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ペット業界の「ホビーブリーダー大幅減」という主張に根拠はあるか 「ホビーブリーダーの定義」とは?

太田匡彦朝日新聞記者
ブリーダーのもとで生まれた柴犬の子犬たち(写真と本文とは直接関係ありません)

 5年に1度の動物愛護法の改正を控え、ペット関連の複数の業界団体がしきりに、「ホビーブリーダーが大幅に減った」という主張を展開している。その原因として、2005年の動物愛護法改正で、犬猫の繁殖業を含む動物取扱業を営むには、都道府県などへの登録が必要になったことをあげる(施行は2006年)。そして、「年間2回以上または2匹以上」の繁殖を行う場合には第1種動物取扱業としての登録が求められている現状について、規制緩和を求める――というのが、この主張の狙いとなっている。

 だが実は、「ホビーブリーダーが大幅に減った」という主張の根拠はあいまいなものだ。犬の血統証明書(血統書)発行団体である一般社団法人「ジャパンケネルクラブ(JKC)」のデータをもとに展開されている主張なのだが、そもそもJKCは、ホビーブリーダーとはどのような繁殖業者のことを指すのか、明確に定義していないのだ。超党派で作る「犬猫の殺処分ゼロをめざす動物愛護議員連盟」(会長=尾辻秀久参院議員)が昨年5月22日に開催した動愛法改正プロジェクトチーム(PT)の会合で、そのことがよくわかる発言や質疑応答があったので、ここで紹介しておこうと思う。

 この日の会合には、JKC副理事長の吉田稔氏らが講師として出席し、参加者らと質疑応答も行った。

 会合で吉田氏は、グラフ(下の写真参照)などを示しながら、「(JKCに登録しているブリーダー数について)2003年、一番ピークの時期にはだいたい3万5千いたわけですけれども、その後規制の強化等あって、2014年には約1万に減少している。年間の登録頭数で階層別に見ますと、10頭以下の、いわゆるホビーブリーダーが大幅に減少したということが現れてきています。その原因は動物愛護管理法が平成17年(2005年)に改正されまして、業の考え方として『2頭2回』ということを示されたということで、いままでホビーブリーダーとして趣味的にやっていた方々が激減したと言うことにつながっていくのです」などと説明。

2017年5月22日に開かれた超党派議連PTの会合でJKCが配布した資料(筆者撮影)
2017年5月22日に開かれた超党派議連PTの会合でJKCが配布した資料(筆者撮影)

 続けて吉田氏は、「ホビーブリーダーがほとんど駆逐されてしまったような状態で、8週齢(規制)などでよく話題になります社会性ということについて、かえって悪いというかですね、ホビーブリーダーが非常に細やかなケアをすることが社会性に非常に重要だということも言われておりますので、(第1種)動物取扱業の『業の解釈』をぜひ緩和していただけないかというところでございます」などと訴えた。

 こうした発言に関連して、PT座長を務めていた松野頼久衆院議員(当時)、俳優の杉本彩さん、そして私の3人が、吉田氏に質問をさせていただいた。

 以下が、その際の、ホビーブリーダーに関するやりとりをまとめたものだ。なお、( )内の文言は、読者にわかりやすいよう、私が補った。

松野頼久氏(以下、松野):ホビーブリーダーの現状ってごらんになりました? そのへんで買ってきた犬同士をかけあわせて、はい今日からブリーダーですよ、というところたくさんありますよ、全国に。僕はブリーディングするという行為はきちんとした知識を持っている者がやっていくべきだと思います。

吉田稔氏(以下、吉田):私ども当然、きちんとした知識を持って、遺伝的な血統書もよく見ていただいて、かけあわせを決めていただくということは当然、私ども指導しております。

松野:それとホビーブリーダーを増やせという話と全く違う話じゃないですか?

