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東京都のホームレス施策の計画への意見

大西連認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい 理事長

東京都のホームレス施策の計画への意見

東京都が取りまとめた「ホームレスの自立支援等に関する東京都実施計画(第3次)」(素案)(以下「素案」)に関して、パブリックコメントを募集しています。

僕も参加している<もやい>では、以下の意見を送りました。

読んでいただければ、うれしいです。(もやいHPにもアップしています)

「ホームレスの自立支援等に関する東京都実施計画(第3次)」(素案)への意見

特定非営利活動法人 自立生活サポートセンター・もやい

私たちは日本の貧困問題に取り組むNPOとして、生活に困窮し、社会保障制度を必要とされている方への相談支援等をおこなっています。

本年6月3日に東京都が取りまとめた「ホームレスの自立支援等に関する東京都実施計画(第3次)」(素案)(以下「素案」)に関して、パブリックコメントを募集しています。

私たちは、東京都内を中心に、年間約3000件のSOSの声を受け止めている立場として、以下の論点について意見を述べます。

■「ホームレス」の実態

2014年1月に実施された「ホームレスの実態に関する全国調査(概数調査)」によれば、路上等のホームレスの数は7508人であり、2003年度が25296人であったことから分かるように、大幅に減少しています。

参考:ホームレスの実態に関する全国調査(目視による概数調査)結果について

減少した要因は様々なものがあると考えられますが、ホームレス自立支援法に基づく自立支援事業や地域生活移行支援事業、生活保護による保護など、制度の拡充や、地域のNPO等相談機関の働きが、一定程度の効果をあげているものと思われます。

あるいは、場合によってはテントなどで定住していたが、行政機関等によって追い出されて、ホームレス状態であるものの、調査では捕捉されていない状況になった人がいる可能性もあります。

実際に、「ホームレス」は減少したのでしょうか。確かに国の定義の「ホームレス」は減少しています。しかし、国の定義の「ホームレス」は、「ホームレス状態」の一部のカテゴリーでしかありません。

2002年に成立した「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法(以下「ホームレス自立支援法」)」によれば、

「ホームレス」とは、都市公園、河川、道路、駅舎その他の施設を故なく起居の場とし、日常生活を営んでいる者(法第2条)

と定義されています。

2002年と言えば、まだ「ネットカフェ難民」や「派遣切り」(製造業派遣の解禁は2004年)などの言葉が存在しておらず、24時間営業のファストフード店等も少なかった時代です。

現在では、「ホームレス」と言えば、ネットカフェやサウナなどに寝泊まりしている人や、友人宅を転々としている人、そういった一時的な寝場所と路上を行き来している、多様な「ホームレス状態」の人たちであると認識されています。

このように、「国の定義のホームレス」が減少しているからと言って、「ホームレス状態」の人が減少しているとは必ずしも言えません。そして、そういった統計には捕捉されない「広義のホームレス層」の実態については、明らかになっていません。

実際に、平成24年度「ホームレスの実態に関する全国調査検討会報告書」によれば、ホームレスの数は減少していると言えるものの、その背後には、様々な居住の不安定を抱える層が存在し、これらの層が何らかの屋根のある場所と路上を行き来している、と指摘されています。

参考:平成24年度ホームレスの実態に関する全国調査検討会報告書

2013年7月31日に政府が発表した「ホームレスの自立の支援等に関する基本方針」(以下、基本方針と表記)のなかでも、上記の指摘と同様に、

・固定・定着化が進む高齢層に対する支援

・若年層に対する支援

・再路上化への対応

の3点が主なポイントとして挙げられています。

参考:ホームレスの自立の支援等に関する基本方針(平成25年7月31日厚生労働省・国土交通省告示第1号)

また、例えば、当団体の所在地である、新宿区生活福祉課統計資料を見ると、ホームレス等の方からの相談は、こちらも毎年の減少傾向にあるものの、平成24年度で25728件にのぼります。

その内訳をみると、食糧のみが15917件、送院通知が678件、来所相談9133件(うち相談のみが7449件、申請受理が1684件)となっています。(拠点相談所「とまりぎ」への相談は5727件)。

