円安が進むと日本はどうなるのか考えてみた(1)

このまま円安は進むのか(写真はイメージ。八方尾根スカイラインにて筆者撮影)

円安が進むと日本はどうなるのか考えてみた(1)

止まらない円安

円安が止まりません。本稿の執筆時点(2014年10月11日)では一瞬下げ止まっている様に感じられますが、これは世界経済の先行き不透明感に対応した一瞬の反応であると思われますので、マクロトレンドとしての円安が終わったと認識する人は少ないでしょう。

それでは、円安というのは日本にとって、どのような意味を持つのでしょうか?これまで、アベノミクスという言葉がウォールストリートから世界の金融業界を駆け巡る中、円安は日本経済にとってプラスであり、アベノミクスは日本人に豊かさをもたらしてくれるようなイメージが、(おそらく意図的に)広められていました。しかし最近になって110円台に突入するような暫らくぶりの円安局面を迎えると、果たしてこれで大丈夫なのかという心配の論調が目立つようになって来ました。

筆者は以前の投稿(アベノミクス失敗に備えたコンティンジェンシープランを準備せよ!)で述べたように、アベノミクスをデフレ脱却に向けたナローパスへ踏み出したものとして、評価しています。しかし一方でナローパスは極めて狭く、アベノミクスが失敗した場合の問題の大きさを考えた場合、何らかのコンティンジェンシープランを用意しておくべきだとも考えています。本稿では、これらの内容を理解するための前提になる、「そもそも円安ってどんな意味があるの?」という質問に答えるため、国家経済の俯瞰を試みてみました。

日本の国富は3,000兆円

内閣府が2014年の1月に発表した2012年末の国民経済計算(つまりは日本の貸借対照表と損益計算書)によると、日本の資産は8,685兆円、負債は5,685兆円であり、資本にあたる正味資産、すなわち国富は凡そ3,000兆円になります。

出典:内閣府ホームページ 平成24年度国民経済計算確報(ストック編)
出典:内閣府ホームページ 平成24年度国民経済計算確報(ストック編)

個人や企業、政府部門(これらの区分を制度部門と総称するらしいです)など、日本の構成員が保有している金融資産の合計が金融資産になる一方、日本のみならず海外も含む全世界から保有されている金融資産の合計が負債になります。したがって、金融資産と金融負債の差が、対外純資産(日本の場合は資産であるが、当然、負債もありうるわけである)ということになるわけです。

各資産、負債は制度部門別に捉えられているため、国富に関しては以下の様に制度部門別に捉えることが可能です。

出典:内閣府ホームページ 平成24年度国民経済計算確報(ストック編)
出典:内閣府ホームページ 平成24年度国民経済計算確報(ストック編)

日本政府の債務問題は日本の債務問題では無かった

これを見て、以下の事実に驚かれた方も多いのではないでしょうか?

・個人企業を含む家計資産が厚い。

・政府負債が少ない(1,000兆円を超える国債債務はどこに行った?)。

正味家計資産のうち、土地建物の非金融資産は約1,030兆円、金融資産は約1、200兆円です。国債を主とした政府負債は1,000兆円を超えていますが、金融資産を相当に保有しているのに加え、土地や建物を中心に非金融資産を多く保有しているため、正味政府資産の総計はほぼトントンのレベルになっています。したがって、日本の政府債務問題は日本の債務問題ではなく、「現在は家計部門が金融機関を通じてその多くを保有している日本国債が売られてしまったらどうする?」という問題であることが判ります。

このようなストックに対して、2012年における日本のGDPは472兆円、その81.6%が民間及び政府の最終消費支出ですから、GDPから国富へ廻る部分は凡そ87兆円でしかありません。約1,460兆円の有形固定資産の数%は減価償却により減少するでしょうから、フローの生産活動による国富の増加はごく僅かです。

改めてアベノミクスとは何なのか?

