外出自粛による「エコノミークラス症候群」を防ごう~スポーツ整形外科医が教える自宅トレーニング~

(写真:アフロ)

新型コロナウイルス感染が全国各地で広がる中、外出自粛のため家で過ごす時間が増えてきました。ただ、それに伴い椅子にすわったまま動かない時間も多くなっています。テレビをみたり、読書したり、ゲームをしたりで頭はフル回転していますが、からだ、特に下肢は全く動いていません。

足を下げたまま下肢を動かさないでいると、足先から心臓に戻る血液の流れ(静脈還流といいます)が悪くなります。本来であれば血液を心臓へ戻すためのポンプの働きをするべき下肢の筋肉が、全然使われていないためです。そして、この静脈還流が悪くなると生じやすくなるのが、下肢の血栓(深部静脈血栓)です(図1)。

図1

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深部静脈血栓のみであれば、「何となく足がだるい」「むくみっぽい」といった症状ですむことが多いのですが、何かの拍子にこの血栓が飛んでしまうとよくありません。飛んでしまった血栓は心臓の中の右心房、右心室という部屋を通過して、肺に血液を送っている肺動脈につまってしまいます(図2)。こうなるといわゆる肺塞栓症、通称「エコノミークラス症候群」になってしまいます。

図2

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エコノミークラス症候群は非常に危険です。せっかく空気から肺に酸素を取り込んでも、肺の血流が途絶えているため、取り込んだ酸素を血液が効率的に受けとれなくなってしまい、命にかかわることもあります。このため、今回のような外出自粛期間中にあまり動かないという人は、正しく運動してエコノミークラス症候群にならないように予防をする必要があります。

そこで以下、ご自宅で簡単にできる、下肢の筋力トレーニングとしても優れていて、それでいてエコノミークラス症候群予防にもなる、ふくらはぎやふとももの体操をいくつか紹介したいと思います。

まず一つ目は「足首の上げ下げ」です。地面から足を浮かせてつま先を上げて下げる、という動作を左右の足それぞれ20回程度行いましょう。右足を動かしているときは、腰に負担がかからないように反対の左足は地面についておくといいですね。つま先を上げるときも下げるときも、しっかり最後まで力をいれて動かしてください。しっかりとつま先を上げることで、すねの骨の外側にある前脛骨筋(図3矢印)という筋肉が収縮し、今度はしっかりつま先を下に下げることでふくらはぎの腓腹筋、ヒラメ筋(図4矢印)という筋肉が収縮します。この足の前後の筋肉が交互に収縮することでちょうどポンプのように下肢に血液がたまらないように心臓に送り出してくれるのです。

図3

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図4

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今度は椅子から立って、机やいすの背もたれに軽くつかまりながら、「つま先立ち」、「かかと立ち」をしてみましょう。つま先立ちするときはしっかり力をいれてなるべく高く背伸びするように(図5)行い、この状態で2,3秒止めてからゆっくりかかとを下ろしましょう。これができたら今度はかかと立ちでも同じように行います(図6)。左右の足同時に20回程度行うとよいでしょう。地面に足をついたこのような状態は「closed kinetic chain」と呼ばれており、足の前後の筋肉の収縮が同時に得られやすいため、一層筋肉の血流に対するポンプ作用がはたらくようになります。

図5

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図6

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次にもう一回椅子にすわりましょう。今度は「もも上げ」を行います。右のひざを持ち上げるときには左腕が前に出てきます(図7)。ちょうど歩く時の腕振りのような状態です。できる方はひじとひざでタッチしてみるのもよいでしょう(図8)。ももを最も高く持ち上げた状態(もしくはひじにタッチした状態)で、2,3秒とめてからゆっくり下ろします。右ひざができたら今度は左ひざを持ち上げ、右腕を前に出します。この運動を行うと太ももの前の筋肉である大腿四頭筋、腸腰筋の収縮が得られるのみならず、姿勢を保つのに重要な体幹筋のトレーニングにもなりますので一石二鳥です。

図7

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図8

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そしていよいよ最後は「椅子からのチョイ立ち上がり」です。椅子から立ち上がると見せかけて、ちょっとだけお尻が浮いたところでキープします(図9)。2秒キープできれば上出来です。お尻を浮かせている距離が短いほどこのトレーニングはきつくなります。万が一途中でつらくなってしまったら、椅子にまたすわってしまっても大丈夫です。その場合でも、できればドスーンと椅子に戻るのでなく、なるべく耐えてゆっくり腰を下ろすとトレーニング効果が高いです。転倒するのを防ぐためにも、動きやすい椅子ではやらないように注意しましょう。このトレーニングを行うと、お尻の大殿筋やふとももの前後の大腿四頭筋、ハムストリングスなどを複合的にトレーニングできます。また、体幹筋の強化にもなります。机の椅子だけでなく、どうせならお手洗いに行ったときにも、トイレの便座で同じようにやってみるといいですね。

図9

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外出自粛期間中には座っている時間が多くなると思いますので、ぜひ以上のようなエコノミークラス症候群予防につながる運動に積極的に取り組んでみましょう。

(記事中の画像作成:著者)