新宿区内の「ホームレス」数が162人であることを考えると、来所相談の9133件という数字はとても大きな数字です。

参考:新宿区生活福祉課統計資料

このことからも、データ上、「ホームレス」の数は減っているものの、

・長期の路上層は食糧支援や医療単給などが多く、限定的な支援にしかつながっていない。

・稼働層が再度路上化して相談にくる。

・保護や支援に定着できない(傷病障害・職歴生活歴等から課題がみられる)層が多い。

など、困難さや課題が多くて結果的に路上に残っていたり、一度就労や制度につながって自立しても再度の路上化にいたっている、などという可能性があります。

実際に、〈もやい〉によせられる相談も、直近の動向を見ると、10~30代の若年層の相談者が約30%を占めていたり、身体・精神などの健康状態の問題を抱えている方が全体の50%をこえていたりと、路上生活や、不安定な生活をしている人が置かれている状況の変化が見てとれます。

参考:〈もやい〉生活相談分析調査

また、せっかく一度就労により自立しても、雇用状況や労働環境が悪かったり、住み込みなどの、仕事と住まいがセットになった不安定な状況におかれて、失職後に再度の困窮化や路上化をしてしまう人が増えています。

同じく、病気や障害の影響や、これまでの成育歴や職歴・生活歴の影響からか、制度や支援につながっても長続きせずに自ら失踪してしまうなど、制度や支援のリソース(多人数部屋など環境が悪い宿泊施設等)の不足によって、本来支援や保護を必要としている人を支えきれない状況も多く目にします。

このように、「ホームレスの実態」は、非常に多様な拡がりと、問題の背景の複雑化を見せており、「ホームレス対策」としての施策に関しても、従来の施策の範囲をこえた枠組みによってカバーしていかなければならない状況になっている、と考えることができます。

■「ホームレス」対策の現状と課題について

今回の「素案」では、これまでと引き続き、ホームレスの自立支援については、「安定した生活の確保」「保健・医療の確保」「雇用・就業機会の確保」「総合的な相談・支援体制の確立」等の、多方面での取り組みや広域的な連絡、調整が必要である、としています。

これらの大きな方向性に関しては、概ね賛同できる方向性のものとなっています。

しかし、一方で、個別の論点に関しては、まだまだ不十分なものや、これまでの施策についての評価がしきれていないものが多く含まれています。

例えば、これまでおこなわれてきた事業に関しては、「ホームレスの自立支援等に関する東京都実施計画(平成21年策定、第2次)に定めた施策の評価書」において公表されており、このなかでも利用者の人数等の概要は明らかにされていますが、利用者の状況についてのデータ分析等はオープンになっていないものがほとんどです。

もちろん、個人情報等のこともあり公表が難しいものも多いことが推測されますが、各事業の実施状況を把握するためにも、利用者の属性や生活歴、支援後の状況など、幅広い視点での調査とデータ分析が必要です。

そもそもが「計画」を作るにあたって、既存の事業の実績や、利用者の概況等の量的質的データがなければ、適切な検証をおこなうことは難しいと思います。

より効果的で必要性の高い施策を実現するためにも、それらの調査や分析を積極的におこなっていくことが求められます。

また、これは国に対しての提起ともいえるのですが、「ホームレス」の定義の変更をおこなうべきだと考えます。

「ホームレス」とは、本人にとっての、生活上のプライバシーが担保され、安定かつ安心して居住することができる環境を、「失ってしまった状態」です。

東京都はこれまで、国の定義にプラスして「ホームレス生活を余儀なくされるおそれのある人」を加えて施策を整えてきました。しかし、それだけでは、まだまだ不十分です。

例えば、「脱法ハウス問題」がメディア等でも報道されましたが、レンタルルームやレンタルオフィスなどの不安定な住居に居住している人も、仮に就労自立して一定程度以上の収入があれば、現行のホームレス施策ではカバーされません。

同様に、仮に制度利用をしていても、複数人部屋の宿泊施設等に入所し、プライバシーの担保など居住環境が整っているとは言えない状況で生活を余儀なくされている場合、仮にそこが一時的な宿泊であったとしても、安心できる住居を確保しているとは言い難いものです。

こういった実情を鑑みて、「素案」には盛り込まれていませんが、第3次計画においては、簡易宿泊所、無料低額宿泊所やゲストハウス、また、知人宅や施設、病院、矯正施設などでの生活を余儀なくされている「状態」にある方に対しても、支援を拡充するべく、その定義と対象を広げた上で、まず実態調査を行うべきと考えます。

また、基本方針にみられるように、現在のホームレス支援施策では、「就労」を「自立」と位置付けています。

しかし、私たちが日々の支援現場で考えているのは、必ずしも「就労」というゴール設定による「自立」ではなく、地域社会の中で安心して暮らせる生活基盤を整えていくことです。

