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2018年日本シリーズーー盗塁と本塁突入の阻止がソフトバンクにもたらした約5点のアドバンテージ

岡田友輔プロ野球データの収集と分析/株式会社DELTA代表取締役
(写真:アフロ)

「得点期待値」でソフトバンクによる盗塁阻止の価値を測る

2018年の日本シリーズは、広島を4勝1敗1分で下したソフトバンクが2年連続9度目の日本一となり幕を閉じた。今回のシリーズではソフトバンクの守備が光った。MVPに選出された捕手・甲斐拓也らソフトバンクバッテリーが広島の盗塁をすべて封じるなど、広島の走塁を通じた攻撃をよく阻み失点を回避していた。ソフトバンクが勝利した4試合はいずれも3点差以内の接戦だっただけに、走塁を巡る応酬の勝敗への影響は少なからずあったはずだ。

その影響がどれほどだったかは、セイバーメトリクスでプレーの価値を測る代表的なものさしである「得点期待値」を用いると大まかに捉えることができる。

得点期待値は、試合をアウトカウントと走者状況別にシチュエーションを分類し、その後生まれた得点を調べることで、それぞれのシチュエーションでの得点の生まれやすさを示した数字だ。

表1は過去3年間のNPBを対象に算出した得点期待値となる。ノーアウト走者なしからは0.458点が、1アウト満塁からは1.535点が、平均的に生まれていたという意味になる。

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この得点期待値を盗塁が企図される前後で比べると、盗塁を阻んだことの影響を測ることができる。

ソフトバンクが阻止した8度の盗塁について、前後の期待値の差分をまとめたのが表2だ。

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差分が最も大きいのが、最終第6戦の2回、2アウト一三塁の場面で一走を刺した際に記録した0.495という値だ。そのほかにも0.2~0.4程度の値が出ており、8度の阻止で記録した差分を合計すると、2.6点程度の失点を防いだと見立てることができる。

8度の盗塁阻止と同等の価値があった2度の送球での生還阻止(補殺)

もう1つ、ソフトバンクが見せていた好守として外野手による補殺がある。第4戦の初回、広島は丸佳浩の二塁打で一走の菊池涼介が本塁を狙ったが、ソフトバンクはセンターの柳田悠岐、セカンドの明石健志の連係でそれを阻止している。続く第5戦でも2回2死一二塁の場面でライト前に打球が飛んだが、上林誠知の好返球で安部友裕の本塁生還を防いだ。ホームインを阻んでいるため、当然その効果も絶大なものとなる。

第4戦のケースは、「1死一塁(期待値0.514)からの二塁打」ということで、生じうる結果には3つの分岐があった。

1.【自重】

本塁突入を自重し、1死二三塁になるケース

(期待値は0.514から1.337へアップ)

2.【生還】

一塁走者が本塁に生還し、打者走者が残り1死二塁になるケース

(期待値は0.514から0.675へアップ。さらに1得点が記録される)

3.【憤死】

走者が本塁で憤死し、打者走者が二塁のケース

(期待値は0.514から0.327へダウン)

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一塁走者が三塁を蹴った段階で自重の可能性はなくなり、生還・憤死のいずれかになる。ソフトバンクは柳田と明石による連係がうまく行われ補殺した。このプレーを終えた際の期待値は0.327となるので、生還を許したケース(0.675+1)に比べ、失点を抑える上で1.348点分の価値が生じた計算になる。このプレーは広島の先制を阻止し主導権を渡さなかったという点でも大きな意味があった。

広島はこの場面で自重して、1アウト二三塁として4番の鈴木誠也に託しても良かったかもしれない。しかしレギュラーシーズンで広島は、走者一塁から二塁打が出た際、本塁に突入してアウトになったケースがわずか2回しかなかった。それを考えると本塁突入は自然な選択だったのかもしれない。生還していれば試合の状況が大きく変わる可能性もあった紙一重のプレーであるのも事実であり、ソフトバンクの連係を称えるべきプレーだろう。

第5戦で上林が本塁で刺したプレーも同様に3つの分岐があった。

1.【自重】

本塁突入を自重し、満塁になるケース

(期待値は0.435から0.704へアップ)

2.【生還】

二塁走者が本塁に生還し、一二塁になるケース

(期待値は0.435を維持。加えて1得点)

3.【憤死】

走者が本塁で憤死しイニングが終了する

(期待値は0.435から.000へダウン)

こちらのケースでも本塁への生還を許さなかった。直後の期待値は.000となるため、生還を許し走者を残した場合(1+0.435)との差分、1.435点がこのプレーを通じて失点を防いだ働きの価値になる。

第4、5戦に生まれた2つの補殺プレーは、合わせて2.8点程度の価値があると計算することができ、失点を減らす上で計8度の盗塁阻止とほぼ同じだけの効果があったとみることができる。特にこの2試合は、僅差(4-1、5-4)で勝負がついただけに、いずれも大きなプレーだった。

ソフトバンクは、盗塁阻止と返球での生還阻止を合わせ、およそ5点を防いだ計算になる。今回の日本シリーズで記録した総失点はソフトバンクが20点、広島が23。この守備での5点ほどの貢献がなければ総失点は逆転していた可能性もある。ソフトバンクの投手にとっては、10個ものアウトを上乗せしてくれた守備陣は心強い存在だったことだろう。

光ったソフトバンクの短期決戦への対応力

最後に盗塁を阻む上での投手側の貢献にも触れておきたい。捕手の肩がいくら強くても、投手がクイックをおろそかにしてしまえば盗塁を防ぐことは難しい。ソフトバンクのリック・バンデンハークなどは、レギュラーシーズンではその点で難を抱えており、比較的盗塁を許すことの多い投手であった。日本シリーズへの準備において、広島がこれを察知していなかったはずがなく、実際にこの弱みを攻めようとした。

しかし、バンデンハーク及びソフトバンク側は手を打っていたようだ。バンデンハークはこのシリーズにおいて、一塁走者を背負った場面で何とか走者をとどめようと工夫を施していたようだ。こうした工夫によって、甲斐らソフトバンクの捕手たちがスローイングで盗塁阻止を狙うことのできる状況がつくられたともいえる。

短期決戦に向けて対策を講じても、それにより実際に成果を挙げるのは簡単なことではない。今回、ソフトバンクが広島の盗塁を全て防いだことに注目が集まっているが、その背後にある首脳陣やスタッフらによる短期決戦に向けての準備、また準備したプランを実行させる力はもっと評価されても良いように思う。

今シーズンのソフトバンクは故障者が続出し春先から本来の力を発揮できなかったが、シーズン中盤からはチームの再編が進み、徐々にチーム力を取り戻していった。ペナント制覇は西武に譲ったものの、ポストシーズンでは先発投手の配置転換や早い継投など、対戦チームの攻撃を封じる手も立て続けに打っていた。昨シーズンの日本一を支えた圧倒的な戦力とはまた別の、チームが備えている強みを披露したシリーズであったといえるだろう。

プロ野球データの収集と分析/株式会社DELTA代表取締役

1975年生まれ。2002年より日本テレビのプロ野球中継スタッフを務める。2006年にデータスタジアム株式会社に入社。統計的な見地から野球の構造・戦略を探求するセイバーメトリクスを専門に分析活動をおこなう。2011年に合同会社DELTA(2015年に株式会社化)を設立。プロ野球球団の編成サポートを行うとともに、アメリカで一般化しつつあった守備指標や総合指標の算出・公開など日本の野球分析を米国規格に近づけるための土台づくりにも取り組んでいる。球団との関係は年々深まっており、データ面からのサポートを中心に現在多くの球団とビジネスを行っている。

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