吉田:ホビーブリーダーというのは非常に手厚く子犬をケアしてくれるということがあります。一方でパピーミルみたいな話になればですね、最低限な管理しかしないということから、私ども申し上げているわけで。最低限の管理をして社会性が身につかない状態よりも、非常に大事に大事に扱うことによってですね、人なつっこい良い子ができるということが大事かなと。

松野:大事に扱うという精神はまさに動物愛護法に基づいているからいいんですけど、それとすべてホビーブリーダーが大事に扱うというところとは、現状はかけ離れていると思いますけどもね。

吉田:そこはなんとも。私ども、かけ離れているとおっしゃられると、こちらもそこまでは思ってないんですけども。

松野:ちゃんと業としての登録をしてやればいいだけの話。業としての登録から排除する規定は今のところないんですよ。(動物愛護法では)「ちゃんと都道府県に登録して下さいね」と言っているだけで排除はしていないんですよ。それが「年2回2匹以上」で、本当に愛情かけてブリーディングするのであれば、そのくらいの手間はかけて当たり前でしょうし、別に排除する規定はいまのところないんですね。それを緩和するしないという話ではないと思うんですね。当然、登録してやればいいんですよ。登録することになんの支障があるんでしょう?

吉田:私ども申し上げているのは一方(繁殖業者などの第1種動物取扱業者)は登録制ですけど、(届出制の)第2種動物取扱業というのがあります。それには「10頭」という(登録すべき団体の)目安を示しているのにもかかわらず、なぜかこちら(繁殖業者)は「2頭2回」という根拠のよくわからない規定があって、一方でヨーロッパの現状を見るとほとんどがホビーブリーダーが供給元であって、ヨーロッパってそんなにいい加減なのか私も細かい実態まではわかりませんけれど、そういういわゆる動物愛護の先進地域だと思われるヨーロッパでもそういう状況だということを……。

松野:ヨーロッパのホビーブリーダーと日本のホビーブリーダーは、僕は違うと思いますよ、ぜんぜん。ヨーロッパの本気でやっているホビーブリーダーと言われる人たちは、一つの犬種だけをじっくりやっている。そういうところの違いは、僕はぜんぜんあると思うし、いまの日本のホビーブリーダーの現状はひどいものがあるというふうに思います。ブリーディングする行為というのは、ある意味ヨーロッパではものすごいステータスを持ってですね、崇高な理念に基づいてやっている状況。いまの日本のパピーミルみたいな大量生産、大量消費のなかでのものではなくて。

杉本彩氏(以下、杉本):JKCさんのおっしゃっているホビーブリーダーというのは、ブリーディングを生活の糧にしていないブリーダーさんということですか?

吉田:先ほどの数字自体は、必ずしもそれを糧にしている糧にしていないというところまできちんと掘り下げて調査したものでございませんけれども、頭数的にみて、これくらいの繁殖でこれだけで生活していくのは難しいだろうということで、私どもとしてはホビーブリーダーとさせていただきました。

杉本:ブリーディングを生活の糧にしていないブリーダーさんたちが、動物愛護法の規制を強化したためにそれをやめていったというところが、私の中でちょっと納得がいかないというか、しっくりとこないところなんですけど、それはどういったところでホビーブリーダーさんたちが規制が強くなるとやめていくんですか?

吉田:登録のために行う、提出する書類も含め、いろんな手続き考えたときに、なかなか煩雑でできないということだと思います。

杉本:そうですか。ただ、ホビーブリーダーさんだからこそ手厚いとおっしゃっていたので、そういう手続きが面倒だというような、そういうお考えを持たれるというのが、不思議に感じたところなんですけど。

吉田:あくまで業者ですからね。取扱業という業者さんの登録ですから。

杉本:やっぱりブリーダーというのは基本、ちゃんとした適正ブリーディングをするためには、生活の糧にはするべきではないというふうに考えてはいるのですけど、JKCさん自体としては基本は?

吉田:基本とおっしゃられると困るんですが、私どもとしては業、業態を相手にしているのでなくて、会員が血統登録をしてほしいと言ってきたときにそれにお応えしているという立場なので、相手が、要するになんていうかかなりたくさん繁殖用の犬を抱えておられる方なのか、それから本当に趣味的にやられている方か、そこは区別して扱うわけにはいかないと思っている。中身がきちんとしているかどうかは、申請の内容がきちんとしているかどうかによって、今のところは血統書を発行するか否かを振り分けているという。

