高田馬場に現れた新ヒーロー、道場破りの覇者「エアガイツ仮面」の目的とは?

我ながら随分とダラダラしたもんだと思う。

気がつけば前回の更新から早いもので5カ月も経ってしまった。催促なしの自由更新とはいえ、あまりに放ったらかし過ぎである。すでに世間は春なのである。現場のお手伝いをさせていただいたドラマ『ノーコン・キッド』の放映もとっくに終わってしまい、すでにDVD/BDが絶賛発売中だったりするのである。

不定期とはいえこれだけ連載をほっぽらかしてなにをしていたかと言えば、じつはこれ日々取材の連続なのであった。酒ばかり呑んでたんじゃないかと言われればそのとおりなのだが、相手がアーケードゲームに巣くう猛者どもだったりするのだからバカにしたもんじゃないのである。くどいようだが17年ぶりのアーケードゲームシーンなのだから、見聞きするすべてが新鮮であり、感心することばかりなのだ。「個人経営のゲームセンターのみならず、あのバンダイナムコゲームスでさえ直営施設20店舗を閉店せざるをえないいまのアーケードゲームシーンが?」と問われることも多いのだが、自分のような立場の人間からするとこの状況だからこそ聞かなくてはいけないことが山盛りだったりするのである。

それゆえに書きどきを失ってしまったのが、エアガイツ仮面の話なのである。

決してふざけてるわけではないので、あえてもう一度書いておこう。

エアガイツ仮面のことである。

その名前を知ったのは昨年「高田馬場ゲーセン ミカド」の事務所でのことだ。店長の池田稔から聞かされたその存在はまるで漫画であった。

漫画的であるということ。それはつまり現実がよりデフォルメされ、誇張されているということだ。前回紹介したこの「ミカド」というゲームセンター自体が十分に漫画的であるわけだが、「ミカド」店長の口から語られたその存在もまた漫画そのものであった。漫画的世界観に現れた漫画的存在としてのエアガイツ仮面。そういうことである。

そもそも名前の由来となっている『エアガイツ』とは1998年にナムコ(現:バンダイナムコゲームス)よりアーケード版がリリースされた3D対戦格闘ゲームなのだが(のちにスクウェア(現:スクウェア・エニックス)からプレイステーション版が発売)、このゲームがまた微妙な立ち位置のタイトルなのである。決して悪いゲームではなく、冒険的でピーキーな面白さがある。だが人気があったんだかなかったんだか、ゲーム史的に重要なんだかそうじゃないんだかがじつに曖昧で、にも関わらず知名度だけは中途半端にあったりするから扱いになかなか困るのだ(いや、別に困る理由もないんだけれども)。

そんな15年も前の作品の名を冠につけた仮面男が、いま「ミカド」で猛威をふるっているのだという。「ミカド」で日々開催されるあらゆる対戦格闘ゲームの大会に参加し、そのゲームに長けたツワモノたちを根こそぎ倒して優勝をかっさらう。そして優勝者としてコメントを求められた彼は敗者たちに向けてこう言い放つのだそうだ。

「おまえらみんな『エアガイツ』をやるのだ!」

ひどい男である。

よくわからない素性の男に負かされたあげく、他のゲームをやれと強要される身にもなって欲しいものである。

でも仕方がないのだ。エアガイツ仮面は『エアガイツ』布教のために現れたゲームプレイヤーなのだから。ひとりでも多くのプレイヤーに『エアガイツ』をやってもらうためにライバルゲームの大会に参加し、優勝旗の代わりに『エアガイツ』という名の新たな旗を掲げるのが目的なのだから。『エアガイツ』広報部長としてのエアガイツ仮面。つまりはそういうことなのだ。

