもサヨナラホームランや、先制タイムリー、決勝打など勝利に貢献もしています。

6月6日に放った3安打は、3月31日の開幕戦以来の猛打賞で今季まだ2度目。「かなり久しぶり」と苦笑いの原口選手です。状態は上向きかと尋ねたら「まだまだ油断はできないです!頑張ります!継続!」という言葉が返ってきました。きのう7日も併殺崩れの間に先取点、4回には先頭で二塁打を放ち中選手のホームランで生還しました。5試合連続安打で、なんとなく打席での力みが消えたように見えますね。

ここまで、ため息まじりで「打てない」とつぶやいたことも、守備でのエラーに肩を落とした日もありました。どうしても周囲は昨年と比べてしまいますが、原口選手本人は良い時もそうでない時も変わらない姿勢です。久しぶりに会った森田一成さんの「フミは絶対にあきらめんから。それがアイツのすごいところ」という賛辞を思い出しますね。不屈の精神とたゆまぬ努力で“2年目”も乗り切っていくはず。その前に、今夜また活躍して京セラドームでのヒーローインタビューも克服してください!

フリーアナウンサー、フリーライター

兵庫県加古川市出身。MBSラジオのプロ野球ナイター中継や『太田幸司のスポーツナウ』など、スポーツ番組にレギュラー出演したことが縁で阪神タイガースと関わって約40年。GAORAのウエスタンリーグ中継では実況にも挑戦。それからタイガースのファームを取材するようになり、はや30年が経ちました。2005年からスポニチのウェブサイトで連載していた『岡本育子の小虎日記』を新装開店。「ファームの母」と言われて数十年、母ではもう厚かましい年齢になってしまいましたが…1軍で活躍する選手の“小虎時代”や、これから1軍を目指す若虎、さらには退団後の元小虎たちの近況などもお伝えします。まだまだ母のつもりで!

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