性暴力の被害者は笑えない? そんなわけないでしょう!
「私自身も被害当事者で長く苦しい思いをしていたときは、前に出る人がすごく輝いて見えたりとか、私にはそういうことはできないと思っていたことがあるので、そういうふうに思う方がいるというのはわかります。
ただ、そういうその人の言葉、気持ちを使って、そうであるから被害者ではないというのは二次加害です。そういうことを使って、伊藤詩織さんの被害者としての信用性を貶めるようなことをするのは、私たちすべての被害当事者に対する侮辱ではないかと思っています」(一般社団法人Spring代表・山本潤さん)
12月19日、日本外国特派員協会で伊藤詩織さんの記者会見が始まったのとほぼ同時刻、霞が関の司法記者クラブでは性暴力の被害当事者を中心とする団体、一般社団法人Springのメンバーらが記者会見を行っていた。
同団体はこの日、森まさこ大臣に刑法性犯罪の改正に向けた要望書を提出。これに伴う記者会見だったが、前日18日に同所で行われた伊藤さんの会見と対照的に、報道陣はまばらだった。
冒頭の発言は、18日夜に行われた山口敬之さんの記者会見の発言についての質問を受けたもの。伊藤さんが性的暴行を受けたとして山口さんを訴えた民事裁判は伊藤さん側の主張が全面的に認められるかたちとなった。
山口さんは記者会見で控訴する意向を明らかにした。また約1時間30分にわたる会見の途中で「本当の被害者」という言葉を使い、次のように語った。
本日19日に日本外国特派員協会で行われた記者会見で、ジャーナリストの江川紹子さんからこの発言について、「昨日の記者会見で、本当のレイプの被害者であれば、あんなふうに笑ったりしないと言ったと報じられています。山口さんがお考えになるレイプの被害者はどういうものだと思ってらっしゃるのか」と質問があった。
山口さんは「江川さんの質問は非常に不正確」とし、性犯罪の被害当事者から説明を受けた内容を説明したものであり、「私が性犯罪被害者がこういう行動をするかどうかは私はまったく知らない」と答えた。
江川さんが「なぜそこをわざわざ引用なさったんですか?」と重ねると、「私が記者会見でどこを引用するかどうかを、江川さんにご指示や批判される筋合いはありませんね」と質問を避けた。参考:【伊藤詩織さんとの民事訴訟】判決を受けて山口敬之氏(元TBS記者)による記者会見(主催:日本外国特派員協会)46:16から
山口さんは上記のように説明しているものの、性被害当事者が「たとえばこういう記者会見の場で笑ったり上を見たり、テレビに出演してあのような表情をすることは絶対にないと証言してくださった」という事実をもって、伊藤さんの信用性を貶めようとしたことは明らかだ。
冒頭に引用したのは、これを受けての性暴力の被害当事者を中心とする団体一般社団法人Springの代表・山本潤さんの言葉だ。再度紹介する。
「私自身も被害当事者で長く苦しい思いをしていたときは、前に出る人がすごく輝いて見えたりとか、私にはそういうことはできないと思っていたことがあるので、そういうふうに思う方がいるというのはわかります。
ただ、そういうその人の言葉、気持ちを使って、そうであるから被害者ではないというのは二次加害です。そういうことを使って、伊藤詩織さんの被害者としての信用性を貶めるようなことをするのは、私たちすべての被害当事者に対する侮辱ではないかと思っています」
山口さんは「本当の被害者」という言葉を繰り返した。性暴力の被害者が、疑われたりバッシングを受けたり、「本当の被害者ではない」と言われるのは珍しいことではない。だからこそ「セカンドレイプ(二次被害/二次加害)」という言葉がある。
被害後に被害者がどのような行動をするのかは人それぞれだ。学校や職場に通えなくなることもあれば、「何もなかったと思いたい」という気持ちからそれまで通りの日常を送ろうと努めることもある。被害前後の言動から、誰が本当の被害者で誰がそうではないかを言い立てるのは典型的なセカンドレイプであり、たとえ被害当事者の口からであっても繰り返されてはならないことだ。
民事裁判中にも、山口さん側の弁護士からセカンドレイプ発言があったことは以前記事にまとめている。【伊藤詩織さん裁判傍聴記】法廷で一体何があったのか?性犯罪被害者を支援する立場から(2019年7月12日/HUFFPOST)
今後、山口さんはこれまで控えていた公での発信を積極的に行っていく意向だというが、今回のようにセカンドレイプにあたる発言を繰り返すのであれば信用を取り戻すことにはつながらないだろう。顔を明かして記者会見に臨んだり、メディアに登場したりしている被害当事者は、これまでもいる。
2017年の刑法改正時、3年後を目処にさらなる見直しの検討が行われる可能性を残す付帯決議がついたものの、これまでのところ法務省は検討会の開催を発表していない。会見で山本さんは、「2020年まであと2週間になりますが見直し検討すると法務省は言ってくれていない」と焦りを見せた。
今回の要望書で求めているのは次の3点。
(1)刑法性犯罪の再改正に向けた検討会および法制審議会の早急な実施
(2)検討会および法制審議会に、性被害当事者や支援団体の代表、被害者の実態を熟知した研究者、専門家を委員に半数以上入れること
(3)改正の際の検討項目に、公訴時効の撤廃や性交同意年齢の引き上げなど7つを加えること
同団体を含む11団体から成る刑法改正市民プロジェクトは、「私たちが求める刑法性犯罪規定改正案」の叩き台を作り、議論を求めている。
伊藤詩織さんも会見や囲み取材の中で性犯罪刑法のさらなる改正への思いを口にした。全国の複数の都市で行われているフラワーデモでも、参加者から改正を望む声が聞かれる。改正を望む声は届くのか。被害当事者・支援者の闘いは、それぞれの場所で続いている。
【関連】
伊藤詩織さん、中傷やセカンドレイプに「法的措置をとる」(2019年12月19日/HUFFPOST)