私は「ミカド」店長からこの話を聞いて身震いした。その瞬間から私の頭のなかはエアガイツ仮面でいっぱいになってしまった。自分の愛すべき作品を多くの人に知ってもらうために、やりなれない他のゲームに挑み、完全アウェイの試合に殴りこむハートの強さ、そして彼の啓蒙意識や責任感に惚れてしまった。果たして同じことが自分にはできるだろうか。仮に私が中島知子主演の映画『ハダカの美奈子』が死ぬほど好きだったとしても『ゼロ・グラビティ』の上映会場まで行って宣伝するだろうか? もちろん否だ。そもそも『ハダカの美(略)

しかしエアガイツ仮面が「ミカド」に現れるようになった背景にはもうひとりの重要な男の存在があるのだという。『エアガイツ』を愛するがゆえに自宅で『エアガイツ』をむさぼるようにやり続けた男の存在が。

その名はあ~る・滝。

彼は長い間、毎日毎日、まるで水を飲んだり、息をするかのように自宅でひとり『エアガイツ』をやり続けてきた人物だった。

転機はあの3月11日だ。ひとり自宅でもくもくと『エアガイツ』をやり続ける彼の日常を震災が襲った。被災地ではなくともあの地震でなにも考えなかった人間はいないだろう。皆が皆、大なり小なり自分のこととして震災を捉え、考え、悩み、葛藤した。彼もまたそうだった。

このままひとり『エアガイツ』をプレイしてるばかりでいいのかと。

そして彼は決断する。

「最後に『エアガイツ』を広める努力をしてみよう。それでダメだった『エアガイツ』を辞めよう」

ひとり自宅で基板と戯れ続けた男が立ち上がった瞬間である。

そして彼は「ミカド」で筐体の対戦台をレンタルする。一時間千円で6時間ほど借り、稼働させた『エアガイツ』をなんとプレイ料金無料のフリープレイとして一般に解放した。これで『エアガイツ』の面白さをひとりでも多くの人が知ってくれたら…そう思って彼は対戦台の片側に座り続けた。その心境は自分で開いた自分の誕生会に友達が来るのを待つかのようなものであったのではないかと推測する。

だが残念ながら友達が来ることはなかった。初日の対戦相手はゼロ。夢は脆く崩れ去った。その胸の内を想像するだけで心が引き裂かれそうになる。まるで新宿西口で詩を売り続ける女性に匹敵する孤独感だったのではないだろうか。とても切なく、あまりにも哀しい。基板を抱えた帰り道にJR高田馬場駅のホームから線路へと飛び降りなかったことだけがなによりの救いだ。

その後も諦めることなく、強い気持ちで筐体に座り続ける彼の元にその男が現れたのは三回目の対戦会のことだった。

その男もまた出戻り組といってもいいのだろう。かつて夢中になりながらも社会人となり、その忙しさから疎遠になっていたビデオゲーム。だが年相応に余裕ができ、再びゲームセンターへと足を運ぶようになったのだった。向かう先は「立川オスロー5号店」。そこで男は「師」と崇める人物の元で『エアガイツ』を学ぶなか、「ミカド」の対戦会の噂を聞きつける。

閉ざされた部屋から意を決して外へと飛び出した男と、大人になって再びビデオゲームと向き合い始めた男。そんなふたりを一枚の基板が結びつける。自らが再起動するために心の電源を入れ直し、本気で前に歩み出したとき世界はいつだって人に微笑む。男が「ミカド」の扉を開け、冷め切った空席の対戦台に座った瞬間、暗闇の誕生会は一瞬にして火花ほとばしる戦場と化した。基板を通して戦うことでしか会話のできない不器用な者たちの舞踏会。なぜ争うのか、なぜ『エアガイツ』を選ぶのか。そこに答えはない。なぜなら彼らが『エアガイツ』を選んだのではない。『エアガイツ』が彼らを選んだのだから…。

