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阪神タイガースから社会人野球へ もと小虎たちが迎えた春

岡本育子フリーアナウンサー、フリーライター
社会人2年目で主軸を任される藤井選手(中)と穴田選手(左)、1年目の阪口選手。

今週はナゴヤに遠征中だった阪神ファーム、やっぱり雨で1試合流してきちゃいましたね。その間に、もと阪神の選手が所属する社会人野球3チームのオープン戦が行われました。しかも8日は、和歌山箕島球友会で社会人2年目を迎える穴田真規選手が、今年からパナソニックに入った阪口哲也選手と初めて相対する“タイガース同期の同級生対決”です。そして9日は、滋賀県のカナフレックスに入団して2年目の藤井宏政選手が大阪ガスと対戦しました。まずは8日の同級生対決からご紹介しましょう。

なお4月2日の記事『ライバルは同級生たち!社会人2年目を迎えた、もと阪神の穴田真規選手』でも、社会人野球や穴田選手の話を書いています。

見事なすれ違いでしたけど…

《社会人オープン戦》 4月8日

パナソニック-和歌山箕島球友会

(パナソニック)

箕島 000 000 000 = 0

パナ 400 020 10X = 7

完封負けを喫してしまった和歌山箕島球友会。それもなんと…ノーヒットです。私が着いたのは5回くらいだったんですけど、そういやヒットは見ていませんね。穴田選手は4番サードで先発出場。打席結果は遊ゴロ、見逃し三振、見逃し三振で、7回の守備から交代しています。箕島には阪口選手の高校のチームメイトだった北面投手と榊原捕手が新しく入団し、北面投手はリリーフ登板しました。阪口選手のご両親は哲也くんそっちのけ(?)で、もと同級生バッテリーの写真を撮ってらしたそうですよ。

打席に立つ穴田選手の背中を見つめる阪口選手。見えますか?ベンチの一番左です。
打席に立つ穴田選手の背中を見つめる阪口選手。見えますか?ベンチの一番左です。
阪口選手は代走で出て二盗、次のヒットでホームを目指して激走!
阪口選手は代走で出て二盗、次のヒットでホームを目指して激走!

阪口選手は残念ながらスタメンではありませんでした。7回裏に代走で出て盗塁成功、そのあとヒットで生還。7点目のホームを踏んでいます。そのままサードの守備についたものの打席はなし。結局、穴田選手が下がってすぐに阪口選手が出たわけで、見事なすれ違いですね。この日は、いつも鳴尾浜で小虎たちの試合や練習をご覧になっているお客様が大勢来られていて、2人が試合終了時に整列したところや立ち話をする様子を撮影されていました。

試合後、和歌山箕島球友会の西川忠宏監督は「きょう打ったら、これから穴田は4番で使っていこうと思っていたのに」と残念がっておられたんですけど「でも全員打ってないからねえ」と苦笑い。じゃあ追試をお願いします!と言いたいけど、きょうは都市対抗の予選ですからね。ま、何番であれ、しっかり仕事をしてくれますように。

変わらない同期の会話

試合後の整列で、ほぼ正面に。手前の60が穴田選手。向かい側で様子を見る阪口選手。
試合後の整列で、ほぼ正面に。手前の60が穴田選手。向かい側で様子を見る阪口選手。
久しぶりに会ったであろう穴田選手(左)と阪口選手なのに、会話は撮影会と化して
久しぶりに会ったであろう穴田選手(左)と阪口選手なのに、会話は撮影会と化して
お互いに照れまくり、お互いに顔を見て笑っていただけでした。
お互いに照れまくり、お互いに顔を見て笑っていただけでした。

では“てつあな対談”、そして阪口選手の話をご紹介します。まだグラウンド整備中だったにもかかわらず、2人が対面できるように手配してくださった両チームの監督、マネージャー、本当にありがとうございました。阪口選手は整備用のトンボを持ったまま、というか片時も離さずにいたもので、どの写真にもみんな木の棒が写っています。他の選手がグラウンド整備をしているのに申し訳ない、という気持ちだったのでしょうか。

