伊藤詩織さん、杉田水脈議員らに新たな訴訟提起 論点は?

代理人を務める弁護士らが記者会見を行った(8月20日/筆者撮影)

 ジャーナリストの伊藤詩織さんが、インターネット上での事実に基づかない誹謗中傷の投稿により精神的苦痛を受けたとし、新たな民事訴訟を起こした。

 訴訟の対象は、杉田水脈衆議院議員と、株式会社Daisy代表取締役大澤昇平氏。伊藤さんは6月8日にもはすみとしこ氏ら3人に対し訴訟を起こしている。

杉田議員の「いいね」が問題に

 伊藤さんは2019年末、山口敬之氏に対する損害賠償請求訴訟に勝訴(山口氏が控訴)。杉田議員は2018年に放送された英・BBCの放送内で、伊藤さんについて「彼女の場合は明らかに女としても落ち度がありますよね」などと語り、山口氏を擁護していた。

 またブログでは「伊藤詩織氏のこの事件が、それらの理不尽な、被害者に全く落ち度がない強姦事件と同列に並べられていることに女性として怒りを感じます。」と綴っていた。

 訴状ではこれらの杉田議員の言動にも触れられているが、直接的な「不法行為(名誉感情侵害)」として訴えられているのは、杉田議員がツイッター上で行った「いいね」について。

杉田議員はどのようなツイートに「いいね」したのか

 杉田議員が、伊藤さんのアカウントに返信のかたちで寄せられたツイートに「いいね」をしたことや、伊藤さんを擁護したユーザーに寄せられた心ないツイートを「いいね」したことを問題としている。杉田議員が「いいね」したツイートの内容は、次のようなもの(一部/原文ママ)。

(杉田議員に寄せられた返信に、杉田議員が「いいね」)

「娘いますが、顔を出して告発する時点で胡散臭いです。」

「枕営業の失敗ですよね。」

「自称#伊藤詩織は、そもそもレイプの事実関係が怪しすぎる。」

(伊藤さんを擁護したユーザーに対して浴びせられた心ないツイートに、杉田議員が「いいね」)

「お前は本当のキチガイか?」

「こいつ詩織が被害者だってマジで思ってんのかな?馬鹿じゃねえの?」

「なんだこいつ 品性ねえのはあんただ」

 訴状では、伊藤さんへの誹謗中傷を批判するツイートをしたユーザーに対して浴びせられたツイートについて「罵詈讒謗(ばりざんぼう)」と表現されている。

荻上チキさんが指摘する杉田議員「いいね」の問題点

 ツイートを「いいね」したことを不法行為とする訴訟はこれまで例が少ないが、8月20日午後に行われた記者会見で、伊藤さんの代理人・佃克彦弁護士は「いいねがどういう意味を持つか、専門家にも意見を求めながら提示していきたい」と話した。

 伊藤詩織さんへのネット上での誹謗中傷についてリサーチチームを作り調査している評論家・荻上チキさんは、取材に対して次のように回答した。

「政治家という立場の人が、個人への誹謗中傷に当たる内容のツイートに『いいね』をして、人の見えるところに置き、拡散をする。そのことにより、名誉感情を傷つけている、と考えています。

杉田議員の場合、もともと自身に近しい立場の投稿などに『いいね』を多用する傾向にあり、結果として、特定の言説を育てる機能を果たしています。ツイッターには人から見えないかたちで保存できるブックマーク機能もあり、本人に拡散・表示する気がなければ使い分けできたはずです。

ツイッターの公式ページによれば『いいね』は『好意的な気持ちを示す』ものと説明されており、RTやブックマークとも違う意味合いがある。『杉田水脈さんがいいねしました』との署名付きで拡散するようなものです。

どんなツイートに賛同しようがその人の自由ですが、『いいね』やRTするのは、技術的には他人への拡散行為であり、チラシをコピーして配るのと同じ。その投稿内容に誰かを傷つける表現が含まれる場合、拡散しない手段を選ぶことが求められます」

 荻上さんの指摘する通り、ツイッターには「いいね」と「ブックマーク」機能があり、保存目的であれば「ブックマーク」で代替できる。

 ユーザーがどのような投稿に「いいね」したかは、本人のページの「いいね」欄で確認できるほか、そのユーザーをフォローしている人のタイムラインには「〇〇さんがいいねしました」という形で表示されることがある。

