サントリーの死角

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サントリーの死角

サントリーフーズの上場からビームの買収、そして新浪新社長の発表からビールの分社化と、ここまでサントリーの改革は一直線に進んで来ている。この大改革に果たして死角は無いのか、少々意地悪な視点で考えてみよう。

ここまでの道筋は周到に計画されていたものなのか?

もしここまでの道筋が周到に計画されていたとすれば、大したものである。これだけの大変革を描きうる力量、それを統率しうるリーダーシップ、いずれもこれまでの日本企業には得難かったものであろう。しかしちょっと待て。現時点で発表されている絵姿に、果たして将来のサントリーグループの青図はあるのだろうか?蒸留酒、フーズ、ビール、全て海外を目指すのでは?新聞等の報道によると「ビールは国内中心」との事であるが、それでは、例えばこれまでの中国市場における努力は、一体どうなるのだろうか?

HDは屋上屋を重ねることにならないか?

仮に周到に計画されていたとして、それでは新組織体制の複雑さは何だろう?HDに酒類を統括する副社長を置き、その下にビームサントリーとサントリービール(語呂は良い!)を置き、ビールを除く酒類(スピリッツ)はビームサントリーの下に置く。いずれはビームサントリーとサントリー種類は統合する方向と思われるが、当面は三階層になる。日本における殆どのホールディングという名の親会社は、機能の冗長性(リダンダンシー)の問題を抱えると言われる中、外部から新社長を迎えたHDの三階層は、その問題から逃れられるのだろうか?

新社長・新組織・新戦略、新の三乗のリスクはマネージ可能か?

そもそも創業家出身で長年リーダーを務めたカリスマ経営者から、有能な人物とはいえ外部招へいした経営者への交代は大きなリスクである。ここに創業以来とも思われる大きな組織改編という大きなリスク、更には組織再編に伴う大胆な新戦略(らしきものが垣間見える)という大きなリスクが加わり、大きなリスクの三乗である。タイミングが同じということは、各々のリスク同士が掛算になるので、更に大きなリスクになりうることを意味している。このような大きなリスクの三乗を敢えてリスクテークして、経営者交代のタイミングで実施した例を筆者は知らない。何故、各々の変革を一定程度間を置いた時系列で行わなかったのであろうか?

ステークホルダーのコンセンサスは得られるのだろうか?

株主、経営層は勿論のこと、従業員や取引先といったステークホルダーの理解は、どこまで進んでいるのであろうか?過去、全ての発表が「サプライズ」で有ったことからも判るように、ここまでの主要イベントはごく一部のメンバーが議論をして、経営者の決断を持って進めて来たことであろうと思われる。ここから各ステークホルダーへ背景を含め説明がされて行くものと思われるが、果たして不協和音が発生することは考えられないだろうか?何分、変化の度合いが大きいので、気になるところである。

コンティンジェンシープランは考えられているのか?

ここまで一体となって行われていた取り組みを分社化するのは、ある意味、「ポイント・オブ・ノーリターン」を一気に超えていく行為である。分社を行った段階で、組織の求心力は急激に失われ、様々な予期せぬ出来事が発生することになる。そのような問題に対して、「モグラ叩き」を繰り返していると、いつの間にか対応不能な状態になってしまう。問題の発生が閾値を超えてしまった場合、再統合は先ず不可能。事業売却などの更なるM&Aを行い、対象とするユニバースを管理可能な範囲に縮小する、或いは当座の資金を確保するといった対応を行う必要が発生してくる。ここまで一直線に進められてきた大改革に、果たしてその様なコンティンジェンシープランは準備されているのだろうか。

頑張れ新浪新社長

この大変革をやり切りサントリーが大きく飛躍すれば、新浪新社長は間違いなく、世界の名経営者として称賛されるだろう。そしてそれをプロデュースした佐治会長もまた、名経営者として名を残す事になる。伸びが止まった高齢化の日本に安住することを潔しとせず、あえてリスクを取り世界に挑戦するサントリー、この物語を応援するため、今後しばらくの間、乾杯はサントリービールにしよう。