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セ・リーグ6球団の2021年展望。王者巨人は弱点を的確に補強。隙はあるか?

岡田友輔プロ野球データの収集と分析/株式会社DELTA代表取締役
(写真:PantherMedia/イメージマート)

 3月26日にいよいよ2021年のプロ野球が開幕する。それに先立ちデータ分析の視点から今季のセ・リーグを展望してみたい。

 表には昨年の順位と成績、それに加えオフの入退団選手をまとめた。

著者作成
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<巨人>

 セ・リーグは昨季優勝の巨人に大きな動きがあった。FAでDeNAから外野手の梶谷隆幸、先発の井納翔一を獲得。さらに外国人選手として新たに一塁を守るジャスティン・スモーク、一塁と外野を守るエリック・テームズも加わった。昨季は圧勝だった巨人だが、総合的な貢献度をデータで見ると、一塁手や左翼手、右翼手については他球団に差をつけられていた。梶谷、スモーク、テームズの守るポジションはその弱点と合致しており、的確な補強だったといえる。

 投手を見ると、このオフは菅野智之のMLB移籍が予定されていた。しかし菅野は条件面が折り合わず残留。これはチームとしても想定外の幸運だった。菅野残留のおかげで、巨人は大きな戦力ダウンなく、上積みに成功している。優勝した昨季からさらに隙のないチームに仕上がっていると言っていいだろう。

 不安点を挙げるとすれば、主力選手の年齢層が高いことだろうか。坂本勇人、丸佳浩、菅野、梶谷などチームの軸となる選手の多くは30代前半に集中している。この年代は選手が徐々にパフォーマンスを落としていく時期にあたる。この中の複数人が一斉に衰え成績を落とす、あるいは長期離脱するようなら難しい戦いになるだろう。また昨季は前半戦に投手を使い込んだことによってか、後半戦に投手の故障者・不調選手が増加した。新シーズンでは、この点での整備、またブルペン運用も重要になってくるだろう。

<阪神>

 阪神はどうだろうか。昨季はここ数年苦しんできた得点力不足に改善の光明が見えたシーズンだった。野手では梅野隆太郎が守った捕手、大山悠輔が守った三塁手、近本光司が守った中堅手がチームの強みとなった。得点力維持、そして上位進出のためには、彼らが順当に好成績を収めることは必須条件だ。故障で欠場がかさむことがないよう、首脳陣のコンディション管理が重要になる。

 また野手のポジションをセンターライン、コーナーポジションで分けた場合、阪神はどちらかというとセンターラインに強みがある編成となっている。コーナーポジションは大山こそいるものの、レギュラー未定のポジションも多い。この定まっていないポジションに優れた選手が生まれるようなら戦力は大きく向上する。オープン戦では新人の佐藤輝明が凄まじい打棒を見せたが、これをシーズン中も継続できるようなら大きな戦力アップが見込めそうだ。

 投手陣については、昨季時点でセ・リーグトップクラスの戦力があった。オフに主要投手が退団することもなく、戦力ダウンも小さく済んでいる。リスクの小さい投手陣ではないだろうか。優勝候補筆頭の巨人に食いつけるかどうかは、主力のコンディション、そしてコーナーポジションの野手の出来にかかっている。

<中日>

 中日は、捕手・内野手についてはほぼレギュラーが固まっており、故障さえなければ他球団にアドバンテージを奪える編成となっている。長年課題となっていた捕手についても、昨季は木下拓哉が台頭。木下は、捕球動作でより多くのストライクを奪う「フレーミング」によってチームの失点を多く防いでいるという分析結果が出ている。捕手も含めた内野陣、特に守備についてはチームの大きな強みである。

 一方で課題となるのが外野陣だ。左翼手は昨季までレギュラー格だったソイロ・アルモンテが退団。開幕時点で確固たるレギュラーが定まっていない弱点候補だ。また中堅・右翼手についても、近年は大島洋平、平田良介がレギュラーを務めてきたが、それぞれ開幕時点で35歳、33歳と高齢になっている。加齢により力を落とすリスクは大きい。特に平田は近年コンディション不調からか、出場数が不安定なシーズンが続いている。もし故障で出場が少なくなれば、力が大きく落ちる選手が出場することになり、チームはダメージを負う。外野手は左翼手が誰になるかという問題に加えて、コンディション管理も大きなポイントとなるだろう。

 最後に投手だが、中日は毎シーズン失点が特別多いわけではない。昨季も1試合平均失点4.08点はリーグ4位の成績だった。ただ中日の失点の少なさは得点が入りにくい本拠地でプレーしていることによる部分が大きい。投手陣の能力そのもので比較した場合、他球団に差をつけられているという認識が必要だ。昨季は大野雄大の素晴らしい活躍もあり、改善の兆しを見せたが、まだまだ上積みの余地はある。

<DeNA>

 DeNAはオフに梶谷と井納が退団となった。特に梶谷は昨季チーム一の貢献度を示した主軸だ。かわりに出場する若手がどれだけ成果を示せるかにもよるが、極めて大きなダメージを負うと考えるのが自然だろう。

