大学ランキングの正しい読み方

東京大学の象徴 安田講堂(写真:アフロ)

大学ランキングの正しい読み方

THEのアジア大学ランキングで、東大が一位から七位に転落した事実は、センセーショナルな事実として報道され、日本人にある種のショックを与えた。

しかし、公表されている他のランキングの内容を含めてつぶさに眺めてみると、あくまで世界の多数派である英語圏における総論であり、非英語圏の日本の大学は、ドイツやフランスと同様に、それほどに悲観すべき状況では無いように思われる。

ただ、東大をはじめとした日本の大学に内在する課題は、決して小さくない。また、多数派かつ事実上の世界語である英語とどう付き合っていくか、これは高等教育研究機関である大学にとって大きな課題である。

ここでは、大学ランキングを読み込み、今後の東大をはじめとする日本の大学が、それをどの様に消化すべきであるか、改めて考えてみたい。

THEとは何か?

THE(Times Higher Education)は、1971年に英国の新聞であるTimes誌の無料付録として発行され、2004年から世界大学ランキングを発表したことで徐々に話題になり、2008年には独立した高等教育に関する週刊誌として発行されるに至った。現在、紙版の購読料は年間259ドル、デジタル版は99ドルという価格で、世界の高等教育に関する話題を掲載している。

日本では、昔から大学入試の偏差値ランキングがあり、東大を頂点とした国内の大学の順位を機械的に定めているが、THEが定めるランキングの考え方はそれとは大きく異なり、より総合的な能力判定である。因みにTHEが公開する大学評価の方法論(メソドロジー)では、以下の五つの項目を取り上げている。

・教育(Teaching)

・研究(Research)

・引用(Citation、すなわち、研究成果の影響力)

・国際性(International outlook)

・産業連携(Industry income)

筆者の記憶によれば、欧米では1990年代に経営学から「Balanced Scorecard(BSC)」という概念が生まれ、企業業績を単に財務的な物差しから図るのではなく、研究開発能力や人材、ブランドによる企業価値といった総合的な項目を指標化することで、経営上の企業価値を推し量る考え方が生まれたように記憶する。THEの大学ランキングは、そのような新たに普及した経営学上の手法を用いて、英語圏の傲慢さをもって「世界大学ランキング」として定めたものであると言えるだろう。

大学ランキングの方法論

それでは、BSCの考え方を用いたTHEの大学評価の方法論を、もう少し細かく見て行こう。

・教育分野:全体の30%のウェイト

<内訳>

**評判の調査:15%

**教員と学生の比率:4.5%

**博士課程学生の比率:2.25%

**教員に対する博士号保有者の比率:5%

**教育費収入:2.25%

・研究分野:30%

<内訳>

**評判の調査:18%

**研究費収入:6%

**研究生産性:6%

・引用分野:30%

(学術文献において、どれだけ当該大学からの文献引用が行われたか数字を合計)

・国際性:7.5%

<内訳>

**外国人学生比率:2.5%

**外国人教職員比率:2.5%

**国際共同研究実績:2.5%

・産業連携:2.5%

<内訳>

**産業界からの収入:2.5%

すなわち、極端な事を言えば世間や大学関係者の間での評価を「評判」とすれば、それが占める割合は全体の33%、残りは何等かの定量的な数字の積み上げで導き出されるのが、THEの大学ランキングという事になる。

それでは、THEが提供する大学ランキングの種類を見て行こう。

大学ランキングの種類

World University Ranking

最初に始まったのがこれである。最新の2015-2016ランキングでは、世界70カ国から800の大学を、対象にしている。

データに関して、定量的なデータに関しては、公開情報を丹念に調査し分析を行っている。大学によって幾つか得られないデータがあった場合は、必ずしもポイントをゼロにするのではなく、下位平均から一定の統計補正値を掛けて算出している。

評判などの定性的なデータに関しては、別途THEにより行われている「Academic Reputation Survey」に依っている。ここでは、国連のデータを用いて世界の学術界を代表するように選定された、世界142カ国の凡そ10,000人の学者から得られた相互評価に基づいたものが使われている。

