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阪神ファームの投げっぷりNo.1左腕・島本浩也投手が公式戦初先発で好投!

岡本育子フリーアナウンサー、フリーライター
打者に向かっていく投球が売りの島本投手。その先に支配下登録があると信じています。

15日のウエスタン・リーグ中日-阪神戦は、育成4年目の島本投手が公式戦初先発のマウンドに。一方、中日はドラフト1位ルーキー・鈴木翔太投手の先発。いや~これこそライブ中継してほしい一戦でしたねえ。天気は5回くらいに雨がパラパラした程度で、島本投手いわく「涼しくて投げやすかった」そうです。

3回に先取点を奪われながらも、8回に追いついて引き分け。同点の場面は降板直後でクールダウン中だったため、見ていなかったという島本投手に経過を伝えたところ「荒木さんと西田のおかげですね」と黒星を消してもらって感謝していました。ただ本人にとっては、たとえ負けがついたとしても満足できる、忘れられない試合になったでしょう。

《ウエスタン公式戦》5月15日

中日-阪神 8回戦 (ナゴヤ)

阪神 000 000 010 = 1

中日 001 000 000 = 1

※9回規定により引き分け

◆バッテリー

【阪神】島本-筒井-小嶋 / 小豆畑-日高

【中日】鈴木翔(3回)-岸本(1回)-山内(3回)-武藤(1回)-田島(1回) / 小田-武山(4回~)

◆二塁打 陽川2、工藤2

◆打撃 (打-安-点/振-球/盗塁/失策) 打率

1]二:荒木  (4-1-0 / 0-0 / 1 / 0) .383

2]遊:北條  (4-1-0 / 0-0 / 0 / 1) .186

3]三:西田  (3-1-1 / 1-1 / 0 / 0) .243

〃投:筒井  (0-0-0 / 0-0 / 0 / 0) ―

〃投:小嶋  (0-0-0 / 0-0 / 0 / 0) ―

4]右:伊藤隼 (3-0-0 / 0-1 / 0 / 0) .304

5]一:陽川  (4-2-0 / 1-0 / 0 / 0) .228

6]左中:中谷 (3-0-0 / 2-0 / 0 / 0) .168

7]捕:小豆畑 (2-0-0 / 0-0 / 0 / 0) .200

〃打:森田  (1-0-0 / 1-0 / 0 / 0) .263

〃左:一二三 (1-0-0 / 1-0 / 0 / 0) .179

8]中:横田  (2-0-0 / 0-0 / 0 / 0) .194

〃打捕:日高 (1-0-0 / 0-0 / 0 / 0) .239

9]投:島本  (2-0-0 / 2-0 / 0 / 0) .000

〃打三:阪口 (1-0-0 / 0-0 / 0 / 0) .237

◆投手 (安-振-球/失-自/防御率)最速キロ

島本 7回 94球 (5-6-1 / 1-1 / 0.79)143

筒井 1回 14球 (0-2-0 / 0-0 / 2.45)140

小嶋 1回 12球 (0-0-1 / 0-0 / 5.87)142

しっかりゲームを作った島本

島本は1回が投ゴロと連続三振、2回は三振とフライ2つで三者凡退、上々の立ち上がりでした。3回は先頭の工藤に初球のスライダーを右翼線二塁打され、小田の二ゴロで1死三塁として代打・田中は空振り三振。ところが溝脇の左前打で先に失点します。溝脇は小豆畑が牽制で刺して1点止まり。4回は三者凡退です。

5回は福田に右前打されるも堂上剛は二ゴロ併殺打で2死となったあと、工藤に二塁打(レフト中谷がいったん下がって前進した、その前にポトリ…)を浴びます。武山は敬遠の四球、さらにボークで2死二、三塁としましたが山内の二直で無失点。6回は三者凡退で、7回も1死から福田にショート内野安打があったものの、堂上剛はバント失敗。投ゴロ併殺打となり3人で終了。