 また内野はもともと高齢化が進んでおり、チームの弱点となりつつあった。オフにはFA補償で田中俊太、ドラフトで牧秀悟などが加入したが、遊撃を守れる選手はおらず、補強によって状況が劇的に改善される見込みは小さそうだ。若手を含めた既存戦力の起用でどれだけの成果が出るのか注目される。また長打力の面で依存が大きい外国人選手がいまだ入国できていない状況も痛い。

 投手陣については、故障からの復帰途中にあるエース格の今永昇太、東克樹が開幕には間に合わない見込みだ。また復帰したとしても、長期離脱後だけにどれだけの投球を見せられるかは未知数な部分が大きい。このほかにも山﨑康晃などは昨季から不安定な状態にあり、投手陣全体としてどれほどの出来になるか読みづらい。しかし、個々の実績を考えると全員がポテンシャルを発揮したときはリーグ最高レベルの投手陣になりうる。彼らがいつ、どの程度の状態で復帰するかでシーズン成績は大きく変わってきそうだ。

<広島>

 広島は3連覇後、2019-20年と2年連続でBクラスに沈んだ。これは丸が巨人に移籍したタイミングと重なるが、実際チームはこの退団のダメージをいまだに引きずっている。丸が守っていた外野、昨季であれば左翼手はチームの弱点となった。ほかにも一塁、三塁といったコーナーポジションに弱点が集中している。こうしたポジションには高い守備力が求められない分、強打者を配置しやすい。ここに鈴木誠也をサポートできる打者が生まれれば、大きな上積みになる。一塁手候補として獲得したケビン・クロンには大きな期待がかかる。

 コーナーポジションは各球団それほど守備力の高い選手が配置されるわけではないことを紹介したが、そんな中でも昨季広島の一塁、三塁、左翼手は守備力が低く、それがかなりの失点増につながってしまった。リーグ平均レベルの守備者が同じだけ出場した場合に比べ、守備でどれだけ多くの失点を防いだかを表すUZR(※1)をチーム全体で見ると、-47.8。これはリーグでワーストの数字だ。3連覇時から比較すると、守備力も明確に低下しており、この部分をどれだけ改善できるかも上位浮上の鍵となる。

 投手陣では、昨季は森下暢仁らの活躍により先発陣については優れた成果を残した。課題があったのは不調・故障が相次いだ救援陣だ。チームはこうした問題を解決するため、ドラフトや外国人選手獲得で投手陣の層を厚くする補強を行っている。一塁のクロンも含め、昨季の弱点に対して着実に手を打った印象だ。弱点に充てられる補強選手のパフォーマンスがチームの行方を左右する。

<ヤクルト>

 ヤクルトは昨季、5位広島に大きく突き放されたリーグ最下位になってしまった。チームの課題は多いが、まず1つ目のポイントとして挙げられるのが、主力選手のコンディションだ。昨季はチーム最高の選手である山田哲人の欠場、そして不調が低迷の大きな要因となった。山田だけでなく、青木宣親、村上宗隆ら絶対的な主力選手がコンディションを保ったままシーズンを送れるかは重要な鍵を握る。

 またヤクルトは高齢化の問題も抱えている。青木のほかにも石川雅規、坂口智隆、内川聖一など40歳前後の選手が今季も多くの出場機会を得る見込みだ。少なくとも彼らにフル出場を求めるのは酷で、こちらも主力選手同様にコンディション管理が重要になる。

 失点抑止面については、先発投手の再整備が上位進出の必須条件となる。田口麗斗の補強から、チームもこの部分に対して大きな問題意識を持っている様子がわかる。ただ、ヤクルトの失点が多い理由は投手陣だけの問題ではない。昨季はチーム全体の守備指標UZRが-38.5。12球団中11位と野手のディフェンス面も大きな弱点となっていた。失点減少のためには投手陣の整備だけでなく、野手の守備力整備も重要になる。

<セ・リーグの展望>

 総じて見るならば、昨季の成果に上積みするかたちで戦力を加えた巨人が優勝候補筆頭と見るのが自然だろう。非常に隙の小さいチームができあがっている。ただ今季は新型コロナウイルス感染の問題もあり、例年以上に不確定要素の多いシーズンとなる。思わぬかたちでチームが暗転する可能性も十分にあり、現時点の展望から大きく外れた結果になる可能性も十分にありえる。

(※1)UZR(Ultimate Zone Rating):同じイニングを守った平均的な同ポジション選手と比較して失点をどれだけ防いだかを表す守備指標。

プロ野球データの収集と分析/株式会社DELTA代表取締役

1975年生まれ。2002年より日本テレビのプロ野球中継スタッフを務める。2006年にデータスタジアム株式会社に入社。統計的な見地から野球の構造・戦略を探求するセイバーメトリクスを専門に分析活動をおこなう。2011年に合同会社DELTA(2015年に株式会社化)を設立。プロ野球球団の編成サポートを行うとともに、アメリカで一般化しつつあった守備指標や総合指標の算出・公開など日本の野球分析を米国規格に近づけるための土台づくりにも取り組んでいる。球団との関係は年々深まっており、データ面からのサポートを中心に現在多くの球団とビジネスを行っている。

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