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西田直斗選手 ―自分で変えた自分を信じて 《6/21 阪神ファーム・後編》

岡本育子フリーアナウンサー、フリーライター
悩み続けた日々、自分の中で何かが変わったという西田選手。その結果に少し笑顔も。

2週続けて6連戦だった阪神ファーム。うまい具合に(?)先々週は木曜日が、先週は金曜日が雨天中止になったので少し疲れが取れたかもしれませんね。そして先週は鳴尾浜での6連戦で4勝1敗1雨。16日は江越選手の3ランで、17日は一二三選手の満塁ホームランで勝ち越し、18日は北條選手のサヨナラ犠飛で中日に3連勝。20日は負けてしまった広島に、21日は9対2と大差で勝ちました。現在は32勝29敗4分けで3位、2位のソフトバンクと2ゲーム差です。

きょう23日は試合がなく、24日と25日は鳴尾浜でソフトバンク3軍との練習試合が組まれています。週末はオリックス戦で、26日と27日が舞洲ベースボールスタジアム、28日は神戸サブ球場。そして1軍は26日から甲子園にDeNAを迎えて3連戦の予定ですが…困ったことに25日あたりからお天気が怪しいんですよねえ。台風8号が遠くから梅雨前線に影響を及ぼすとか。予報がいい方に変わってくれるよう祈ります。

さて、21日に行われたウエスタン・広島戦での話をきのう書きましたが、きょうはその後編をお送りします。試合の結果と得点経過、また山本投手、岩本投手、守屋投手、横田選手のコメントは前編でご覧いただければ幸いです。こちらからどうぞ。<今季3度目の先発全員安打!横田が8号を含む4打点《6/21 阪神ファーム・前編》>

では、阪神打線が今季3度目となる先発全員安打を5回に達成し、今季最多タイの17安打を放った21日のウエスタン・広島戦。3安打した好調の森越選手や中谷選手、移籍後初安打のペレス選手、徐々に感覚を取り戻している陽川選手、そして、悩み続けた日々に灯りが見えてきた西田選手の話をご紹介します。

「ボールは見えています」

そろそろ、この姿も鳴尾浜で見納めになるといいですね。森越選手。
そろそろ、この姿も鳴尾浜で見納めになるといいですね。森越選手。

森越選手は今季初の3安打。「1つ凡退がありましたけど、感じは悪くなかった。きのうの凡打とは内容が違いますね。前に1番で5タコだったので何とかチャンスを作りたかった。1打席目から積極的に振っていこうと思って、その結果2本目、3本目につながったのかなと思う。1番バッターはまず塁に出ることで、初回の1本が気持ち的に楽になりますね。それでチームもいけるかな、相手ピッチャーが調子悪いのかなと思うだろうし、もしかしたら相手ピッチャーもそう思うかも」

なるほど、いろんな効果が初回の先頭打者ヒットにはあるわけですね。そのあと5回にはタイムリーも出ました。「4対1だったけど、広島にはセーフティーリードじゃないので何とかしたかった。前の広島で、このピッチャーから2本打っていたので」。確かに12日のマツダスタジアムも1番で、急きょ先発した佐藤投手から初回に内野安打、3回にタイムリー三塁打しています。

記者陣に、“覚醒”と呼んでもいいですか?と聞かれた森越選手は「それは過言です」と、質問に重なるほどの即答。続けて「まあボールは見えていますね」と言い、止まって見えるくらいかと返されたら、今度は「140キロには見えます。止まってはいない。140キロは140キロです」とキッパリ。さすが森越選手ですねえ!過言、140キロ、笑わせていただきました。締めは真顔で「ちょっと頭を使って配球を読んでみたりとか、気持ち的な余裕が打席の中であります」という答えでした。

中谷3安打、ペレス初安打、陽川1打点

同じく3安打の中谷選手は「3本、久しぶりですねえ。楽天戦以来じゃないですか?」と言っていました。そうですね。5月23日のファーム交流試合・楽天戦(甲子園)で中前打、左中間二塁打、左翼線タイムリー二塁打と3打席連続で打って以来です。あの時に.327あった打率が少し下がってきた時は「ちょっとワケがわかんなくなっていた」と振り返りますが、もう大丈夫なのでしょう。「きょうはよかったですね」と笑顔でした。

2ランで戻ってきた中谷選手(右)、横田選手の頭に手を出すペレス選手も見えますか?
2ランで戻ってきた中谷選手(右)、横田選手の頭に手を出すペレス選手も見えますか?