打線は中日・鈴木翔から2回、先頭の陽川が左中間二塁打を放つも後続が断たれて得点なし。3回は2死から北條の中目だがあっただけです。4回は同じくルーキー岸本に対し、伊藤隼が四球を選んでボークなどにより三塁まで進めますが還せません。ついで登板した山内に、7回はまた陽川が先頭で右前二塁打(セカンドの後方に落ちるも、ベースカバーがなく二塁へ)、中谷の犠打で1死三塁とチャンスを広げました。しかし代打の森田が三振、同じく日高は遊ゴロで無得点です。

島本が降板した直後の8回、武藤に対して1死から荒木が右前打を放ち盗塁も成功、北條の中飛でタッチアップ。1死三塁として西田の右前タイムリー!荒木の足が生きた同点打と言えますね。これで島本の負けはなくなりました。その裏は筒井が投げ、2三振などで三者凡退。9回打ち切りの試合は同点のまま最終回を迎えます。

中日は田島が登板して陽川が二飛、中谷と一二三は三振の三者凡退。こちらは小嶋が代打の中田に四球を与え、犠打で二塁へ進めながらも最後は高橋周を左邪飛に打ち取って試合終了。ともに5安打、8三振、2四球の1対1で引き分けました。

第一声は「ホッとした」

「終わってホッとしました。緊張していないと言いながらも、ちょっとしていたみたいですね。朝起きてから先頭バッターに1球投げるまでは」。そう言って少し息を吐き出した島本投手。「荒木さんをはじめ内野の人が何度も声をかけてくれました。ベンチでは“中継ぎの時より力まずに投げてるのに球が伸びてる。いい球いってる”って、一二三とかが言ってくれたんです」

島本投手はこれまで育成試合で5度、先発を経験しています。1年目の2011年8月2日に行われた関西メディカルスポーツ学院戦、2年目は2012年8月2日の北陸大学野球連盟選抜チーム戦、そして2013年は4月3日のHonda鈴鹿戦、4月28日のジェイプロジェクト戦、5月22日の関西独立リーグ選抜チーム戦。すべて3イニングか4イニングでした。

今回はプロ最長で高校時代以来の7イニング。「自分もどこまでいけるかわからなかったし、久保コーチが“中継ぎのつもりで先のことを気にせずいけ。1回1回、1球1球がんばれ”と。そうやって気がついたら7回でした」。94球というのもプロ最多だったんですが「全然疲れなかった。6回に打席が回ってきたら交代と言われていたけど回らなくて、7回で代わるとわかってからも完投する気持ちで投げた」と言います。

ちょっと振り返りましょう。まず1回の連続三振は「低めでカウントを取って高めの真っ直ぐ。久保さんに“高くても伸びてるから使える”と言ってもらったので」とのこと。3回の失点は「1アウト、ランナー三塁で(代打・田中選手に)思いきりいったら、MAXの143キロが出て三振を取ったんで、次も真っすぐ3球でいってしまった」そうです。143キロは渾身のストレート!高めを振らせたもの。

高橋周を3打席連続三振に!

なお5回のヒットは、ファースト陽川選手が届かなかった右前打と、中谷選手の動きが怪しかった二塁打なので問題なし。ボークは?「セットポジションが止まってなかったみたいです。そんなつもりはなかったけど、もしかしたら無意識に投げ急いでいたのかなと。おかげでそのあとは落ち着いて普通に投げられました」。やっぱり度胸は天下一品ですね。

守備面では1回の先頭と6回の先頭がともに1番打者の溝脇選手だったんですが、ピッチャーゴロとピッチャーライナーでナイスフィールディングだったとか。「練習していたから反応できたと思います」。そして5回と7回は、ともに堂上剛選手を併殺打に仕留めました。「5回のセカンドゴロは低めのフォーク。きょうは普通だったけどが、たまたまでなく狙ってダブルプレーを取れたら一番いいですね。7回のバントの方、この併殺は大きかった!ここで交代だから全力でいってやろうと、バントというのは考えず思いきり腕を振って投げたスライダー。バント処理もしっかりできたし、最後をダブルプレーで3人!気持ちよく終われました」

