アベノミクス失敗に備えたコンティンジェンシープランを準備せよ(4)!

オックスフォード大学 クライストチャーチカレッジ

プランB 準備政策

このような事態に備えつつ、発生した場合においても対応を誤りハイパーインフレーションに陥らない為のプランBを、解説する。プランBは大きく災害に至るまでに準備する準備施策と、災害が発生した際に行う実施施策に分かれるが、先ずは準備施策を述べて行く。

準備施策の中でまず重要なのは、日本の金融・経済システムおよび国家財政の体質向上施策であり、これはプランAとオーバーラップする部分が大きい。具体的には以下の項目が考えられる。

・増税と社会保障抑制の一体的改革により、財政バランスを良化させる。

・経済成長実現により経常黒字幅拡大をもたらす経済政策

-経済成長戦略の実施

-政治主導による国内産業構造改革により過当競争抑制と国際競争力向上

-徹底した規制・制度改革

-国際的競争環境とのイコール・フッティング

-雇用流動性の向上

-中小企業は弱者保護から強者育成へ

これらはいずれも、現状政策課題に上がっているものの、実行局面において主として既存利害関係者の調整がかなわず、実効が上がっていないものである。

また、プランBの発動が必要となる、インフレ傾向が顕在化した段階に至るまでこれらの政策が十分に実施されていなかったとしても、その時点で経済状況の問題を圧力にして、これらの政策を矢継ぎ早に行う事が出来れば、危機を糧にした経済力の強化が可能になる事にも留意が必要である。プランAとして実行できないような諸施策をプランBとして準備する大胆な悪さが、政府当局には求められる。

経済体質強化以外のプランB準備施策

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上記の経済体質強化以外にも、プランBの発動が想定されるような金融・経済状況において、国として現状の準備が十分でない項目には、以下のようなものがある。

・自治体破産法制の整備

-現状、自治体再建の法制はあるが、債権カットや破産管財の法制は無い。

・諸外国との相互依存関係を強化(特に対中国)

-中国を始め諸外国の上質な人的・金銭的資源を、日本に取り込む(老人施設への入居、企業での採用促進)

-親日的な華北部など、中国特定地域との相互関係を重点強化

-日本の中国向けプライベートバンキングビジネスを強化

-ASEAN(非華僑国)、インド、EUとの関係強化(近攻遠親)

・外貨獲得手段の維持・拡大

-円安で競争力を増す製造設備の維持・拡大

-対外国人向け観光施設・拠点整備

・外交的安定の獲得と財政・金融外交政策準備

・金と外貨の蓄積

-現在の外貨準備1兆ドルは充分か検証要

これらの施策は、その多くが現状の金融・経済政策との協調が充分に可能なものである。現在の諸政策の中で、関連する政策のプライオリティを上げることで、プランBが必要とする政策を取り込む事が、可能となる。

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プランBの内容は多くの省庁や、民間を含む他の組織にまたがり多岐にわたる。

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そしてまだ多くの未検討事項を残している。実施にあたっては、政府の関係各省庁のみならず、日銀や金融界を中心にした経済界とも緊密に連携した組織を構築し、運営にあたる必要がある。そして、そのような緊密な連携を可能とする人間関係は、一朝一夕に構築可能なものではない事を十分に理解して、日頃の議論を重ねシミュレーションを行って行く中で培って行くべく、研究会などを組成してプランBへの議論を行って行くべきであろう。

東日本大震災の初動における混乱を二度と繰り返してはならない

筆者は、2011年の4月中旬に、仙台に設けられていた東日本大震災の現地対策本部の日時会議を傍聴した経験がある。政務官が議長を務め、内閣府の審議官が議長を補佐し、各省庁の現地代表者が参加する1時間程度の会議は、以下の様な問題を抱えた、凡そ効率的とは言えない、結果として多くの非効率を災害対策の現場にもたらしているであろうことが、容易に想像できるものであった。

・各省庁の報告様式や内容はバラバラ、自らの責任範囲の事項報告に終始して、質問や議論は殆んど無い

・各省庁のスケジュール表はあるが、それを全体で相互の関係を含めまとめたスケジュール表が無い

・議長側から、会議の目的やそれに照らした内容の確認は、殆んど無い

・そもそも、現地の対応に関する優先順位の設定など、行動指針の設定がなされていない

プランBの発動が必要な段階において、このようなプロジェクト管理がまるで機能しないような状況は、東日本大震災の事後対応に関する反省を踏まえ、二度と有ってはならない事であると、筆者は考える。

プランB関連組織の立ち上げ

プランBを実施する為の組織を編成するにあたっては、まず運営の中核となりうるインナー組織を、関係する組織の中枢に直結した人材を集めて非公式かつ早期に立ち上げ、内容に関する議論を行なうと共に、実際に起こりうる状況を想定した「演習」に取り組んでいくことが望まれる。

また、重要なのはこのタイミングで、既得権益者が利害を守るために取り組むことが難しい、日本の産業構造と社会システムの改革を一気に行うことである。ここに示した表の中では、低生産性産業の再編と抜本的な規制制度改革、そして優先順位に基づく緊縮予算の実施による全面的な行政サービスの見直しと再構築が、それにあたる。プランB発動の初期にこのような改革を実施する為の準備を、事前にきちんと行っておくことが重要ある。それを行っておかないと、各所から上がる要求の火の手に対して適格な対応が出来ず、結果的により混乱を大きく長引かせ、国民の不利益を大きくしてしまうからである。

最後に

ここまで、東日本大震災の復興にもたつき、原子力問題から全国レベルの電力危機が派生し、多くの製造業が国外移転を考える危機的な状況が続いていたが、アベノミクスの実行により、いよいよ日本経済はデフレ脱却から財政再建、経済力復活のナローパスに突入した。

一方中国においては、軍部が徐々に不穏な雰囲気を醸し出しつつあり、軍部が台頭した1920年代からの日本を思わせるような状況が、続いている。

太平の夢からいまだ抜けきれない日本は、1900年代初期の中国の状況に似たところが有るのではないか。日本は、迫りつつある危機に政治や企業、国民が未だ楽観的な見通しから脱却出来ない中、既得権益者のエゴがはびこる社会になって来たように思える。そればかりか、ハイパーインフレのリスクに言及するのは、アベノミクスに反抗する事として口に出すのが憚られるような「空気」すら、感じられる。

政治が単なるセグメント間の利害調整機能であることから脱し、リアリズムに基づいた現実的な政策を行わないと、我々が住む日本の将来は危うくなると思われる。「至誠にして動かざる者は、未だ之有らざる也。」このプランBという現実主義に基づいた課題提起が、政治家や霞が関の諸氏の心に届き、少しでも、そのような行動を前進させることを祈る。