「NO FUTURE」が生んだ未来。いま解き放たれたゲーム『燃えプロ!! ホームラン競争』
「我ながら随分とダラダラしたもんだと思う。気がつけば前回の更新から早いもので5カ月も経ってしまった。催促なしの自由更新とはいえ、あまりに放ったらかし過ぎである。すでに世間は春なのである」
と書いてから早1年が経っていた。
その間、Yahoo! ニュースで記事を書いたのは引用した原稿のほかにもう一本のみである。
その後も多くの人にお会いし、様々な話を聞いた。去年の夏には遥か遠くラスベガスまで世界最大級の対戦格闘ゲーム大会『EVO2014』にまで取材に行った。さらに言うと私の処女作でもあるノンフィクション『TOKYOHEAD』が舞台になったりもした。
にも関わらず、書いた原稿は1本…。
怠惰にもほどがあるのであった。
これはさすがに反省せざるを得ない事態…というか、最近は「Yahoo! ニュース書いてないですよね…」と言われることすらなく周囲の目もどこか冷たく感じられ夜も眠れない日々である。
というわけでこのままでは身体に悪いので初心に戻って連載再開するのであった。ちなみに今年の私のテーマは「くよくよ過去を振り返らない」だ(いま決めた)。
さて2015年初の「BACK TO THE ARCADE」は1枚の基板から話を始めることにする。
2013年にとある倉庫から2枚の基板が発掘された。そのうちの1枚は『キメラビースト』というロケーションテストのみで正式稼働することのなかった幻のシューティングゲームで、これについてはいつかまた別の機会に紹介したい。
問題はもう1枚の基板だ。ゲームの名は『燃えろ!! プロ野球 ホームラン競争』。その名前からかつてファミコンにて150万本以上を売り上げた野球ゲーム『燃えろ!! プロ野球』シリーズの一作に違いなかった。
しかしこれを発掘した張本人であり、アーケードのみならずビデオゲーム全般に精通した人物でもある「高田馬場ゲーセン ミカド」店長の池田稔ですらこのゲームの存在を知らなかった。
発掘の経緯などはすでに散々ネットで語られているので割愛させていただく。興味のある方はYoutubeなどを探って欲しい。
問題はそのゲーム内容なのであった。
ルールは極々シンプルなもので「ピッチャーが投げる球を打てばいいだけ」である。ただし条件がある。それは「ホームラン」でなくてはならないのだ。そしてホームランを打てれば続投となる。しかし次にまたホームランが打てなければゲームオーバー、がこのゲームのルールなのである。
そもそもこのゲームはそもそもエレメカ筐体で稼働していたもので、おそらく1プレイ10円、20円で5本連続ホームランを打つとなんらしかの景品が出るプライズゲームだったのだが、筐体なきいまは5本まで打ち続けると強制的にカウンターストップとなってしまう。
一度でもホームランを打てなければ即終了。最速終了時間はなんと15秒(!)だ。
池田はこれを店の片隅に冗談半分で100円/2クレジットで稼働させた。さらには面白半分で大会まで開いてみせた。
ところが世の中なにが起きるかわからないものである。遊びついでに集まった『~ホームラン競争』未経験の18人によるこの大会は大盛況となった。
秒殺でコインが飲みこまれていくことで感じる背徳的快感。そしてホームランを放った瞬間に脳天から全身を突き抜ける落雷にも似た衝撃。参加者たちの誰もがその麻薬性にヤラれてしまった。それはその実況配信を見てガンギマった者まで生むほどだった。
それから数日後。「ミカド」の店内にひとり延々と『~ホームラン競争』の設置されている筐体と両替機のあいだを往復する男の姿があった。
男の名はKM。彼は実況配信でガンギマってしまったひとりだった。
KMははじめてプレイする『~ホームラン競争』の中毒性に「自分は筐体と両替機の間を往復するために生まれてきたんじゃないか?」と錯覚すらしたという。
気づけば財布のなかの福沢諭吉が1枚失くなっていた。プレイ回数にして200回だ。だがその代償として彼はスラッガーとしての強靭な肉体を得ることに成功したのであった。

そんなKMを追随するかのように『~ホームラン競争』の虜になる者たちが現れ始める。元々は他のゲームに熱中するプレイヤーだったにも関わらず『~ホームラン競争』にガンギマってしまった者たちだ。
いーじす、ムツミ、球道、DDD。
趣味も性格も生まれも世代も違う彼らが『~ホームラン競争』の元に集いしその様はもはや『アストロ球団』のようですらある。
そして彼らは自分たちをこう名乗り始める。『燃えプロ』バンド「NO FUTURE」と――。

そんな彼らの活動をバックアップすべく「ミカド」は某ルートから『~ホームラン競争』のNEWバージョンの基板を入手(しかも2枚!)。それを従来のブラウン管筐体ではなく、フルHD液晶筐体にセッティング。

こうした動きはまさにライブハウスのバックアップによってバンドが成長し、巣立っていくヒストリーとオーバーラップする。
彼らはホームグランドである「ミカド」の手厚い支援を受けながら、知る人ぞ知る存在から徐々にアイドルプレイヤーへの階段を登り始めていく。
そしてついにこの「NO FUTURE」を『~ホームラン競争』のライセンス・メーカーが公式プレイヤーに認定。メジャーデビューの決定である。

最初はちょっとした遊びや冗談だったのかもしれない。けれどそこから始まったこのヒストリーはもう冗談なんかじゃない。「NO FUTURE」が紡いできた情熱は、いままで世界中で「ミカド」でしか遊ぶことのできなかった『~ホームラン競争』を多くのプレイヤーたちへ開放するに至る。
それは『燃えろ!! プロ野球 ホームラン競争SP』なるスマホアプリとして――。
つまりこれからは誰もが日本中で『~ホームラン競争』でガンギマれるというわけである。
不況や閉店といった厳しい状況が増す一方のアーケードゲーム事情のなかにあって「NO FUTURE」なるプレイヤーたちの歩んで来た道に私は大きな可能性、そう、未来を感じるのだった。
これからもその歩みを止めることなく、さらなる未来を見せてくれ「NO FUTURE」!!(一部表現誇張あり)