4番の高橋周選手からは3打席連続で三振を奪っていますが「去年も2の0とか3の0とか、ヒットを打たれてはいないけど…同じくらいフォアボールもあった。結果的に抑えていても苦手なタイプですね。小技もあって、何度当たっても怖いバッター。きのうは4安打だったでしょう?試合のチャートをつけながら(13日に先発した)歳内と、どこに投げたらええんやろ?って話していたんですよ」と意外な告白。

この試合は6奪三振で、他の三振3つは直球でした。でも高橋周選手は「3つとも変化球」と島本投手。1打席目は129キロの「スライダーというかカットボール」、2打席目は117キロの「スラーブ」でハーフスイングを誘っています。3打席目が128キロの「フォーク」という内容です。

「先発って…おもろいなあ!」

試合後に平田監督や久保投手コーチから言われたことを尋ねたら「監督にメッチャ褒められました!」と声がワントーン上がりましたよ。「これまでも、よかったら褒めてもらったり、悪いと怒られたりしたけど、きょうはメッチャ褒められたんです。グータッチしてもらいました(笑)。それで、次もあるぞ!と。また久保コーチにも握手してもらって、次も今日みたいな緊張感で投げるようにって言われた」と本当に嬉しそうでした。次もある…育成の島本投手にとって最高の賛辞でしょう。

さすがにナゴヤ球場となると、ご両親は来られてないかな~と思いきや!揃って観戦されたとのこと。先発を告げられたのは秋山投手が昇格した11日。「ちょうど母の日で“何もプレゼントはできないから(15日に)いいピッチングするわ”ってメールしました。来るとは思わなかったんですけど、調整してくれたんでしょうね。実はナイショでこっそり見る予定やったみたいで」。でもお兄さんの奥さんから聞いて知っていたと笑いながら「それもありました。せっかく来てもらったので。そこに自分のピッチングができてよかった」と話す孝行息子でした。

登板する前は怖かったんです。でも途中は1点差で負けていたけど“先発っておもろいなあ!”と感じました。今日は今日で、次は次。今日は喜んで明日からまた頑張ります。次の試合で頑張らないと、今日が全部ムダになってしまうから」。自分でも納得のピッチングができただけに、失点1が悔しいでしょう。「いま思えば惜しかったですねえ。欲張りですけど」。そんなことはありません。

今回は秋山投手の穴を埋めた形ですが、生かせば必ず次につながると思って投げました。昨年の春、抜擢されたオープン戦で1死も取れずに降板したあと「もう二度とこんなチャンスはないのに」と言葉を詰まらせた左腕が、いま大きく羽ばたこうとしています。本当に大事なのは次回の登板。次も、育成試合ではなく公式戦での先発マウンドです。皆さん!どうかパワーを送ってください。

「楽しかった。メッチャ楽しかったです!」

投げっぷりの良さで我々を楽しませてくれる島本投手の、おそらくプロに入って一番興奮したであろう日の感想でした。

フリーアナウンサー、フリーライター

兵庫県加古川市出身。MBSラジオのプロ野球ナイター中継や『太田幸司のスポーツナウ』など、スポーツ番組にレギュラー出演したことが縁で阪神タイガースと関わって約40年。GAORAのウエスタンリーグ中継では実況にも挑戦。それからタイガースのファームを取材するようになり、はや30年が経ちました。2005年からスポニチのウェブサイトで連載していた『岡本育子の小虎日記』を新装開店。「ファームの母」と言われて数十年、母ではもう厚かましい年齢になってしまいましたが…1軍で活躍する選手の“小虎時代”や、これから1軍を目指す若虎、さらには退団後の元小虎たちの近況などもお伝えします。まだまだ母のつもりで!

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