多発する飲食アルバイトの不祥事。しかし、個人の問題と捉えていてはこの不祥事は無くならない。

(写真:アフロ)

 飲食店での従業員の不適切な行動がSNSに投稿・拡散される不祥事が相次いでいる。事態を重く受け止めた「株式会社くらコーポレーション」では、事件を起こした従業員2名の解雇、及び刑事・民事での法的措置を取ると発表した。

 SNSへの不適切行動の投稿は2013年前後にも流行ったことが有り、アルバイトの不祥事によって蕎麦屋「泰尚」が破産に追い込まれたという事件を記憶している人も少なくないのでは無いだろうか。この頃から、飲食チェーン店等ではアルバイト採用時に不適切動画投稿をしない等、誓約書を書かせる等の取り組みを初めた企業も少なくない。

 にも関わらず、何故再び、SNSへの不適切動画投稿が話題を集めてしまっているのだろうか?大学で学生向けにアルバイトの不祥事についても講義する筆者なりの考察を記述してみたい。

■一部のバカ学生が・・・と例外扱いする限り、今後も多発する

 こういった不祥事が起きた時にネットでは「また、バカッターか」「バカグラマーか」と、「一部のバカな学生がまたやらかした」と不祥事を起こした学生に対して批判の矛先を向ける。もっともな話では有るが「一部の特殊な学生の問題」と片付けている限り、同種の不祥事が途絶えることは無いと、筆者は考えている。

・低下する情報発信コスト。上昇しないITリテラシー

 筆者は大学で非常勤講師として、企業におけるクラウド・モバイルの利活用について講義を行っているが、その一部に企業におけるリスクの観点からSNSに対する不適切動画投稿における影響についても触れている。そう、まさに2013年に話題となった蕎麦屋「泰尚」を例に出し「こんなことをすると、就職活動が駄目になる可能性も有りますよ」といった感じで説明するので有る。

 この講義の中で学生に「SNSで勤務中に不適切な動画を投稿すると、どんな影響が有るか?」と質問してみると、多くの学生の答えは「駄目だと思うが、私のアカウントなんて十人位しか繋がってないから、誰も見ていない」的なもので有る。中には「アカウントに鍵かけてるから大丈夫」なんて答える学生も居る。大半の学生のSNS利用の目的は「世界に情報を発信している」という大それたものではなく、友達とのコミュニケーションツールの一種で有り「友達としか」繋がっていないと錯覚してしまっているので有る。そして私は「皆さんがそう思っていても、事件を検索しているネットウォッチャーが居るので気をつけましょう」と補足するのだ。

 筆者の担当している学部のレベルが低いと思われるかもしれないが、素直な回答で有り、学生の大半、いや社会人に枠を広げた所で同じような感覚でSNSを利用している人は膨大な数存在すると筆者は考えている。世の中のITは急速に進化し、私達の生活の中に深く入り込んでいるが、それを利用している利用者が、その便利なITのリスクや細かいセキュリティ設定を理解して利用していると期待するのは、ほぼ不可能なことなのだ。

 一連の不祥事を起こしたバカッターと揶揄される彼らも、どこにでも居る学生で有り、友達や同僚との悪ふざけの延長で、動画を撮影し「友達が見ているSNS」に投稿したつもりで有り、大騒ぎになるなんて誰も想像していなかったのでは無いか?と想像する。

■バカッターでも採用しなければならない慢性的な人手不足

 とはいえ、「そもそも、そんな悪ふざけをするような学生をしなければ良いでは無いか」、「賃金を上げればもっと優秀な人材を獲得出来るでは無いか」と考える人も居る。しかし、アルバイトの時給を上げることはそう簡単なことではない。

 国内の労働環境は空前の「売り手市場」で有り、どこの業界も慢性的な人手不足が続いており、アルバイトの賃金も右肩上がりで上昇している。リクルートジョブスの調査資料によれば2015年の平均時給が947円であったが、2018年11月には1011円に上昇している。アルバイト獲得競争も激化しているのだ。

出典:リクルートジョブス2018年11月度 アルバイト・パート募集時平均時給調査 フード業界
出典:リクルートジョブス2018年11月度 アルバイト・パート募集時平均時給調査 フード業界

 不祥事の相次いだ大手チェーン店ほど大量のアルバイトによって事業が支えられているため、アルバイト相場上昇に追随して、時給を上げれば雇用人数が多いため、経営を圧迫する要因となるので、時給を上げることは簡単では無い。ちなみに、くらコーポレーションの間近決算の純利益率は5%で有り、人件費上昇は赤字転落のリスクにも成り得る。また、それを避けるためには価格を値上げして消費者に転換するか、無理なコストダウンに励み、食の安全や他サービスが犠牲となり、より大きな不祥事へと繋がるリスクも産まれることになりかねない。

 「悪ふざけしそうな人」でも「戦力」としなければならない、国内サービス業全般に共通する「慢性的な人手不足」が不祥事発生の要因の一つとして存在すると筆者は考える。そして、彼らアルバイトをマネジメントする、マネジメント層にも適切なマネジメント研修などは施されていただろうか?人を雇うことも難しければ、少ない人手で現場を回さなければならず、人を育てる余裕も無い。そんな日本の労働環境が、バイトテロが量産される背景に有るのでは無いだろうか。

■企業のリスク管理は現代社会に対応出来ているだろうか?

 低下する情報発信コスト、浸透するIT、人材難によってもたらされるリスク。これらを企業のリスク管理部門は適切に考慮しているだろうか?学生が「自分の投稿なんて、友達以外見ていない」と思い込むのと同じで「うちは大丈夫」と根拠の無い自信で、リスク対策を怠っていなかっただろうか?

 今回の不祥事によって「くらコーポレーション」が実施した対策は、全てのサービス業で参考にすべきだろう。

  ・全店舗勉強会の実施

   - 携帯、SNS、スマホに関するルールの再徹底

   - SNSが拡散、炎上した場合の企業および個人に対しての影響と処分

   - 衛生・食材の取扱に関する基本の再設定

  ・店内のビデオカメラによる監視強化

  ・厨房へのスマホ持ち込み禁止

 また、炎上が発生した場合の、発見、原因解明、対策の公表も早急に対処出来るよう、レポートライン等を確立しておくべきで有る。一般的に炎上対策は早ければ早い程良いとされており、発生から24時間以内に「対策案を公表」出来れば合格とされいてる。(あくまで目安で有り重大性に応じて異なる)

■起こり得るリスクとして対処すべき

 大きな視点で見れば国内労働環境等にも繋がる話で有ると思うが(海外労働者を増加させる等も含め)、まず大切なことは、一個人の問題と捉えるのではなく、企業としてリスクアセスメントを実施し、対処すべきで有る。貴方が採用しようとしている従業員のポケットの中にはインターネットに接続可能なビデオカメラが入っているのだから。