日焼けのせいか、かなり引き締まった感じがする阪口選手。「痩せましたよ~チャリ通してるから。今は80キロ」と言ったあと穴田選手に向かって「デカなったな、お前」。「おう!95キロや」と穴田選手。えっ、そんなに増えた?「うそ、85キロ(笑)」。それにしても顔の色が全然違いますよねえ。鳴尾浜にいた頃と変わらないくらい真っ黒な阪口選手と、なぜか色白な穴田選手。「練習が夜なんで」。そうでした。箕島球友会は早朝から15時くらいまでマツゲンで働いて、そのあと17時から練習ですからね。

そうそう、代走で出てきた阪口選手に向かって一塁側ベンチから聞こえた「緊張しすぎやろ~!」っていう声。試合後に確認したら、思った通り穴田選手でした。穴田「だってメッチャ緊張して、顔が真っ青やったもん(笑)」。阪口「そらなるわ!いきなり言われたら」。平田前ファーム監督が聞いたら怒りそうな2人のやり取りです。そして対戦してみてどうだった?と聞いても穴田選手は「何とも思わん」と答え、阪口選手は「バイバイ、穴ちゃん!」と手を振って解散しました。

「まだちょっとしか打ってない…」

阪口選手は4月1日に入社式があって正社員となりましたが、まだ研修中です。新しい環境で初めてする仕事、少しずつ慣れていかないといけませんね。野球部のチームメイトとは、もう1月から一緒に練習を行っているので大丈夫でしょう。「だいぶ慣れました。みんな優しいんで。いろいろ教えてもらってます。会社のことも、社会人野球のことも。ありがたいです」

体重85キロの穴田選手(左)と80キロの阪口選手。……5キロ?
体重85キロの穴田選手(左)と80キロの阪口選手。……5キロ?

年齢的には「11人も入れ替わって、同い年と1つ上の人が全体の半分いる」とか。穴田選手の所属する和歌山箕島球友会はクラブチームゆえ、5年までの在籍期間で辞めていく人も多いみたいですが、企業チームのパナソニックも昨シーズン限りで退部した選手は結構いたんですね。もと阪神で、退団後に入社したパナソニック(当時は松下電器)でずっと4番を打っていた梶原康司選手も昨年末で引退。10年も4番に座り続けた、その梶原先輩の背番号「8」を阪口選手が受け継ぎました。

「でも、ちょっとしか打ってない…」と申し訳なさそうな顔をします。梶原選手のことはもちろん詳しく知らないでしょうし、背番号がプレッシャーになってはいないそうですが、3月はじめに鳴尾浜へ教育リーグを見に来た時も「いま10打数1安打なんですよ。ずっと1番で使ってもらってるのに全然打てない」とへこんでいた阪口選手。昨年の穴田選手と同じで、やはり「打たないとって、気持ちばっかり焦ってしまう」と言っていました。周りの目というより、自分でそう思って追い込んでいるのかも。

梶原選手だって同じだったそうですよ。「自分はプロ野球選手だったんだ」という、でもプライドとは違う何か…自覚みたいなものがあって、それがなくなった時に打てたと話してくれました。1年目の都市対抗野球の本大会に、NTT西日本の補強選手として参加したとき「ノックでボールに飛びついたり、バットをガンガン振らされたり。アマチュア野球に戻った瞬間だった」と言います。そうやって1年目からベストナインも獲った梶原選手。ほんと10年間お疲れ様でした。これから後輩にアドバイスをお願いします。

どこでも守ってくれるのが助かると監督

阪口選手は1番での出場が多く、守備はセカンド、ショート、サード。オープン戦と公式戦を合わせて約20試合くらいを消化して「まだノーエラーですよ」とニコニコ。ただし8日はなぜかベンチスタートで、試合後は顔を見るなり「阪神時代と一緒ですね~。代走で出て還ってくるの」と笑っていました。そのあとサードの守備についたけど打席はなし。ちょっと残念だったかな。

