アベノミクス失敗に備えたコンティンジェンシープランを準備せよ(3)!

オックスフォード大学 クライストチャーチカレッジ

プランBに向けて

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そのような現状を認識したうえで、当座の問題発生に予防的な対策を講じつつ(津波の発生を阻止)、少しでも大きな混乱を避けるための構造改革を行うことが、現在の政治に求められる役割であろう。それを我々は「プランA」と名付けた。

<プランAの内容>

・若干デフレからややインフレの状況で、日銀による国債の実質引き受けを実施

・経常収支の黒字を維持するためのあらゆる施策を打つ

・抜本的な社会保障改革により歳出を抑えつつ増税を実施

・経済成長率を上昇させる成長戦略を実施に移しつつ、構造的なオーバーカンパニーの状況を構造改革

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アベノミクスが目指す方向は、これらの政策の実施に有り、現段階ではそれに沿った方向で動いている。筆者が、日本はいよいよデフレ脱却のナローパスに入ったと評価する、所以である。もしアベノミクスが成功すれば、日本は以下の様な持続可能な状況になるであろう。

・消費税率20%、社会保障改革により社会保障費の増加が抑制された、持続可能な社会保障

・規制制度改革が実現し、リスクマネーが供給され継続的に生産性が向上する日本経済は、中長期的に2%程度の成長率を実現

・2~5%の緩やかなインフレが継続

プランBの必要性

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プランAの政策はいずれもハードルが極めて高い政策であり、ナローパスをを通り抜けるためには、多くのリスクを乗り越えて行かなければならない。例えば経常黒字を維持しつつ製造業の六重苦を解消する為に、多くの原子力発電所再稼働は不可欠であるが、果たして国民を説得する事は可能であろうか?あるいは、抜本的な社会保障改革による社会保障費の大幅削減という苦い薬を飲む準備は、果たして国民に有るであろうか?また、小選挙区制度により圧力団体の影響を大きく受ける政治家に、国内の経済政策をより競争的な方向に向けて成長を促す事は、可能であろうか?

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また、これらの政策が仮に全て導入されたとしても、現在が国家財政にとって非常事態である事に変わりはない。したがって当面の期間は危機の先送りに過ぎず、突発的事象のリスクを拭う事は出来ない。したがって何れにしても、不幸にして大津波が発生した時に行う政策「プランB」を準備する事が必要である。

日本を将来襲う可能性が有る金融の大津波、その状況は日本の価値暴落とそれに伴う経済・金融の大混乱である。具体的には、円安、国債の暴落(金利は上昇)、制御不能なインフレ、金融恐慌、経済の混乱に伴う大幅な経済の落ち込み、といった現象であろう。この大津波は確実に日本全土を襲い、そしてその影響は世界に波及することになる。 プランBはそのための備えなのである。

危機のトリガー

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では、そのような危機をもたらすトリガーとなる現象は何であろうか? 筆者は、に示すような以下の二つの事象を、危機のトリガーとして想定する。

・国債暴落(=長期金利の急上昇)

・円の暴落(=為替の急激かつ大幅な円安)

1990年よりここまで赤字国債の発行を続け経済を維持してきた現在を例えれば、からからに乾いた藁の上に薪が積み重なった状況である。ここに上げた多くの危機のトリガーから火が付き燃え上がる可能性があることは、想像に難くない。 既に現時点において、ここに挙げたトリガーのうち以下のトリガーは、顕在化する可能性が従前に比して大きくなっている。

・円の相対的地位低下

・外交関係の混乱

・首都圏直下型地震・北朝鮮崩壊・テロ等の外部ショック

危機的状況への拡大

そのようなトリガーにより起こった危機は、どのように拡大していくであろうか。マーケットがどう動くか、なかなか予見しがたいところであるが、日本政府が危機対応を誤らなければ、筆者は、ウォール街の長期的利益を最大化するために、年率20%程度のハイパーではない円安・インフレの状況に陥る可能性が大きいと思う。

