『シン・ゴジラ』を迎撃したAH-64Dアパッチ・ロングボウはいくらなのか?

Wikipediaより。パブリック・ドメイン。

B-2号タバ作戦フェイズ1

2016年11月3日、蒲田に上陸し、多大な被害を出した巨大生物ゴジラは、4日後の11月7日、前回の倍近い大きさとなって、鎌倉から再上陸し、横浜、川崎を通過して、東京へ向かった。高層マンションが林立する武蔵小杉に到達したゴジラに対して、自衛隊は、多摩川河川敷を陣地として、B-2号「タバ作戦」を実施する。これは、もちろん、映画『シン・ゴジラ』の話である。

このタバ作戦フェイズ1で、ゴジラに対して、前衛戦力を構成したのが、陸上自衛隊の戦闘ヘリコプターAH-64Dアパッチ・ロングボウである。ゴジラの攻撃能力・防御能力を調べるための威力偵察で、M230機関砲を発砲し、全弾をゴジラの頭部に命中させた。しかし、ゴジラに対しては、まったく効果がなかった。

AH-64Dは、タバ作戦の一斉攻撃時に、AGM-114ヘルファイア(ミサイル)もゴジラに撃ち込んでいる。しかしながら、結局、有効打は与えられなかった。フェイズ2も含めて、タバ作戦は失敗し、自衛隊はゴジラの首都侵入を許してしまう。

アパッチ・ロングボウの調達

以下は、映画の中の話ではなく、現実世界の話である。

このAH-64Dアパッチ・ロングボウは、マクドネル・ダグラス社(現・ボーイング社)が開発したAH-64Aアパッチの派生型である。AH-64Dは、AH-64Aにロングボウ火器管制レーダーを搭載して、大幅な能力向上を図ったという。

2001年8月27日、陸上自衛隊は、攻撃ヘリコプターAH-1Sの後継として、AH-64Dアパッチ・ロングボウの採用を決定した。2002年に2機分の予算が計上され、2006年から陸上自衛隊への納入が開始されている。

余談だが、AH-64Dアパッチ・ロングボウより前に配備されていたAH-1Sは、映画『シン・ゴジラ』においてゴジラの1回目の上陸のとき、迎撃のため北品川へ出動したが、逃げ遅れた住民がいたため攻撃を中止したヘリコプターである。

AH-64D調達打ち切り

このAH-64Dは、ブロックIIと呼ばれるものである。ボーイング社から部品が供給され、富士重工業がライセンス生産をするかたちで納入が進んでいく。

しかし、ボーイング社がブロックIIの生産を終了したため、調達ができなくなり、陸上自衛隊は2008年度予算で調達を打ち切ることとした。すでに10機が調達済みのところ、あと3機の調達して終わりにするということだった。当初62機を調達する計画がわずか13機で打ち切りということである。

そこで、残り3機の調達価格には、残りの52機の調達価格に分割して計上する予定だったライセンス料や設備の減価償却費が上乗せされ、1機あたりの調達価格が216億円まで跳ね上がった

もっとも、ヘリコプター1機が216億円といわれても、普通は相場感がわからないだろう。日本が世界に誇る潜水艦「そうりゅう」型10番艦の調達予定価格が1隻513億円といえばイメージが湧くだろうか。ヘリコプター3機で「そうりゅう」型潜水艦の調達価格を100億円以上も上まわることになる。

あるいは、よその国の調達実績と比較するとわかりやすいかもしれない。台湾は、AH-64Dよりも新しいAH-64Eアパッチ・ガーディアン(ブロックIII)30機を約2000億円で調達している。1機あたり約67億円である。韓国も、同型機36機を約1600億円で調達した。1機あたり、約44億円である。日本は、型落ちのAH-64Dを、韓国のAH-64Eの5倍の価格で調達しようとしていた。

このように、調達価格があまりに高くなったため、3機の予算計上は見送られ、AH-64Dアパッチ・ロングボウは10機の調達でいったん打ち止めとされた。

富士重工が国を提訴

しかし、これでは、富士重工は、ボーイング社に支払ったライセンス料と設備投資、合わせて351億円が回収できなくなる。そこで、同社は、国を相手取って裁判を起こした。2015年12月、最高裁で上告審の申立てが不受理となり、国が全額支払うことが確定する

この裁判で明らかになったのは、防衛装備品の調達においては、アメリカ企業に支払うライセンス料などの固定費については、納入業者ではなく、国が支払う義務があるということである。AH-64Dの場合、ブロックIIの製造中止のリスクは、富士重工業ではなく、国が負うことが確定した。

実際、調達機数が13機なのか、62機なのかわからずに、300億円超のコストを民間企業が負担するのは現実的ではない。これを国が負担するという裁判所の決定には一定の説得力があると考える。この頃から、ライセンス料やその機種を製造する専門の設備などについては「初度費」というかたちで国が負担するようになった。

初度費のマークアップ

潜水艦やヘリコプターなどの一品ものには市場価格がない。「そうりゅう」型潜水艦やAH-64Dアパッチ・ロングボウを買うのは、日本では防衛省に限られる。民間人や民間企業が「そうりゅう」型潜水艦を買ったり、AH-64Dアパッチ・ロングボウを買ったりはしないので、当然ながら、こういった潜水艦やヘリコプターには市場価格(時価)がない。

そこで、防衛庁時代に決められた通称「予定価格訓令」によって、一品ものの値段を決めることになっている。潜水艦やヘリコプターの製造コストに、適切な利益などを乗せて、購入価格とするわけである。

問題は、初度費にも、利益や利子や一般管理費及び販売費がマークアップとして乗っている点にある。その割合は、AH-64Dアパッチ・ロングボウのケースでいうと13.93パーセントにもなる。実際の金額は約41億円になった。これは、AH-64Eアパッチ・ガーディアン1機をライセンス生産ではなく輸入した場合の調達価格とあまり変わらない。

しかし、初度費については、国がつねに負担するのであれば、納入業者にはまったくリスクがない。納入業者にリスクがなければ、納入業者のコストではなく、ここにマークアップを乗せる余地はない。

防衛装備品の充実

アメリカで開発された防衛装備品を、ライセンスを得て国内で生産するメリットは、部品などの消耗品の補充が国内の業者から安定供給されるという点にある。防衛装備品の調達だけでなく、運用、修理など、トータルのライフ・サイクル・コストまで考えるなら、国内ライセンス生産のほうが安上がりということは十分にありうることである。

しかし、ノックダウンに近いかたちのライセンス生産であったり、結局、消耗品などの部品を輸入に頼らざるをえないのであれば、国内ライセンス生産のほうがライフ・サイクル・コストが安いという主張は疑わしくなる。少なくとも、AH-64Dアパッチ・ロングボウの場合は、結果的には高くついたように見える。今後は、ライフ・サイクル・コストの見積もりの精緻化、積算根拠の確認、事後評価を徹底していく必要があろう。

現状、南西方面の緊張状況や、アメリカ大統領選挙の結果を受けて、自主防衛の割合を高めざるをえないかもしれない可能性まで考えると、日本の防衛装備品を充実させていく必要があることは明らかである。その場合、限られた防衛予算で、充実した防衛装備品を調達できるよう、調達価格の適正化を図る必要が出てくる。

防衛装備品の調達価格の適正化というのは、地味な作業ではあるけれど、日本の安全保障に直結した大事な仕事である。