パナソニックの奥代監督(左)と阪口選手のお父さん。お母さんは枠の外です。
パナソニックの奥代監督(左)と阪口選手のお父さん。お母さんは枠の外です。

パナソニックの奥代恭一監督にも、お話を伺っています。バッティングで貢献できていないと気にしているようで…。「本人が悩みすぎだと思いますよ。スイングを見ていても感じは悪くないので。何か、きっかけさえつかめれば大丈夫!いつもスタートから使っているんですけど、きょうはたまたまね」とのこと。たまたまが、この日でちょっと残念。とは言いませんでした。はい。

守備のことを尋ねたら「助かるのはセカンドもシュートもサードも全部できることです。どこでも守ってくれる」と即答してくださった奥代監督。ないとは思いますが、外野もできますよ。キャッチャーはもう無理かな。というのも口には出しておりませんので。はい。本人が、まだノーエラーだと言っていたと伝えたら、監督は「自慢してる場合じゃないねえ(笑)」と。なお背番号8については「梶原選手と同じ阪神出身だし、末広がりで縁起のいい番号でしょう?期待していますと」とのこと。

3安打6打点の大暴れ!

続いて、カナフレックスの藤井宏政選手です。翌9日は西宮市の大阪ガス今津総合グラウンドで大阪ガスとのオープン戦でした。4番ショートでフル出場した藤井選手は4打数3安打で、なんとまあ6打点!チャンスで回ってきた3打席に、きっちり結果を出しています。それにしてもチーム7得点のうち6点って、すごいなあ。小虎にも…大虎にも欲しいくらいですねえ。

《社会人オープン戦》 4月9日

大阪ガス-カナフレックス

(大阪ガス今津)

カナ 001 400 020 = 7

ガス 000 000 302 = 5

タイムリーを放った藤井選手。3本も打っているので、どの場面か忘れました…(笑)
タイムリーを放った藤井選手。3本も打っているので、どの場面か忘れました…(笑)

まず1回、2番・山内選手の二塁打と捕逸、四球で1死一、二塁として藤井選手が四球を選んで満塁。ここは無得点でしたが、3回に先頭の山内選手がまた二塁打を放つなど1死三塁の場面で、藤井選手が先制の中前タイムリー!4回は3安打で1死満塁となって押し出しで1点、続く藤井選手が初球を左中間へ!走者一掃の3点タイムリー二塁打でした。この回4点を加えた打線は8回も1死から連続四球でチャンスを作り、2死一、二塁で回ってきた藤井選手がまたしても左中間へのタイムリー二塁打で2点を加えています。

一方、4回途中まで2安打無失点だった先発の井上泰投手が足のアクシデントで降板。しかしリリーフ陣が走者を出しながらも6回まで0点に抑えました。ところが7回にエラーも絡んで3点を失い、8回から登板の國正投手が9回に連続四球と内野安打で2死満塁として、2点タイムリー二塁打を浴び2点差。いや~ホームランでなくてよかったですねえ。何とか2点差で逃げ切ったカナフレックス。故障者が多くベストメンバーではなかった大阪ガスとはいえ、11安打で7点を奪いました。

「もっと表に出せ!」と監督

昨年は1番、のちに3番という打順だった藤井選手。ことしは5番を打っていたのですが、キャプテン・北條貴之選手選手が先日のニチダイ戦で負傷したため4番に繰り上がったそうです。カナフレックスの河埜敬幸監督は「「去年のことはわからないけど、ことしは5番でもいいところで打っていましたよ。これをチャンスと思ってやってほしい」と期待をかけます。