(以下、太田):先ほど「ホビーブリーダーは区別してわけているわけではない」というご発言があった一方で、いただいている資料のなかでは「ホビーブリーダーが大幅に減った」と書かれていらっしゃるんですね。ホビーかプロかパピーミルか把握されていらっしゃらないのに、なぜ「ホビーブリーダーが大幅に減った」と断言できるのか、これは何か独自に内訳等とっていらっしゃるのかどうか、まず教えていただきたいのですが。

吉田:それについてはですね、先ほどちょっとお断りを申し上げたのですが、必ずしもホビーブリーダーという明確な定義があるわけではないのですが、事実として、年間の登録頭数が少ない人たちが激減したということです。それからブリーダー数として3分の1くらいに減ってしまったという、3分の1以下ですかね、むしろそのくらいに減ってしまったという、そういう事実を申し上げているということであって、その人を、1人1人ぜんぶホビーブリーダーかどうかをチェックしたわけではございません。おそらくそういう傾向にあるだろうということを申し上げたわけです。

太田:つまりこの資料、ここでは「ホビーブリーダーが大幅に減った」と断言されていますが、この「大幅に減った」という根拠は、皆さんのほうではお持ちでないという理解でいいですか?

吉田:「大幅に減った」ことは事実ではありますが、それが、ホビーブリーダーがすべてかと言われると、そこについてはすべてとは言い切れないというだけでございます。

太田:では、ホビーとプロの割合というのはどのように見ていらっしゃるのですか?

吉田:それは統計がございません。

太田:であれば「ホビーブリーダーが大幅に減った」とここで断言されていますけど、これについては皆さんのほうで根拠をお持ちでないという理解で大丈夫ですか?

吉田:言い換えれば、年間の(JKCへの)登録頭数が少ない方々が減ったということで、正確にいえばそういうことです。それをホビーブリーダーでないとおっしゃるのであれば、それはそれで仕方がございませんが。

太田:いえいえ僕がそう申し上げているんじゃなくて、把握していらっしゃるかどうかをお聞きしているだけで。

吉田:私どもはそれをホビーブリーダーだと考えております。

太田:10頭以下の繁殖をしているブリーダー、繁殖業者というのは、JKCではすべてがホビーブリーダーであるというふうに認識をされているという理解でいいですか?

吉田:そういうことではありません。

太田:ん?

吉田:そういうことではなくて、ホビーブリーダーの階層の方が減ってしまったということを申し上げているのであって、その人が、すべてがホビーブリーダーだということは一言も言っておりません。

太田:繰り返しますけれども、こちらの資料には「ホビーブリーダーが大幅に減った」と書いてあります。一方で、皆さんはホビーかプロかは区別できていません。であれば、ここにある「ホビーブリーダーが大幅に減った」と書いてあること自体は、皆さまの推測であって根拠はないということでいいですか?

吉田:推測とは思っておりません。ほとんどがホビーブリーダーであるというふうに認識しております。ただその中がすべてがホビーブリーダーかどうかということについては、私どもは確かめておりませんということを申し上げています。

太田:それでは、皆さんがホビーブリーダーと定義されている、その要件というのはどのようなものでしょうか?

吉田:要件とおっしゃいますと?

太田:つまりホビーかプロかとお聞きしたときに……。

吉田:じゃあホビーブリーダーと言わなくても結構です。非常に少ない階層の人たちが減ったということ。これは業として、それで生計を立ててない人だろうというふうに私どもは考えていると理解していただいて結構です。

太田:皆さんがどう把握されているかお聞きしたかっただけで、お聞きしているのですが……。

吉田:再三申し上げている通り、正確な定義を持ち合わせてございません。

 少々長くなったが、「ホビーブリーダーが大幅に減った」というペット関連の業界団体の主張に使われるデータには、このような「背景」があることは広く知られるべきだと考え、紹介させていただいた。

朝日新聞記者

1976年東京都生まれ。98年、東京大学文学部卒。読売新聞東京本社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当した後、AERA編集部在籍中の08年に犬の殺処分問題の取材を始めた。15年、朝日新聞のペット面「ペットとともに」(朝刊に毎月掲載)およびペット情報発信サイト「sippo」の立ち上げに携わった。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』『「奴隷」になった犬、そして猫』(いずれも朝日新聞出版)などがある。

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