3,000兆円の国富は、デフレ経済の状況においては現預金を除き現在価値が低下することで、減少していきます。それに対して、アベノミクス第1の矢は量的緩和により貨幣量を増やし、第2の矢は財政出動により政府支出を増やすことで、それぞれGDPに対してプラスの効果を与えることで、資金循環を増やし固定資産を含む物の価格を上昇傾向にすることで、デフレから脱却しようとしています。デフレから脱却しインフレ傾向になると、以下の大きな効果が生まれます。

・固定資産や物の価格が上昇する前に購入する傾向(需要の先取り)

・上昇した資産価格(すなわち国富の増加)がもたらす消費の増加

この二つの効果を起爆剤として、経済を適度なインフレ下の成長軌道に乗せようというのが、すなわちアベノミクスです。円安は単なる量的緩和の副作用として捉えるべきであり、円安を狙って量的緩和を行うべきものではありません。

円高ではなくドル安、ユーロ安だったアベノミクス以前の世界

リーマンショック以降、アメリカは自国経済を刺激するため金融緩和を実施しました。その結果、多くのドルが世界に流出したためドル売りからドル安の流れが生まれました。ユーロは、通貨そのものの信認低下に伴い世界が保有するユーロを売却したためユーロ安になりました。1ドル70円台の円高はそれらの結果です。アベノミクスはそこに、米国同様の量的緩和により経済を刺激しています。その円の一部は世界に流出し円安の流れが生まれたところ、量的緩和の拡大を停止して縮小に向かうドルが逆方向に動いたことも相まって、急激な円安の流れが生まれたのです。

円安の結果国富はどうなるのか?

経済がデフレから脱却しない状態で円安が進むと、円建ての国富はほぼ変わりませんが、ドル建ての国富は一部の外貨建て資産を除き減少します。つまり日本と日本人が相対的に安くなる、ということです。

円建てで資産を持っている日本人には、表面の価格が変わらないのであまり実感はないかもしれません。しかし、年々食料やエネルギーを始めとした輸入コストの増加により、物価全般が高くなり海外旅行も負担となるなど、生活レベルが徐々に低下していく事は避けられません。

それでは諸外国の人たちは、相対的に安くなった日本の資産を買って行くでしょうか?もし本人たちに実需があれば買うでしょう。しかし移民政策をやらないといっている以上、外国人に実需が生まれることは考えにくいと思われます。

投資家は、ドル建てで価格が上昇すると考えれば、買うでしょう。しかし長期的に人口が減少することが予想されている日本の資産が、相対的に経済成長が続く諸外国の資産に比して価値を持つことは、これもまた中々考えにくいと思われます。

したがって、世界のレベルで見ても十分に経済的価値を持つ様な場所、例えば東京や京都、若しくはニセコや白馬などの価値ある地方のリゾートなどを除き、ドル建ての相対的な価値は減少して行くものと思われます。更にはこのようなグローバルな需要傾向が国内の価格形成傾向に拍車を掛けるものと思われ、一部を除き地方の資産は絶対的な減少が避けられないと思われます。

一方で、輸出産業の生産設備は日本と日本人が相対的に安価になることにより、より大きな価値を持つことになります。内需はダメですが外需があれば価格競争力は大きくなるため、相対的な資産価値はドル建てでも寧ろ大きくなると考えて良いでしょう。

円安が進むと絶対価値はどうなる(まとめ)

大部分の日本の資産(固定資産や金融資産):相対的に目減り

普通の地方関連:大きく目減り

魅力的な大都市や観光地:上昇

外需向け工場:上昇

内需株式:相対的に目減り

外需株式:上昇

この様な資産価値の変化が進むことを念頭に、円安時代の投資行動を検討してはどうでしょう?

次回に向けて

ここまでは、円安が続くとどうなるか?という議論を展開して来ました。次回は、何故円安が続く可能性が高いのか?という議論を展開して行きたいと思います。