サードコーチを務める河埜監督。
サードコーチを務める河埜監督。

「優しくて人がいいから、あえて5番に置いています。自分でプレッシャーをかけすぎるんでしょう。僕と藤井の間では、ホームランのサインもあるんですよ。三振かホームランでいいから、という気持ちでやってこいと。精神的なものが大きいので。まだまだ経験不足。まだまだ勉強。タイガースで学んだことを生かして、もっと中心になって頑張ってほしい。おとなしいから、リーダーシップ取れ!遠慮するな!表に出せ!と常に言っています。少しずつ表れてきましたね」

藤井選手に聞いたら「ホームランのサイン、ありますよ」とのこと。そのせいでしょうか。この日の打席でも、のびのびとスイングしていた気がします。「去年は1番とか打っていたのでチャンスメイクと思っていたんですけど、ことしはチャンスに強くなったかな。けっこう打点稼いでますね。調子?悪くないですよ」。前日までの成績が43打数19安打16打点、打率.442だった藤井選手。この日の4打数3安打6打点を加えると、47打数22安打22打点で打率が.468、二塁打は8本になりました。ある程度の打席数でこの数字は、もちろんチームトップです。

引っ張る自覚も芽生えた2年目

チームメイトによれば「副キャプテンらしくなってきた」とか。ことしは仕事が午前と午後の2部制になったため、野球部の練習もそれに合わせ、2つに分かれて行われます。1つはキャプテンの北條選手チーム、もう1つが藤井選手チーム。去年から務めている副キャプテンではあるけど「一応まとめるのが僕なので、自覚は強くなったと思う」と言っていました。これまでのように補佐役でなく、率先して、声を出して引っ張っていかなければなりませんからね。

カナフレックスの藤井選手(左)と、島本投手の高校の先輩・深瀬選手。
カナフレックスの藤井選手(左)と、島本投手の高校の先輩・深瀬選手。

ところで藤井選手も痩せたような?気のせいかな。「締まったんでしょう。下半身についたかも」。ジムへは、時間が取れなくて行けていないそうです。また社会人野球に加盟して2シーズン目のカナフレックスは、まだ専用の球場がありません。グラウンドを借りての練習と、あとはバッティングセンターで打ち込むのみ。それでもいい打球が飛んでいましたよ。走り込んで足腰も鍛えられているはず。あ、そうそう。夕食が出るようになったそうで「お弁当ですけど、でも自炊もしなくてよくなりました」と笑う藤井選手。

話を聞いている時に、ニコニコと笑顔の優しい選手がやってきて、藤井選手から「島本の先輩」と紹介されました。福知山成美高校出身の深瀬幹太内野手、島本投手の1つ先輩です。「島本、頑張ってますね。しっかり投げろって言うといてください」とのことだったので、すぐ伝えました。すると、甲子園で3日連続の登板があった直後にもかかわらず「めっちゃくちゃ仲良しの人なんで」と島本投手から大喜びの返信。深瀬選手にも「最近、浩也が活躍しすぎて連絡できなかったからよかった」と言ってもらえて、メッセンジャー岡本も嬉しい限りです。

最後に、藤井選手に対する河埜監督のコメントを書いておきます。

「これから都市対抗の予選が始まるのでチームの中心となってやってくれたらいいですね。戦力外になった悔しさを出して、もらったチャンスをつかめるように頑張ってほしい。まだ11球団ある。そう思って」

フリーアナウンサー、フリーライター

兵庫県加古川市出身。MBSラジオのプロ野球ナイター中継や『太田幸司のスポーツナウ』など、スポーツ番組にレギュラー出演したことが縁で阪神タイガースと関わって約40年。GAORAのウエスタンリーグ中継では実況にも挑戦。それからタイガースのファームを取材するようになり、はや30年が経ちました。2005年からスポニチのウェブサイトで連載していた『岡本育子の小虎日記』を新装開店。「ファームの母」と言われて数十年、母ではもう厚かましい年齢になってしまいましたが…1軍で活躍する選手の“小虎時代”や、これから1軍を目指す若虎、さらには退団後の元小虎たちの近況などもお伝えします。まだまだ母のつもりで!

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