近年、「孤立死」などの言葉とともに「社会的孤立」の問題が認知されてきましたが、見守りや居場所的な活動も含めた、地域社会の中で「暮らし続ける」ための支援も求められてきています。

特に精神・知的障がいなどの困難さを抱えている人の場合など、まずは安定した「生活」、それを支える「住居」を得ることによって初めて、その人なりの「自立」への第一歩を踏み出すことが可能になるのではないか、と考えています。

そして、それは複数人部屋の施設などではなく、その人が安心して居住することができる独立した居宅生活への支援が前提となるでしょう。

それに、雇用環境や労働環境が整っていなければ、例えば、せっかく「就労」しても、再度路上生活へといたってしまう、病気などの更なるリスクを負ってしまう可能性が大きいため、同じ「就労」でもより質の高い雇用を確保していかなければ、ホームレス状態にある人が「自立」し、その状態に留まることは困難です。

2013年~2014年の年末年始に、〈もやい〉の有志も参加して、都内のホームレス支援団体、生活困窮者支援団体の協力で「ふとんで年越しプロジェクト」を結成し、年末年始の「閉庁期間」(役所がお休みの期間)のホームレス状態の人、生活困窮者への相談支援や、シェルター提供等の活動をおこないました。

参考:プロジェクト報告会の様子

詳細は上記を参照してもらえればと思いますが、例えば、シェルター利用者の平均年齢は46.2歳と比較的若く、いわゆる野宿者の平均年齢が59.3歳(平成24年度ホームレスの実態に関する全国調査)であることを考えると、住まいを失った生活困窮者の実情が国の定義の「ホームレス」だけでは不十分であることを如実にあらわしていました。

また、相談者の概況としても、

・長期路上層(A群)

・路上と支援を行き来している層(B群)

・不安定就労&不安定住居層(C群)

の3つに大きく分けることができました。

A群の「長期路上層」は、病気や障害があって支援につながりづらい人や、行政機関への不信感を強く持っている人など、支援につながることが難しい人たちが含まれます。

B群の「路上と支援を行き来している層」に関しては、これも病気や障がいなどにより、支援につながってもうまくいかない、また、個室のシェルターや適切に金銭管理等の支援をおこなえないなど、行政機関の用意できる支援では不十分であることによって「自分で失踪してしまう」と思われてしまう人たち等が当てはまります。

C群の「不安定就労&不安定住居層」の人たちは、比較的若い人たちで、就労は可能でも同じく見えづらい病気(難病だったり発達障害だったり)を持っていたり、また、ネットカフェや脱法ハウスなど、不安定な住居で生活しながら、不安定な就労を転々としている人たちです。

このように、「ホームレス状態」にある人のおかれている状況や背景は、現場レベルの聞き取りのなかでは、多様化・複雑化しており、例えば、見えにくい困難さを抱えたA群やB群のような人は、そもそも就労が難しい層も含まれるなど、既存の就労支援ありきの「自立支援システム」型の制度のメニューでは支えられないことは明らかです。

また、先述したように、制度利用するにしても、既存の公的なシェルターや宿泊施設等は複数人部屋だったり環境がよくないところが多く、精神障がいや知的障がいを抱えた人などは、利用するのが難しい場合も多いでしょう。

そういった実状からも、やはり「生活保障」や「住居」の確保を優先しておこない、その先に安定した雇用に就くための支援や、地域での生活を維持させる施策を実施していくほうがより効果的です。

地域の社会資源や財政的な裏付けが限られたなかで、これらの課題に取り組むことは大きな困難をともないます。

しかし、一人でも多くの、望まずに「ホームレス状態」での生活を余儀なくされている人を支えていくために、官民あわせての連携の強化と体制整備が求められています。

■「ホームレス」を排除しないまちづくり

昨年の9月に、2020年のオリンピック・パラリンピック競技大会の東京開催が決定しました。また、それに先立ち、競技場予定地などの近辺で、野宿をしているホームレス状態の人への排除が一部でおこなわれています。

また、昨年12月29日には、渋谷宮下公園にて、年末年始の越年越冬活動中の支援団体および、野宿当事者が、区や警察によって公園から排除される、といったことがおこりました。