円安・インフレの進行と同時に国債は暴落する。そうなると、国民は金融機関の経営への不安を感じ、郵貯・銀行預金の引き出しや保険解約へ殺到する。更には、自らの預金の実質的価値が目減りすることを避けるために実物資産を購入する動きが強まり、インフレはさらに昂進する。

金融機関のバランスシートが国債やその他債権の暴落で傷んだところに、預金者の引き出しが殺到すると、多くの金融機関は倒産の危機に瀕し、その結果産業界に資金が回らなくなり、経済混乱から経済はマイナス成長、物価は上昇というスタグフレーションの状況に陥る事になる。

危機的状況の逆進性

このような金融・経済危機において最大の被害者は国民、それも弱者である。スタグフレーションはデフレとは全く逆に、より深刻な影響を弱者にもたらす。

この20年における金融危機や不況は、国民にきわめて深刻な影響をもたらしたかと言えば、それはNOである。無論、低成長や低金利は多くの国民をじわじわと苦しめているのだが、個々の生活レベルを見れば勤労者所得は低下したものの、生活保護を受ける世帯や年金受給者にとってみればデフレの恩恵がむしろメリットとして働いたこともあり、全体としては必ずしも危機的な状況には至らなかった。

今回訪れるかもしれない危機で、先ず痛みを直接に受けるのは生活保護者や年金のみに生活費を頼るような弱者である。インフレの進行にも関わらず年金や保障費が上がらなければ、受給者はその分実質的な生活が苦しくなるからである。次にはある程度の資産を持つ一般的な国民である。企業倒産が進み、失業者という新たな弱者が増加して行く事になる。幸いなことに倒産を免れた企業でも、経済成長率の低下で、インフレに見合った昇給を実施することは難しくなり、相対的な生活水準は低下する。給与が硬直的な公務員も、インフレの進行で被害を大きく受けるであろう。

このような20%のインフレが仮に5年続いたとすれば、計算上物価は2.5倍、為替は250%の円安となる。金融の大津波は長く全国に及び、国内には被災者が溢れる状況となる。多くを輸入に頼る燃料や食料のライフラインをはじめ、あらゆるモノの価格が上がる。長年蓄えてきた貯蓄は、大きく目減りをする。失業者は街に溢れ、治安が悪化する事は避けられない。ただそこまで行けば、国家債務も実質的に半分以下になり、財政破綻状態からの脱却が可能になる。相対的に賃金が安価になった日本の製造業は、競争力を大幅に取り戻す。その結果が市場に評価され、5年間のインフレを経て大きく価値が目減りした日本の経済は、徐々に落ち着きを取り戻すであろう。

消費税よりもっと強烈な、国民資産全体に課税するインフレーション・タックスの効果である。日本の実質経済規模もある程度縮小している。1997年に金融危機に襲われた韓国は、IMF管理下の経済改革からその後V字回復を実現した。プランBにおいて想定される日本の経済問題は、それに比べても深くて長い危機となり、国民の疲弊も甚だしいものであろうが、そこからの再出発は充分に可能な範囲であると思われる。

しかし、インフレの初期段階でそれに合わせ年金や生活保護、その他の社会保障費を大幅に上げ、金融恐慌の救済や経済対策のため国債の発行を拡大すれば、インフレに拍車を掛ける事になってしまう。あるいは、外貨交換の規制といった単なるその場しのぎの対応を行うと、事態が破壊的な状況に陥るリスクがある。津波の被害は幾何級数的に拡大し、最終的にはハイパーインフレーションに陥り日本壊滅、世界経済は大混乱といった状況も、有り得ないことでは無い。

そのような状況に陥ると、その後の危機の状況がどのような結末をもたらすかは、予想できなくなる。政治的にも社会的にも、破壊的な混乱が長期化する可能性が、より高くなる。

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参考までに、敗戦後の日本で何が起こったかを、ここに簡単に示す。物価は公定価格ベースで98倍になり、そこまでの国家債務はインフレおよび戦時補償特別税でほぼ帳消しになった。やや乱暴に言えば、そこまで蓄積されてきた国内にある国民の資産を、GHQという超法規的存在をバックにした日本国はすべて奪い、国家債務を帳消しにして国家経済をリセットしたのである。

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