こうして基板に導き寄せられ、筐体越しに出会ったふたり。だが、もしも基板の神様がいるとすればそいつはとても無慈悲な女だ。なぜならふたりの運命的な出会いがあってもなお『エアガイツ』対戦会が賑わうことはなかったからだ。理由はいくつも考えられたが、その最たるものが「ミカド」の特殊性であろう。当時の「ミカド」店内は2D対戦格闘ゲーム全盛期であり、3Dにはまだ早すぎたのだった(2000年代なのに…)。

そんな現状を憂うことなく、西へと出向き、いまもなお『エアガイツ』が稼働する店舗のひとつである大阪の有名店「大阪南森町コーハツ」にて、通称「西のエアガイツ仮面」と対戦。さらに彼の承諾を得て「東のエアガイツ仮面」を名乗り始めると、男は道場破りさながらに「ミカド」で行われる他勢の大会へと殴り込みをかけていく。

そして先のアレをキメるのである。

「おまえらみんな『エアガイツ』をやるのだ!」

そのキメ台詞によって、歯噛みするほどの悔しさとともに嫌が応にもそのタイトルと男の存在を胸に刻ざるをえない敗者たち。

まさにすべてがエアガイツ仮面の思うツボであった。

そして2013年7月。

エアガイツ仮面とあ~る・滝の地道な活動に心打たれた(哀れに思った)「ミカド」店長の計らいにより開催された「第一回『エアガイツ』大会」。日頃、エアガイツ仮面にボコされている他勢のプレイヤーたち約20名が「打倒エアガイツ仮面」を掲げて集結。その大半が『エアガイツ』の操作方法さえしらないなか行われた大会は、まさかのエアガイツ仮面の準決勝敗退、あ~る・滝の決勝敗退で幕を閉じる(優勝は同じ『エアガイツ』プレイヤーのMOP)。

あまりの悔しさに若干心が暗黒面に堕ちていくエアガイツ仮面と、大勢の人間が筐体を囲むその眩しい光景にひとり涙するあ~る・滝。まさに『エアガイツ』の光と影、『エアガイツ』の陰と陽であった(どっちがどっちかはさておき)。

その後、あ~る・滝主催の『エアガイツ』対戦会は徐々に参加者たちを集めていく。またエアガイツ仮面は道場破りのなかで腕をメキメキと上げ、さらにXとYのふたつの軸に生きる「ミカド」の2次元プレイヤーたちにZ軸の存在を教えることで彼らを3次元へと導き、そしてまたボコっていった。

最初は対戦相手さえおらず、筐体にひとり座り続けるだけだった。そのなにもない日々を変えたのは彼らの情熱以外ほかならない。誰が望んだわけでなく、自分が見たいと思った景色を手にするため、彼らは戦い続けた。世界を変えることはそう簡単にはできないけれど、世界へと続く僕らの風景を変えることはいくらでもできる。彼らの挑戦はそう思わせるに十分過ぎるのであった。

そんな地道に啓蒙活動を続けてきたあ~る・滝の手柄をかっさらう勢いの男、エアガイツ仮面。自己顕示欲やサディズムやただの負けず嫌いが見え隠れしなくもないが気づかなかったことにしようエアガイツ仮面。じつはとあるゲームでは『闘劇』出場経験を持つ凄腕プレイヤーだったという噂もあるぞエアガイツ仮面。じつは正体なんてバレてるぞエアガイツ仮面。あまりの負けなさ加減に最近は悪魔超人扱いだぞエアガイツ仮面。じつはもう『エアガイツ』じゃなくてもよくなってるんじゃないかエアガイツ仮面。それでもがんばれエアガイツ仮面。目標は世界最大の対戦格闘ゲーム大会『EVO』だ。縁もゆかりもないタイトルに挑んで世界レベルの強豪プレイヤーたちを打ち負かし、最後にマイクに向かってこう言い放つのだ。

ラスベガスの空の下で、お決まりのあのセリフを。

「おまえらみんな『エアガイツ』をやるのだ!」

そんな彼の姿を私はいつも夢見ているのである、白目で。