野宿をする「ホームレス状態」の人たちや、彼ら・彼女らをとりまく環境は、必ずしも暖かいものではなく、こういった追い出しや排除は日常茶飯事になってしまっています。

もちろん、駅や公園等の公共施設を無断で寝起きのために使用することは必ずしも良いことではないかもしれません。

しかし、一方で、代替の方法や適切な支援の提示もなく、一方的に、暴力的に排除してしまう傾向は、野宿当事者への人権を無視するばかりか、社会全体の「ホームレス」への偏見を拡大し、より理解を妨げてしまうことにつながってしまう可能性があります。

実際に、現在、特に東京の東部地域では、子どもたちによる野宿者への襲撃があとをたたず、そこで生活する人の安全が脅かされています。それは同時に、社会全体としても、そういった暴力や排除が横行してしまうことのリスクにさらされていると言えるかもしれません。

第三次計画においても、「ホームレス」を排除しないまちづくりを目指すことを明記した上で、行政機関などが「ホームレス」を排除する行為を根絶するとともに、都立高校など各学校現場において子どもたちが「ホームレス」の当事者や経験者と直接出会って交流する授業実践を推進するなど、具体的に「排除」や「差別」「襲撃」をなくしていく取り組みを明文化するべきだと考えます。

■時代とニーズに合った「ホームレス」支援のために

繰り返しになりますが、これまで語られてきた国の定義の「ホームレス」や、東京都の従来の定義では、生活困窮者、特に住所不定状態および不安定住居に居住している人の貧困状態を指し示すものとしては、不十分になりつつあります

まず私たちに必要なことは、時代や社会環境の変化に即した「ホームレス状態」の人への調査を広くおこない、効果的な支援施策を展開していくことです。

同時に、今回の第3次計画の策定や、今後の東京都のホームレス支援施策の在り方について、当事者や支援者、専門家などによる審議会を組織し、広くさまざまな意見を求めて議論する場を持つべきです。

生活困窮やホームレス状態にある人たちは、数字に見えない部分で明らかに拡大し、また多様化・複雑化するとともに、不可視化・潜在化しています。

いま私たちがするべきことは、貧困状態に陥るリスクを出来るだけ減らすアプローチと、貧困状態に陥った人が必要な支援につながり、地域社会の中で安定した生活を送ることが出来るようにサポートすることです。

その視点を主軸とし、実際に生活困窮し「ホームレス状態」になった人の立場に立って、今後のホームレス支援施策を検討・実施していくべきです。

私たち〈もやい〉は、2001年に設立してからこれまで、のべ数万人の生活困窮者、ホームレス状態の人からのSOSの声を受け止めてきました。

東京では2000年から全国に先駆けて「自立支援センター」が開設され、2004年からは「地域生活移行支援事業」が実施されました。2009年には国により「第二のセーフティネット」と呼ばれる施策群が整えられ、その年の年末年始には「公設派遣村」が開設されました。

この十数年間、東京都をはじめ、私たち民間団体も含めて、生活困窮者やホームレス状態の人たちを支えるさまざまな施策や事業が展開されてきました。

「ホームレスの実態に関する全国調査(概数調査)」によるホームレス数が減少したのは、もしかしたら、国や自治体、民間団体等の成果、私たちの頑張りの賜物と言えるかもしれません。

しかし、逆説的に言うのであれば、いま路上に残っている人たちは、国や自治体、そして、私たちがこれまで展開してきた施策や事業では捕捉できず、支えきれない状況にある人たちであり、より困窮していたり、より困難な状態にある人と考えることができます。

支援のメニューが限定されていたり、行政や支援者の力不足によって「ホームレス状態」から脱却できていない人がいる、という観点が必要なのではないでしょうか。

今回の「素案」は、あくまで第二次計画をベースにしたものです。従来の施策の一定程度の効果は認めつつも、しかし、もう一方で「なぜホームレス問題が解決していないのか」という観点は、残念ながら不十分なものになっていると言えます。

2017年には「ホームレス自立支援法」の期限をむかえます。2020年には東京オリンピックが開催されます。私たちの社会は、そして東京は、「ホームレス」について、どう考え、どう支え、どのようなまちづくりをおこなっていくのか

多くの市民が参加し、このまちの在り方を考えていく、そういった議論の場の設定が、まず必要なのではないでしょうか。

私たちからは、以上の論点より、今回の「素案」への意見とさせていただきます。

以上

認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい 理事長

1987年東京生まれ。認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長。新宿での炊き出し・夜回りなどのホームレス支援活動から始まり、主に生活困窮された方への相談支援に携わっています。また、生活保護や社会保障削減などの問題について、現場からの声を発信したり、政策提言しています。主著に『すぐそばにある貧困」』(2015年ポプラ社)。

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