 一部のユーザーが「拡散したいツイートにいいねを押し、その後時間を空けてリツイートする」ことで複数回にわたってフォロワーのタイムラインに表示させることを狙う場合があるなど、「いいね」が「リツイート」と同様、拡散目的で使われている実態がある。

 記者会見場では、ジャーナリストの津田大介さんや古田大輔さんが、「いいね」が他人のタイムラインに表示される仕様であることや、海外では名誉毀損にあたるツイートを「いいね」した人も責任を問われたケースがあることを指摘していた。

ネット上での「集団いじめ」の様相

 杉田議員の発言自体については責任を問わないのかという記者からの質問に対し、佃弁護士は「今後検討したい」。また、「わかりやすい言葉で言えば、寄ってたかってものすごい数の人たちが侵害している。集団いじめのような様相を呈しているところが問題だと思っている」とも話した。

 杉田議員に対しては「名誉毀損」ではなく、「名誉感情侵害」での訴訟。名誉毀損の場合は、世間的な評価を貶められたことについてを訴えることになるが、名誉感情侵害の場合は、「自尊心やプライドが傷つけられたことを問題とする裁判」(佃弁護士)。

 杉田議員は当時約11万人からフォローされていたこと(現在は18万人以上)、現役の国会議員であることも訴状では触れられ、次のように述べられている。

「(略)不特定多数人が閲覧しうる場でなされているのであり、その言論に絶大な影響力を有する被告が公開の場で、(略)原告の名誉感情を侵害する投稿や、原告を擁護する者を(略)袋だたきにするような投稿に『いいね』を押して好感を宣明したことは、それを目の当たりにした原告に対する、社会通念上許される限度を超えた名誉感情侵害行為にあたる。」

 杉田議員への損害賠償請求額は、220万円。

大澤氏のツイートは「デマであり、悪質」

 大澤昇平氏については、伊藤さんに対する「伊藤詩織って偽名じゃねーか!」というツイートが名誉毀損にあたると訴えられている。

 6月8日に伊藤さんがはすみとしこ氏に対して訴訟を起こすことを記者会見で発表して以降、大澤氏は伊藤さんに対して「ファビョり出して」「伊藤詩織の何がダメダメかって」などの言葉を使い複数回にわたって言及していた。

 訴状では、大澤氏のツイートについて「原告の社会的評価を著しく低下させることはあきらか」と言及され、さらに「なお念のためつけ加えると、『伊藤詩織』は原告の本名で、別の名前はありません」と指摘されている。

 大澤氏に対する訴訟を担当する、伊藤さんの代理人・山口元一弁護士は、「(はすみ氏による)二次被害について声を上げたことに対するいわば三次被害を追及する意義があると考える」「大澤さんのツイートはデマ。フォロワー数が多くて、先日まで東大の先生だった社会的影響力の大きい人が、という意味で悪質だと判断した」と話した。

 大澤氏は東京大学大学院情報学環・学際情報学府所属の特任准教授を務めていたが、ツイッターで「弊社Daisyでは中国人は採用しません」「そもそも中国人って時点で面接に呼びません。書類で落とします」などの投稿をしたことをきっかけに、今年1月に懲戒解雇されている。

 大澤氏への損害賠償請求額は、110万円。

大澤氏は該当ツイートをトップに固定

 会見の中で佃弁護士は、「表現の自由、言論の自由はなんでも言っていいことではない。多くの人に対して手軽に情報発信できる機能が手元にあるから抑えが効かない人が増えているのではないか」「何千何万人に対して情報発信するのであれば、礼儀やルールを弁えてしかるべきだと思います」と訴えた。

 8月20日13時過ぎに記者会見の様子が報道されて以降、杉田氏はツイッターでこの件に言及していない。大澤氏は、訴えられたツイートを他ユーザーから見えやすい位置に表示される「固定ツイート」にして掲示している。

【8月20日17時53分追記】その後、大澤氏は16時46分に、「裁判費用の寄付を募りたい」という内容のツイートを行い、固定ツイートに掲示。「なお、訴状はまだ届いていない」ともツイートしている。

初の単著『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を』(タバブックス)発売中。ライターです。主に性暴力、働き方、教育などの取材・執筆をしています。カウンセラーではないので、ケアを受けていない方からの被害相談は基本的に対応できません。お仕事、講演のご依頼は、info.mapt7@gmail.com ※スタッフが対応します。NAVERまとめへの転載お断り。

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