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「年越し派遣村」から5年 今年は?

大西連認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい 理事長

年末年始は役所が休業になり(約10日間)、生活に困っても公的な支援を受けることができなくなってしまうため、路頭に迷い、寒さに凍えてしまう方が続出する恐れがあります。「年越し派遣村」から5年。今年は?

「年越し派遣村」って覚えていますか?

先日、都内の私立中学で貧困問題について授業をさせていただいた時に、そこで上記の質問をしたところ、約40人のクラスで手を挙げた生徒は3人でした。

これを多いと見るか少ないと見るかは意見がわかれるところだと思いますが、よく考えたら当時小学生だった彼らが知らないのは無理のないことです。

「年越し派遣村」は、日本国内の「貧困問題」について、メディアも含めて大きくクローズアップされた転換点となったアクションだったのですが、生活保護法改正などの政治的な動きをみると、今は昔の感もあります。

「年越し派遣村」は国を動かした?

今からさかのぼること5年前。

2008年11月におきた金融危機(いわゆる「リーマンショック」)を発端とした世界的不況において、日本でも自動車や電機メーカーなどの製造業において、いわゆる「派遣切り」と呼ばれる、派遣労働者の大規模な解雇・雇い止めが発生しました。

「年越し派遣村」とは、そういった「派遣切り」によって、失業と、また場合によっては住まいを失って(派遣の寮を追い出されるなど)、路頭に迷ってしまう方を支えるために、2008年の暮れから2009年の年始にかけて、NPOや法律家、労働組合のメンバーなどを中心に日比谷公園に開設された臨時の避難拠点のことです。

数日間のうちに約500人の方が相談に訪れ、事態を重くみた政府が宿泊場所に厚生労働省の講堂を開放するなどの措置が取られました。

テレビ報道などで覚えていらっしゃる方も多いかと思います。

また、2009年から2010年の年越しに関しては、国の緊急雇用対策の一環として、東京都が「公設派遣村」を国立オリンピック記念青少年総合センターに開設し、同じく約500人の方が相談に訪れました。

「派遣村」に関しては、批判もあったり評価が分かれる面もありますが、一方で民間の取り組みが国や自治体を動かし、実際の施策につながった事例としては、大きなアクションであったと思います。

しかし、こういった行政機関が重い腰を上げて取り組んだ「年末年始」の施策は、残念ながら2010年以降、おこなわれていないのが実情です。

年末年始は「窓口」が開いていない!

では、そもそも「年末年始」になぜこういった施策やアクションが必要だったのでしょうか。

私たちは、仕事を失ったり体調不良になったりと、生活に困ってしまった場合に公的な支援(社会保障制度)を利用することができます。

それは、住まいを失ってしまうなどのホームレス状態になっても同じです。

社会保障制度としては「生活保護制度」が有名ですが、それ以外にも、決して十分ではありませんが、一定程度のセーフティネットは整備されています。

それらの制度は、いつ・誰が・どのような理由で生活に困っても支援を受けることができるように、各自治体に常設の窓口が置かれています。

しかし、そこはお役所ですから、平日は9時~17時(12時~13時は昼休み)のみ、土日と祝日などは、「閉庁」といってお休みになってしまいます。

特に年末年始は、年によって違いますが、概ね1週間弱、そういった行政機関の窓口が閉まってしまい制度が利用できない期間になります。

3日くらいなら何とか野宿で耐えられるという人も、極寒のなか1週間だとちょっと厳しい。

年末年始は「仕事」がなくなる!

また、年末年始は役所だけでなく、さまざまな会社、事業所も休業期間に入ります。例えば、日雇い労働などの不安定な働き方をしている場合などは、そういった状況ですと仕事を失ってしまい、生活ができなくなってしまいます。

ですから、より不安定な働き方、生活を送っている方ほど、「年末年始」は仕事を失いやすく、かつ制度も窓口が閉まっていて利用できない、という事態に直面しやすくなってしまいます。

もちろん、東京ですと新宿・渋谷・池袋・山谷地域などでは、民間の支援団体が炊き出しや夜回り、医療相談などの活動を「越年」「越冬」としておこなっています。

しかし、いずれも手弁当ですので民間でできる支援に限界があるのも事実です。

生活に困っている人は減っているのか?

「年越し派遣村」のように何百人という方が一気に相談に訪れるのは「非常事態」かもしれません。

実際に、新宿の炊き出しに並ぶ方の人数は、リーマンショック後(2008年末)には約500人近くにのぼったものの、現在は300人を下回っていると聞きます。

また、国の調査によれば、路上等のホームレスの方の数は大幅に減少しています。

しかし、この調査報告によれば、ホームレスの数は減少していると言えるものの、その背後には、

・生活困窮し居住の不安定さを抱える層が存在すること。

・これらの層が何らかの屋根のある場所と路上を行き来している。

と指摘されています。

このように、いわゆる「ホームレス」の方以外に、統計では明らかにされていない人たち、ネットカフェ難民と呼ばれる人たちや、友人・知人宅に居候している人たち、住み込みの仕事で失職と同時に路頭に迷ってしまう人たちなど、広い意味での「ホームレス状態」の方は、数万人にのぼると考えられています。

貧困はもしかしたら「見えにくい形」でじわじわと広がっているのかもしれません。

今年の「閉庁期間」は約10日間

しかし、実は今年の「閉庁期間」は土日が重なり例年より長く、12月27日(金)17時~1月6日(月)9時までの10日間にも及びます。

10日間、公的な支援を物理的に受けられない期間が続いてしまうのは緊急事態です。

しかも、気象庁の発表によれば、今年の年末年始は例年よりも寒くなる予想だそうです。

支援につながれず、路上で寒さに凍える方が続出してしまうかもしれません。

「年越し派遣村」 今年は?

では、今年は「年越し派遣村」のような取り組みはおこなわれるのでしょうか。

正直、わかりません。国や都などは今のところ予定していないようです。

新宿・渋谷・池袋・山谷地域など、毎年炊き出しなどの活動をおこなっている民間団体などのメンバーを中心に「ふとんで年越しプロジェクト」を結成し、国や都に対して「年末年始の生活困窮者施策についての要望」を出すことを予定しています。(僕も呼びかけ人になっています)

「年越し派遣村」のような大きなアクションではないかもしれませんが、「年末年始」に役所が閉まることによって寒さに凍えて困ってしまう方のための、さまざまな取り組みを考えています。

ぜひ注目していただければと思います。

認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい 理事長

1987年東京生まれ。認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長。新宿での炊き出し・夜回りなどのホームレス支援活動から始まり、主に生活困窮された方への相談支援に携わっています。また、生活保護や社会保障削減などの問題について、現場からの声を発信したり、政策提言しています。主著に『すぐそばにある貧困」』(2015年ポプラ社)。

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