Asia University Rankings

今年東大が首位から陥落し7位に順位を下げ話題となったのが、このランキングである。アジア22カ国から200の大学を対象にしている。

データに関して、基本的にはWorld University Rankingと同様であるが、一部、アジアの高等教育システムの特徴を反映させるため再調整(recalibrated)した由、ざっと見ただけではその再調整の内容は良く判らない。因みに、アジアランキングと世界ランキングを比較してみると以下のようになり、大きく順位が異なっていることが判る。

アジアランク アジアP 世界ランク 世界P 大学名 国

1 77.4 26 79.2 シンガポール国立大学 シンガポール

2 72.9 55 68.2 南洋理工大学 シンガポール

2 72.9 42 72.0 北京大学 中国

4 71.9 44 71.0 香港大学 中国(香港)

5 70.9 47 70.0 清華大学 中国

6 69.9 59 67.2 香港科学技術大学 中国(香港)

7 67.8 43 71.1 東京大学 日本

8 63.8 116 56.9 浦項工科大学校 韓国

9 62.8 85 60.5 ソウル国立大学 韓国

10 59.7 148 53.0 韓国先端科学技術大学校 韓国

World Reputation Ranking

世界142カ国から10,000人を超える学者から得られた「Academic Reputation Survey」に基づき、研究と教育を2:1の割合で合計した数字による、ランキングである。なお、得点に関してはトップであるハーバード大学を100として、相対的な点数を付与する方式が取られている。世界中の一流学者が評価する、研究能力を中心とした大学の能力に関するプロのランキングと言えるだろう。ここでは、以下の様にアジアの大学ランキングを取り出してみると、景色が一変することが判る。ここでは、第一位のハーバード以下、米英の著名大学がランキングトップを独占するが、初めて現れる非英語圏の大学が12位の東大、次が18位の清華大学である。因みに他の非英語圏においては、ドイツのミュンヘン大学が漸く40位に顔を出す程度である。

世界評価R P アジアR 大学名 国

12 24.3 7 東京大学 日本

18 17.5 5 清華大学 中国

21 15.9 2 北京大学 中国

26 13.7 1 シンガポール国立大学 シンガポール

27 12.5 11 京都大学 日本

45 6.6 9 ソウル国立大学 韓国

45 6.6 4 香港大学 中国(香港)

ここから学ぶべき事柄

大学ランキングとは何だろう?

ある一定の方法論に基づいて大学の能力を点数化して順位を付けたのが、大学ランキングである。そしてその方法論において、大学の国際性の象徴である英語は、以下の点で大きな意味を持つ。

・外国人学生や教員の比率が大学の国際性として、直接に点数化の対象。故に英語ベースでない大学は著しく不利となる。

・文献の引用数は評価において大きなウェイトを占める。化学や医学分野はともかく、文学や経済学、法学などは地域ローカルな分野のウェイトが高く、英語でない自国語の文献に関しては引用者がそもそも少ないことも有り、かなりのハンディキャップになるものと思われる。

グローバル化の中で、そもそもバイアスされる傾向が有る事を意識したうえで、大学ランキングというものを受け止める必要が有るだろう。

ランキングから我々が学ぶべき事項

研究水準を高めるために優秀な人材を世界から集める、その為に大学自身の英語能力を高める必要が有る事は当然である。ただ、スコアを上げる事=良い大学という事には、必ずしもならない。我々は、自国の学術資産の蓄積をもとに、学問の独自性を維持しながら、一義的には日本と日本人の幸福を担う研究を推進し人材を育成する事、そしてそれを通じて世界の学術に貢献し人類の幸福に寄与する事を目的に、日本の大学を進化させていかなければならない。

学問の独自性は自国の文化そのものである。長い歴史の中で、日本人学者たちが世界に貢献してきた学術的成果は、当然のことながら日本と日本人の風土や文化に依るところが大きい。そして、その中核にあるのが日本語であり、我々は、大学教育を全て英語化すべきであると言った極論に対しては、よくよく慎重に考える必要が有るだろう。

アジア7位はショッキングな事であったが、よくよく事をつぶさに見れば、必ずしも7位という評価を甘んじて受ける必要は無いように思える。一方で、東京大学を始め多くの日本の大学が様々な課題を抱えていることは事実であり、今回のランキングは、それらの課題を多くあぶり出してくれた。たかがランキング、されどランキング。今回の話題を契機に、日本の大学がより良い方向に改善のスピードを上げていく事を期待したい。