ペレス選手は、出場2試合目で初ヒット!「きのうより断然、状態はいいです。100%に近づいている感じ。これからもっと何本もヒットが出てくる気がします。掛布さんに、しっかり体重を後ろに残す方法を教えてもらいました。それを意識して、きょうはボールを見られた部分もあった。一生懸命やっていれば、いいことがたくさん起こると思う。毎日、全力でやっていきたい」。本当に真面目な選手ですね。

打席に入る前、ネクストでピッチャーの球を見る陽川選手。
打席に入る前、ネクストでピッチャーの球を見る陽川選手。

5回に強烈な中前打、6回は中犠飛と貢献した陽川選手。日増しに調子が出てきているようで「感覚的にはよくなっていると思います。センター前は差し込まれていたんですけどね。6回は、どんな形でも何とかランナーを還せたらいいと思って。それが犠牲フライになってよかったです。ただ真っすぐを打てていないので、そこをもっと意識してやっていきたい。対応していけるように」と話しています。

自分の中で“変わった”こと

最後は西田選手。この日は8番DHで先発出場し、2回に左前打、3回は1死一、三塁で左前タイムリーを放ちました。打点を挙げたのは6月7日のファーム交流試合・日本ハム戦(三条)での犠飛以来で、タイムリーとなると4月30日のオリックス戦(鳴尾浜)以来。さらにマルチヒットも4月26日のファーム交流試合・巨人戦(ジャイアンツ)以来のことだったんですね。ウエスタン・リーグ開幕直後から好調で、4月にも3割を超えるリーグトップの打率を誇っていたのですが、5月で急降下…。6月に入ってついに2割を切っていました。

「4月にあれだけいい感じだったのに5月はずっとダメで。今年いけるかなと(オフから)いろいろやって4月に結果が出たので、ああ間違ってなかったんやなと思いました。でももっとやらなアカンと毎日コツコツとやってきた。5月の打てていない間も。悔しくて自分に腹が立ったりしたこともあったけど、やることは続けていこうという気持ちでした。打てなくて止めるんじゃなくて。ウエートトレーニングや、全体練習が終わったあとの自分の練習を、いつか良くしてみせるという思いでやっていた」

一塁ベンチ横でティーバッティングを繰り返す西田選手。17時半過ぎまで続きました。
一塁ベンチ横でティーバッティングを繰り返す西田選手。17時半過ぎまで続きました。

昨年末に100メートル日本代表選手だった陸上競技指導者・朝原宣治さんのもとで“走り”を勉強したり、年明けは西岡選手らとの自主トレに参加したり、いろいろと取り組んできた西田選手。シーズンが始まってからも、本人が言うように1人で延々とバットスイングしながらグラウンドを1周する姿をよく見ます。この日は誰もいなくなったグラウンドの一塁ベンチ横で、何度も何度もティー打撃を繰り返していました。

「このままやり続けるつもりですが、打てていないので何か変えなアカンかなと。例えばフォームとか。それで、ちょっと前から変えてみました。外から見たらそんなに変化はないと思いますが、自分の中では違う形になっている。具体的には…あまり言いたくないんですけど。打っていて自分がちょっと窮屈で変な感じがするけど、それが合っているかもしれないからやってみようと、自分の中で変わった」

しっくりきているかと言えば、そうではないんでしょう。でも今までは、それで手を出さなかったものに挑戦する”意識改革”があったわけですね。こんな例え方をしたら違うと怒られるかもしれませんが…『好きな色ではないし、自分では絶対に選ばないであろう洋服だけど、周りの人からはとても似合うと言われる。だったら今までの固定概念を捨ててみよう!とチャレンジした結果、評判がよく新しい自分を見つけられた』という感じですかね。

簡単なようで、ものすごく勇気が要ったはずです。ましてや違和感を伴うとなれば、なおのこと。だけど敢えてやってみようと、西田選手の中で何かが動いたのだと思います。

個別練習を終えて引き揚げてくる西田選手。いい笑顔です。
個別練習を終えて引き揚げてくる西田選手。いい笑顔です。

「試合に出る機会が少なくなって悔しかった。右ピッチャーの時に出られないのが。バッティングに集中しようとしても、試合中に悔しかったり自分に腹が立ったりの2ヶ月でした。だけど最近いろいろやっての結果が出たかな、と思います。きのう(20日に代打で出場)のショートゴロも悪くなかったですね。きょうスタメンで使ってもらって最初のレフト前ヒットも“いい詰まり”だった。いい打ち方ができた。3打席目(右飛)も正面にいったけどよかったし、4打席目(左飛)は飛んでいたので」

これまでのことを振り返ると苦しい表情になる西田選手ですが「今のこの打ち方でも悪い時がくるかもしれないけど、そう落ちることはない気はします。きょうは1打席目のレフト前は、変えたことで、変えたからこそ出たヒットだと思う。今やろうとしていることが出たヒット。4月にもいいのはあったけど、感覚は全然違いますね。ファウルもいい感じでできている」と話す目は、明らかに強い輝きが見て取れました。この日、スタンド観戦はできなかったお父さんですが、父の日のいいプレゼントになったでしょう。

「いろんな人の話を聞いても、最後は自分。誰も助けてくれないので」

これが、そんな思いで歩いてきた試行錯誤の“出口”でありますように――。

フリーアナウンサー、フリーライター

兵庫県加古川市出身。MBSラジオのプロ野球ナイター中継や『太田幸司のスポーツナウ』など、スポーツ番組にレギュラー出演したことが縁で阪神タイガースと関わって約40年。GAORAのウエスタンリーグ中継では実況にも挑戦。それからタイガースのファームを取材するようになり、はや30年が経ちました。2005年からスポニチのウェブサイトで連載していた『岡本育子の小虎日記』を新装開店。「ファームの母」と言われて数十年、母ではもう厚かましい年齢になってしまいましたが…1軍で活躍する選手の“小虎時代”や、これから1軍を目指す若虎、さらには退団後の元小虎たちの近況などもお伝えします。まだまだ母のつもりで!

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