東芝の「不適切会計」をどう裁くべきか?

日本を代表する企業は、砂上の存在だったのか?? 京都閑臥庵「砂曼荼羅」 筆者撮影

東芝の不適切会計が意味するもの

今回発覚した東芝の「不適切会計」は、色々な意味で現代の日本企業、ひいては日本社会の在り方に、大きな警鐘を与えるものである。ここでは、先ずその意味を簡潔に示したい。

チャレンジが押したコンプライアンス違反

経営トップが部下に厳しい目標を課しそれを守ることを要求するのは、企業のみならず組織にとっては当然の事である。然るに、結果として数字が下回る事があるのもまた、人の世の常である。第三者委員会の報告書を見るに、決算の直前において不足している利益の非常識なかさ上げが、チャレンジの指示に対して行われていた。自らが部下としてのキャリアを経て来た現トップにとって、その結果行われるであろうことが利益操作であることは、容易に想像がつくであろう。実際行われた利益操作は、損失の帳簿上の先延ばし等利益の架空計上である。

決算上の利益操作を直接指示したか否かに関わりなく、指示したトップの罪は重い。

コンプライアンス違反を指摘できなかった監査委員会

経営ガバナンス上、この様な組織ぐるみの決算操作の可能性を認識し指摘するのは、委員会設置会社である東芝においては監査委員会の責任である。今回の「不適切会計」において監査委員会の責任は免れないし、報告書に有るように当該事案の調査提案を却下するようなことがあったとすれば、監査委員会委員長であった久保取締役(元CFO)の罪は重い。

ガバナンスの空洞は多くの日本企業にも

委員会設置会社として12年を経た東芝のコーポレートガバナンスは、日本を代表するものと見られていた。しかし結果として、そのガバナンスは歴代経営トップの指示から発生した問題を、長年にわたり放置した。しかも1562億円という、想像を絶する金額である。ガバナンスの空洞は、東芝だけでは無く多くの企業に存在していると考えるのが、自然だろう。オリンパス事件は諸外国に日本の企業会計への不信感を生み、コーポレートガバナンス・コード制定のきっかけの一つでもあった訳だが、東芝という日本を代表する企業の「不適切会計」の衝撃は、計り知れないマイナスのイメージを世界に発信した。

これからどうすべきか?

改めて思想を確認

そもそもコンプライアンスのためのガバナンスに、正解は無い。いくら仕組みを作っても、機能させるのは人間であり、ディベートの文化が無く自浄作用に乏しい我が国の国民性を考えると、今回の様なリスクは常に発生しうる。ソニーがダメな会社になったのも、自由闊達な文化をガバナンスを強制する経営者が破壊したことに、主たる要因があり、本質的には今回と同様の問題である。

重要なのは寧ろ思想、即ち「Comply or Explain(仕組みを作り従うか、仕組みが不要である、或いは代替しうる理由を説明する)」をベースに、ガバナンスをどう機能させるか常に責任を問うていくことである。経営トップの役割は、徒に部下に対してチャレンジを強いるところにはない。自社のガバナンスを機能させるための思想を常に説き続け、組織の力量を向上させると共に、問題の芽を摘み続けて行くところにある。

ストレッチ予算が必達目標になることのマイナス要因

予算を設定して守らせることが経営者の仕事になってしまうと、部下は二つのネガティブな行動を取る可能性がある。

・過度に高い「焼畑的」な短期利益目標を設定しトップの関心を買うが、後に草木が生えない状態にする。

・実現可能な利益目標に拘り、ストレッチしようとしない。

果たして、過去における日本企業の強みとは、短期視点に拘らないチームワークとスチュワードシップに依るものであった。この様なGE的経営の副次的な問題を、経営者は認識しマネージして行かなくてはならない。

一罰百戒の重要性

このような事件の再発を防ぎ経営者の意識を変えて行くためには、危機感が極めて重要である。今回の事件を踏まえ、「当社は大丈夫だろうな!」とCFOに問うたCEOは多いだろうが、果たして我が行動を振り返り根源的な問題に思いを馳せたCEOがどれだけ存在するであろうか?

CEOの危機感を高めていくためには、この「不適切会計」事件に対して検察及び証券取引等監視委員会は、徹底的に責任の追及を行い厳罰を適用するよう最善の努力を講じるべきである。

凡そこの類の大企業における不正経理問題に関して、司法は実刑判決を持って裁いたことがない。あれだけ世間を騒がせたオリンパス事件においてすら、関わった経営陣は菊川元会長を含め全て執行猶予付きの判決、誰一人刑務所には入っていない。構図を描き巨額の利益を得たニューヨーク在住の元野村証券の人物に至っては、司法取引で罪にすら問われていない。ライブドアの堀江等と比べれば、何と異なった扱いであろうか。

副社長と社長の距離は、副社長と運転手の距離より長い、と断じた元経営者の知人が居る。全ての大企業経営者が震え上がり、真摯に内容のあるガバナンスをもって経営にあたるよう、1500億円以上の不正経理を行いその結果をもって1兆円の資金調達を行った今回の東芝事件において、責任者には実刑判決が下されるよう、当局に真摯な努力を望む。